からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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赤の開拓地編 その④

【全然復興してなーい!】

 

ビルドを奪われた日から幾日経っただろう。

 

何もする気になれず、ぼんやりと膝を抱えて日々を無為に過ごしてきて、とうとう幻を見るようになってしまったのかと思った。

 

俺たちの不甲斐なさの所為で魔物に奪われたビルドが、俺の目の前にいる。

 

俺は幻でもいいと抱きしめ、温もりを感じて抱きしめた彼が本物であることに涙した。

 

加えて、ギルドメンバーであるウルベルトさんの創造したデミウルゴスも現れて、俺は2人をずっと抱きしめておいおいと泣いた。

 

恥ずかしげもなく、大声を上げて、俺は泣いたのだった。

 

 

 

なーにーこーれー!!

 

 

翌朝、俺はビルドの魂の叫びで起きる。どうやら、泣き腫らした俺はそのまま寝落ちしてしまったらしい。俺は隣のわらベッドで寝ていたデミウルゴスと共にはじめての寝床から出てビルドの下へ向かう。

 

すると、すでにビルドの叫びを聞いていの一番にやってきていたぺロロンチーノさんと会話している彼の姿を見つけたのだが、様子がおかしい。

 

ぼくが まものに つれていかれて かえってくるまで

 

なんにち あったと おもってんの?

 

なんで じめんが ぼこぼこのまま なのっ!

 

なんで はたけに さくもつが いっこも ないのっ!!

 

なんで おみせが へいてんして しゃったー おろしてんのっ!!!

 

もんぞーらとうと おっかむるとうで めざめた

 

びるだーだましいは どこにやったんだーっ!!

 

せきにんしゃ でてこーい!!

 

 

責任者、俺だわ。

 

だらだらと冷や汗が流れ落ちる。あの日、この世界で得た友であるビルドを失った俺は、ユグドラシルで1人また1人と引退していくギルドメンバーを見送った時よりも強い精神的ショックを受けた。それは日々の食事すらまともに摂れないほどだった。その間、俺はギルドメンバーの皆にとてつもない迷惑を掛けた。気を掛けてくれる皆に向かって俺は『一度は俺を、アインズ・ウール・ゴウンを捨てた癖に』と冷たい言葉を掛けてしまったのだ。俺はその場にガクリと膝をついた。

 

「デミウルゴス、すまない。介錯を頼む」

 

「は?え?……す、少しお待ちくださいませ。モモンガさま」

 

デミウルゴスはそう言うと興奮して地団駄を踏むビルドのところに向かって行き、彼のガス抜きを行う。ビルドの叫びを聞いて、飛ぶようにやってきたギルドメンバーや守護者たち、プレアデスや一般メイドたちがビルド本人のピンピンしている姿を見て涙を浮かべた。その中に見知った顔を見つけたデミウルゴスが声を掛ける。

 

「おや?アウラにマーレ、それにシャルティア?君たち、正気を取り戻したのかい?」

 

「ゲゲッ!?デミウルゴスゥ!?」

 

「そんな!?わらわたちは一度、モモンガ様やぺロロンチーノさまと敵対関係になってしまったのに、どうしてでありんすか!?」

 

「なるほど、ビルドに敗北した島のトップの魔物というのは君たちのことだったのか。……いや、あの状態のビルドくんを相手によく原型を保っているね、流石だ」

 

「な、なんだか。釈然としない褒め方をされている気がするでありんす」

 

デミウルゴスは監獄島でのビルドとの出会い、そして脱獄までの流れを話した。最後のくだりに関しては、ユグドラシルで暴虐をつくした俺たちもビルドの発言とフルスイングまでのやりとりに溜飲を飲む程だった。

 

その後、デミウルゴスはユグドラシルでの最後の記憶を話す。サービス終了を世界の崩壊と称するデミウルゴスのセンスに脱帽しつつ、アルベドやアウラ、マーレにシャルティアといった守護者たちを支配下に置いていた魔物の存在を聞き、怒らないものはここにいなかった。

 

「私はナザリック地下大墳墓の最後を知る者として、まやかしの至高の御方、幻のナザリック地下大墳墓に囚われている守護者統括のアルベドを正気に戻す役目があります。つきましては、モモンガさま。私に今しばらくの猶予をお与えください。その方法を探し出し、必ずアルベドを連れ戻って見せます」

 

「ダメだ」

 

「し、しかしモモンガ様!」

 

「デミウルゴス、お前だけに責任は背負わせられない。お前がナザリック地下大墳墓のために、アインズ・ウール・ゴウンの名誉のために働こうとするのであれば、お前たちを束ねる者として俺も行こう。その魔物に俺も用がある」

 

「っ!?はっ、寛大なご配慮、ありがとうございます」

 

身体を震わせて、臣下の礼を取るデミウルゴスの姿にヘロヘロさんやぶくぶく茶釜さん、ぺロロンチーノさんにブループラネットさん、ベルリバーさんもやまいこさんも、バルバさんも優しい視線を向けた。

 

 

 

で もういいかな?

 

なんで しゅうげきが あった

 

じょうたいの まんまなの?

 

 

 

心臓(ない)が握りつぶされるような底冷えする声に俺たちはガタガタと震えながら、声の発生源へと視線を向ける。そこには、赤の開拓地の浜辺に捨てて行ったはずの大鉄鎚を持ち、目から光を失った状態のビルドが幽鬼のような雰囲気を纏って立っていた。

 

「いちぬけっ!」

 

やらせん!

 

その場から脱兎の勢いで飛び立ったぺロロンチーノの真上を取り、フルスイングで真下へ叩き落すビルド。見れば、ビルドが立っていた地面は砕け散っていて、踏み込みが凄かったことが分かる。ビルドに叩き落されたペロロンチーノさんはしろじいの神殿の下にある入江に落下し、俺たちがいるところくらいまで高い水しぶきを上げた。

 

その光景を見て、ビルドの無事を見に来た面々が少しずつフェードアウトしようとしたが、着地したビルドはぐるりと全員を見回してニタァと嗤った。

 

あ、これ全員殺られるパターンだ。

 

そう察した全員が全力で逃げ出す中、俺はすべてを受け入れるように乾いた笑いを漏らし、手を大空に向かって手を伸ばした。当然のことだが、俺はモンゾーラ島以来のビルドのフルスイングを受けて、空を飛んだ。

 

 

 

 

「はっ!?」

 

目が覚めた俺は周囲を見渡し、今までの一連の出来事が夢幻だったのではないかと不安になり走った。起きたところが緑の開拓地の近くだったこともあり、そちらの方面に向かう。すると、野菜が一個も植えられていなかった野菜畑は若い芽が至る所に生えていた。炎上し半壊したナザリックハイツ本館も復旧し、メイドたちが食料を運び入れている。魔物の襲撃による砲弾で穴だらけ、煤だらけになった森や草原も綺麗に整地されていた。

 

「ギルマス、目が覚めたんすね?」

 

「バルバ……なんだ、その大きなたん瘤は?」

 

「そういうギルマスも大きな絆創膏が貼ってありますよ、背中に」

 

「何?お、本当だ」

 

「俺も先ほど目が覚めたばっかなんすけど、ビルドくんがやっていったと比較的ダメージの低かったメイドたちに聞きました」

 

「非戦闘要員のメイドたちすら対象になったか。まぁ、あれだけ動けているってことは相当手加減が加えられているみたいだな」

 

「デミウルゴスの話で監獄島では相当な重傷だったと聞いて心配したけど、元気そうでよかった。ギルマス、俺はこのまま農作業に入るんで、ここで」

 

「ああ、説明ありがとう」

 

「うっす」

 

俺はバルバさんに礼を言い、踵を返して赤の開拓地へ向かうためにトロッコに乗り込む。着いた赤の開拓地の復旧もすでに始まっていた。

 

ピッキーの酒場やホテルなどの施設に、ウォータースライダー施設やぺロロンチーノさん一押しのスケスケシャワー室も復活していた。大穴が開いていた建築中のピラミッドも2段階目が終わり、3段階目の建築にペロやミルズにマッシモといった人員が取り掛かっている。

 

「は、早い。まだ半日も経っていないはずなのに、ほぼ復旧が完了している」

 

「あー……。モモンガさんも起きたんですね」

 

「その声はヘロヘロさん!……これはまた盛大に凹んでますね」

 

「ええ。同じスライムのソリュシャンやぶくぶく茶釜さんもこんな状態みたいですよ」

 

俺とヘロヘロさんは並んでピラミッドの建築風景を眺める。そこにびしょ濡れとなったぺロロンチーノさんがやってきた。

 

「うえぇー。塩っ辛ぇ。反応速度と踏み込みがマジで神掛ってきているじゃねぇか、ビルドの奴」

 

「おつかれー。でもぺロロンのおかげで雰囲気が変わったよ。あのままじゃ、シリアス直行待ったなしだった」

 

「そうですね。……あっ、俺。皆さんに謝らないといけないことが!」

 

「いいよ。俺たちは気にしていないし、本当のことだったし。この世界に来れなきゃ、きっと俺も姉ちゃんも後悔したまんまだっただろうしさ」

 

「ええ、大丈夫ですよ。モモンガさん、僕たちは皆、分かっています」

 

俺は優しい仲間たちに囲まれている。

 

その分、俺は弱くなってしまったのかもしれない。だが、彼らがいなかったら、きっと俺は身も心もオーバーロードという化け物になり、世界を蹂躙するだけの怪物となっていただろう。そんなあったかもしれない世界の俺よりも、気心の知れた仲間たちと過ごせる今の環境の方がずっと良い。

 

俺はそう思って笑おうと思い、ジト目でこちらを見てくるビルドを見つけた。その手には返り血で真っ赤に染まる大鉄鎚が。

 

ぼくが ふっきゅう さぎょう しているのに

 

おしゃべり するひまが あるんだ?

 

 

と、暗に言われた気がして、俺は笑顔で談笑しているヘロヘロさんとペロロンチーノさんを置いて走り出した。

 

「「ぎゃあーっ!?」」

 

後方で2人の悲鳴が上がる。惜しい人たちを失ったと思いながら全力で走る俺の真横に、大鉄鎚を肩に背負ったビルドが並走していた。

 

「あっー!?」

 

ぎょっとする間もなく、フルスイングするビルドの動きがスローモーションのように見えた俺は、まともな抵抗することも出来ず本日2度目の空中散歩を味わった。

 

 

 

救護所のベッドの上で目覚めた俺は身を起こし、辺りを見渡す。すると部屋の奥の方でトレントのブループラネットさんが魘されているのが見えた。ビルドによるフルスイングは彼にとんでもないトラウマを刻んだようだ。

 

「あたたた。復旧された開拓地を見ていて感動していたら、またやられちゃったよ。モモちゃんは何度目?」

 

「あ、俺は2度目です。ぶくぶく茶釜さん」

 

「そっかー。今の所、完全に逃げ切れているのはベルリバーさんだけで、最多回数吹っ飛ばされてるのはシャルティアみたいだよ。数は10回以上。どうもビルドくんの行く先々にいるみたいで、『もうお家に籠るでありんす~』って泣いてたみたい」

 

「確かに1か月くらい何もしてきませんでしたからね。あ、ぶくぶく茶釜さん!」

 

「謝罪は結構。私たちはちゃんと分かっているよ、モモちゃん」

 

「うぅ……。皆さん優しすぎます。俺、皆さんに迷惑ばっかりかけて、情けない姿しか見せてないのに」

 

俺がそう言うとぶくぶく茶釜さんは触手でポンポンと俺の頭を優しく撫でてくる。まるで弟のぺロロンチーノさんにするように慈愛に満ちた姉の顔で。俺は甘んじて、それを受け入れた。

 

「あ、そう言えばモモちゃん」

 

「何ですか?」

 

「この間、アウラの成長をチェックする際に部屋に入ったんだけどさ、モモちゃんとウチの愚弟がお風呂場で泡塗れで絡み合うBL本が置いてあったんだよね。それ、どう思う?」

 

「……はぁっ!?俺と、ペ……ぺロロンチーノさんの、び……BL本だと!?そんなもの誰に需要が……」

 

「本の存在自体は、メイド全員とシャルティア。ユリとソリュシャンも知っているっぽいね。基本的にモモちゃんと男のギルメンの誰か、もしくはマーレがお相手。受けも攻めも出来るモモちゃんは大人気っぽいよ」

 

「うぉおお!?知りたくなかった、そんな事実!……ちょっと待てよ、そんなものがあるってことは俺たちの中にそれを書ける人物がいるってことですよね。まさか、茶釜さんが?」

 

「私は声優であって、漫画家じゃない。私がモモちゃんの裸を見ても、感想は骨格標本だよ?それでどうやって興奮しろっていうのさ。まぁ、マーレの裸をあんな色っぽく艶やかに書ける作者とは、ちょっとお話してマーレの同人誌を書いてもらいたいと直談判したいけど」

 

「腐ってますね、茶釜さん」

 

「からっぽ島に流通しているほとんどのエッチな本の主役はモモちゃんだけどね」

 

「そうだったー!!か、回収を」

 

「娯楽の少ないからっぽ島で唯一といっていい部下たちの娯楽を、支配者であるモモちゃんに奪い取ることが出来るのかなぁ?」

 

「ちょっ!?やっぱり、ぶくぶく茶釜さん怒っているでしょ!謝らせてくださいよ!そんな冗談はやめて……マジなのか。今までの話は本当のことなのか!?マジでメイドたちや守護者たちの間で俺の、モモンガを題材にしたBL本が流行ってんの!?け、警察の人―っ!!たっちさん、たっちさーん!!誰か、このからっぽ島には秩序の塊を連れてきてくださーいっ!!」

 

俺の叫びは救護所内に寂しく響き渡るのだった。

 




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