【島の防衛について】
「さて、真面目な話をしよう。先日の魔物襲撃はルベドというこちらの想定を上回る戦力によって、こちらの戦力は早々に壊滅。ビルドがナザリックハイツ本館の下にシェルターを建設していなかったら、メイドたちや住人たちに被害が出ていただろう。死者が出なかったのは奇跡ではない、襲撃に備えて設備を整えておいてくれたビルド、鐘を聞いた瞬間にメイドたちに避難を呼びかけたペストーニャの働きによるものだ」
ベルリバーさんはそう言うと机の上に広げたかっらぽ島の地図に文房具の羽ペンを使って、トントンと場所を叩いていく。
彼が指し示したのは俺とビルドが出会った浜のある南側と赤の開拓地の東側にある浜辺。そして、まだ手をつけていない青の開拓地の西側にある海岸だった。
「島の北側は断崖絶壁でそう簡単には登ってこれない。護岸があって一見降りられないこともないが、そこから上に登るには長い階段をひたすら昇る必要がある。しかも、入り口は普段、黄色岩で塞がれていて普通の魔物には壊せない。黄色岩を壊せる大きな魔物はそもそも細長い階段を上れないからな」
北側からの襲撃に備えなくても良いとは言っても、からっぽ島はその北側以外の海岸から簡単に攻め込まれてしまう状態にある。島の広さに対して、守りながら戦うには人数が足りていないのである。前回は赤の開拓地の浜辺に現れた魔物を俺がほとんど殺したものの、いつも通り使えなくなっているし。
「まぁ、肝心のルベドをモモンガさんの支配下に置けたのは大きいよな。俺らじゃ、ピクリも反応しないけど、モモンガさんが行けば目を開けるくらいはするんだろ?」
「そもそも、自動人形であるルベドに感情を持って行動しろというのが無理のある話だ。ワールドアイテムを改変して作られているから、この世界に適合した肉体でないユグドラシルの肉体を持っていても存在していられるルベドは、切り札にも地雷にもなり得る訳だが。次の襲撃でまたルベドを奪われるようなことがあれば、今度は全滅する」
「そのルベドは今、どこにいるの?」
「ビルドの赤の開拓地にある隠れ家の奥に。ナザリック地下大墳墓の宝物殿に行くとき並みの謎解きが必要となるので挑戦されてもいいですよ。やり方を間違えたら、海にホームランですけど」
俺の言葉を聞いて、その場にいたメンバーは顔を見合わせ、それなら大丈夫だと頷いた。俺は別の意味で心配があるんだけどな。
「まぁ、使えるかどうか分からない兵器よりも頼れる仲間と防衛設備が必要だ。そこで、しろじいにそういった島はないのかと尋ねたところ、からっぽ島の西の方へ行った所に、終わらない戦いの島『ムーンブルク島』というものがあるらしいことが分かった。戦いが終わらないということは、それだけ武器や防具、戦いに用いる道具の技術が進んでいるということだ。そこに行って、新たな仲間と防衛設備の技術を持って帰ってこなければならないというのが、今回の話し合いの肝になるのだが、正直に言おう。その島、ややこしいことになっている」
ベルリバーさんが自分の席に腰掛けて、俺たちを見る。部屋の中にはアウラやデミウルゴスといった守護者たちもいる。そんな全員の顔を見終わったベルリバーさんは黒板に情報を掻き始めた。
「まず、このムーンブルク島で戦っているのはそこに住む人間たち、仮に『ムーンブルク軍』としよう。それを長年に渡って攻撃しているのは、もちろんAOG教団の魔物たちだ。そして、ここ最近になって新たな勢力がその2つの勢力を無視して戦いを行うようになった。時に戦線が被って乱戦になることもあるらしい。その勢力はそれぞれ『ジャスティス軍』と『ディザスター軍』という」
その時、バルバさんとやまいこさん、ヘロヘロさんが席を立った。だが、ベルリバーさんの睨みに堪えかねて、大人しく席に座りなおす。やっぱり皆も嫌だよなぁ。俺も聞いた瞬間に他の人にお願いしますと口走ったし。
「皆、察したように『ジャスティス軍』を率いるのはたっち・みー。『ディザスター軍』を率いるのはウルベルト。軍と名乗るからには他にもギルドメンバーや守護者たちが参加しているだろうということが容易に予想できる。つまり、あいつらは終わらない戦いの島に相応しい盛大な喧嘩をやらかしているんだ。今の所、ムーンブルク軍には手を出していないようだが、このまま俺たちが手をこまねき死人が出るようなことがあればあいつらはからっぽ島には来れなくなる」
そこで言葉を区切ったベルリバーさんは深呼吸をすると、静かに口を開く。
「そこで、次のムーンブルク島に向かうメンバーを募りたい。自他共に“推薦”で構わない、名を上げてくれ。ちなみにビルドは行く気満々なのであしからず」
「いやー、たっちさんとウルベルトさんの喧嘩を無事に治められるのはモモンガさんしかいないっしょ!」
「へ?」
「そうだよね!私もそう思った!」
「一理ある。俺なんか行ってもただの的にしかならない」
「うん、ギルドマスターであるモモンガさんなら、きっと2人の戦いを上手に治めて帰ってきてくれるはず」
「え?」
こうして、俺は碌に反論もさせてもらえぬまま、人身御供のように槍玉に上がり、大切な仲間であるギルドメンバーの満場一致でムーンブルク島に向かうこととなった。
参謀としてデミウルゴスをお供にして。くっそー、こうなると思ったからややこしい現実は伏せて、皆で行こうって提案したのに!
【島へ渡る準備】
「次の島へも荷物は最低限でお願いしヤス」
「ああ、分かってた」
ムーンブルク島に向かうことになったことを船長に伝えに行くと、オッカムル島に渡る時のように荷物はあまり持って行くなと釘を刺された。そこでどのような装備で向かえばいいのかを考えていたら、ビルドが言った。
つぎが たたかいのしま なら うってつけの そうびが あるよね
そう言ってビルドが持ってきたのはモモン・ザ・ダークウォーリアーの装備だった。全身鎧なので顔を隠せる利点がある、マントにはユグドラシル時代の俺のエンブレムが金糸で縫い込まれており、見る人が見ればすぐに分かる仕様だ。
「ビルド、早急にデミウルゴスの分の全身鎧を作ってくれるか?デミウルゴスは、俺と共に『設定』を考えるぞ。俺たちは今から、故郷を魔物に奪われた亡国の剣士と従者だ。魔物に奪い取られたものを取り返すために、強い仲間や道具の作り方を欲している、という体だ」
デミウルゴスは眼鏡をクイっと上げるとニヤリと笑みを浮かべる。そして、倉庫に置かれていた本のページに何か壮大な物語を描き始める。
遠くで金床を使ってカンカンカンとビルドが装備を作る音が聞こえてくる。淀みなくさらさらと文字を綴るデミウルゴスが渾身の笑みを浮かべて、俺にその本を差し出してきた。
題名は『亡国の剣士モモンの冒険』
あ、これ、あとで書籍化されそう……。
設定
モモン:主人公。ナザリック帝国の王族だが、幼少の頃に魔物の襲撃によって家族を失い、国からも追われてしまう。成長したモモンは全身鎧を身に纏い、魔物に奪われた国を取り戻すために世界各地を旅して、頼れる仲間を探している。
デミ:主人公の従者
ビルド:とある無人島で生き延びていたビルダーの少年。世界を壊し、作る能力を持った少年の力はモモンに何をもたらすのか。
アルベド:モモンの婚約者だが、魔物に国を奪われた際に彼女もまた奪われてしまう。現在も魔物に囚われ、幻で魔物をモモンだと認識している。
「……。デミウルゴス、お前のところもちゃんと書け。それ以外の事は、創作だから構わん。だが……アルベドが婚約者って。タブラさんに怒られないかな」
俺の言葉を聞いて、クラシックの音楽を鼻歌で歌いながらデミウルゴスの執筆活動が進む。すると、倉庫の奥の方からビルドが駆け寄ってきて、じゃじゃーんと見せた。それは褐色の全身鎧。鎧の所々に文様が掘られており、中々見栄えがする一品となってる。装備の方は片手剣と小ぶりのロッド。それを見たデミウルゴスは自分の設定のところに、魔法剣士という文字を書き記す。
「ふむ、中々いい仕上がりじゃないか。旅の剣士のモモンと従者一行。ナザリックという故郷と、大切な者を取り戻すため仲間探しと戦いに使える道具作りを学ぶためにムーンブルク島に降り立つ。ロールはしっかりとな、2人とも」
「はっ、モモンガさま。……いえ、モモンさまですね?」
ぼくも ももんさまが いい?
「いや、ビルドは無人島で1人の力で生きてきた設定だから、そこは呼び捨ての方がいいな。1人で生き延びてきたからこそ、常識に囚われず、発想に上限がなくて一般人には到底作りだせないものを作れるということにしよう」
俺たちは3人でニヤリと笑うと装備を身に纏う。
◇
次の島へと旅立つモモンガたちを見送りに来た面々だったが、彼らはまだ倉庫で準備をしているらしく、船長が1人で困惑している。
その時、浜辺の方にいるメイドたちから黄色い歓声があがった。
振り返ったヘロヘロが見たのは、漆黒の全身鎧を身に纏い、赤いマントをたなびかせながら歩く剣士。それに付き従うように褐色の全身鎧を身に纏った片手剣と短めのロッドを持つ魔法剣士が付き従う。その後に続くのは、鉄の装備を身に纏い、いつもの大鉄鎚を背負ったビルドの姿。それはまるで旅の剣士の一行だった。
「って、何じゃそりゃーっ!」
てっきり嫌な役目を、ヘロヘロをはじめとするギルドメンバーに押し付けられ、がっくりとした様子で向かうと思っていた面々は、結構ノリノリの3人に面食らった。しかし、ナザリックハイツの最上階での話し合いの後からの短い期間で何があったのか、先頭に立つモモンガの背中はすごくかっこよくて。階層守護者であるアウラとマーレとシャルティアが非常に悔しがっていた。
「では、行ってくる。留守を頼むぞ、ベルリバー」
「え?……あ、はい」
あまりに堂々とした立ち振る舞いにベルリバーがタジタジの対応だ。
ぺロロンチーノは『うわー、そういうロールでやってくんの?』と慄き、ぶくぶく茶釜は興奮したように、みょんみょん動いている。
ヘロヘロは呆然としながら、終わらない戦いの島へと向かって行く彼らの背中を見送るしか出来なかった。