からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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終わらない戦いの島編 その①

終わらない戦いの島と言われるムーンブルク島は、確かにモンゾーラ島やオッカムル島とはまた違った雰囲気の島だった。雪が降り積もり、見上げれば木々も白い雪による化粧がされている。

 

船長には、時を見て迎えに来てもらうように頼み、俺たちは船着き場から上陸する。ビルドは初めて見た雪に興奮して、雪原を走り回る。ビルドはロールプレイしなくてもいいように設定したが、ちょっと羽目を外し過ぎやなかろうかと、俺が声を掛けようとした時、俺たちとは別の声が聞こえた。

 

「ややっ!君たちは一体、何者だ?」

 

声の主を探すと道の上の方に青い髪の青年が立っていた。きょとんとするビルド、そして船着き場に立つ俺たちを見て、背負っていた銅の剣を構える。俺はすぐに幅広いグレートソードを、デミウルゴスは片手剣を装備して、ビルドの下に駆け寄る。

 

「ここは戦いの島、ムーンブルク島だ。用のないものは速やかに去ってもらおう!」

 

「そういう訳にはいかない。俺たちはここに用があってきた」

 

じっと武器を向け合っていると、ビルドが何かに気付いたように走り出した。そして、背負っていた大鉄鎚を使って斜面を削る。俺たちも青髪の青年もじっとビルドの背を見続けた。

 

しばらくするとビルドはキラキラした面持ちで鉱石を掲げた。それは色合いが鉄に似ていたが、別のものだったようだ。

 

やったー たまはがねだー

 

つくれる ぶきの れぱーとりーが ふえる!

 

 

武器を構えたままの俺たちだったが、青髪の青年が暢気なビルドを見て小さく噴き出す、そのすぐに後に剣を背負いなおして俺たちに向かって謝罪の言葉を口にする。

 

「いきなり武器を向けてしまって申し訳なかった。僕はムーンブルク軍の兵士長リック。……とはいっても、兵は全員逃げ出し、将軍は毒を受けて瀕死状態。戦えるのは僕ひとりだけの軍だけれどね」

 

リックが武器を背負いなおす姿を見て、俺とデミウルゴスも武器を直す。その間も視界の端で玉鋼の採取に挑んでいるビルドの楽しそうな顔が見えている。俺は咳ばらいをするとリックに声を掛ける。

 

「俺は、モモン。旅の剣士だ。魔物に奪われた故郷を取り戻すために仲間を探しに、この島に来た。君たちと戦うつもりはない」

 

「君たちも魔物に国を……。それにそこで採取をしている少年は、まさかビルダー?君たち、僕についてきてくれないか?」

 

リックの案内で山道を進む。途中途中で採取欲に囚われ立ち止まるビルドを小脇に抱えて移動すると、城壁に出来た穴の中に金色の王冠を被った人間と、白い髭を生やした高齢の兵士、うつ伏せで倒れる女性がいた。毒に侵されているというのは本当のようだ。

 

俺は小脇に抱えていたビルドを下ろす、するとこれまでの道中で手に入れた薬の葉とニガキノコを使って毒消しを作り出した。その光景を目の当たりにした王冠を被った男が「ぎょえーっ!?」と驚きの声を上げた。

 

ビルドの毒消しをもらい復活したムーンブルク軍の将軍アネッサ。しかし、毒によって減った体力が戻っていないこともあり、ムーンブルクの現状を知るためにと城に向かった俺たちが見たのは、破壊されつくした瓦礫の山だった。

 

瓦礫の中を進んで行くと徘徊していたがいこつ剣士とグレムリンという小型の魔物に見つかり、戦闘になったが特に労もなく倒しきった。だが、魔物は消滅する間際、変なことを口走った。「へへっ、これでまた戦いを続けられる。今度はじわじわと嬲り殺すように……」と。

 

「ここの魔物は、戦うことがすべてなのか?」

 

「さぁ、それは僕には分からない。けど、これで城の中にいた魔物は討伐できた。さすがですね、モモン殿」

 

その後、魔物がいなくなったことを知った王様と高齢の兵士と将軍アネッサも来て、壊れた玉座を城の壁で囲み、一先ずの陣地とした。ただ俺とデミウルゴスを含めた大人6人と子どものビルド1人が暮らすには狭すぎる空間のため、早急に陣地を広げる必要があった。

 

このムーンブルク城を構成する城の壁は強固で俺たちの剣でも傷ひとつつけられないものだった。しかし、その城の壁を作るには大理石が必要になるのだが、手元にないため一先ず壊れた城壁から城の壁を切り崩して使い、陣地を広げていく。

 

ただし、魔物の襲撃頻度がこれまでの島以上でビルドも参加していたら進まないので、俺とデミウルゴス、それにリックとアネッサが戦い、ビルドには陣地を広げることを優先に動いてもらった。ちなみに、ここムーンブルク島においても食糧問題が発生した。

 

しかし、今までの島とは違い、その問題はとある物の登場ですぐに解決する。

 

そのとある物とは鉄ブロックを加工して作る『とげワナ』である。その威力はAOG教団のがいこつ剣士を俺たちが何もしなくとも駆逐してしまう威力。ただし、それは俺たちにも言えたこと。俺たちが歩くスペースを確保しつつ、魔物が貯まりやすい位置に重点的にとげワナを置いたビルドは何かを思いついたように走り出した。

 

城の南側にある丘の上。オッカムル島でも食料問題でお世話になったいっかくうさぎがいた。そのいっかくうさぎがあらわれる地点にとげワナを設置するビルド。俺たちは寄ってくる魔物を撃退しつつ、完成するのを見守った。

 

出来上がったのは雪原の一面に置かれたとげワナによるデストラップ。『ぴゅいっ!?』『ぴぎぃっ!?』『ぴきゅぅっ!?』と断末魔を上げつつリスポーンしては死んで肉をまき散らすいっかくうさぎたちによる肉生産工場が出来上がった。

 

俺はドン引きだったが、拷問好きなデミウルゴスは嬉しそうにビルドの頭を撫でていた。

 

 

 

それからしばらくの間は城の復旧作業に汗を流す。

 

その間も城の東側の戦場で行われる小競り合い。今回はディザスター軍に属するギルドメンバーの武人建御雷さんと守護者のコキュートス、弐式炎雷さんとプレアデスの1人であるナーベラルという2組の親子と、ジャスティス軍からはフラットフットさんとタブラ・スマラグディナさん、源次郎さんと領域守護者の恐怖公というメンツが戦っていると報告を受けた。

 

ビルド主導によるムーンブルク城の復旧作業は日に日にスピードを増している。直に城壁にも取り掛かることになるだろう。そうなった時、はじめて俺たちによる反抗が始まるのである。

 

そんなある日、ビルドに呼び出されて行った先にあったのは存在しているだけで凄い力の波動を放つ“2本の長刀”だった。鼻の下を擦ったビルドが得意げにしている。俺はビルドの頭をくしゃくしゃと撫でまくった。

 

ビルダーの鐘を鳴らし、戻ってきた住人とムーンブルク軍の兵たちを受け入れる。魔法の作業台を使って、壁を乗り越えてくる魔物にも対応できるになったころ、俺たちは動くことにした。魔法の作業台が隠されていた地下に、ビルドに頼んで捕虜用の牢屋を作ってもらった俺たちはそこで兜を脱いでお互いの顔を見ながら打ち合わせを行う。

 

 

 

「よし、デミよ。捕虜にした後、勧誘だ」

 

「は。我々はムーンブルク軍に協力はしているが、部外者。モモンさまが捕縛した至高の御方方の処遇はすべてモモンさまに任せられる。仲間にしても、ムーンブルク軍に入る訳ではなく、あくまでモモンさまの仲間として入る訳であり、人間たちとは軋轢を生まないという訳ですね。ではどなた様から?」

 

「優先するのは弐式炎雷さんだ。彼が釣れれば、ナーベラルもついてくる」

 

「一石二鳥という訳ですね。それに弐式炎雷さまの隠遁技術を用いた奇襲攻撃はどんな強固な装備を持つ相手でも油断のできない大ダメージを与えることが出来る優秀な暗殺者であるとウルベルトさまがおっしゃっておられました。現在はウルベルトさま率いるディザスター軍もたっち・みーさま率いるジャスティス軍もムーンブルク軍を格下に見ていますが、我々が動けば流れが変わったことを察するはずです。そうすれば暗殺者として、ムーンブルク軍の要人を狙って暗殺者としての弐式炎雷さまが送り込まれてくる可能性も。その芽を詰む算段ということですね、感服いたしました」

 

「え?」

 

デミウルゴスのノンブレス考察は凄かった。そういえば普通に考えていればそういう風になるよなと納得するばかりのものだったのだが、『感服いたした』ってことは俺もそういう認識であったのでしょう?という確認をされたのだろうか。え、いや、そんなの困る。

 

と、俺がうろたえていたら、デミウルゴスの頭をぽこんと叩く存在がいた。

 

だめでしょ でみさん

 

ももんがさんに じぶんの りそうを おしつけちゃ

 

ほめてほしいなら 

 

「このように わたしは かんがえます」に とどめて

 

「おお さすが でみうるごすだ ちこうよれ ほめてやろう」って

 

ながれに しないと

 

 

傍で聞いていたビルドの一言に2度ショックを受けたデミウルゴスは、咳払いをひとつするとTake2を要求してきた。俺はビルドの咄嗟の援護射撃に乗っかるように頷いた。

 

「弐式炎雷さまの暗殺の芽を詰むということにつながる訳ですね、モモンさま」

 

「あ、ああ。その通りだ、デミ」

 

俺はビルドに促されて、デミウルゴスの頭を撫でる。すると彼はプルプルと震え出した。ビルドがぐっじょぶとサムズアップしているので、今後はこういう風にしていくのがデフォルトとなるのだろう。

 

そう思っていると、上の方で何かが壊れる音がした。俺たちは兜を被りなおし、上の階層に向かう。そこにあったのは木箱の残骸で特に誰もいなかった。……気のせいか。

 

 

俺は旅の剣士モモンとして、ムーンブルク軍の兵士たちと共に戦場に立つ。

 

明らかに装備が違う俺の登場に、ムーンブルク軍に興味のなかったギルドメンバーたちが騒めくのを視界に入れつつ、AOG教団の魔物を一刀の下で切り捨てる。近寄ってくる魔物をバッサバッサ斬り、ただひたすら前に進む。魔法剣士ロールのデミウルゴスが傍に控えるので、魔物たちのヘイトをうまく調整し誘導できている。なんだか、盛り上がってきた。

 

ジャスティス軍とディザスター軍が交戦している場所まで来た俺は、前線で戦っていたメンバーたちを1人1人見ていく。俺もデミウルゴスも全身鎧のため身バレはしていないはず。

 

「お主、強いな。手合わせ願おう」

 

「オトモイタシマス、ブジンタケミカヅチサマ」

 

ボロボロの鎧を無理やりつなぎ合わせた防具、刃が欠け、所々が錆びだらけのボロボロの武器を装備するギルドメンバーの武人建御雷さんとその息子であり階層守護者であるコキュートスが熱い視線を送って来る。

 

狙いであった弐式炎雷さんはジャスティス軍の方の深いところまで切り込んでいたようだ。予定通りに行かないものだなと思いつつ、2人の武器が完成しているしこれもまた一興かと向き合う。

 

「俺は訳あってムーンブルク軍に協力している剣士のモモン・ザ・ダークウォーリアー。貴公らの名を聞かせてほしい」

 

「……ディザスター軍の武人建御雷」

 

「オナジク、コキュートス」

 

「そうか。ならばご両人、この勝負で俺が勝った場合、大人しく降ってもらおう」

 

「ふっ、よく言う。往くぞ、コキュートス!」

 

「ハッ!」

 

俺とデミウルゴスは、武人建御雷さんとコキュートスと戦闘を開始する。

 

 

その様子をじっと見ていたジャスティス軍のタブラ・スマラグディナはゆったりとした足取りでムーンブルク軍の兵士たちが戦っている方へ移動を開始したのだった。

 

 

やはりというべきか、2人ともこの世界に適合した肉体を得ており、ユグドラシル時代と比べ弱体化している。しかも、武器も防具もボロボロで、何よりも彼らの戦い方に武器系統があっていないことも重なり、碌に剣劇も出来ず、武器がバラバラに砕け散っていく。

 

対して俺はビルドの最高傑作の装備を身に纏っている。防具は最高硬度を誇る上に火炎と氷結属性の攻撃に対して耐性があり、武器は補助魔法効果をたっぷり積んだガチ構成。デミウルゴスが俺の使えない回復魔法を使って援護をしてくれるので、俺たちが負けるはずがなかった。

 

武器をすべて破壊された武人建御雷さんとコキュートスは「降参する」と大人しく俺たちに投降したのだった。

 

 

 

ムーンブルク城の地下に作られた鉄格子で仕切られた牢屋に、先の戦いで俺とデミウルゴスに敗北し捕虜となった武人建御雷さんとコキュートスの他にジャスティス軍のタブラ・スマラグディナさんの姿もあった。

 

タブラさんは警戒するムーンブルク軍の兵士には目もくれず、ビルドの下にやってきて彼に投降の意思を示したという。多分、タブラさんは俺たちの正体に気付いている。そこで俺は狙いを武人建御雷さんとコキュートスに絞った。

 

「狭い所ですまないな。お三方」

 

「敗者は勝者に従うのが自然の摂理。しかし、人間が我らの様な異形の者を生かし、何の意味がある?」

 

敗者となって身包みを剥がされ拘束された状態となっても誇り高い立ち振る舞いをする武人建御雷さん。それに倣ってコンセプト通りのザ・サムライの名に恥じない姿でコキュートスも牢屋の中で正座して沙汰を大人しく待っている。俺はそんな姿を見ながら、言葉を紡ぐ。

 

「決まっています。あなた方には俺の仲間になって頂きたい。俺は、俺たちはとある魔物によって故郷(ナザリック地下大墳墓)と、愛する者(アルベド他NPC)を奪われた。相手は強大。そのため、故郷と愛する者を奪い返すために大勢の仲間が必要なのです。どうでしょうか、武人建御雷さん、コキュートスさん。俺の仲間になって下さいませんか?」

 

2人は悩むような仕草を見せる。実質的にはコキュートスは武人建御雷さんの判断に従うことになるだろうから、俺は一旦、視線をタブラさんに向ける。

 

「貴方はすぐに私の従者の者に投降を申し出たようですね。どうでしょうか、貴方は仲間になってくれますか?」

 

「勿論ですよ。誰でもない、貴方が。不義理な私を必要としてくれるのであれば、私は何度だって貴方の手を取り、仲間になる。いえ、私を仲間にしていただけますか?」

 

「ええ、勿論です。“タブラさん”」

 

そんな俺とタブラさんのやり取りを見ていた2人が呆然としている。ふっ、シリアス展開はこれで終わりだ!これからは、はっちゃけていくぞ!ひゃっはーっ!!

 

俺は呆然とする武人建御雷さんとコキュートスに向き直ると、その場でパチンと指を鳴らした。その音を聞いて、デミウルゴスが2振りの長刀を持って降りてくる。それを見た武人建御雷さんとコキュートスが鉄格子を掴んで目を見開いた(ように見えた)。

 

「さて、向かって左側にあるのが『建御雷8式』、右側の武器が『斬神刀皇』という刀と呼ばれる武器の最高峰のものです。この世界では他の誰もが作りだせない一品ものですよ。2人が俺の仲間になると即決してくださったら、この刀を差し上げようと思っていたのですが、残念です」

 

「うぉーいっ!?なる!仲間になる!いや、仲間にしてください!捕虜のくせに偉そうな態度を取っていてすまなかった!酷い冗談は勘弁してくれ!ギルドマスター!!」

 

「……エ?」

 

牢屋の中で先ほどまでの憮然とした態度はどこへやら、土下座を敢行している武人建御雷さん。創造主の情けない姿と、俺を交互に見て狼狽えているコキュートス。

 

そこでネタバラシと称して、俺とデミウルゴスが兜を脱ぐと、コキュートスが凄い勢いで震え出し、青白い線が暗い牢屋に残るくらいの速さで動くもんだから輪郭がブレブレになった。

 

「なんだ。武人建御雷さんも気づいていたんですね?」

 

「いや、俺が確信を持ったのはタブラの発言を聞いてからだ。むしろ、タブラはいつ気付いた?」

 

「モモンガさんの赤いマントを見れば一目瞭然ですよ。ユグドラシル時代のモモンガさんのエンブレムが金糸で丁寧に縫い込まれているのですから」

 

俺は武人建御雷さんに見せつけるようにマントを広げて見せる。それを見て納得する武人建御雷さん。

 

 

 

ところで、牢屋の奥で真っ白に燃え尽きてしまったコキュートスは、どうすればようのだろうか。

 




誤字脱字修正ありがとうございます。
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