からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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終わらない戦いの島編 その③

地下の居住空間で大きなテーブルを囲んで作戦会議を開くこととなった。

 

フラットフットさんとホワイトブリムさんは性癖をよく知っていたので、ビルドにこういうものは用意できないかと相談したところ、簡単に2人を捕えることが出来た。残りのメンバーも出来る限り戦闘はせずに仲間に引き入れたいものだが……。

 

「えっと確認しますけど、ジャスティス軍の残りのメンバーはたっちさんと恐怖公、源次郎さんの昆虫系が3人とセバス。ディザスター軍はウルベルトさんと音改さんと誰がいるんですか?」

 

「死獣天朱雀さんとぬーぼーさんだな。どっちも戦闘には不参加だったけど」

 

「物では釣れないか」

 

「いや、俺がモモンガさん陣営に寝返ったことをウルベルトはまだ知らないはずだから、俺が3人を連れてこようか?」

 

弐式炎雷さんの提案を受け、それも手のひとつかと考える。

 

しかし、急に1人になったウルベルトさんがどんな行動に出るか分かったものではない。下手したら単独でムーンブルク軍に攻めてくる可能性すらあり得る。そうなったら、どうしようもなくなる。今の所、仲間に引き入れた全員がムーンブルク軍に直接的なちょっかいは出していないのだ。

 

「少し、息抜きをするか。デミウルゴス、皆にアレを配ってくれ」

 

「はっ、モモンガ様」

 

返事をしたデミウルゴスがバーカウンターの裏にある保冷庫に入り、キンキンに冷えたガラスのジョッキを人数分持って戻ってくる。そして酒樽から、黄金色に輝くバブル麦汁を注ぐ。デミウルゴスの動きひとつひとつに注目する面々に俺はほくそ笑む。

 

ここにいるギルドメンバー全員分とコキュートスとナーベラルの分を1回の工程で持ってきたデミウルゴスは丁寧に1人ずつジョッキを配った。最後に俺の所にジョッキを置く。

 

俺は全員に行き届いたのを見て、ジョッキの取っ手を掴んで立ち上がり乾杯の音頭を取る。

 

「異世界の地で再び会えたことを祝して、乾杯!」

 

「「「「乾杯!」」」」

 

恐る恐る口をつける者。ぐびぐびと喉を鳴らして飲む者。麦の芳醇な香りと口の中で弾ける炭酸、味のキレやコクなど、リアルのクソ不味い安い酒とは比べ物にならないそれを飲んだ彼らは、感動に打ち震え涙を流す。

 

「うっめぇえー!!何これ、まじか」

 

「おぉ……。何故か調理できず、生肉しか食べられない日々を過ごしてきた俺たちに。こんな衝撃的なものを飲ませるなんて、ギルマスは悪魔か?」

 

「いや、神だろ!?リアルの酒より確実にうめぇよ!これを飲むためならどんな犯罪だって俺はやるぞ」

 

「がっはっは!碌でもないことを言うでない」

 

正直、思っていた反応よりも凄かった。俺たちはこれを飲む前にルビーラやチャキーラといった酒を挟んでいたからこそ、あの反応で済んだのかもしれない。わいのわいの騒ぐギルメンたちの姿をほっこりしながら見ていると、ガチャと扉が開く音がした。見れば髪に雪を乗せたままのビルドが入ってこようとしていた。俺は席を立ち、扉の所までビルドを迎えに行く。

 

「ビルド、姿が見えないと思っていたら、外に行っていたのか?」

 

うん だいりせきを いっぱい つかっちゃったから さいしゅに

 

ついでに おにくも かいしゅう してきたとこ

 

 

「ビルドの強さはよく知っているし、信頼もしているがあまり単独で動くな。ビルダーであるビルドは一番狙われるのだからな」

 

ごめんなさい あ そうだ

 

たまはがねを さがして かいがんせんを あるいていたら 

 

からだの はんぶんが こおってて こごえていたから つれてきた 

 

たぶん ももんがさんの おともだちだと おもって

 

 

「え?」

 

俺はそこでようやくビルドの左手がまだ扉の向こう側にあることに気付いた。そして、ビルドの手に引かれて部屋の中に入ってきたのは全身が蔓で構成された異形の姿。アインズ・ウール・ゴウンの軍師にして諸葛孔明と呼ばれたぷにっと萌えさんだった。ビルドの言った通り、身体の半分が凍った状態でそこに立っていた。

 

「……はっ!?メディーック!救護兵はどこだ!?」

 

「部屋で一番温かいところに連れていけ!って、どこっ!?」

 

「はっ、たき火だっ!キッチンに連れていけ、早くー!!」

 

バブル麦汁を飲んで盛り上がっていた面々の的確なコンビネーションで瞬く間にバーカウンター裏のキッチンスペースに運ばれたぷにっと萌えさんは、たき火の暖かな炎に当たりながら、か細い声で呟いた。

 

「夢幻の空想でも、皆さんに会えて、良かった……がく」

 

「いやいや、死ぬなよ。萌え氏!まだ冒険は始まったばっかだぞ!というか海岸線ってことは海に何でいたんだよっ!」

 

「うぅ……おっきなどらごんに咥えられて、身体の棘が口に刺さったのか海にポイ捨てされた……」

 

あまりの不運な境遇にその場にいた全員が「うっ」と口元を押さえてしまった。右も左も分からぬ異世界で、初接触が身の丈を超える大きなドラゴンとか、俺だったら絶望しかないわ。

 

良かった、俺がはじめて出会ったのがビルドで。あの時、ビルドに出会わなければ、きっと今も一人寂しく生のコンブを噛んで虚しい思いをしていただろう。ほんの3か月くらい前の話なのに涙が出そうだ。

 

 

 

毛布に包まってストローを使いバブル麦汁を飲むぷにっと萌えさんも交えて、先ほどのジャスティス軍とディザスター軍の残りのメンバーをどうするかの会議を再開させる。するとすぐにぷにっと萌えさんが俺たちに提案した。

 

「小競り合いの内容と現在の状況を鑑み、たっちもウルも戦いの止め時を失っていると見ました。ここは、小細工は使わずに、両陣営に書状を送りましょう。いついつどこで、捕虜としたメンバーの処刑を行うと。そんなことはさせないと両陣営のメンバーが現れるでしょうから、そこをモモンガさんたちが叩く。それで十分ですよ。捕まった彼らが納得しなかったら、私が直接説教してもいい」

 

「お、おぉ……。シンプルかつ合理的だ、さすが我がギルドの軍師」

 

武人建御雷さんが感心するように頷いている。しかし、嘘でも仲間を処刑するなんて書状を書きたくないんだけどなぁ。

 

「モモンガさま、それでは書状はわたくしめが代筆致しましょう」

 

真っ白の紙を前に固まっている俺を見兼ねてかデミウルゴスが声を掛けて来た。俺はそんなデミウルゴスを通し、ウルベルトさんの顔が見えた気がした。自分の父親相手に処刑の日時を書くものをデミウルゴスには書かせられない。俺は心を鬼にして、【明日の正午。ムーンブルク城の北に位置する丘にて、捕虜の処刑を行う】と書いた。

 

「あれ、でもこれを届ける使者の役目は誰に?」

 

「適任は私を助けてくれたビルドくんだと思いますよ。もしも、使者として訪れた彼をたっちやウルが傷つけるようなことがあれば、それは外道だ。私たちの知る『純銀の聖騎士』でも『大災厄の魔』でもない。これだけ長い間、ギルドメンバーや守護者たちを巻き込んで戦いを続けているんです。もう、私たちの知る2人でなくなっている可能性があります。人間性を捨てた、ただの怪物に」

 

ぷにっと萌えさんはここに集った俺たちの顔をじっと見ていく。そして、にこやかに笑ったように蔓で象ると言葉を続ける。

 

「私の杞憂ならそれでいいんです。それを見せてもらいましょう」

 

俺が日時を記した書状を持ってビルドがムーンブルク城を出発していく。兵士長のリックや将軍のアネッサが敵陣へ向かうビルドを心配して、同行すると申し出てくれたが俺は断った。俺はたっちさんもウルベルトさんも信じているから。

 

 

 

だが、ビルドはその日、帰ってこなかった。

 

 

 

書状に記した通り、ムーンブルク城の北側に位置する丘に俺とデミウルゴスは立っている。

 

俺の内心はドロドロの感情で入り乱れている。たっちさんやウルベルトさんに向けていた尊敬や敬愛といった思いが、昨日のぷにっと萌えさんの言葉で裏返ってしまっている。もはや、たっちさんやウルベルトさんは俺たちと相容れないほど変わり果ててしまったのだ。

 

そう思うと、ビルドを1人で行かせてしまった自分の判断に後悔が押し寄せてくる。俺は何度、繰り返すのかと。

 

「モモンさま、来ました」

 

「冷静に……そう冷静にだ」

 

俺は兜を通してたっちさんとウルベルトさんを見る。

 

ボロボロの鎧を身に纏い、どこかの戦場で拾ったのか分からないが国の紋章が入った旗をマント代わりにしている昆虫系の種族をミックスして作り上げた素顔が見えるタッチさん。その後ろには彼の創造したNPCのセバス、戦闘メイドのエントマを創造した源次郎さん、領域守護者の恐怖公が続く。

 

ウルベルトさんはボロボロのマントを身に纏い、所々煤けた長い杖を持っている。山羊頭の悪魔の姿は健在で、その眼には憎悪が宿っている。そんなウルベルトさんの後に続くのは、商人スキルを持っていて持ち物を売る時に査定額を上げてくれた音改さん、リアルでどこかの助教授であるということを話してくれたことのあるギルドメンバー最高齢の死獣天朱雀さん、いまはまだいないるし★ふぁーと共に最強のゴーレムを作ろうとしていたぬーぼーさん、といった積極的には戦闘に参加しないメンバーたち。

 

「……ああ、そうだったな。たっちさんやウルベルトさんだけじゃなかったんだ。ビルドを傷つけたのがどちらの陣営であれ、2人を止めれなかったメンバーも同罪だよなぁ……」

 

「モモンさま、落ち着かれてください」

 

「大丈夫だ。俺は冷静だ……冷静なんだ」

 

丘の高いところに俺たちが立っているので、自然とジャスティス軍とディザスター軍の両方の陣営を見下ろす形になる。

 

各々メンバーを残し、各軍の総大将であるたっちさんとウルベルトさんが歩み出てくる。そして俺をまっすぐ見上げてくる。口を開けば罵詈雑言をぶつけてしまう。俺がそう思って黙っていると、たっちさんとウルベルトさんが装備をすべて脱ぎ捨てて、裸一貫となり俺たちに向かって跪く。そして、口を開いた。

 

「貴公に捕らえられた仲間たちに罪はない!彼らは俺の命令に従って戦ったに過ぎない!処刑するなら、俺だけにしてくれ!」

 

「……正義バカと同じことをするのは癪だが、俺も同じだ。責はこの戦いを引き起こす、きっかけを作った俺にある。俺を殺せ!代わりに仲間を解放してくれ!あいつらはかけがえのない大切な仲間だ!」

 

「「どうか、頼む!!」」

 

恥も醜聞も関係ないと言わんばかりに額を地面にこすりつけて嘆願してくるたっちさんとウルベルトさん。きっと、ユグドラシルから来たばかりの頃の俺だったら、許していた。きっと、2人にすぐに駆け寄って肩を抱き、正体を明かしていただろう。だが、今の俺にはそれはできない。

 

「ひとつ、聞きたい。……両陣営に向かわせた使者を、……金髪の子どもを、……ビルドを殺したのは誰だ?」

 

俺は両拳を握りしめて、下唇を噛みしめながら尋ねる。地面に額を擦りつけていた、たっちさんとウルベルトさんが同時に顔を上げる。そして、顔を見合わせて困惑している。俺はそっと彼らの背後にいるメンバーたちを見る。すると全員が首を横に振っていた。

 

これは、どういうことだ?たっちさんやウルベルトさんが関与していないのであれば、いったいどうしてビルドが……。

 

 

 

「その疑問は私が答えよう!とうっ」

 

崖上から飛び降りてきて『ずぼっ』と新雪に埋まった緑色の物体。

 

雪を押しのけて出て来たのは先日、ビルドに助けられたばかりの、ぷにっと萌えさんだった。彼は体にまとわりついた雪を払い落として、俺たちとたっちさんやウルベルトさんの間に立つと胸を張る。ああ、お前が黒幕か。俺はそっとグレートソードを構え、切っ先をぷにっと萌えに向ける。

 

「うん?うぅおぉおお!?お、落ち着け!ビルドくんなら、ほら私がいたところに立っているだろう?」

 

ぷにっと萌えさんの発言を聞いて崖上を見ると、そこにはビルドだけでなく、この地で仲間にしたギルドメンバー全員が揃っていた。たっちさんとウルベルトさんは跪いた状態で顔だけを崖上に向けて、目を点にしている。何せ、全員がそれぞれ完全装備なのだ。

 

赤い武者鎧を着ている武人建御雷さん、

 

忍び装束の弐式炎雷さんとフラットフットさん、

 

巻き込まれたナーベラルはくノ一衣装。

 

ホワイトブリムさんは鋭角なフォルムの鋼の鎧を身に纏い、

 

タブラさんは薄い紫色のローブを纏っている。

 

たっちさんとウルベルトさんの顔には、『処刑の話は?』『捕虜じゃねぇの?』『何その装備かっけぇ』といった疑問が書いてある。

 

「ど、どいうことですか?ぷにっと萌えさん」

 

俺は頬を引き攣らせる思いでグレートソードを背負い直し、ぷにっと萌えさんに尋ねる。

 

「私が心配していたのはたっちとウルだけでなく、モモンガさん。貴方も対象だったんだ。デミウルゴスから聞いたよ、ビルドくんが魔物の軍勢に囚われた際に魔物を問答無用で皆殺しにしたと。君を置いてユグドラシルを引退してしまった私が言えたことではないが、君の優先順位は変わってしまっている。ナザリックに属する子ども達が1位で、2位がビルドくん、その後が私たちだ。別にそこに文句はない、私たちを一番に思ってくれよと押し付けるつもりはさらさらない。だが、それでも君が踏み留まることが出来るかどうかを見させてもらった!さすが、私たちのギルドマスターだっ!惚れ直したよっ!」

 

つまり、最初から手のひらの上で転がされていたって訳か、昨夜、ビルドが帰ってこないことにショックを受けていた俺に、寄り添ってくれた彼が一番の敵だった。ぶつりと頭の中で何かがキレた。

 

「……演説は終わりか?ぷにっと萌え」

 

「ふぁっ?」

 

俺はグレートソードに付加されている補助魔法で強化した身体で、一瞬でぷにっと萌えの側に移動すると頭を引っ掴んで、海に向かって放り投げた。手足をじたばたさせながら、見切れていったぷにっと萌え。

 

「あーーー……『ぽちゃん』」

 

見切れて数秒後、水の中に落ちた音が聞こえた。視界の端でビルドが風のマントで飛んだのを見計らって、俺は再度グレートソードを構えた。

 

「デミウルゴス、予定変更だ。捕虜が全員、牢屋から逃げ出したようだ。捕えなおすぞ?」

 

「は、我が君」

 

崖上で高みの見物をしていた面々が慌てふためている。口々に『ぷにっと萌えの策略で、俺たちは巻き込まれただけだ』とかふざけたことを言っている気がするが、おかしいなぁ。ここにいるたっちさんとウルベルトさんは君たちを助けるために素っ裸になった上で、凄い男気を見せたのに。

 

「お前らの血の色は何色だぁあああああああっ!!」

 

「「「「「ぎゃぁあああああっ!?」」」」」

 

俺は防具だけを固めて、武器を何一つ持ってきていなかったギルドメンバーたちに斬りかかった。応戦しようとする者、諦めて斬られる者、逃げようとして海に落下する者と色々といたが、事情を察したたっちさんとウルベルトさん、それに残っていたメンバーたちは苦笑いしながら俺を宥める側に回った。

 

ちなみにこの騒動はビルドに回収されたぷにっと萌えが凍えながら、俺やたっちさん、ウルベルトさんに向かって五体投地のエクストリーム土下座をすることで解決する。

 

 

 

ここしばらくの間、ムーンブルク島を更なる混乱の渦に陥れたジャスティス軍とディザスター軍は消滅した。それぞれのメンバーは旅の剣士モモンの仲間となり、このムーンブルク島に蔓延る問題にメスを入れていくことになる。

 

 

 

「ところで昨夜は何をしていたんだ?」

 

なーべらるさんの おきがえしょーを みせられていたよ? 

 

そのために たくさんの くのいちしょうぞくの ばりえーしょんを つくらされた

 

「ほう……」

 

弐式炎雷はその日、グレートソードを振り回す漆黒の剣士に夜の間ずっと、追い掛け回されることとなる。

 

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