かつてのモンゾーラ島のような大農場を作るのが夢だと言うチャコが持っていたふしぎなたね。それは彼女の力ではどこに植えても根をつけることがなかったらしいが、ビルドが村の中をキョロキョロと見渡す。そして、村の中央にあるモニュメントに埋めると若々しい芽が出て、空に天高く神々しい光を放った。
その異変を察してか、ここモンゾーラ島を支配するハーゴン教団に属する副総統マギールという魔物がやってきたのだが……。
「わたしはハーゴン教団改めエイオウジ教団の副総統マギールだ。おまえたち、まさかこの地で農業などしているんじゃないだろうな?」
とは、高圧的に言ったものの、マギールという名の魔物は朝露を纏ってキラキラと輝くキャベツを一つ一つ観察すると、上機嫌で若木の周りに集まっている俺たちの所に来た。そして、ビルダー見習いであるビルドを見て納得するように頷き、集まって怯える農民たちを何ともないように見渡し、何の反応もしないナザリックのメイドたちを見て「むむむ」と唸り、俺とぶくぶく茶釜さんとヘロヘロさんを見てひれ伏した。
彼曰く、「力の大部分を封じられておるようですが、内包された強大な力の波動。さぞかし悪名を轟かすお方々なのでしょう」と。おかげで更にチャコたちに怯えられる始末。別にビルドさえいてくれれば十分なのだが、何だかショックだ。
元から村にいた人員に加え、増えた農民とナザリックのメイドたちを養うにはあまりにも足りない食料自給率。そこで俺たちは新たな野菜の種があると思われる、東の集落跡地へ向かうことになった。
数の暴力と言わんばかりにメイドたちにもビルドが作成した樫の杖を与えてみたのだが、彼女たちは装備すること自体できなかった。その代わりと言っては何だが、ビルドが作成したものであれば道具作りも料理もすることが可能だった。
ちなみに樫の杖を装備できないことを知ったメイドたちは、まるでこの世の終わりと言わんばかりの絶望の表情を浮かべていたが、作業台やたき火での道具作成や料理で貢献できると知ってからは、農民顔負けの働きぶりを発揮。元からいた農民たちは仕事を取られ、それぞれビルドが作った石の剣や大量生産された樫の杖を手にした。村の防衛は彼らに任せればいいということで、俺たちに加えビルドを含めたメンバーで行動することになった。
襲い掛かってくる魔物は俺たちが蹴散らし、新しい素材になりそうなものがあれば片っ端から資材に変えていくビルド。ただし、日が暮れると襲ってくるオレンジ色の死神から死に物狂いで逃げる。
そうしながら辿り着いた東の集落はすでにボロボロだった。何とか原型を残している塔も今にも崩れ落ちそうだ。何か情報の収穫があるのかな、と不安になったが武器を失った兵士にひのきのぼうを与えて得られた小麦の種。
そして、エイオウジ教団の息が掛かった蟻型の魔物。幸いにも数こそ多いが強さはそこまでなく、難なく倒せる上に落とす素材が小麦の種であることを知ったからには1匹たりとも逃がさんと立場があっという間に逆転。いつの間にか追い掛け回すのが俺たちに変わっていた。
「モモちゃん、この蟻ってあの洞窟から湧き出てくるみたいだよ。行ってみる?」
ぶくぶく茶釜さんが指し示す洞窟を見て、俺は即座に頷いた。ビルドはどうするかを尋ねようと周囲を見渡すが姿が見えず、破壊音に導かれて上を見ると素材の宝庫である塔の解体作業に従事していた。次々と落下する資材の雨、俺たちには目もくれず塔を上から次々と破壊していっている。兵士の女が言った。
「彼って見た目によらず、熱狂的なハーゴン教団……じゃなかったエイオウジ教団の信者だったんすねー」
いや、ビルドはエイオウジ教団とはまったく反対の立ち位置にいる物作りの権化であるビルダーなんだが。確かに彼女の言う通り、教団の教えに基づくように破壊しまくっているよな。しかし、塔を破壊するペースがかなり速い。
さっさと俺たちもあの洞窟にいる蟻たちの親玉を倒してこないと。そう思いながら洞窟に足を踏み入れると、緑色の大きな蟻たちを傅かせ、木のミツを啜りながら新たに喚ばれた蟻を頭からバリボリと食べる存在があった。それは戦闘メイドでプレアデスの1人であるエントマ。その様子は正に女王蟻。
しばらく無言で見つめ合った俺たちとエントマだったが、我に返ったエントマが己に尽くしていた蟻たちを蹴散らして、慌てた様子で俺たちの前に跪く。
「……ばりばりごくん!こほん……エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ、御身の前に。ですわ~」
「……エンちゃん、マジで今更っすよ」
エントマによる食べ残しの蟻の死骸が散乱する洞窟内で、同じ戦闘メイドの1人であるルプスレギナのツッコミが冴え渡るのだった。ちなみに洞窟から出るとぼろぼろでも原型を残していたはずの東の塔は床石まできっちりビルドの手によって解体され、すべてが資材にされていた。
ほくほく顔のビルド曰く、これで村に床までしっかりとした家の建築が出来るようになったと、とても上機嫌だった。ちなみにハーゴン教団に東の塔の破壊を命じられていたジバコという名の兵士はビルドの所為でやることが無くなったということで村に移住することとなった。農民たちと一緒に斑の警備に参加してくれることだろう。
◇
持ち帰った小麦はすぐに畑に植えることになったのだが、健康な土壌が限られており、思うように作物を育てられない。やはり、土壌の改善が急務のようだとチャコたちと話をしていたところ、移住してきてビルド製の石の剣を手にした兵士のジバコが、昔この島には土壌の改善に尽くしていた一族がいて、その子孫が近くにいるという話をエイオウジ教団の魔物たちがしていたのを聞いたことがあるという情報を得た。
村の外に出ると蟻が寄ってきてしまうエントマは村でお留守番が確定し、監視のためにぶくぶく茶釜さんも村に残ることとなった。そのため俺とヘロヘロさん、ルプスレギナとビルドの4人でおおみみずの姿が見かけられた噂の場所へ向かう。その途中、暢気に日向ぼっこしていた巨体のオークを見かけた。
俺とルプスレギナは一方的にやられた記憶があり、苦い表情を浮かべていたのだが、ビルドが大木槌片手に突撃して行った。俺とルプスレギナは後方からの援護に勤め、石の剣を2本装備したヘロヘロさんと共に斬って叩いてを繰り返す。そうして、体力が尽きたオークが地面に倒れると同時にビルドは駆け寄り、ごそごそと探すような仕草を見せる。その直後、両手いっぱいのキャベツの種を手にしていたビルド。
どうやら、モンゾーラ島に住む魔物たちの中にはここで栽培されていた作物の種を保有しているものもいるようだ。
道中に見かける枯れ木をビルドがすべて資材にするのを待ち、進んでいくと窪みに魔物たちに囲まれた麦わら帽子を被った大きなミミズがいた。そのミミズがいる周辺の土は泥でも砂でも岩でもない。紛れもない健康な土壌だった。
あの大ミミズがこのモンゾーラ島での活動を左右する存在であることは間違いないと確信した俺たちは大ミミズに気を取られている魔物たちの後方から奇襲をかけた。瞬く間に魔物を殲滅した後、大ミミズとビルドが会話している。そして、村の周辺に大農場を作る途中であることを伝えると快く手伝ってくれることとなった。
「……エントマがいるけど、大丈夫ですかね?」
「現状を理解してくれている……はず。だが……」
「確実に問題発言しそうっすね」
あまり深く考え込まない能天気なビルドと、すでにやる気になっていて俺たちが部下のことでダウナーになっているのを気づかない大ミミズのみみずん。大丈夫かなぁと一先ずの不安を抱きつつ、みみずんを連れて村に帰る。
「大きなみみず……美味しそう。じゅるり……」
「ひぃっ!?」
「「「ああ、やっぱり……」」」
予想した通り、目を爛々と輝かせてみみずんに抱き着こう(捕食しよう)としたエントマをぶくぶく茶釜さんが確保し、説教が開始された。チャコをはじめとした農民たちの反応は、俺たちという前例があったのでみみずんが魔物だから討伐しろという輩はいなかったし、大分マイルドな見た目もあり好意的。ハーゴン教団、改めエイオウジ教団の副総統であるマギールの存在に委縮していたみみずんだったが、空気を読まないことに定評があるビルドの はやくはやくぅ という希望を聞き、カカシの周りの土壌を瞬く間に健康な土壌へと生まれ変わらせた。
そこからの動きは早かった。集めておいた資材を使ってカカシを量産したビルドは次々と汚染され泥となった土壌に突き立てていく。みみずんは馬車馬のように土壌の改善に努め、畑として使えるようになった土壌を耕すために農民たちとナザリックのメイドたちがどこからともなく取り出したクワを使って掘り起こしていく。俺とヘロヘロさんはビルドから渡されたキャベツと小麦の種を植えていく。ルプスレギナは植えられた種に水を振りかける。植えた種が芽吹いた時にはみんなで歓声を上げたものだ。
◇
ビルドが泥だらけになりながら整地していた泥の段々畑。それもみみずんの協力のおかげで健康な土による段々畑に生まれ変わった。その上段部分に鮮やかな緑色の新鮮なキャベツと黄金の実を揺らす小麦が畑いっぱいになった朝。その光景に感動して思わず収穫に走る村人たちとメイドたち。
とは別の動きを見せた集団があった。彼らは、次は何をしようかとモニュメントの中央にある若木のところにいたビルドに押し掛けた。彼らの目的はビルドにお願いすることだった。
ミッション
・キッチンを作って欲しい(メイドA)
・至高の御身がゆっくり休める場所を作って欲しいっす(戦闘メイドR)
・魚を釣りたいです(メイドB)
・メイドたちの居住スペースを作って欲しい(至高41人H)
・ご飯が美味しく食べられる食堂をお願いします(ポンペ)
その筆頭がヘロヘロさんで、依頼者の80%がナザリックの面々だったのだから、俺は何とも言えない表情になった。ちなみに依頼の内容は要略したものであり、ビルド本人に聞かされた本文は村人のポンペ以外、思考停止するほどの長文であった。ほとんどが俺たち至高の41人がどれだけ素晴らしい存在であるのかという賛美と、メイド服の素晴らしさを延々と。
解放されたビルドは背負っている本を取り出して、あーでもないこーでもないと考え、サラサラっと羽ペンを使って設計図を描き上げる。何を作るんだと俺が尋ねるとビルドは まんしょん かな と自信なさげに答えた。
村の南西部分に設計図を敷いたビルドはそのまま土台のブロックを積み重ねていく。収納箱とたき火をいくつか置いたシンプルキッチン、その奥に机や椅子を設置し、木枠の窓を等間隔に作っていく。そこにナザリックのメイドたちのわらベッドを敷き詰めて1階部分を建築。次に階段を積み2階部分を作っていく。そこはわらベッドと机と椅子だけを置き、扉で区切った個室を並べていく。そして3階、仕切りを作って3等分にした2階の部屋よりも少し広めに作られた個室。ビルドが気を利かせてくれたのか分からないがモンゾーラ島で作れる飾りを置けるだけ置いてくれたのだが、丸太とか小麦袋とかこんなにいらない……。
設計図通り出来上がった建物の前に看板を立てようと作成するビルド。そこに文字をこう書いてほしいと言われ、俺が代筆する。その看板を立ててこの「ナザリックハイツ1号棟」は完成した。
「なぁ、ビルド。その本を見せてくれないか?」
からっぽ塔でも尋ねた質問だったが、
ももんがさんの たのみでも やだ
照れるように本を隠すビルド。まだ好感度が足りないようだと諦めた俺だったが、その後も村人やメイドたちの願いを叶えるべく奮闘するビルドについて回った。
削った木の棒にツタを使って作った紐を括りつけた釣り竿を数本用意し、村を出て西の方に行った先にある浜辺に桟橋を作った。ついでに木の壁で作った小さな小屋を建てて収納箱を設置、その箱の中に釣り竿を収納した。ここで本当に魚が釣れるのかと試しにビルドと並んでしてみると小ぶりの魚であるが割と簡単に釣ることが出来た。
食べるには小さ過ぎるため、主菜にするのは難しいが、食卓を彩る副菜くらいにはなるのだろう。桟橋が出来たことに気付いたメイドたち数人と村人たちがやってきて、小屋の収納箱から各々釣り竿を持ってきて思い思いに釣を開始する姿を見届けた俺たちは村に戻った。
ちなみに村人のポンペが頼んでいた食堂はナザリックハイツ一号棟の横にビルドが建てた「農家の平屋」内に作られた。平屋内の台所もナザリックハイツと同じシンプルキッチンだったのだが、俺やヘロヘロさんの部屋にあった小麦袋や丸太などをそこに移動した結果、農家のだいどころとなり、作られる料理にバフ効果がつくようになったので、そのままナザリックハイツのシンプルキッチンにも流用されることとなった。