からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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終わらない戦いの島編 その④

たっちさん率いるジャスティス軍、ウルベルトさん率いるディザスター軍、両軍に属していたギルドメンバーや階層守護者、領域守護者たちをすべて仲間にした旅の剣士モモンとその従者デミは、人間よりも魔物の容姿に近い異形の者たちを優遇することで不信感を募らせたムーンブルク軍の兵士たちの進言を受けた王の命令で城から追い出される……こともなく、城の地下にある居住空間にいた。今日はムーンブルク軍の女将軍であるアネッサがモモンを訪ねて下に降りてきている。

 

「アネッサ、俺が言うのも何なのだが、これだけの異形の者たちが闊歩する中にいて恐ろしくはないのか?」

 

「モモン殿。いや、上にいる時よりも私はここの方が安らぐよ。上は空気がギスギスしているんだ」

 

バーカウンターにいるタブラさんがジョッキにバブル麦汁を注ごうとしたが、アネッサは首を横に振って「職務中だから結構」と呟き、水差しを傾け中に入っている水をコップに注ぐ。俺は人間たちがギスギスしている理由を尋ねようとしたのだが、

 

「アネッサさま!軍議のお時間です!」

 

扉の方でムーンブルク軍の王の近衛兵であるゼセルがアネッサを呼ぶ。アネッサは頷き、コップに注いだ水を飲み干すと俺に一礼して去っていく。アネッサが出て行った後、ゼセルが俺を一目見た後、アネッサの後を追って去っていく。

 

「彼女、モモンさんを見てましたね。ただ、好意が寄せられている訳ではないようですが」

 

「上がギスギスしている理由。タブラさんは何があると思いますか?」

 

「ひとつ、異業種である我々がここに留まり続けていることへの不安。ふたつ、前々から話題に上がっていたスパイの件で疑心暗鬼になっている。みっつ、戦いを終わらせたい者たちと教団の教え通りにこれからも戦い続けたい者の対立ってところでしょうか。情報が少ないのでこれ以上は何とも言えませんが……。うん、上が騒がしいですね?」

 

タブラさんの言葉に俺も天井を見上げる。確かに大勢が走ってきているような地響きが聞こえ振動も伝わってくる。その時、非戦闘要員であるムーンブルク王が地下の居住空間の扉を開け放ち叫ぶ。『AOG教団の襲撃だ』と。

 

俺はグレートソードを背負い、褐色の全身鎧を身に纏うデミウルゴスだけを連れて上がる。そして、すぐに城門に向かった。そこでは大弓を使って攻撃する兵士たちの姿があり、俺はそのまま開け放たれた門を通って戦場に出る。

 

するとそこには大戦槌を振り回し、魔物を文字通り粉砕するビルドと周囲にいる魔物にも容赦なく大きな棍棒を振るう包囲軍の大将トロルの姿があった。

 

ビルドとトロルは完全に目の前の敵にしか集中しておらず、トロルが連れてきたがいこつ剣士のほとんどはどこか欠損している。他にもジャンプ力の高い魔物やメラミを使える魔法部隊もいるのだが、ビルドとトロルが戦場を彷徨いながら戦う所為で城門への攻撃に集中できていない。

 

あっはっはっは そんな ものなの?

 

みためどおり のろまで ばかな まものだね!

 

 

「この豆粒チビがっ!俺様がお前みたいなガキにまけるはずないだろ!!」

 

 

だったら おまえの じまんの そのぶき こわして

 

じめんに はいつくばった ところに

 

はんまー ふりおろして のうしょうを

 

はじけとばして やるよ! おらぁああ!

 

 

トロルと戦っていたビルドから赤黒いオーラが噴き出てくる。瞳は煌々と鮮血のように真っ赤に染まり、野太い雄叫びと犬歯を剥き出しで戦うビルド。俺はそんなビルドの姿に気圧されていた。日に日に俺の知るビルドがいなくなっていっている気がする。

 

オッカムル島でメドーサボールと戦う前はまだ、ビルダーとしてのビルドだった。だが、今のビルドはどうだ?まるで狂戦士のようではないか。

 

ビルドがフルスイングした大戦槌によってトロルの棍棒が粉々に砕け散った。

 

ビルドはそのままその場で一回転するとトロルの左ひざと右ひざをフルスイングし、“消滅”させる。戦場にうつ伏せで倒れ顔面を強打したトロルが、恐る恐る顔を上げるとにんまりと嗤ったビルドが大戦槌を高々に掲げていた。そして、何の躊躇いもなく振り下ろし、戦場にトロルの頭蓋骨と一緒に脳漿が飛び散った。

 

あはは あっはっは あっはっはっはっは

 

 

首から上が無くなったトロルの死体を蹴って踏みつけ、高笑いするビルド。

 

軍を率いていたトロルの敗北は、ムーンブルク城の城門を攻めていた魔物たちを撤退させるきっかけとなった。だが、彼らが撤退しようとする先には自分たちの大将を嗤いながら躊躇いもなく殺した化け物がいる。魔物たちは自分たちの前後にいるムーンブルク軍の兵士と俺たち、そしてビルドを見比べて少し迷った末に俺たちの方へ向かってきた。彼らの戦力では城門は破れないことは分かっているだろうに。

 

ビルドが敷いていたとげワナの上を通って瀕死状態になった、がいこつ剣士を城門の前で構えていた兵士たちが鉄の剣で斬って止めを刺す。

 

ジャンプ力のある魔物が高い城門の壁に阻まれ落ちてくる。地面に叩きつけられ蹲っていたところを兵士たちによって止めを刺される。

 

放物線を描くように魔法を放っていた魔物たちはビルドから逃げるように前線に出てきて、自らとげワナの上に乗りズタボロになっていき、俺たちのいるところに辿り着く前に死んでいった。

 

魔物の屍で死屍累々となった戦場だったか、霧が拡散するようにして魔物たちは消滅していく。残ったのは戦いに勝ったという兵士たちの高揚感ではなく、包囲軍の大将を残虐な方法で殺したのにも関わらず、今も高笑いを続けるビルドに対する恐怖心。

 

「ああ、タブラさん。ムーンブルクの人たちがギスギスしている理由、分かりましたよ。ビルドがヤバイんだ。ビルドの中にあるナニカがビルドをおかしくさせているんだ」

 

そのナニカが悪質なのは、俺たちの力ではどうやってもビルドを救えないということだった。

 

 

 

 

戦いの後、トロルが落とした素材を使って作ったロトのかがり火によって、ムーンブルク城内に降り積もっていた雪がすべて溶けた。雪かきに追われていた住人たちがほっとする中、眉を寄せた厳しい表情を浮かべる王やアネッサ、リックたち。

 

彼らの視線は、次は何を作ろうかと戦場とは打って変わってウキウキしている様子のビルドに向かっている。俺は彼らの視線にビルドが気づく前に、彼の手を握って地下の居住空間へと引き摺って行く。そして、ソファに腰掛け兜を脱いで、がいこつの顔を晒した俺はビルドに語り掛ける。

 

「ビルド、からっぽ島に帰ろう。目的であった仲間集めは、たっちさんやウルベルトさんたちギルドメンバーで十分だ。防衛設備だって、とげワナとディンバリアがあればいい。魔物たちの侵攻を少しでも足止めできれば、島全体をカバーした俺たちが討伐に向かえばいいんだ。だから、もうからっぽ島に帰ろう。ビルド、君が君で無くなる前に」

 

俺の言葉を聞いたビルドはにっこりと笑った。なら、帰り支度をしないといけないなと周囲に目配せをしようと立ち上がろうとした瞬間、ビルドが口を開いた。

 

やだよ これからが おもしろいんじゃないか

 

あいつらは にんげんを なめてるんだよ ももんがさん

 

みくだした あいてに むざんに まけたら

 

あいつら どんな ひょうじょうを するのかな?

 

みた ももんがさん?

 

あの とろる なきそうな かおをうかべてたんだ

 

ぼくに いのちごい しようとしたんだよ

 

こんな おもしろいこと こんなちゅうとはんぱで

 

おわらせる いみが わかんないよ

 

 

ビルドは俺を押しのけて、地下の居住空間から出て行ってしまった。俺は力なくその場のソファに座り込む。そんな俺の姿を見てナーベラルが何かを言っているが、弐式炎雷さんに窘められシュンとしている。俺とビルドの話を聞いていたギルドメンバーたちがそれぞれ動き出す。出て行ったビルドの背中を目で追ったたっちさんがフラットフットさんに声を掛ける。

 

「フラットフット、あの少年の監視を頼む。付き合いの浅い俺たちにはそれくらいしか出来ないだろう」

 

「ああ、分かった」

 

そう言ってフラットフットさんは音も立てずに移動し、ビルドの後を追って出て行った。残された俺は鎧に包まれた両手で頭を抱える。

 

あんなの俺が知るビルドではない、と。

 

ビルドは物作りが得意で、その行為自体が好きな普通の少年なんだ。いくら、ユグドラシルにおいてカルマ値が極悪の異形種の俺たちとはいえ、身体を動かすのは普通の人間の精神なんだ。

 

ビルドの前で悪ふざけすることはあったが、誰かを陥れたり、見殺しにしたり、この手に掛けたりしたことはない。ユグドラシル時代、魔王の軍勢なんて恐れられたアインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターである俺だが、この世界では至極まっとうに生きてきたつもりだ。ビルドや仲間たちと一緒に笑って、泣いて、怒って、酒を飲んで、踊って。あんな、あんな……。

 

「ビルドは、本当は魔物を殺すことを楽しむような子じゃないんだ。俺の所為だ。ビルドが変わり果ててしまったのは、俺の所為だ。俺と出会った所為で、ビルドは……」

 

「そぉいっ!!」

 

「ぐぅえっ!?」

 

ソファに座って自己嫌悪していたら茨の蔓で体を持ち上げられて、頭から落下させられた。上下逆さまになった世界で、そこにいた面々が怒った顔だったり、苦笑いの表情だったり、『そういえば、こうだったな』と言わんばかりに納得したような表情を浮かべていた。

 

「モモンガさん、考えるのは良いことですが、ネガティブに捉えるなって言ってきましたよね?」

 

「これだけ、仲間がいるのに。一言も相談もしてくれないのか、我らが王よ。クックックック」

 

「坊主のことをあまり知らない某たちが言えた口ではないが、もう少し彼を信じてみてもいいんじゃいのか、殿よ」

 

「貴方がビルドくんを助けるためになりふり構わずに行くというのであれば、私たちも力を貸しましょう。快適な空間で食っちゃ寝して過ごすのにも些か飽きましたし。城内に入り込んでいる魔物を駆逐でもしますか?」

 

「タブラさん、やっぱいるよな?気の所為じゃないよな?」

 

「敵の気配に気づいていたのか、音改?」

 

「いや、さすがに!」

 

「……そのことを何で今まで言わない?」

 

「さすがにっ!」

 

「お前らいい加減にしろよ。今はそのネタっぽい会話は好ましくないシリアスな雰囲気だろうが」

 

「「さーせん」」

 

「ぷっ……ははは、あはははは」

 

俺はぷにっと萌えさんの茨の蔓による拘束から解放されて起き上がった後、腹を抱えて笑った。そして、ひとしきり笑った後、立ち上がるとその場にいる面々に向かって頭を下げる。

 

「ビルドはこの世界に来て俺が得た大事な友です。このまま壊れていくビルドを俺は見たくない、だけどそれを防ぐ方法を俺は持っていない。今の状態で出来るのはビルドを戦わせないこと。そのためには皆さんの協力が不可欠です。どうか、力を貸してください」

 

頭を下げてすぐ、後頭部をチョップされる。擦りながら頭を上げるとウルベルトさんがニヤニヤしながら俺を見ていた。

 

「38点。王らしく、命令しておけば格好がつくのに。けど、俺たちのギルドマスターはこうでないとな」

 

ウルベルトさんの言葉に続くようにタッチさんが周囲にいたメンバーに目配せして、すぐに頷く。

 

「城門前の守りは俺とセバス、武人建御雷とコキュートスが受け持とう。指揮はぷにっと萌えさんと死獣天朱雀さんにお願いする」

 

「おい、ぬーぼー。ちょっと、付き合え。坊主からもらったこの杖を使ってどんな魔法が使えるか試したい」

 

「えぇ……。他を当たってと言いたいけど、仕方ないかぁ」

 

何か含み笑いしながら去っていくウルベルトさんを追って、ぬーぼーさんも出て行く。それに続いて、城門前の守備につくことになった面々が出て行き、それに続いて弐式炎雷さんとナーベラルも動く。

 

「じゃあ、ナーベラルは俺とフラットフットの供給係を頼むな。俺たちも腹が減ったら動けなくなるから頼むぜ」

 

「お任せください、弐式炎雷さま。たとえ火の中、水の中、毒沼の中、海の底へだってお持ち致します!」

 

「いや、俺らはどこで待っている想定なんだよ……」

 

どこか抜けているナーベラルの発言にツッコミを入れつつ、弐式炎雷さんもビルドの監視に赴くようだ。部屋に残ったのは音改さんとタブラさんの2人だけ。

 

「じゃあ、俺は城内の見回りかなぁ。油断した人間に化けている魔物にチェックを入れとこ」

 

「音改さん、私の所に連れてきてくれると記憶を読み取れますので。出来れば生け捕りの方向でお願いします」

 

「いや、俺はチェックするだけ。捕縛はバリバリの戦闘職に任せてよ」

 

「貴方もそこそこ戦えますよね?」

 

そんな軽口を言いながら出て行く2人を見送った俺も外に向かうのだった。

 

頼れるギルドメンバーたちに感謝の言葉を心の中で呟きながら。

 




男は黒に染まる。byネコアルク・カオス
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