からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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※キャラ崩壊注意


終わらない戦いの島編 その⑦

ムーンブルク島の各地に散っていたギルドメンバーたちが戻ってきて、各地で起きているおかしなことについての調査が必要だという結論に至ったのだが、その行動を起こす前に大総督アトラスが率いるドラゴン軍団がムーンブルク城に襲い掛かってきた。強健な鱗を持ち、攻撃力や範囲は今までの兵団を凌ぐ。

 

しかし、アネッサの鼓舞でやる気に満ち溢れた兵士たちとアインズ・ウール・ゴウンきってのアタッカーであるたっちさんやウルベルトさん、武人建御雷さんといったギルドメンバーにコキュートスやデミウルゴスといった頼りになるNPCたちがいる俺たちが魔物に劣るはずもなく、何とか城門を破られて城が破壊されるような事態にはならなかった。しかし、

 

「お前たちの強さは認めよう。だが、俺の相手を出来るほどではないな」

 

自分の武器である巨大な棍棒に腰掛けていたアトラスが立ち上がり、棍棒を振り上げる。そして、戦場に思いきり叩きつけた。その衝撃波で城門の至る所に亀裂が入り、戦場にいた兵士たちは風圧で吹き飛ばされて地面に落下し負傷している。

 

たっちさんたちは吹き飛ばされることはなかったが、さすがに大きすぎる相手に後ずさりしている。

 

「つまらん。つまらんぞ!ビルダーが来て、面白い物を作っていると聞いて、久しぶりに血沸き肉躍る戦いが出来ると楽しみにしていたのに。なんだ、結局つまらんではないか」

 

これだけ揃った俺たちを以てしても、手も足も出ない相手に俺たちは拳をぎゅっと握りしめるだけだった。

 

そんな時、戦場にシュタッと降り立つ黒い服を着た女性。背後から見ても分かるプロポーションの良さ。どんな美女なのだろうと鼻の下を伸ばしたムーンブルク軍の兵士たちの期待は、粉々に粉砕される。振り返った女性の顔には皮膚がなかった。悲鳴を上げて城の方へ走っていく兵士たちを他所に俺は彼女に話しかける。

 

「ニグレド、だな?」

 

「はっ。第5階層『氷結牢獄』担当のニグレド、御身の前に」

 

「うん?女、一体何の用だ?お前が相手になるのか?」

 

アトラスが急に現れたニグレドに興味を持って話しかける。

 

「いえ、私は解析魔法が使えるだけのただの女でしかございませんわよ、大総督殿。しかし、ご安心を。大総督殿と正面からの殴り合いの戦いが出来る猛者を用意致しましたわ。つきましては、ここにいる私を含めました矮小なる者どもが戦場から退避するのをお見逃し頂けませんでしょうか?」

 

「ほう。この俺と正面から殴り合いが出来る猛者とな。面白い、面白いぞ、女!いくらでも待とう!お前たちのような小さい者を踏みつぶしたところで何の勲章にもなりもしないからな!」

 

 

 

「ぐぅおぉぉ……完全にあいつの眼中に入ってなかった訳かよ、俺たち」

 

「仕方あるまい。持つ者と持たざる者の差だ。ユグドラシル時代のステータスと装備があれば、問題なかっただろうが」

 

ウルベルトさんとたっちさんが会話する姿を見ながらニグレドの案内で城の東南にある丘へと向かうと、そこには何故か観客席が用意されていた。案内されてきた全員の目が点になる中、ニグレドが手招きするので俺は用意された席へと腰掛ける。

 

それを見たギルドメンバーの面々が用意された席に腰掛けるとナーベラルに冷たいジョッキに注がれたバブル麦汁とじゃがいもを薄切りにして油で揚げたフライドポテトが器に入れられた状態で手渡される。他の面々を見ればデミウルゴスやコキュートスが給仕をしていた。

 

「ニグレド、これはどういうことなんだい?」

 

「あら、お父さま。“1年と数か月ぶり”ですね」

 

「ぐっふぅっ!?」

 

タブラさんが娘の1人であるニグレドの鋭い口撃を受け、背筋をピンと伸ばして胸の辺りを両手で押さえて蹲る。そんなタブラさんの姿を見て、ギルメンたちがオロオロする間もニグレドは言葉を続けている。

 

「お父さまがナザリック地下大墳墓に来られなくなって、私たち姉妹はとても、と・て・も!寂しい思いをしておりました。可愛い妹のアルベドはモモンガさまへの愛を募らせ続けることで耐え、私は子供たちへの愛を募らせるしかない日々。ナザリック地下大墳墓が崩壊し、異世界へと放り出され途方に暮れていましたが、こうやって私の“天使”に出会わせて下さったモモンガさまには感謝しかございません。……が、お父さまはもう、『いっそのこと死ね』って感じですわ」

 

「…………」

 

タブラさんは椅子にもたれ掛かったまま、白目を剥いて気絶している。愛娘の1人にこんなことを言われた日には死にたくなるのも当然かもしれない。近くに座っていたぬーぼーさんと死獣天朱雀さんが揺するが反応がなく、音改さんが名言を呟く。

 

「返事がない。ただの屍のようだ」

 

「ひ、ひでぇ。こんなことを言われるのかよ、メンタル弱いと死ぬぞ」

 

「そういえば、からっぽ島にはすでにエントマがいるんですけど?」

 

観客席の端の席で我関せずと座っていた源次郎さんがビタリと固まる。源次郎さんも結構、早くに引退しているのでそのネタでエントマに攻撃されると下手すれば永眠する可能性もある。そんなやり取りをしていたその時、アトラスの目が俺たちを捉える。

 

「おい、女!俺の相手はまだ来ないのか!待ちくたびれたぞぉっ!……別にお前たちで暇を潰しても良いのだが?」

 

そう言ってアトラスは棍棒を両手で持ってゆったりとした速さで素振りする。風がびゅうびゅう吹いて、観客席がガタガタ揺れるがニグレドは余裕のある佇まいを崩さない。何故、そこまで自信が持てるのかを尋ねようとした俺たちだったが、辺りが暗くなったので思わず上を見上げ、巨大な物体が落ちてきていることに気付いた。それはまっすぐ、ここに向かって落ちてくる。

 

「至高の御方々、シートベルトをお締めください。揺れます」

 

「「「はぁっ!?」」」

 

戦場に巨大な物体が落ちた。その衝撃はアトラスの棍棒が戦場に叩きつけられた時の衝撃の比ではなく、観客席に座っていた俺たちが飛び上がって体同士がぶつかり合い、バブル麦汁とフライドポテトが宙を舞った。

 

気づいた時には全身がバブル麦汁でビショビショかつ頭の上にフライドポテトが乗っているという訳の分からない状態になっていた。なんとか観客席に座りなおした俺が見たのは、アトラスに負けず劣らずの巨人の姿。城の壁で作った堅牢な鎧を身に纏い、右拳は焔に包まれ、左拳は巨大な氷山のよう。背面には何らかのバックパックを背負っている。俺はその巨人を指さしながら、身なりを整えるニグレドに尋ねる。

 

「あれは、……なんだ?」

 

「ナザリック地下大墳墓第4階層守護者ガルガンチュア改め、『超スーパーガルガンチュア・ビルドスペシャル』ですわ」

 

しれっと答えるニグレドの答えを聞いて、跳び起きたギルドメンバーたちが目を凝らす。そして、俺たちが得ていたおかしなことが、ガルガンチュアの改造に繋がっていることに気付いた。

 

「右腕の赤い奴、全部がギラタイルか!?どんだけ、魔力の結晶を使ったんだ!!」

 

「じゃあ、左腕のあれは、ヒャドトラップ!?何をしたんだ、彼!!」

 

「状況的にバックパックはバギバキューム?いやな予感しかしねぇ」

 

「何よりも、ガルガンチュアの大きさが2割増しだよっ!ビルドくん、魔改造し過ぎだろぉっ!?」

 

暴走機関車と化したビルドを完全に放っておくとこうなるのか、と俺は遠い目をしながら頭の上に乗っていたフライドポテトを食べる。バブル麦汁でしんなりとしてしまっていたが、普通に美味い。見れば、アトラスも自分と同じ大きさのガルガンチュアを見て、獰猛な笑みを浮かべている。

 

「いいなぁ!いいぞぉっ!久しぶりに燃える戦いになりそうだっ!」

 

そう言って、アトラスは棍棒を投げ捨てて、ガルガンチュアに向かって走った。俺は大人しくシートベルトを締める。あんな巨体が走ったり、跳んだりすれば、俺たちみたいなちっぽけな存在は飛んでしまうわ!

 

アトラスは大きく右腕を振りかぶり、ガルガンチュアに殴りかかる。それに対するガルガンチュアの対応は左拳を一瞬で引き絞り、弾丸のように拳を回転させながら撃ち放つコークスクリューの如き左ストレートだった。

 

アトラスの拳とガルガンチュアの拳がぶつかり合い、どちらも弾かれた。しかし、アトラスの右拳は皮が剥がれ所によっては肉や骨が剥き出しになり、夥しい量の血が流れ出ている。

 

「当然だ。ガルガンチュアの左拳は絶対零度の氷を纏っているようなものだ。あんなものを叩きつけられたら当たったところは瞬時に凍り、無理やり引き剥がされたら、ああもなる」

 

武人建御雷さんの解説を聞きつつ、戦場を見ると今度はガルガンチュアが見た目とは裏腹な軽やかなステップを刻み、燃え盛る焔を纏った右腕を使って小刻みなジャブをアトラスに向かって繰り出していた。

 

腕を使ってガードするアトラスだが、その表情は苦渋に満ちている。当たり前だ。ガルガンチュアの右腕はビルドが出城でも使用した無限ギラタイルトラップのように焔が途切れることはない。攻撃が当たる度に肉の焼ける音と臭いが充満する。

 

「っていうか、ガルガンチュアってあんな細かい動きも出来たんだ。すげぇな」

 

「いえ、勿論ですが、ガルガンチュアの中にはビルドくんが搭乗しており、操作をしているのも彼ですわ」

 

「だろうな」

 

俺はニグレドの説明に即答した。ビルドはオッカムル島の守護神であったゴルドンをして、『ゴーレムの扱い方がテクニシャン』と称される程だった。それを考えれば、このガルガンチュアの動きも頷ける。頷けるが、納得いかねぇ!

 

「ぐ、ぐぅぉおおおおおっ!」

 

アトラスは一旦、ガルガンチュアから距離を取り、棍棒を拾い上げる。素手での戦いには己に負があるとの判断だろう。対して、ガルガンチュアは腰を大きく捻り、右拳を振りかぶる。すると観客席に座っていたギルドメンバーの数人が頭を抱えながら叫んだ。

 

「「「お前、浪漫がありすぎだろっ!俺たちのガルガンチュアに、何してくれたんだ!てめぇえええええ!!」」」

 

彼らが叫ぶと同時にガルガンチュアは大きく右腕を前方に向かって放つ。焔を纏ったガルガンチュアの右拳はその勢いのまま、アトラスに向かって飛んでいく。所謂ロケットパンチという奴だ。ビルドは、どうやってかは知らないがそれを再現したらしい。

 

アトラスは前面に構えた棍棒ごとガルガンチュアの右拳に吹き飛ばされ、戦場に仰向けで倒れ込んだ。ロケットパンチとして射出され戦場に転がった右拳はどうするのかと思ったら、その右拳はいきなり浮かび上がり上空へと飛んでいった。そして右肘から先が無くなったガルガンチュアの所に落下してきて、いとも容易くドッキングした。

 

アトラスはボロボロになった姿で笑っていた。その笑みは清々しく、自身の力を以ってしても勝てない相手の出現に喜んでいるようだった。だが、そんな勝負も終わりが近づいている。アトラスは防御を一切考えていないように男らしく棍棒を上段に構えた。この戦いの果てに己の死が待っていようが構わないという覚悟が垣間見えた。

 

対するガルガンチュアも胸の辺りから煌々と輝く光が漏れ出ている。勝負は一瞬だ、と観客席に座っている俺たちも否応なく引き付けられる。

 

「うぅおおおぉおおおおお!」

 

アトラスが必殺の一撃を叩き込むために戦場を駆ける。対するガルガンチュアは動かない。そして振り下ろされるアトラスの棍棒がガルガンチュアの左肩に直撃した。ボロボロと崩れ落ちる城の壁で作られた鎧。だが、ガルガンチュアはその攻撃に耐えた上でアトラスを逃がさないと言わんばかりに両腕で両肩を掴んだ。

 

そして、俺の耳に久しく聞いていないビルドの声が聞こえた気がした。

 

ちょう すーぱー がるがんちゅあ びるど すぺしゃる みなでぃんほう ふぁいやー!

 

 

ガルガンチュアとアトラスの間でピンク色の光が煌々と輝く。

 

アトラスの絶叫がムーンブルク島全域に響き渡る。

 

俺たちが固唾を飲んで見守っているとアトラスの背中が内面からボコボコと膨れ上がり、破けたと思ったら桃色の極太光線が彼方に飛んでいった。そして、遥か彼方で大爆発が起きる。

 

腹部が完全に消滅したアトラスの下半身がその場に崩れ落ち、上半身を持っていたガルガンチュアがその近くそっと置いた。見ればガルガンチュアの胸部装甲がなくなり、剥き出しになった場所には何かの砲門が覗いていた。その奥には煌々とした光を放つ3つの結晶体がある。

 

『グゥオオオオオンッ!!』

 

決めポーズを決めたガルガンチュアが口の部分を開け放ちつつ、勝利の雄叫びを上げたのだった。

 

 

 

「あれ、ガルガンチュアって自分の意思を持たない存在じゃなかったっけ?」

 

「多分、この世界に来て存在が変換されたのでしょう。そして、交友を持ったビルドくんに染められた、と」

 

「え?あの巨体でビルド化されるとどうにもならなくなるんですが……」

 

「そうなったら、モモンガさん。貴方の出番ですよ。こういう時のギルドマスターでしょ?」

 

「……いくら何でも、荷が重すぎるでしょ、それぇえええええええ!!」

 

俺の叫びは、ムーンブルク島を支配していたアトラスの消滅に沸く、ムーンブルクの者たちの活気沸く声に掻き消されるのだった。


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