【時すでにお寿司】
ビルドの悪戯で一時的に人間の姿になった面々だったが大体1時間くらいでその効果は消えた。その間にトイレを巡って、己の尊厳を守るために血を血で洗う戦いになりかけたが、それも良い思い出となった頃、モモンガはある点に気づいて思わず叫んだ。
「しまった、ビルドに謀られたーっ!」
「どういうことだ、モモンガさん?」
山羊頭の悪魔に戻り、櫛で毛並みを整えていたウルベルトが声を掛ける。モモンガが周りを見れば、ギルドメンバーだけでなくナーベラルやセバスといった面々の視線も集まっていた。モモンガは逃げ場のない船上ということもあり、思い切って持論を話す。
「ビルドは大体3日あれば、ムーンブルク島くらいの広さであれば探索し終えます。ビルドがニグレドとオーレオール・オメガに拉致されて、俺たちのところから離れていた期間は約1週間。それだけの時間があれば、ビルドは島の探索はすべて終わっていると考えるのが自然です。先日戦ったドラゴンは俺たちの目を欺くためにわざと残してたんでしょう。何故、そんな真似をしたのか。答えは魔改造されたガルガンチュアにある」
モモンガは骨に戻った左手を顎に当てつつ言葉を紡ぐ。モモンガの持論を聞きつつ、ビルドが何故そんな真似をしなければならないのか理由が分からない面々は大人しく聞いている。
「ぬーぼーさんに調査してもらったところ、ガルガンチュアは背中のバックパックを使って海を45ノットの速さで移動できる。これはこの船で3日掛かるところを5時間で移動できる計算です。魔改造されたガルガンチュアの戦闘能力を知る俺たちはその報告を聞いて、からっぽ島に到着次第ガルガンチュアを封印するつもりでした。恐らく、その話をビルドはどこからか得たんでしょう。そこでビルドは一芝居打った。つまり、ムーンブルク島からからっぽ島に向かう72時間という船の旅に俺たちを縛り付けている間に、自分たちはさっさとガルガンチュアでからっぽ島に向かい、ガルガンチュアを自由にできる残り68時間をめいっぱい使うつもりでしょう」
「いや、待て。ガルガンチュアを封印する話はちゃんと武人建御雷やぬーぼーたちも承知している。そういうことにはなら……そのためのオーレオール・オメガかっ!?」
「まとめてオクルーラされたら手も足もでないなぁ」
一本取られたぜとケラケラ笑うウルベルトに、右手で額を押さえて悶絶するたっち・みー。モモンガの持論を聞き終わった面々が呆れたように乾いた声を漏らす中、弐式炎雷とフラットフットのコンビが声を上げる。
「そもそも、からっぽ島にはギルメンの他にメイドたちや階層守護者たちもいるんだろ?帰ってきた面々を見たら、歓迎ムード待ったなしだ。そんな連中を置いて、自由奔放を形にしたようなビルドとガルガンチュアを追いかけられる奴があの中にいるとは思えないぞ」
「それで機動力のある俺たちも船に乗せられたのか。ビルドくんは、一体どこからそんな計算していたんだか……」
モモンガたちは議論を重ねたが、そもそもすでに船上にいる時点でビルドの策にまんまと引っ掛かった後だ。今からムーンブルク島に帰ったところで、ガルガンチュアで発った後だろう。
ビルドを叱る役目はアインズ・ウール・ゴウンで怒らせると最も怖いと称されるたっち・みーが受け持つこととなった。それを聞いていた山羊頭の悪魔はニヤリと笑うのだった。
【見送った直後】
船着き場で人間の姿に戻ったモモンガたちを乗せた船が沖に向かって進んでいくのを見送った後、ビルドを中心に一箇所に固まったナザリック勢。その中でギルドの中で最年長のバードマンである死獣天朱雀が鏡を袋に入れるビルドを見ながら声を掛ける。
「坊や、その鏡は儂らに向けんでくれよ。この老骨にはムーンブルク島の寒さはかなり堪えるからのう」
うん? なにを いっているの
ぼくたちも からっぽじまに いくんだよ
おめがおねえちゃん おねがい
「はいはーい。オクルーラっと」
まるで打ち合わせ通りだと言わんばかりにビルドに言葉に従って転移を実行する巫女服を着たオーレオール・オメガ。彼女がすっと左手を掲げた瞬間、その場にいた面々が魔法発動者であるオーレオール・オメガを除いた全員が海上のガルガンチュアの上へと降り立つことになった。当然、オーレオール・オメガもビルドを目標にすぐ飛んでくる。この一連の流れを見て、これから何が起こるのかを一瞬で察した面々はビルドに促されるまま、ガルガンチュアの内部へと足を踏み入れる。
操縦席っぽい空間にはガルガンチュアの本体が鎮座しており、ビルドがガルガンチュアを囲むように作られた台座に四面体の水晶のようなものを置くと、台座から外装全体にエネルギーが供給されて魔改造ガルガンチュアが起動した。
ガルガンチュアの本体の肩にビルドが飛び乗ると、ガルガンチュアが海を切り裂きながら歩き始め、ある程度の速度に達すると同時に潜水し始める。バックパックのバギバキュームが勢いよく回転し、凄まじい推進力を得る。
「到着予定までの5時間。あとはお好きにお過ごしくださいませ、至高の御身の方々」
「マッサージ部屋やお風呂、ベッドルームやバーも完備しております」
ニグレドとオーレオール・オメガが客室乗務員的なことを言うと、ぬーぼーと音改はその場に座り込む。
「うーわー、これ。完全に全員が騙されたよ」
「つまり、あの2体のドラゴンはブラフだったという訳か。誰の発案だって、ナザリック地下大墳墓における出来のいい頭脳を持つデミウルゴスとパンドラズ・アクターがいるんだもん。このくらいは簡単かー」
「恐縮でございます。至高の方々を謀った罪。このデミウルゴス、粛々と受ける所存でございます」
デミウルゴスが恭しく礼をすると同時にパンドラは変身の腕輪を用いて、人間の姿のモモンガへと変身する。
「これがぁ!お父上の、リアルのぉお姿。感無量、ですっ!道具を用いた変身は強い衝撃を受けると解けてしまいますが、ビルドくんの持つラーの鏡はその者のありのままの心を映すオーパーツ!ユグドラシルのワールドアイテムにも匹敵する代物!肉体がちゃんと存在し、食べたものがちゃんと栄養に変わる。お父上の頬がこけ弱弱しいお姿も麗しいですが、やはり血の通った血色の良い肌のお父上の尊顔を是非とも拝見したいですねぇ」
パンドラの化けたモモンガのリアルの姿が白い煙に包まれ、元のドッペルゲンガーの姿に戻る。それを見ていた死獣天朱雀がデミウルゴスを見ながら尋ねる。
「デミウルゴス、先ほどの罪の罰だ。リアルが人間である我々を見ての感想を正直に述べよ。軽蔑するか?」
「この世界がユグドラシルのままであれば是とお答えしたかと。しかし、私はビルドくんを見て、考えが変わりました。脆弱で愚かな種族であろうと、強き者や賢き者は存在し、異形種でも愚かな者は存在するのだと。変身したモモンガ様やウルベルト様を見ての感想ですが、お世継ぎの問題はなさそうだなと考えております」
「坊や!儂には絶対にラーの鏡とやらは向けるんじゃないぞっ!儂には先に逝った嫁がいるんじゃ。儂のような研究にしか興味の無かった馬鹿者を好いてくれた大事な女なんじゃ。お世継ぎは独身の連中を中心に見繕ってくれい」
しっとますく ってきいて はんのうしたひと?
「そうじゃな。……というか、何故それを知っておる?」
「わたしぃがっ!教えました」
ビシッと敬礼しながらパンドラが告げる。
死獣天朱雀と武人建御雷は嫉妬マスクと聞いて反応したぬーぼーと音改を横目にデミウルゴスといいパンドラといい、ナザリック地下大墳墓でも有能なNPCを味方につけるビルドに戦々恐々する。ニグレドは性癖上で仕方がないとはいえ、戦闘メイドのプレイアデスのリーダーであるオーレオール・オメガすらもビルドの味方であることに、純粋に『やべぇな』と思った。
が、当の本人は三度の飯より建築が好きな少年である。そこまで害はないかと、考えることを放棄した。
「暇つぶしにカードゲームでもやるかのう」
「では、バーへ向かいましょう。ぬーぼーさまと音改さまはいかがされますか?」
「うん。俺たちも行こうかな。お酒もあるのかな?」
死獣天朱雀の言葉を聞いて、デミウルゴスが先導の役目を負う。
パンドラはコキュートスと恐怖公と会話し、2人を連れ立ってどこかへ向かっていく。どうやら、風呂の天井がガラス張りで疑似海底露天風呂となっているらしく、彼らはそこへ行くようだ。それも面白そうだと武人建御雷は彼らと共に風呂に向かうことにした。そうやって思い思いの時を過ごし、まったりとした時間が過ぎていった。
そして―
マッサージ部屋にてコキュートスによる冷感マッサージを受けていた武人建御雷はニグレドの声掛けでバーへと向かう。そこには思い思いのリラックス方法でまったりとした面々が揃っていた。
食事の時間かと思って、やってきた武人建御雷とコキュートスは首を傾げる。そして、バーの天井に大きな穴が開いていて、雲一つない青空が覗いていることに、嫌な予感がした。
視線を下にずらすと、そこにはにこやかな笑みを浮かべるオーレオール・オメガの姿があり、彼女が左手を掲げる動作をするのを見て『あっ、しくじった』とそこにいたギルドメンバーの全員が思った。
突然の浮遊感。そして、着地。
気づけば、緑が溢れる場所に立っていて、自分たちの姿を見て畑仕事をしていたメイドたちが一斉に泣きだし、その泣き声を聞いて現れるヘロヘロやぶくぶく茶釜といった旧知のギルドメンバーたちの姿に顔を綻ばせる。
「なるほどのぅ。これじゃあ、坊やを探しに行くことは不可能じゃなぁ」
「げ、確かに」
「けど、デミウルゴスやパンドラたち、ニグレドやオーレオール・オメガもちゃんといるぜ?」
「肝心のビルドくんとガルガンチュアがいない時点で、目的は最初から訪れる度に復活するというオカルト的なシステムを積んだ素材島での素材回収だったってことだよ。アトラスの棍棒でごっそり得られるんだ。効率は半端ないよ」
「モモンガさんたちが到着するまで、めいっぱいやるつもりってことか。やっぱり、ガルガンチュアの封印は待ったなしだよなぁ」
そんなことを先にからっぽ島の住人となったメンバーやNPCに囲まれながら死獣天朱雀や武人建御雷たちは思うのだった。
【粉砕玉砕大喝采】
あはははは
『うごごごっ』
どかーん ばきーん ぐしゃー
うはははは
『でゅでゅあっ!』
どごーん ばかーん どしゃー
ふはははは
『うごっうごっ!』
どばーん ばこーん ばしゃー
がるがーん
『でゅあっっ!』
ズバババ ドバババ バリバリバリ ドドーンッ!!
その日、各地の素材島に巨神が現れ、まるで何者かが神の怒りに触れたように尽く破壊しつくす姿が見られた。それが素材回収という文字に憑りつかれたビルダーの駆る巨大なゴーレムであったことを知る者はいないのだった。
『ビルドとガルガンチュアは あらゆる素材を×999個 手に入れた』
誤字脱字修正ありがとうございます。
皆様のご協力に感謝いたします。