からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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青の開拓地編 その②

【一夜城】

 

創造主であるぶくぶく茶釜と姉のアウラと共に緑の開拓地に建てられた木組みのロッジの家で暮らしているマーレは、ベルリバーの監修の下で『ヘロヘロ殺人事件』というタイトルの推理サスペンス小説の改稿作業を机の上に置かれたランタンの灯の下で夜遅くまでしていた。

 

寝る前に水を飲もうと1階の台所に向かった際、窓の外から『トンテンカン』という音と共に『メェ~』という動物の可愛らしい鳴き声を聞き、クスリと笑ったマーレはそのまま自分の部屋に向かい、ふかふかなベッドに潜り込んだ。

 

その時に、外の確認をしておけば良かったとマーレが思ったのは、ぶくぶく茶釜の叫び声で起きた瞬間のことだった。

 

「なにこれかわいいーっ!?……というか、何でメロン畑と羊小屋?」

 

ぶくぶく茶釜の声で起きたマーレは可愛いパジャマを着た姉のアウラと共に1階に降りる。そして、窓の外の庭にいるぶくぶく茶釜のところへ行くと、昨日の夕方まで確実に空き地だったところに庭付きのモダンハウスの家が建っていた。その庭にはぶくぶく茶釜の言う通り、丸々としたメロンが生っているメロン畑と、もこもこの柔らかそうな毛が生えた羊が一頭おり牧草をもしゃもしゃと食べている。

 

ぶくぶく茶釜は庭先から誰の家なのかを確認しようとしたが、窓が高い位置にあるために早々と諦めて、玄関の方へ回るようだったのでアウラとマーレもそれについていく。すると、その家の前には頭の先から足先まで真っ黒の衣服を着たニグレドが立っていた。

 

「おはよう!ここって、もしかしてニグレドの家なの?」

 

「おはようございます、ぶくぶく茶釜さま。正確にはお父さまと姉妹全員の家ですわ。ビルドくんが建ててくれたようなのですが、末っ子のルベドがメロンを抱えてどこかへ行ってしまっていて困っていたところですわ」

 

顔の皮膚がないので分かりにくいがニグレドは苦笑いを浮かべているようだった。ぶくぶく茶釜はルベドの名を聞いて、先日の襲撃事件のことを思い出して震えたが、“メロンを抱えていなくなった”というワードを聞いて、何度か頭を振った後にニグレドに尋ねる。

 

「えっと、ニグレド?」

 

「はい。なんでございましょうか?」

 

「メロンを抱えていなくなったって、ルベドが?」

 

「はい。ユグドラシルの時の様なナザリックに厄災を齎しかねないスピネルだと思ってきましたけれど、この島でビルドくんの“儀式”を経て可愛らしく変貌を遂げ、この家で会ったルベドは私の妹であるアルベドに負けず劣らずの可愛らしいもう一人の妹になっていましたわ」

 

「「「儀式かぁ」」」

 

思わずモンゾーラ島でのことを思い返したぶくぶく茶釜とアウラとマーレは一斉にため息を吐いた。必要な処置であったことは認める。だが、だからといって許容した訳ではない。

 

それに島での問題を解決していく上で、ビルドが背負うハンマーはどんどん進化していった。恐らく、ムーンブルク島で更なる進化を経て帰ってくるのだろう。

 

「って、ちょっと待って!ビルドくんも帰ってきているの?」

 

「はい。モンゾーラ島でAOG教団に潜入していたご高齢の男性より変身の杖を譲り受けていますので、この島にいる誰かに化けて活動しているかと思われます。見つけ出すのは困難かと思われますが、緊急の要件がありましたらオーレオール・オメガにおっしゃってください。そうすれば、本人の下に魔法で送り届けてくれますわ」

 

ニグレドはそう言って微笑んだように見えた。ぶくぶく茶釜はとりあえず、朝ごはんを済ませようとアウラとマーレに告げ、木組みのロッジの家に一旦戻る。そして、収納箱からパンと目玉焼き、牛乳とかぼちゃのスープを取り出して3人で朝食を摂った後、オーレオール・オメガを探しに外に出た。

 

情報を集めるには人が多くいるところとナザリックハイツ本館へと向かう途中、いつも通り農作業に精を出すバルバ・トスアタックの姿が畑にあった。彼はクワで畑を耕す手を止めて、3人を見て首を傾げつつ挨拶してきた。

 

「あれ?おはようっす、茶釜ねーさん」

 

「うん、おはよう。バルバ君、どうかした?」

 

「いや、さっきもアウラとマーレの姉弟の姿を見掛けたんだけど、気のせいだったかなーと」

 

「その2人はどっちに行った?」

 

「赤の開拓地の方に向かうトロッコ乗り場に向かったと思うっす」

 

「ありがと!2人とも行くよ」

 

「「はーい」」

 

バルバに見送られた3人は急いで赤の開拓地に向かうのだった。

 

 

 

【到着】

 

3日の航路を終えてからっぽ島に帰ってきた俺たちを船着き場で迎え入れてくれたのは、アウラとマーレの姉妹だった。

 

「おかえりなさい ももんがさま」

 

「……」

 

ほにゃっとした満面の笑みを浮かべて、言葉を掛けてくれたアウラと恥ずかしがっているマーレの姿にほっこりしつつ、皆がどこにいるのかを尋ねると、『みどりの かいたくちに いる』ということで増設されたトロッコに乗るように促された。赤の開拓地を経由して緑の開拓地に行けるようだ。俺は人数分のトロッコを駅近くに備え付けられている収納箱から取り出すと、それに乗って緑の開拓地に向かった。

 

すると赤の開拓地の駅でぶくぶく茶釜さんというアウラとマーレに遭遇する。

 

「モモちゃん、おかえりーっ!それに、すっごーい!アインズ・ウール・ゴウンの錚々たるメンバーじゃん!」

 

「「おかえりなさいませ、モモンガ様。ウルベルト・アレイン・オードル様、たっち・みー様、源次郎様、弐式炎雷様、フラットフット様、タブラ・スマラグディナ様」」

 

「おお、ありがとう。つーか、茶釜さんだって、そのメンバーの1人だろ?」

 

「え……でも何で、アウラとマーレがこっちにもいるんだ?」

 

俺の言葉を聞いてぶくぶく茶釜さんが詰め寄ってきた。俺は思わず弁明の言葉を告げようとしたのだが、ぶくぶく茶釜さんが先に口を開いた。

 

「それアウラとマーレの偽物だよ!ビルドくんが変身の杖を使って、私たちに隠れて何かをやっているんだよ!聞いてよ、モモちゃん。一夜にして、私の家の隣にいきなり現代建築のモダンハウスが建ってたんだよ!家主はタブラさんと三姉妹が住むっていうしさ」

 

「えー……。当人がいない間に家も建っちゃうんですか?というか三姉妹?」

 

タブラさんの疑問は尤もだと思う。アルベドは未だに居場所が分からず、ルベドはまだこの世界に適合した肉体を持っていないため、赤の開拓地にあるビルドの隠れ家の奥にて封印されているはずだ。

 

そう思っていると俺たちの視界に赤いドレスを身に纏い、胸に丸々としたメロンを抱え、背中の機械の羽で浮遊しながらピラミッドの上を移動していくルベドの姿が見えた。俺たちは思わず叫ぶ。

 

「「何故、メロンっ!?」」

 

「そうそう、タブラさんの家には庭があるんだけれど、そこにはメロン畑と羊小屋があるんだよ」

 

「何だ、その組み合わせ!?」

 

「ニグレドの話だと、ルベドはすでにムーンブルク島でビルドくんが拾ってきた世界樹の葉で儀式済みなんだって」

 

「ああーっ!!何もかもが後手後手に回っているーっ!ぶくぶく茶釜さん、ガルガンチュアはどこにありますか?」

 

「ガルガンチュア?……ちょっと待って、モモちゃん。ムーンブルク島で何があったの?」

 

「そこも伝わってないんですか!?」

 

俺は早急に全員を集めて情報を共有する必要があることを察知し、島内にいる全員を集めるようにそこにいた面々に告げたのだった。

 

 

 

【ビルド捕獲令】

 

俺の号令で集まったギルドメンバーたちや階層守護者、領域守護者たち。戦闘メイドのプレイアデスの七姉妹にペストーニャ率いる一般メイドたちとモンゾーラ島出身の住人、オッカムル島出身の住人、そしてムーンブルク島からきたアネッサの全員が赤の開拓地にあるピラミッド前に集まった。

 

アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバー41人のうちの18人が揃っている現状に俺は思わず感動して言葉が詰まりそうになったが、咳払いをひとつしてムーンブルク島での一連のことを説明した。特に魔改造されたガルガンチュアはやばいことを強調して。

 

「現在、ビルドとガルガンチュアの本体は変身の杖と呼ばれる道具を使って、誰かになりすまし何らかの活動をしている。皆も目撃しているだろう、ルベドの適合化がいい例だ。他にも家を建てたり、トロッコを増設したりしている。見つけ出して捕えろ、そして俺たちの前に引き摺りだせ。いくら何でもここ最近のビルドの活動は目に余る!ここでビシッと、たっちさんに説教をしてもらう予定だ!皆の奮闘に期待する以上だ!」

 

「ちなみに、いの一番にビルドくんを捕えた者には褒章を出す。俺たちに出来ることであれば、何でもしてやろう」

 

ウルベルトさんがクツクツと笑いながら言うと目の色を変えて走り出す一般メイドたちと階層守護者たち。索敵系に優れた弐式炎雷さんやフラットフットさんも動く。俺はこういった捕り物を得意とするたっちさんに意見を求める。

 

「では、たっち本部長。どう攻めましょうか?」

 

「まずはオーレオール・オメガの身柄を確保しましょう。あわよくば彼女の転移魔法を使って、ビルドくんの下に飛べれば御の字ですが、恐らく対策はされているかと思われます」

 

「ちょうどいい、あそこに七姉妹全員いるから呼ぼうぜ」

 

ウルベルトさんがそう言ってプレイアデスを全員呼び出した。規律の取れた動きで俺たちの前に整列した七姉妹。彼女たちは一斉に跪いて、口上を述べようとしたのだが、ウルベルトに止められた。

 

「ちょっと待った。普段の忠誠心マックスの口上は聞き飽きた。このビルド捕獲令が終了するまでお前たちは全員、俺たちに対して砕けた感じで接することを命ずる。敬語を使ったら、罰ゲームな」

 

口元を真一文字にして青ざめた表情になる七姉妹の長女であるユリ・アルファ。それ以外はケロッとしている辺り、彼女たちは総じて図太いのかもしれない。ウルベルトさんは『じゃあ』と言って、末妹にして七姉妹のリーダーであるオーレオール・オメガを指名した。

 

オーレオール・オメガはその場でクルリと巫女服を見せつけるように回って、舌をペロッと出しつつ目元でピースしながら言い放つ。

 

「オーレオール・オメガ、御身の前に登場です✨(きらっ)」

 

次はエントマである。彼女はその場にぐてーっとうつ伏せになりながら告げる。

 

「エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。御身の前に、ですわー」

 

金髪でくるくるふわふわの髪型のドSメイドことソリュシャンは、艶やかなボディを見せつけるように立ちつつ告げる。

 

「ソリュシャン・イプシロン。すでに御身の前におりますわ」

 

次は迷彩柄のメイド服が一際目立つ、シズの番だが姿が見えない。すると、地面の砂がぼこりと浮き上がり、無機質な視線が向けられてくる。

 

「シズ・デルタ。……いる」

 

黒髪が砂漠に生えるナーベラルはどこからか持ってきたか分からないが椅子と机を持ち出して紅茶を飲みながら呟く。

 

「ナーベラル・ガンマ。御身の前に」

 

「ルプスレギナ・ベータっす。御身の前にいるっすよー!」

 

手足をぶんぶん振り回し元気娘っぽい口上をのべるルプスレギナ。

 

そして、オオトリとなったユリは目を眼鏡の奥でグルグル回しながら立ち上がると、突然首もとのチョーカーを外して右手で頭を掴むと俺に向かって全力投球してきた。両手でがっちりと頭を掴んだ俺の腕の中で、

 

「ユリ・アルファ。御身の前にぃいいいいっ!!」

 

大分テンパったユリが口上を叫んだ。

 

主犯格のウルベルトさんは腹を抱えて爆笑しているが、俺とたっちさんがは笑えなかった。何せ、ビルドを探しに行ったはずのやまいこさんがダッシュで戻ってきている姿を視認してしまったから。俺は咄嗟にウルベルトさんにユリの頭をパスして、その場から全力で逃げる。

 

だがしかし、

 

「バシルーラ」

 

オーレオール・オメガの声が聞こえたと思ったら、目の前にやまいこさんの全力のアッパーカットが迫っていて、先に攻撃を食らって空を飛んでいたウルベルトさんに続いて俺とたっちさんも空を飛んだのだった。

 

砂漠に落下した俺たちを助けてくれたのはルプスレギナだったが、彼女は笑って告げる。

 

「大変っすね、モモンガさまもたっち・みーさまも。うししし、羽目を外し過ぎるとまた鉄拳を食らうことになるっすよ。ウルベルトさまのように」

 

ルプスレギナの視線を追うとウルベルトさんは首から下を砂漠に埋められて、やまいこさんから水攻めされていた。地面が砂漠なので溺れるようなことはないが、砂埃が口の中に入るのか、ペッペッと砂を吐いていた。

 

 

【転移先にあったのは……】

 

からっぽ島に集まったナザリックの全戦力を使ってビルドとガルガンチュアを探すが大した成果がなく、最後の手段としてオーレオール・オメガの転移魔法を使って飛んだのだが、そこは緑の開拓地にある集会所だった。そこには蝶ネクタイをしたバルバの他に店を持ったメイドたちやバーのマスターであるピッキーがおり、机には彩り鮮やかな料理の数々が並んでいた。

 

「こ、これは一体……」

 

「待ちくたびれたっすよ、ギルマス。ビルドくんが企画した『お疲れ様でした会』っす。ビルドくんが今まで試作した料理を大放出したみたいで、コンロやレンガキッチンは色々な料理で埋まっているから、早くギルメンを呼んでくれっす」

 

俺はバルバの言葉を聞いて、ジーンときた。

 

ここ最近のビルドの悪戯で心が荒んでいたようだ。俺は一緒に転移してきた、たっちさんに伝令を頼む。

 

そして、集会所で一際目立つ集団に目を向けた。そこにいたのはヘロヘロさんが4人。2人は確実にビルドとガルガンチュアで、もう1人は変身の腕輪を持つパンドラで間違いないが、むしろどれがヘロヘロさんか分からないクオリティだ。

 

メイドたちがスルーしているところを見るに、ヘロヘロさんを見間違うという失態は避けたい考えらしい。ぱっと見では判別が不可能だ。

 

次々とやってくるギルドメンバーたちもあまりに似すぎているヘロヘロ4人衆に頬を引き攣らせる。挙句、彼らは4人でステージに上がり、粘体ダンスを披露する始末。真ん中でオッカムル島から来たペロがハッスルダンスを躍っているが、他4人のヘロヘロさんの所為で台無しである。

 

さて、どうやって見分けるかと考えていた俺たちの前に“赤い粉塵”を入れた木の器に山ほど盛って、持ってきた意外性ナンバーワンメイドのフォス。そのフォスが何か躓いて転び、持っていた赤い粉塵が全部、ペロのハッスルダンスを最前線で見ていたペロロンチーノさんに振りかかる。

 

「え、ナニコレ?って、かっらぁーっ!?へっくしょんっ!!ぶえっくしょんっ!ひゃっくしょーんっ!!」

 

どうやら辛い物好きなたっちさんとセバスのために特殊な調合をされた調味料だったようだが、バードマンであるペロロンチーノさんに掛かったことで、彼が赤い粉塵を羽ばたきで振りまいた結果、集会所全体にその赤い粉塵が蔓延した。

 

一般メイドや人間たちが大ダメージを受ける。ステージで踊っていたヘロヘロさんの姿に変身していたビルドも例外ではない。

 

特殊調合唐辛子パウダーを吸い込んでステージ上でゴロゴロ転げ回って苦しんでいる。それを見て、特にダメージを受けなかった面々が笑っているのを見て、ビルドは袋から例の鏡を取り出した。

 

「あ、バカ、やめっ!」

 

ビルドが使ったラーの鏡の効果でアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバー全員が人間の姿になり、全員もれなくフォス作成の特殊調合唐辛子パウダーの餌食となるのだった。

 

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