からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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青の開拓地編 その③

【音改ショップ】

 

赤の開拓地に新規オープンした道具屋『音改ショップ』。

 

その店内のレジスペースに腰掛けるのは店主である音改である。彼は自分の店の商品として売り出される予定の物品を前にして腕を組み、頭を悩ませていた。売り出される予定の商品のカテゴリが特殊過ぎて。

 

「話には聞いていたけれど、本当に出すのかよ。デミウルゴス著『亡国の剣士モモンの冒険』。内容がほとんどギルメンの賛美な上に情報量が濃すぎて、俺には全く理解できねぇ。マーレの『ヘロヘロ殺人事件』も“今度はちゃんと完結してます”って初版は何をやらかしたんだ?」

 

並べられた冒険譚と推理小説を陳列棚に置いた音改は、商品棚に鎮座する置物というか黄色岩を削って作られた人形へと視線を向ける。30cmくらいの大きさの人形であるがモデルは至高の41人である自分たちだ。

 

細かいところまで丁寧な作り込みをされているが作者がまさかのガルガンチュア(本体)という意外にも程がある。その上、いやらしいことに装備は別売りというコレクター魂をくすぐる仕様となっている。

 

「問題はこれだよ」

 

赤い表紙の本を取り出す音改。作者は【bone laboratory】と書かれているだけで不明。中身は、ぱっと見て骨格標本であるがモモンガ玉があるのでモデルがモモンガであることが伺える。読み進めると、今回ムーンブルク島で仲間に加わった自分を含めたギルドメンバーが出てくるのである。

 

いつの間にか陳列棚に置いてあったので、どうしようかを悩んでいるところであるが、メイドにその話を振った際に壁ドンされて「その話は本当ですか?」と詰め寄られてしまった音改。事情をメイドに聞くと、この【bone laboratory】が書いた本はメイドたちの間で、高値で取引されている代物らしい。最近はモモンガすら回収に乗り出したとも聞いている。

 

「……これって、もしかしてメイドたちにとって、エロ本に相当する代物なんじゃないかな」

 

そう思ってイヤラシイ視線フィルターを越して見るとガルガンチュアが作った人形すら、装備を別販売するのは意図的なものを感じる。女性メンバーであるぶくぶく茶釜とやまいこの人形がないのはそういった理由かもしれない。音改はそんなことを思いつつ、自分をモデルに作られた人形を見る。『種族はネフィリムで黒いスーツに白衣、黒色のバケツを被った容姿をしていて中味は誰も知らない』という設定なので、最初から服を着せられた状態なのである。

 

「はぁ……。俺の人形だけ売れなかったら寝込む自信がある……」

 

そう言いながら音改は店の扉の鍵を外し、開け放つ。

 

「音改ショップ開店だ……のぉああああああっ!?」

 

店の扉を開け放った音改の視界に映ったのは腹を空かせた餓狼の群れのような血走った目をしたメイドたちと階層守護者たちの群れ。その中にモモンガやペロロンチーノの姿が見えた気がしたが、目的の為に一塊となったメイドたちに蹴散らされていく姿を幻視した。

 

店の中に押し込められた音改は瞬く間にレジに座らせられて会計業務に追われた。そうして、メイドや階層守護者たちの波が引いて、コキュートスが武人建御雷の人形を買いに来て売り切れであることを知ってシュンとしながら帰っていくのを見届けた音改は売り切れとなった商品棚とつぼに入った多くの金貨を見て呟いた。

 

「これは、やっべぇわ。試験的に導入したコレ。使い道がこういうのしかないっていうのは問題だぜ」

 

音改はそれだけを呟き、パタリと机にもたれ掛かるようにして倒れたのだった。

 

 

【AOG金貨】

 

ビルドが企画した『お疲れ様でした会』が終わった後、ビルドとガルガンチュアの暴走を咎める意味でたっちさんに怒ってもらったのだが、息するようにたっちさんの悪口を言うウルベルトさんが余計な一言を告げた所為で、ムーンブルク島で収束したはずの2人の喧嘩がからっぽ島を舞台にして再び勃発した。その隙にビルドとガルガンチュアは逃亡するし、2人の喧嘩に巻き込まれる形でメイドたちがてんやわんやするし、大変な目にあった。

 

ちなみにビルドとガルガンチュアの暴走でナザリック地下大墳墓を再建する材料を外貨に頼らずとも賄えることを知り、企画していた通貨であるゴールドの使用はどうしようかと悩んだのだが、ぷにっと萌えさんの発案でアインズ・ウール・ゴウンのギルドの紋章と俺の横顔を刻んだ『AOG金貨』をからっぽ島で何かを購入する際のお金としてからっぽ島で流通させることにした。

 

まだ、導入したばかりで価格設定が甘いところがあったり、俺たちに対して金貨はいただけませんと店を受け持っているメイドに言われたり、『至高の御身に仕えることこそ、本願です』と言わんばかりのメイドたちを説得するのに少しばかり折れたが、嗜好品の購入には必要だと告げたところ、彼女たちの目の色が変わった。

 

その結果、本日オープンしたばかりの音改ショップの目玉商品である『BL本』を確保できなかった。購買欲に駆られた彼女たちは血に飢えた獣同然で、俺たちがいても譲る気はなかったのだ。

 

「とりあえず、BL本を買ったのは誰だったんですか、音改さん?」

 

「あれだけの量の人数が店に押し寄せてきたのに分かるかい。それとぺロロン、今回は至高の41人シリーズだけで階層守護者の人形はねぇよ。そもそも作り手がガルガンチュアだから、今後も作られる可能性はかなり低い」

 

「そ、そんなぁっ!?」

 

「シャルティア本人がいるのに人形も欲しいってどういうことですか?着せ替えがしたいなら、ホワイトブリムさん監修のコレクトショップに行ったらどうです?」

 

「いや、コレクトショップって。ブリムさんとこの店ってメイド服専門店じゃん」

 

「メイドたちも作れるものの幅が広がってきているから、注文すればいいんじゃないですか?それこそ、金貨を払って」

 

俺と音改さんの言葉にそれもそうだなぁと色々と考え始めるペロロンチーノさん。そんな彼から視線を逸らし、俺は音改さんにBL本の出所を尋ねる。

 

「ところでBL本の作者について何ですが……」

 

「いや、いつの間にか陳列棚に置かれていたから、正体は俺も分かんねぇよ?意外性をついてビルドくんってオチじゃねぇの?」

 

「ビルドのスケッチを見たことがあるんですけれど、アイディアを思い付いたらその都度、ノートに書き殴るものだから本人じゃないと何を書いたのかさっぱりな仕上がりになるんですよ。絵はぐちゃぐちゃに書くことが多いみたいで、あんな繊細で丁寧なタッチの線じゃないんですよ」

 

「何、メイドから没収したって話は本当だったの?」

 

「うぐっ!?……そ、そうですよ!ギルドマスターの権限で没収しましたよ!俺とマーレが一緒にお風呂に入っている回だったんですけど、それを知ったぶくぶく茶釜さんに襲撃されて奪い取られましたけどね」

 

「駄目じゃん」

 

「ぶくぶく茶釜さんのその時の目は今日のメイドたちと同じ目をしてましたね。止められるような物じゃないってことはすぐに察しました」

 

俺と音改さんは同時にため息を吐いた。今日オープンしたばかりの音改ショップは品物がすべて完売のため、また仕入れるまで休業である。

 

「この店は不定期に開けることにするわ。『あれ、今日開いてるんだ』的な感じで細々とやってく。こんなのが毎回やられると体が持たねぇ」

 

音改はその日の売り上げを全部、緑の開拓地にある屋台のお店を運営しているメイドたちの店で豪遊するのに使った。先日の『お疲れ様でした会』のような騒ぎになったが、金貨が貯まったらこういう風に使うのもありだと示すことになるのだった。

 

 

 

【私の影は薄いですか?】

 

赤の開拓地にあるピッキーの酒場に呼び出されて早々、そんな質問を投げかけられたデミウルゴスは答えるのに困った。

 

相談者は己の創造主である偉大なる災厄の魔導士ウルベルト・アレイン・オードルの好敵手であるたっち・みーを創造主として持つセバスである。

 

カルマ値で言えば、正反対の位置にいる存在であるが、今の彼はただの飲んだくれオヤジである。空のジョッキが10個近くあり、ピッキーを見れば手の付けようがないと言わんばかりに首を横に振るだけ。

 

「私は仕事を忠実にこなしてきました。たっち様の御身を守るために攻撃に晒される矢面に立つことも。それなのに……そ・れ・な・の・に!何ですか、この私の扱いは!執事長として至高の方々の世話をしようとする度に、自分でやるからと断られ、プレイアデスの指揮を執ろうとすればオーレオール・オメガがいるからいいと断られ、私の存在意義とは……グビッグビッ!」

 

バーカウンターに更なる空ジョッキが勢いよく置かれる。間髪入れずにお代わりを要求するセバスにデミウルゴスは頬を引き攣らせつつ、自分の前にも置かれたキンキンのバブル麦汁の淹れられたジョッキを手にしつつ助言を口にする。

 

「己の存在意義まで持ち出すとはね。セバス、君はたっち・みーさまにこうあれと望まれて生み出された存在だ。軽々しく存在意義がないと口走るのはどうかと思うね。かといって、私自身もウルベルトさまにナザリック地下大墳墓を、その知略を以って守れる存在として生み出された以上、守るべきものがないという時点では、セバスと同じく存在意義が消失しているに等しい。だが、私はこうやって己で考えて行動することが出来ているよ。それもすべてビルドくんの側で生活し、彼を見てきたことで自然と自分ですべきことを自分自身で考えることで得られた賜物だ。君もナザリック地下大墳墓のこととか、至高の方々のお世話をとか、無理に考えずに好きに過ごす時間を持ってもいいのではないかね?」

 

「しかし、私には貴殿のように過ごす自信が……」

 

「自信がないのであれば、色々なことを体験するのが一番ですよ」

 

その日、セバスはデミウルゴスと共にとある少年の下を訪れる。その結果……。

 

 

【釣り師セバス爆誕】

 

たっち・みーは困惑していた。

 

最近、息子であるセバスの様子がおかしいことに気付いていたが、ある日を境に吹っ切れていたので安堵していたのに、今度は陽が昇る前に家を出て行くようになってしまったのだ。いい大人であるセバスにとやかく言うつもりはないが、かと言って放っておくのも違う気がしてストーキングするたっち・みー。

 

するとセバスは船着き場にある倉庫の中に入っていった。

 

そして、出て来たら【爆釣!!】と書かれたぴちぴちTシャツと皮製のテカテカしたズボンを履いただけのセバスが出てきてたっち・みーは思わず噴き出す。セバスの手にはクーラーボックスらしきものとメイドたちが所持するちゃちな作りの釣り竿とは違った本格的なロッドを持つ釣り竿があった。

 

「え……えぇー」

 

たっち・みーの想いとは裏腹にセバスは着実に釣りの準備を進めている。しかし、船長の船を使うつもりがないようなので浜で釣るのかと思ったら、『ドルルル……』という音と共に小舟が現れた。乗っているのはビルドとガルガンチュアである。セバスは2人の姿を見ると、その小舟に飛び乗った。そして、3人は置いてけぼりのたっち・みーを置いて沖へと向かって行った。

 

たっち・みーはその日、放心状態でその場に立ち続け、釣りから帰ってきて釣果に満足しているほくほく顔のセバスの姿を見て、自分の子供であるセバスがビルドに染められてしまったことを悟る。まぁ、でもセバスが生き生きしているようなので、無理に止めることはないかという考えに至った。

 

その後、セバスに誘われて、たっち・みーが釣りに出かけるようになるのはすぐのことだった。

 

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