からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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青の開拓地編 その④

【うちの子自慢】

 

たっちさんから『どうやら、セバスが釣りに目覚めたようだ』という話を聞いて数日後、緑の開拓地に釣り堀が出来た。

 

泳いでいる魚影は今までメイドたちが釣って食卓に上っていた魚とは比べ物にならない大きさで、メイドたちが作る普通の釣り竿では歯が立たないレベルのものばかり。ビルドとガルガンチュアとセバスはそれぞれが自作した釣り竿を手に、海に川にと遠征しては数多くの魚を釣ってきて釣り堀や川に放流している。そのおかげか川や海岸のあちこちに見慣れない大きな魚がウヨウヨするようになった。

 

釣り竿を使わずとも手で捕まえようと思えば捕まえられるので、開拓地のあちこちで魚を捕まえようと奮闘するメイドたちの姿が見られるようになって数日後、それは起こるべくして起きた。

 

 

 

俺はその日、ナザリックハイツ本館の3階にある部屋でソファに腰掛けて、デミウルゴスが書いた『亡国の剣士モモンの冒険』を読み進めていたのだが、そこにでかい火球がぶち込まれた。

 

木の壁は燃えて炭になり、陽の光をたっぷり部屋に差し入れる窓のガラスは粉々、豪華な赤い色の絨毯は燃えてなくなり、床が無くなった俺はそのまま2階のヘロヘロさんの部屋に落っこちた。

 

ヘロヘロさんの部屋は彼が作成したメイドたちが泊まりに来ることが多いので部屋の半分がベッドで埋まっている。そのために俺はダメージを受けることはなかったのだが、燃えたままの絨毯が落下して、ベッドに引火し、そのベッドで惰眠を貪っていたヘロヘロさんにも引火した。メイドたちが必死になって消火活動をしている。

 

俺たちの優雅で気ままなひと時をぶち壊した原因は近くにありそうだった。

 

 

 

剣戟の音や火の玉があっちこっちに飛ぶのを視界に収めつつ、騒ぎの中心へと向かうとアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーたちが争っていた。ウルベルトさんとたっちさんは分かるが、他にも弐式炎雷さんやペロロンチーノさん、ぶくぶく茶釜さんにやまいこさん。源次郎さんやホワイトブリムさんも何かを言い争い、時には胸ぐらを掴んだりしながら紛糾していた。

 

「一体、何の騒ぎだ?」

 

俺はメンバーの争いを遠巻きに見ていた死獣天朱雀さんに尋ねる。すると彼は煤塗れの状態の俺とヘロヘロさんを見て、現在も炎上しているナザリックハイツ本館とメイドたちが住んでいる分館を見て、遠い目をしながら口を開く。

 

初めはたっちさんが魚拓を見せびらかしていたことから始まった。

 

釣りに目覚めたセバスに誘われて、人生初の釣りに挑戦することになった、たっちさん。セバスに手取り足取り、ひとつひとつを教えてもらいながら釣りに挑戦し、釣りあげたのは小ぶりなアジだった。しかし、たっちさん的には感動ものだったらしい。釣り上げたアジを見ながらジーンと感動しているたっちさんにセバスは魚拓を提案した。その釣り上げたアジを魚拓にした彼はその足で緑の開拓地にある集会所に来て自慢をした。そのたっちさんに声を掛けたのがウルベルトさんだった。

 

「そんな雑魚を釣り上げて、喜ぶなんて単純だな」

 

ウルベルトさん的にはたっちさんを狙った悪口だったのだが、その魚拓を提案してくれたのはセバスであった為、たっちさんは普段からは考えられない程ドスの利いた低い声でぶちギレた。

 

その事実を知ったウルベルトさんも謝ろうとしたのだが、たっちさんがデミウルゴスが書いた本を馬鹿にした発言をした所為で、両者の喧嘩のレベルが上がってしまった。

 

集会所で争っている面々は当初、宥めようとした者たち。だが、彼らがたっちさんとウルベルトさんの喧嘩を止めようとした段階で彼らの話題は『うちの子自慢』になっており、蟻地獄に嵌るように彼らはたっちさんとウルベルトさんの口喧嘩に巻き込まれることになってしまった。

 

「ああ。ミイラ取りがミイラになっちゃったんですね」

 

「当初はNPCたちも止めようとしたんだが、自分たちのことを創造主自ら褒めてくれるから、全員が『幸せ死』で救護所行きだ」

 

死獣天朱雀さんの指さす方向を見れば担架に載せられて運ばれて行くナーベラルが見えた。恐らくここにいないNPCたち、つまりぶくぶく茶釜さんとこのアウラとマーレ、ペロロンチーノさんのとこのシャルティア、たっちさんとこのセバス、ウルベルトさんのとこのデミウルゴス。その他にも大勢が犠牲になっていることだろう。

 

「けど、流石に武力での衝突に発展する前に止めるべきだったのでは?こんなのをビルドが見れば、関係者まとめてフルスイングですよ?」

 

「ああ、だからか。バルバ君が『触らぬ神に祟りなし』と言わんばかりに逃げて行ったのは」

 

「仕方がないですね。俺が止めてきます」

 

死獣天朱雀さんに気を付けろよと注意を促されつつ、俺は集会所に足を踏み入れる。そして、声を張り上げた。

 

「いい加減にしてください!皆が迷惑しているんですよっ!」

 

集会所にて各々の武器を構えて言い争っていた面々の視線が俺に集中する。俺はギルドマスターだ。かつてPKKをする際に、恨みがましい視線の集中砲火を食らったことは数度ではない。この程度、どうってことはない。

 

「うるっせぇなぁっ!シャルティアが一番可愛位に決まってんだろ!」

 

「モモンガさんには全く理解できないかもしれませんが、この問題に関して俺たちは譲れないんですよっ!!」

 

「そうですよ!自分の子供を黒歴史と称されていましたよねっ!すみませんが、引っ込んでいてください!!」

 

「アウラとマーレの可愛さ問題だけは、愚弟どころか誰にも譲れないの!モモちゃんは関係ないよねぇっ!!」

 

「はぁっ!ユリは眼中にないとでも言うんですかぁ!表に出ろや!」

 

「エントマの造形美と仕草の可愛さを理解できんとは何ごとじゃー!たどたどしいところも、マイペースなところも、全部含めて可愛いんじゃー!」

 

注意を促した俺に対するギルドメンバーたちからの返答は、あまりに理不尽なディスだった。確かにユグドラシル時代、当時の自分が格好いいと思っていたものをそっくりそのまま形にしたパンドラズ・アクターは、数年経つと表舞台に出したままにしておくのは辛いと感じるほどの存在となってしまった。

 

だが、

 

「ッッッ!!俺だって子どもは大事に思っていますよっ!アンタらは俺のパンドラがどれだけカッコよくて、役者に成り切ろうと頑張っている姿が可愛いか知らないでしょっ!喧嘩売ってんのかゴラァアアアッ!!」

 

 

 

「おいおい。ミイラ取りがミイラになっちまったじゃないか。はぁ……ヘロヘロ、お前は混ざるんじゃないぞ。……ヘロヘロ?」

 

死獣天朱雀は、武器である杖を取り出して集会所に集まった面々に対し無差別に魔法を放つモモンガの姿を見ながらため息を吐きつつ、隣に佇むヘロヘロに声を掛けたつもりだったが、見れば彼はいなかった。隣に移した視線を集会所に戻すとコールタールの様な色をしたスライムがいつの間にか参戦している。

 

死獣天朱雀の視界の端では埴輪顔の男が担架に載せられて運ばれて行っている最中だった。

 

これからどうやってあの集団を止めるべきかと思っていると戦闘メイドのプレイアデスの5女のシズ・デルタと七女であるオーレオール・オメガがやってきた。そして、地面に金色のみちびきの珠を設置すると、その場から少し離れる。

 

死獣天朱雀はそれを見てすぐに羽ばたいてその場から退避し、岩陰に隠れる。見れば上空から大戦槌を背負った少年が落下してくるのが見えた。少年はそのまま金色のみちびきの珠がある場所に着地し、周囲を見渡す。

 

魔法が着弾し炎上して所々が炭になったナザリックハイツ本館と分館、

 

緑の溢れる公園だったところにも大穴が開いていたり剣で斬られたりしたような痕が残る。

 

集会所付近に設置された露天は見るも無残な姿になり、

 

最近少年たちが放流した魚たちの死体が川面に浮かび上がっている。

 

ギギギっと錆び付いたブリキ人形のような動きで今も言い争いを続けるギルドメンバーたちに向かって、大戦槌を担いだ破壊神が咆哮を上げつつ襲い掛かった。

 

 

【青の防衛拠点】

 

目を覚ますと浜辺に転がされていた。

 

体を起こして周囲を見渡すと騒ぎを起こした面々と救護所に運び込まれていたNPCたちが勢ぞろいしていた。見覚えがない景色であるが、しろじいの神殿が見えるのでからっぽ島から出たわけではなさそうだと当たりを付ける。

 

からっぽ島の破壊神ことビルドのフルスイングは強烈だった。死角から不意をついて現れたビルドに、誰もが驚いたがムーンブルク島で戦闘の勘を取り戻した面々が易々とやられる訳がないと応戦しようとしたのだが、魔法は打ち返し、武器や防具ごと身体を粉砕してくる大戦槌による攻撃は想像以上だった。

 

「なんか少年に身も心も砕かれた所為か、頭がすっきりしているんだよな」

 

「……。ウルベルト、すまなかったな」

 

「うんにゃ、こっちこそ悪かった」

 

件の主犯格であるたっちさんとウルベルトさんが仲直りする。その様子を見て、この場所がどこなのかを調べようとペロロンチーノさんが羽ばたき空に浮かび上がった瞬間、砂地に隠されていたバギバキュームが8機起動して、空高く舞い上がろうとしていたペロロンチーノさんを容赦なく引き摺り落とす。彼が落下する場所にはムーンブルク島で猛威を振るったとげワナがびっしりと敷かれている。俺たちがペロロンチーノさんを助けようと動く前に、彼はそこに落下した。

 

『ザクザクッ』

 

「ぎぃやぁあああっ!?いてぇええええええ!?」

 

愛する創造主であるペロロンチーノさんを助けようと赤い衣服を身に纏ったシャルティアが自ら、とげワナが設置されている場所へと足を踏み入れる。しかし、一歩目を踏んだ瞬間にその場で倒れた。

 

「ペロロンチーノさまぁっ!あいたたたた!痛いっ、痛っ!?あ、でもちょっと気持ちよくなってきたでありんす……」

 

「それはアンタが死に掛けているだけよっ!」

 

アウラの類い稀な鞭捌きでとげワナの上を転がっていたペロロンチーノさんとシャルティアが回収され、マーレによる回復魔法を受けて体力と怪我を回復させる。

 

何かに気付いたたっちさんが地面に剣を突き立てるが『ガキィィン!』と甲高い音が響く。ヘロヘロさんが地面の砂を払いのけるとそこにあったのは若干赤くなっている鉄ブロックだった。

 

「って、あっちゃーっ!?」

 

ヘロヘロさんは鉄ブロックの上に砂をかけると海辺に向かって走り、鉄ブロックに触れていた身体を冷やす。彼の行為は一見、意味の分からないものであるが、足元からせり上がってくるような熱気がおかしいのである。ウルベルトさんとホワイトブリムさんが地面をくまなく確認し、諦めたように笑う。

 

「あの野郎、鬼畜すぎんだろ。ここは巨大な鉄板の上で、恐らくこの鉄ブロックの下にはくまなくアギタイルが敷かれているぜ。時間を掛ければかけるほど、地面は高温になる仕様だ」

 

「上に行けるところはない。俺たちがこの灼熱地獄から助かるには罠を越えて行かなくちゃならねぇってことだ」

 

悲壮感たっぷりの表情を浮かべるウルベルトさんとホワイトブリムさんの言葉。空を飛んで逃げようにもバキバキュームで地面に引っ張られてしまう以上、進むほかに方法はない。その時、海に浸かっていたはずのヘロヘロさんの悲鳴が聞こえた。

 

「ぎゃあーっ!?」

 

振り返った先にあったのは紫色の鱗を持つ魚人の魔物マーマンの攻撃で空を舞うヘロヘロさんの姿。からっぽ島の周囲の海に生息する魔物であるマーマン、その中でもビルドが倒すのを諦めたという専ら噂のマーマンキングだった。あれが海にいる以上、海を泳いで逃げるという手は使えない。その時、弐式炎雷さんが叫ぶ。

 

「とげワナだが、蛇行するように敷かれている。1列で行けば余計なダメージは受けないはずだ。俺が先行する!」

 

このまま熱されれば蒸し焼きになる可能性もあり、俺たちは弐式炎雷さんの後を追う。蛇行する道を行ったり来たりしながら着実に進む。その途中、機能が停止している大弓が並んでいるところや、大砲の砲塔がこちらに向いている場所などを通り、やっとの思いで島の内陸部に入った俺たちの前に死獣天朱雀さんが現れた。

 

「ミイラ取りがミイラになりよって、本当にお主らは馬鹿ばかりじゃな。それで青の開拓地の防衛拠点の味はどうじゃった?殺傷性の高い罠は起動させておらんという話じゃったが」

 

「いや、普通にあのままだったら焼け死んでますよ」

 

「その程度で済んでよかったじゃないか。当初は魔改造ガルガンチュアで全員叩き潰してやるって息巻いておったんじゃから。ムーンブルク島から来たあの娘っ子が『青の開拓地に思う存分に戦える場所があればいいんじゃないのか?』と提案し、少年が乗り気になって【コロセウム】の建築に夢中になっておらんかったら、『巨神バーサス異形種』の対戦カードじゃったぞ」

 

俺たちの脳裏に浮かび上がるムーンブルク島での魔改造ガルガンチュアと大総督アトラスのガチンコバトル。あれを生身でしろっていうのはちょっと無理がある。それよりも死獣天朱雀さんの発言に気になるところがあった。

 

「え、ビルドたちが建築しているんですか?」

 

「コロセウム自体は完成し、露店やフードコート、マッサージ部屋やシャワー室などの内包施設をギルメンたちとNPCや人間たちが設計図に則って作っておるところじゃぞ」

 

死獣天朱雀さんの指さす方を見れば、遺跡建材や城の壁をふんだんに使った荘厳なコロセウムが出来上がっていた。メイドたちやうちの子自慢に参加していなかった武人建御雷さんやコキュートス、ベルリバーさんたちに混ざって、アネッサやチャコたちがあくせく働いているのが見えた。

 

「というか、ビルドってちゃんと防衛拠点も作っていたんですね」

 

目を細めて感心するように頷きながら死獣天朱雀さんはビルドのことについて話す。

 

「ギルマスたちと違って、少年は公私をしっかりと分けて活動しておったぞ?ちなみに、ここだけでなく赤の開拓地の方も似たような防衛拠点を設営し終わっておるし、船着き場の方はオーレオール・オメガとニグレドが担当し、魔物が上陸してきたら青か赤の防衛拠点に魔法で転移させる手筈になっているぞ」

 

「暢気にソファに腰掛けて本を読んだり、ギルメンたちと遊んでいたりした自分が恥ずかしい」

 

「しっかりとしろよ、ギルマス。次の魔物の襲撃はお主が指揮を執るんじゃからな。ビルドは留めを刺すために今から魔改造ガルガンチュアに籠って待機するらしいからのう」

 

結局、ガルガンチュアの封印も出来なかった訳か。俺は死獣天朱雀さんから防衛拠点の運用方法と書かれた本を渡される。完成間近のコロセウムを見上げていた面々に俺は呼びかける。そして、起動していなかった部分の防衛拠点の設備も起動したその防衛力を見てドン引きとなった。気づかなかっただけで他にも色々とギミックが加えられていたのだ。

 

「ビルドくんってさ、味方だとすげぇ頼もしいけど、敵に回るとこんなにも恐ろしい奴なんだな」

 

「そんなの獣魔兵団と飛行兵団の魔物たちが焼かれるのを見て『きょうは やきにく ぱーてぃ だね』って笑顔で言う時点で分かっていたことでしょう」

 

「それなら、今回の防衛拠点のテーマは『鉄板焼き』か?」

 

ウルベルトさんがそう言うと、その光景を思い浮かべたギルドメンバーの面々が体を震わせる。その中を代表してヘロヘロさんが一言呟いた。

 

「なにそれ。ちょー怖いんだけど」

 




セリフ回しがパクリ疑惑があるとの指摘を受けましたので変更し、メンバーの会話を増やしました。
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