からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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魔王城ナザリック

しろじいの神殿の上部に開いた漆黒の渦を描くゲート。その前に集まったギルド、アインズ・ウール・ゴウンに属するすべてのメンバーとNPCたち。それと大木槌を背負ったビルド。

 

ハーゴンとアルベドがビルドから力と記憶を奪い去った後、世界は崩壊を始めた。

 

空気が淀み、視界は赤紫色に染まり、ずっと向こう側に見えていた水平線が消えて、何もかもを飲み込む暗い闇が徐々に迫ってくる。

 

ユグドラシルの終焉から始まったこの世界での生活。今まで頑張ってきたこと、仲間たちやNPCたち、この世界の住人たちと協力してきたことさえもすべてまやかしだったのかと、俯きそうになったがモンゾーラ島でのこと、オッカムル島でのこと、ムーンブルク島でのこと、そしてこのからっぽ島改めナザリック島で過ごす中で培ってきた思い出が俺を後押しする。

 

「俺は諦めない。この世界も、仲間たちも、ナザリックの子らも、ビルドの記憶だって奪い取られたままでは終わらせない。世界の崩壊だと?お前たちが勝手に決めるな!この世界はもう俺たちものだ!!」

 

俺はどこに繋がっているかも分からないから危険だとメンバーたちに散々言われたゲートに向かって単身で足を踏み入れる。オーレオール・オメガがこの世界で得たルーラとは違う、転移の感覚に身を任せる。

 

そうした転移の先に辿り着いた場所は全身が黒い泥のようなもので構成された魔物たちが徘徊するナザリック地下大墳墓の霊廊だった。俺はすぐに武器である杖を手に取り、偽りのものとはいえ、仲間たちと共に築き上げたナザリック地下大墳墓を徘徊する魔物を排除しようと魔法を唱える。

 

「ベギラゴン」

 

燃え盛る業火が徘徊していた魔物を一掃する。しかし、周囲から黒い靄が集まってきて、倒したはずの魔物がすぐに復活する。そして、血の色のように赤く輝く瞳で俺を捉えた魔物たちが殺到してくる。

 

魔物たちの爪や剣による攻撃が俺に当たろうとするその瞬間、後方から鞭と弓による攻撃が放たれ、俺を襲おうとしていた黒い魔物たちが倒される。

 

「おいおい、モモンガさん!俺たちを置いていくなよ!」

 

「危機一髪じゃないですか!」

 

「別に心配していませんよ。俺はギルドメンバーの皆さんのことを信頼していますから」

 

俺はペロロンチーノさんとヘロヘロさんの攻撃を受けて、倒れたにも関わらずなおも再生しようとしている魔物たちを睨みつける。すると、後方から2つの影が現れ、それぞれが手に持った武器を使って、瞬く間に魔物たちを屠っていく。細切れになった魔物たちを巨大な火球が燃やし尽くす。

 

「はーっはっはっは!魔物に占領されたナザリック地下大墳墓を作り上げた俺たちが攻略する展開か。おもしれぇじゃん!」

 

「油断するな、ウルベルト。これだけの攻撃を受けてもなお復活するとは、正攻法では攻略不可能と見るのが普通だな」

 

黒い山羊頭の悪魔であるウルベルトさんと白く染色された全身鎧を身に纏うたっちさんが俺に並ぶように現れる。それと魔物を斬り刻みながら先行していた弐式炎雷さんとフラットフットさんが戻ってくると同時に告げる。

 

「この先もずっと魔物が溢れているな。まぁ、俺たちの敵じゃあないが」

 

「青い光を放つ壁掛け松明のところには魔物は沸いていなかった。どうにかならないか、モモンガさん?」

 

「確かにこのまま進軍しても消耗が激しいですね」

 

俺は2人から貰った情報を鑑み振り向く。

 

するとゲートを通って次々とアインズ・ウール・ゴウンに所属するNPCたちに混ざって、大木槌を背負っているビルドもニグレドに手を引かれてやってきていた。俺はフラットフットさんに頼んでその青い光を放つ壁掛け松明があるところまでビルドを連れて行く。

 

青い光を放つ壁掛け松明の下には見たことのない形の作業台が置かれていた。確かにフラットフットさんの言う通り、この壁掛け松明の光が届く範囲には黒い魔物は寄ってこないようだ。俺は不安そうに周囲をキョロキョロ見ているビルドと手を繋いでいるニグレドに目配せする。すると彼女はすぐに頷いた。

 

「坊や、この青い灯を灯す壁掛け松明を私たちは欲しいの。どうにかできないかしら」

 

あの こわして みてもいい?

 

 

ビルドは自ら思いついて創造し道具を作る方法の他に、新しく手に入れたものを解析することで作り方を模索することが出来る。オッカムル島での砂の壁がいい例だ。俺は頷くとギルドメンバーや領域守護者たちに魔物の掃討を命じる。

 

大木槌を振りかざして青い光を放つ壁掛け松明を壊したビルドはすぐに解析を始める。灯がなくなると同時に範囲外にいた魔物たちが襲い掛かってくるが、ギルドメンバーよりも生まれた頃から共にあるナザリック地下大墳墓を穢されたと感じる階層守護者であるアウラやマーレ、シャルティア、コキュートスに加えて、本来であればナザリック地下大墳墓を守る指揮を執るはずだったデミウルゴスが黒い魔物たちを蹴散らしていく。

 

「モモンガ様」

 

「うん。どうしたんだ、シズ?」

 

「トラップが。……ひとつも発動しない」

 

それだけを言った戦闘メイドのプレイアデスの1人であるシズ・デルタ。どういうことなのかをシズに尋ねようとした俺を制したのは源次郎さんだった。彼は周囲の様子を確認し、なるほどと呟いた後でその場にいる全員に聞こえる声量で話す。

 

「シズの解析が正しいとすれば、このナザリック地下大墳墓は不完全なものだ。恐らく、このナザリック地下大墳墓はハーゴンに操られたアルベド、シャルティア、アウラとマーレの知識に基づいて作られていると見ていい。逆にいえば、彼女たちが認識できていないものは存在しないということだ。ペロロンチーノ、確認してくれい」

 

源次郎さんの言葉にグッとサムズアップしたペロロンチーノさんが前線で魔物を屠っていたシャルティアを確保し、自分の膝の上に座らせた。そして、耳元で甘い言葉を囁いて口説き落とすように問う。ペロロンチーノさんによる甘言で目がハートのトランス状態になったシャルティアは自分の知っている情報をただただ垂れ流す。シャルティアが抜けた穴は戦闘メイドのユリ・アルファやルプスレギナ・ベータが埋めている。

 

「モモンガさん。残念なお知らせだ」

 

シャルティアの尋問を終えたペロロンチーノさんが真面目なキリッとした表情で俺に告げる。皆の緊張が高まる中、ペロロンチーノさんは突然両手で顔を覆って嘆くように叫ぶ。

 

「『たぶん』とか、『あそこにあったかな』とか、シャルティアは全く防衛トラップの位置や効果を理解してなかったー。第1から第3階層の罠は気にしなくていいっぽいー!シャルティアのそんなところも可愛いけどなんか辛いーっ!?」

 

「偽乳ーっ!?それって、どういうことよっ!!」

 

「シャルティア?(°д°;)」

 

アウラと眼鏡を外して宝石の目でガン見してくるデミウルゴスの視線にタジタジになるシャルティアは、突如何かいい案が思いついて開き直ったように腰に手を当てて胸を張って告げた。

 

「そういうことは全て部下任せでありんすっ!私はこうあれって、ペロロンチーノさまに創造されたでありんすから何にも問題ないでありんす!」

 

「ちょっ、待っ、姉ちゃん!?……ぎゃぁああああっ!?」

 

自信満々に告げるシャルティアに二の句が継げない階層守護者たちの後ろでリアル実姉のぶくぶく茶釜さんから折檻されるペロロンチーノさん。今回はそれが良い方に働いたんだから、いいじゃないかと俺が思っていると作業台の方で動きがあった。作業台を使って青い光を放つ壁掛け松明を解析していたビルドが自分で作ったそれを掲げた。

 

できたよ じゃきょうのたいまつ

 

 

解析用に壊した邪教の松明を設置しなおしたビルドは、材料はこれだけ必要だとニグレドに伝える。それを聞いてニグレドは解析魔法レミラーマを使い周囲を索敵し、回収作業をメイドたちに指示を出す。

 

聞きなれない素材である『はかいの砂』というものも必要になったが、それはそこらへんにある砂であることを知り、気にする必要が無くなった。普通の松明の材料となる木材と油は黒い魔物を倒すと得られるので、手に入れた素材はどんどんビルドに渡していく。それを受けてビルドは次々と邪教の松明を量産していく。

 

ビルドが量産した邪教の松明を等間隔で置いていき、黒い魔物たちを寄せ付けない活動領域を広げて行く。

 

「確かに全部は知っておく必要はないけどさー」

 

「階層守護者としての自覚をもう少し持って行動してくれるとありがたいんだけどねぇ」

 

「ぐぬぬ……」

 

邪教の松明を使い先に進む中、アウラとデミウルゴス、シャルティアの3人が先行している。従妹みたいな関係のアウラと、ナザリック地下大墳墓の防衛指揮を執るはずだったデミウルゴスからのネチネチとした執拗な責めにうんざりしていたシャルティアの顔が、突然蕾開いた花のようにぱぁっと綻んだ。

 

俺は周囲を見渡し場所を確認し、集団の後方にいた恐怖公を見て思い出す。俺はすぐにビルドを小脇に抱え、『べたぁっ』と壁に張り付く。

 

俺の珍行動を見て何人かが察して同様の行動を取る中、シャルティアがアウラとデミウルゴスに向かって自信満々に告げた。

 

「ここの罠のことは覚えているでありんす。ちょうど、ちびすけが踏んだ石畳が恐怖公の眷属がひしめく黒棺に転移させる魔法陣を起動させ——」

 

シャルティアの発言が終わるのを待たずに床に魔法陣が浮かび上がり、その上にいたギルドメンバーやNPCたちがまとめて転送されてしまった。他の罠の位置はほぼ覚えていなかったのに、黒棺直行便だけは覚えているなんて、NPCたちもあそこに行くのは嫌だということなのだろうか。

 

「パンドラ、無事か?」

 

「もぉちろぉんっ、です!モモンガさまぁ!!」

 

「ならば、恐怖公と協力し、黒棺に転送された面々を回収後、先に進む我々に全員を連れて合流せよ」

 

「それが我が神の望みとあらば、このパンドラズ・アクター。完璧にこなしてご覧にみせましょう」

 

「……ドイツ語じゃないんだな」

 

「以前、同じことを言った際に、真顔のビルドくんに『意味が分からない』ってツッコミをされましてね」

 

そう言ってパンドラは俺が小脇に抱えるビルドの頭を撫でた後、恐怖公を連れて俺たちが進んでいる道から外れていった。

 

俺はそれを見送り、抱えていたビルドを下ろす。そこでぼんやりとした様子で俺を見るビルドと視線が合った。きょとんとした緊張感のない表情。喜怒哀楽を共にしてきた俺が一番見てきた表情だ。

 

「安心しろ、ビルド。お前は好きなようにすればいいんだ。記憶を取り戻さなくてもいい。この戦いが済んだら、きっとビルドが好きな物作りをめいっぱいできる世界になる。戦うこと、痛いことはすべて俺たちアインズ・ウール・ゴウンが引き受ける。だから、ビルドは俺たちが道を切り開ける道具を作ってくれ」

 

うん わかったよ ももんがさん

 

 

聞きなれたビルドの声に無くなった涙腺が刺激される。

 

俺は歯を食いしばり、武器である杖をぎゅっと握りしめて、まやかしのナザリック地下大墳墓の先を進む。第3階層の奥でオッカムル島を支配していたメドーサボールとシャルティアの姿をした魔物と戦い、第6階層のコロッセオでモンゾーラ島を支配していたヒババンゴとアウラとマーレの姿を模した魔物と戦った。しかし、対処方法の分かっている相手に遅れを取るような者たちはここにはいない。敵対するのが本物を模した贋者であることが分かっていることも大きかったのかもしれない。ムーンブルク島の括りで出て来たボスは何故かアトラスではなく、獣魔兵団のデビルロード、飛行兵団のスターキメラ、デーモン兵団のアークデーモンの3体だった。少し広めの決闘場を舞台に3体同時に、しかもビルドの罠や兵器がない状態での戦いだったが、危なげなく突破。

 

そうして、俺たちは最後の場所に辿り着く。そこは玉座の間だった。

 

荘厳な扉をコキュートスとデミウルゴスが開け、開かれた扉を通って俺を筆頭にギルドメンバーが足を踏み入れる。すると、そこに居たのはハーゴンがビルドから奪った破壊神の力が詰まった赤い結晶を胸に抱いたアルベドの姿。

 

肝心のハーゴンは息も絶え絶えに玉座の間に敷かれた赤い絨毯の上で虫の息になっていた。『誰か説明を求む』と俺が視線を右往左往させていると、恍惚な笑みを浮かべたアルベドと視線が合った。

 

「ああっ!愛しのモモンガさまがいっぱい!嗚呼、無限の性欲を持つサキュバスとはいえ、私の身体は最後まで持つかしら?」

 

その一言でアルベドが正気を取り戻していないことはすぐに分かった。俺はすぐに歩み出てハーゴンを蹴りつつ、情報を聞き出す。

 

「おい、どういう状況だ。これは?」

 

「あの女が破壊神さまの力に触れたいというから渡したら、いきなり攻撃してきたんだ。『もういなくならないように、殺して差し上げます。安心してください。ずっと守ってあげますから』って。あの女は何を言っているんだ……ぐふっ」

 

詳しい話を聞こうとしたハーゴンの身体に突き刺さる大斧。アルベドは相変わらず恍惚とした笑みを浮かべている。

 

「ああ、モモンガ様ぁ。安心されてくださいね。デスペナルティでレベルが下がっても、蘇生すれば問題ありません。死んで死んで死んでしまって自分では何もできないほど弱体化してしまっても大丈夫。モモンガ様の身の安全は、このアルベドが一生をかけてお守りしますぅぅううう!」

 

アルベドはハーゴンを殺し、破壊神の力の結晶を胸に抱いたまま、漆黒の全身鎧を身に纏って咆哮を上げる。

 

どうやら玉座の間に足を踏み入れた全員が俺に見えているらしい。しかも、アルベドの手には妙に見覚えのありつつ、持っていなかったはずではないかという代物が握られている。

 

「おい、タブラさんよ。アルベドが装備しているのって、真なる無(ギンヌンガガプ)だろ?何で、アルベドが持ってんの?」

 

宝物殿の整理をよくしていた源次郎さんがアルベドを創造したタブラさんに詰め寄っている。それにアルベドの俺への執着の意味が分からない。

 

以前、ちらっとテキストページを読む機会があったが、あまりに濃い設定がびっしりと書かれており、スワイプして最後の『ビッチである』という文言を見て、『うわー、ギャップ萌えのタブラさんらしいわ』と思ったくらいで、俺に関することなんて一言も書いていなかったはずなのに。

 

「えーと、この機会なので白状しますが、ワールドアイテムである『真なる無』をアルベドに装備させたのは私です。そして、ギルドメンバー全員で考察し、好みを調べ上げ、モモンガさんのドストライクの容姿にしたアルベドの設定の最後のテキストを『ビッチである』から『モモンガを愛している』に変えたのも私です。親、公認ですよ。モモンガさん」

 

「って、なんじゃそりゃぁああ!?それに、ギルメン全員でって、( ゚Д゚)ハァ?」

 

俺は周囲にいた面々を見る。すると皆、いい笑顔でサムズアップしていた。どういうことだってばよっ!?

 

「だから、モモンガさんの公私を支えられる存在としてアルベドは生み出されたんだよ。誕生理由もモモンガさんのため、テキストページに隠された暗号を解くとモモンガさんを心から愛しているって文言が浮かび上がるようになっていて、止めの『モモンガを愛している』って言う言葉でダメ押しだ。だから、この展開は気に食わねぇ!」

 

「そうだよっ!アルベドにとってのモモンガはモモちゃんただひとりなのにっ!」

 

ペロロンチーノさんとぶくぶく茶釜さんがアルベドによる大斧の攻撃を避けつつ叫ぶ。それって、攻撃を受けたくないからじゃありませんよね?

 

「真なる無は対物体特攻性能。武器や防具を壊されたくない奴は下がっているのが賢明だ!」

 

「って、ウルベルトずっりぃぞっ!」

 

「そーだ!そーだっ!」

 

ペロロンチーノさんとぶくぶく茶釜さんの姉弟から狙いを移された弐式炎雷さんとフラットフットさんの忍者コンビがアルベドの攻撃を避けつつ、たっちさんとセバスの影に隠れてやり過ごそうとしているウルベルトさんを非難している。見れば武人建御雷さんとコキュートス、バルバさんも後方に下がっている。彼らはユグドラシル時代に使っていた自分たちの武器をビルドに復元してもらった組である。壊されるのはたまったものではないのだろう。

 

「あ、モモンガさん!危ないっ!!」

 

ぬーぼーさんの声を聞いて前を見るとアルベドが目の前で大きく斧を振りかぶっていた。戦場で気を抜くなんて、なんという失態だ。そう思いつつも俺は杖を構えて反撃しようと魔法の名前を口にする。しかし、アルベドの攻撃の方が早く、駄目かと思われたが……

 

「メラゾーマ!」

 

「きゃあっ!?」

 

何故か、俺の攻撃の方が先に当たった。

 

いや、アルベドの攻撃が振り下ろされる瞬間、彼女の視線が俺でないところに釘付けとなり、攻撃のテンポがずれたのである。そのために俺の魔法による攻撃が先に当たる結果となった。一体、何が起きたと思って、アルベドが見ていた場所を見るとビルドが袋の中を漁りながら立っているだけであった。

 

「ビルド、ここは危険だから。下がっているんだ」

 

うん わかった

 

 

俺が指示するとすたこらさっさと移動するビルド。俺は集中するんだと意識を昂らせ、アルベドを見る。アルベドは反撃を受けたことに興奮し、周囲を破壊せんと真なる無の力を解き放つ。すると玉座の間の壁や床に穴が開き、行動範囲が狭められる。

 

アルベド自体は腰から黒い羽を生やして浮遊状態で俺たちを追い掛け回す。その時、玉座の間の扉が開け放たれ、シャルティアを筆頭に、黒棺に送り込まれた面々が足を踏み入れ、現状を見てその場に留まる。

 

「モモンガさま、全員を連れて合流いたしました!」

 

「よくやった、パンドラ!俺はお前を信じていたぞ!」

 

「ありがたき、お言葉っ!」

 

「だから、戦場で気を抜くなっ!モモンガさんっ!」

 

音改さんの声に導かれて、前を見据える俺。そこには空中から大きく斧を振りかぶって振り下ろすアルベドの姿。人は簡単に変われないっていうけれど、死んでも変われないものだなぁ。そう思っていると、視界の端でビルドが袋から赤色の背表紙の本を取り出して、頭の上でそれを掲げた。

 

すると俺に斧を振り下ろそうとしていたアルベドの頭部がそちらに向いて隙だらけになる。俺はその隙だらけになったアルベドに魔法を叩き込んだ。

 

「嗚呼、どうして抵抗されるんですか、私のモモンガさまぁっ!!アルベドは、こんなにも、こんなにも貴方だけを愛しているというのにっ!!」

 

むくりと起き上がったアルベドが絶叫を上げて、そんなことを言い放つ。俺はそんなことよりも、アルベドの動きを止めたビルドの本の方が気になるんだがっ!?

 

ねぇ にぐれどおねえさんの いもうとさん

 

ももんがさんの ほねのすがたが あますとこなく

 

ぜんぶ みられる このほんが ほしい?

 

 

真なる無の効果でボロボロになったナザリック地下大墳墓の自慢の玉座の間に響くビルドの声。後からパンドラと共にやってきたシャルティアやアウラたちもビルドが手に持っている本をガン見している。

 

当然であるが、煤だらけになった黒い全身鎧を身に纏うアルベドも例外ではない。ビルドが持っている本を右に左に動かすとアルベドはそれに釣られて右に左にと身体を揺らすのである。

 

ほしい みたいだね

 

じゃあ いもうとさん

 

かぶとを ぬいで ここに ねてもらえる?

 

 

ビルドがペシッペシッと床を叩くと、腰の羽で浮遊していたアルベドが大人しくビルドの下に行き兜を脱いで横になった。そして、真なる無を床に置いて、ビルドから受け取った本をめくり、顔を紅潮させながら興奮するように声を上げようとしたのだが、その前に額に置かれる世界樹の葉。大木槌を振り被るビルド。逃げる間もなく、アルベドの頭は問答無用で潰された。

 

 

 

ビルドによる儀式を経て、この世界に適合した身体を手に入れ、生まれたままの姿になったアルベドに俺は身に纏っていたマントを羽織わせる。その後、ニグレドに抱っこされているビルドに尋ねる。

 

「いつ記憶を取り戻したんだ?」

 

うーんとね はーごんが いもうとさんの こうげきで しんだときに ちょろっと

 

で ももんがさんの まほうが いもうとさんに あたるたびに いろいろとね

 

 

「そうか。で、あの赤い本についてなのだが」

 

そんなことより ももんがさん たぶん はやく ここから にげないと

 

はーごんもしんだし このせかいを おもいえがいていた いもうとさんも

 

いないから きえてなくなっちゃうよ

 

 

ビルドの考察を聞いた直後、玉座の奥の方から光に包まれて崩壊していくナザリック地下大墳墓。

 

俺たちは来た道を必死になって駆け戻る。アルベドは状況把握も出来ぬまま、俺にお姫様抱っこされていてご満悦だったようだということを、後々創造主であるタブラさんから教えてもらった。

 

無事にゲートからナザリック島のしろじいの神殿へと戻ってきた俺たち。しかし、世界は真っ暗闇だった。そういえば、こちらの世界もまた偽りの世界だったな。

 

「せっかく、アルベドも取り戻してこれからだったのに~!」

 

「ちっくしょう。これで終わりなのかよ!」

 

「まぁ、リアルの世界が終焉を迎えた今、良い冥途の土産になってよかったじゃないか」

 

「もう一度、皆さんに会えましたもんね」

 

せっかく会えた息子娘や仲間たちとの別れを惜しむ者。冥途の土産が見れたと喜ぶもの。まだまだやりたいことがあったのにと悔しむ者。それは様々だったが、俺は笑う。何せ記憶を取り戻したビルドが自信満々に笑っていたから。

 

「何を言っているんだ、お前たちは?これで終わり?そんなことを俺や、ビルドが差せるわけがないだろう?」

 

俺がビルドに目配せすると彼は大きく頷いて、袋の中から破壊神の力の結晶と金色の欠片を取り出した。

 

ビルドはその2つのものを使って物を創造する。破壊神の力の結晶に込められた禍々しい何かはビルドに大木槌を振るわれる度に、晴れて行き光り輝く煌めく赤い水晶へと姿を変えて行く。

 

そして、太陽が生まれたと言わんばかりの光を放ちながら、ビルドが作り上げたのはこの世界に来る時に失ったはずのアインズ・ウール・ゴウンのギルド武器である『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』だった。

 

ももんがさん いっかいだけ だよ

 

これを つかえば ゆぐどらしるの まほうが つかえるはず

 

どの まほうを つかうのかは ももんがさんに おまかせだけど

 

いけるよね ももんがさん

 

 

「ふっ、任せておけ」

 

俺はしろじいの神殿の中央に立ち、ビルドから『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を受け取る。

 

周囲を見渡せば、ギルドメンバーのヘロヘロさん、ぶくぶく茶釜さん、やまいこさん、ベルリバーさん、ブループラネットさん、バルバさん、たっちさん、ウルベルトさん、武人建御雷さん、源次郎さん、弐式炎雷さん、フラットフットさん、ぬーぼーさん、音改さん、タブラさん、ぷにっと萌えさん、ホワイトブリムさんが見ている。階層守護者のアウラとマーレ、シャルティア、コキュートス、デミウルゴス、ガルガンチュア、執事長のセバス。領域守護者のニグレド、恐怖公といったものたち。戦闘メイドのユリ、ルプスレギナ、ナーベラル、シズ、ソリュシャン、エントマ、オーレオール・オメガ。一般メイドの40人とメイド長のペストーニャや副料理長のピッキーも集まっていた。

 

俺はここに集った面々を安心させるように笑みを浮かべる。そして、状況が全く把握できていないアルベドに声を掛ける。

 

「心配するな、アルベド。お前にもこの世界を見せてやる。これからも、この世界で俺たちは生きて行くんだ」

 

『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を天に向かって掲げ、ありったけの魔力を注ぎ込む。そして、十分に魔力が満ちたと判断した俺は、世界を創り変えるべく、その魔法の名を口にする。

 

「天地改変(ザ・クリエイション)」

 

俺が使ったユグドラシルの超位魔法から放たれた光は天高く聳え立つように上がっていく。そして、星そのものを揺らすように波紋を広げた後、光の雨となって降り注いだ。太陽すら隠れた闇の世界に優しく降る光の雨、それはやがて世界そのものを照らす光となる。

 

役目を終え砂のように崩れ、風に乗って消えて行く『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』。名残惜しかったが、俺はその風に運ばれるそれを掴もうとはしなかった。

 

代わりに俺は色を取り戻した大空に向けて大きく手を広げる。

 

「者共、喝采を上げよ!新たなる世界の誕生である!!」

 

盟主であるモモンガの言葉にギルドメンバーもNPCたちもナザリック島に移住してきた住人たちもこぞって、新たなる世界の誕生を祝うように喝采を上げたのだった。

 




誤字脱字修正のご協力ありがとうございます。
次回でストーリーは最終回です。
長らくのご愛読ありがとうございました。
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