100%おふざけです(∩´∀`)∩
闇に閉ざされた世界にユグドラシルの超位魔法を使って光を齎した私の愛するモモンガさまは一段と輝いていた。
その隣にいる下等生物さえいなければ、絵画にしても良い美しさなのに。本当に邪魔なんだから……。
私は色を取り戻した世界に感嘆するモモンガ様の隣に立っていた下等生物を……。
◇
看板に「しん なざりっくはいつ ほんかん つぎにもやしたら しずめる」と書かれた、緑の開拓地にある大きな建物の屋上に設けられた色々な花々が咲き誇る庭園。
そこに用意されたお茶やお菓子、一口大にカットされた果物を啄みながら、私は同席している階層守護者であるアウラとシャルティアに声を掛ける。
「魔物に操られた挙句、至高の御身の方々を危険に晒した償いをしたいのだけれど……」
私の問いかけにイチゴを口に放り込んで頬張っていたアウラと、紅茶を注いだカップを持っていたシャルティアが視線を交差させて、少し悩んだ後に少し困った表情で返答してくる。
「アルベドに呼び出された時点で言われると思った。色々と思うところがあると思うけれど、死ぬっていうのは駄目だからね」
「わらわもペロロンチーノさまに重傷を負わせてしまった過去がありんす。その時は死んで償うしかないと思っていたでありんすが、そんな償い方をするくらいなら生きろと命じられたでありんすよ」
「……私もモモンガさまとお父様に厳命されたわ。そんなことをするくらいなら、私にしか出来ないことで償えって」
手元にあるティーカップに砂糖を入れてかき混ぜる。くるくると回っていた紅茶が静かな水面になると、眉を下げた情けない表情を浮かべる自分の顔が映り込んだ。
私にしか出来ないこと。それが分からない。
ここがナザリック地下大墳墓であれば、することや出来ることは山ほどあったはずなのに、守護者統括という立場はそのままに、私はするべきことや出来たはずの仕事のすべてを奪われてしまった。
「2人は、普段は何をしているのかしら?マーレは本を書いていて、デミウルゴスは牧場を経営していると聞いたけれど」
「私はビルドが素材島で仲間にしてくる魔物の管理をしているよ。最近のお気に入りはベビーパンサーに乗ってナザリック島を散歩することかな。あの子たち、ベビーってついているけれど、頭はいいんだよね」
「そうでありんすねぇ。私はデミウルゴスの牧場で牛や鶏を食用肉に加工をする際の手伝いをしているでありんす」
「……貴女たちはそういった活動をすることに抵抗はないの?」
「何もしないでいるってことの方が苦痛なの。マーレが『ヘロヘロ殺人事件』なんてタイトルで本を出した時は不敬にも程があるって怒ろうと思ったけれど、何もないところから何かを作り出すっていうことは凄いことだって、至高の方々に褒められているのを見て焦ったのよ。それから私も色々と挑戦してみたけれど、結局はこうやって魔物たちと触れ合うことが性に合ってたって訳」
「わらわたちは作業台やレンガキッチンなどを使っての作業が出来ないでありんすから、誰かの力を借りなくてはいけない。出来ることが限られる中で、何が自分に出来るのかを探すのも償いの一環でありんすよ」
2人の話を聞いて私はますますナイーブになってしまう。
アウラの発言の中に出て来た下等生物である人間の子ども。ビルドという名の少年がまた厄介だった。このナザリック島に現れたモモンガ様といち早く出会い、様々な島を旅する中で笑ったり、怒ったり、悲しんだりといった様々なことを共有し、最後までモモンガさまを支えた功労者。
私がその位置にいられたのならよかったのにと悔やむ存在である。先述した通り、モモンガ様からの信頼を受けているビルドを排他しようものなら、私自身がモモンガ様をはじめとした至高の方々に捨てられかねない。どうやって接したらいいか分からない、そんな存在なのに。
「あの子、毎晩姉さんの部屋に入り浸っているのだけれど、どうにかならないかしら?」
「あの子って、ビルドのこと?」
「……ノーコメントでありんすな」
私の新たな問いに対しての2人の反応は白け切っていた。
アウラは本当にどうでも良いと言わんばかりの態度で頬杖をつき、シャルティアは貧相な自分の胸に両手を当てながら、「ペロロンチーノさまの好みはこっちでありんす」と自分を落ち着かせるように何度も念じている。
私と姉さんの体系はほとんど変わらないのに、あの人間の子どもは寄っても来ない。寄って来ないといえば、末っ子のルベドもそうである。朝早く部屋を出て、庭にあるメロン畑に生えている一番美味しそうなメロンか、就寝中の羊を抱えて空中散歩に毎日出かけて行き、帰ってくるのは陽が沈んだ後というサイクルを繰り返しているものだから、同じ家に住んでいるにも関わらずまともに話せた試しがない。
「そういえば、シャルティア。BL本の新刊が出るって話だよ」
「ビルドはいつ寝ているでありんすか?朝昼晩、何かしら活動しているでありんすよね?ガルガンチュアですら夜は寝ているのに」
「え、あのモモンガ様の素晴らしさをすべて描いたあの本もあの人間の子どもが書いているの!?」
「玉座の間でアルベドの動きを止めた前回の新刊は、アルベドの返り血で見れなくなっちゃったし、2か月ぶりくらいかな?」
「また音改さまのショップに卸されるとなると、いつ店が開くのかをリサーチしておく必要がありんすね」
「朝一とかは勘弁してほしい~。朝ごはんはぶくぶく茶釜さまと朝ごはん食べるから、まったく動けないし」
「夜中も動けないでありんす。夜の外出はペロロンチーノさまに理由を告げて許可をもらわないといけないでありんすから」
「かといって昼間はライバルが多すぎて手に入れられるかは運次第になっちゃうしさ」
「貴女たちって自由がないのね?私はお父さまから、モモンガさまに対しての夜這いも朝帰りも許可を出されているから、時間は自由に使えるのだけれど」
私の発言を聞いて、親の仇のような目で睨みつけてくるアウラとシャルティアにタジタジになる。お茶会はそのまま終了するのだった。
◇
「それで私のところに来た、と」
「ええ。デミウルゴス、貴方なら相談に乗ってくれると思って」
アウラとシャルティアとのお茶会で悩みが解消されなかった私はナザリック地下大墳墓の防衛を担うはずだったデミウルゴスを訪ねて牧場に来ていた。
牧草をもしゃもしゃと食べている牛や羊たち、地面を突いている鶏たちの姿を視界に収めつつ、私は小麦色に焼けた肌を持ち青色のオーバーオールと呼ばれる動きやすい服装をしたデミウルゴスに声を掛けて、少し後悔していた。
「牛12頭、羊8頭、鶏26羽。犬4匹、猫6匹の世話をしている私が暇だと思ったのかい?」
「正直、牧場を経営していると聞いて、『楽そうね』と思ったことは確かよ。ごめんなさい」
「別に構いませんよ。私が丹精を込めて育てた食用の牛肉や羊肉を食べた至高の方々が直接感謝の言葉を告げに来てくださいますからね。モンゾーラ島からもそういった肉は取引されていますが、ナザリック島産の肉が一番だと至高の方々におっしゃっていただくために色々と試行錯誤を加えているところです」
そう言って、デミウルゴスは酒樽を捻り、水飲み場に金色の液体を流し込む。それはバブル麦汁と呼ばれるナザリック島で広く浸透しているお酒である。モモンガ様もお父様も良く飲んでいるらしい。
「新鮮な牧草を食べさせているだけでも美味しくなるということは分かりましたので、これからは品種改良の期間です。乳用牛には飲ませられませんが、食用牛たちにはこれを飲ませ、全身を程よくマッサージさせると霜降り肉になることがこれまでの研究で分かってきたので、それを更に昇華させる予定です」
「た、逞しいわね。デミウルゴス」
「いえいえ。私はこの牧場を任せられてから、まだひと月程度。漁船を持って、あらゆる島々を巡っては様々な魚類を釣って帰ってくるセバスには負けていられませんよ。それにセバスと協定を結んだフォスの居酒屋は勢力をどんどんと伸ばしていますからね。私が肉を卸しているメイドたちにも店が繁盛するように頑張ってもらいたいものですが、至高の方々がびっくりするようなアイディアを色々と打ち出しますからね、彼女は。まさに意外性ナンバーワンメイドですよ」
「参考にするなら、彼女たちの方がいいのかしら。でも、忙しいのよね?」
「少なくとも朝から晩まで働いていますよ。貴女と違ってね」
「ぐぬぬぬ。……はっ、これがアウラの言っていたことかしら。なるほど……」
私はデミウルゴスの牧場を後にする。階層守護者で話しを聞けそうなのはコキュートスかしらと思って、私は武人建御雷さまが経営する道場へと向かう。
◇
緑の開拓地の石板の南にある入江に面した砂浜に武人建御雷さまの家と道場はある。
武人建御雷さまは、この道場で師範となり自身が持っている技術を教え子たちに教えている。その門下生の中にはあの人間の子どもが連れてきた魔物もいるのだが、コキュートスはこの道場で師範代として武人建御雷さまの教えを受けつつ、門下生たちに指導をしているのである。
「アルベドハ、エライナ。ワタシハ、ソンナコトヲカンガエモシナカッタ」
「師範代という仕事も武人建御雷さまに言われてやっているのかしら?」
「アア。モンカセイハ、マモノタチガホトンドダガ、ミドコロガアルモノガオオイ。ワタシモウカウカシテハイラレナイ」
「分かっていたことだけれど、コキュートスはストイックね。あらゆる武器を使いこなし、武人建御雷さまの技術をすべて受け継げたら、それはもうナザリック島を守る戦力としては素晴らしいものになるわ。それこそ、貴方に子どもが生まれれば、何代にも渡って守れることになるのだし」
「コドモカ。ヨイアイテニメグリアエレバ、ソレモヨイカモシレナイガ。ソレハヤハリ、シコウノカタガタノ、“オヨツギ”ガウマレテカラノ、ハナシダロウナ」
「お世継ぎ……っ!?それよ、コキュートス!!私にしか出来ないことは、それなのよっ!!」
「オ?オォ……?」
「私はモモンガ様を愛し、モモンガ様の子どもを身に宿し、育てることを望まれて生み出されたのっ!すべてはアインズ・ウール・ゴウンを不変のものとするために!!こうしてはいられないわ、モモンガさまに子種を頂いてこないと!!」
私は呆然とするコキュートスを置いて走った。愛するモモンガさまの下に。全力で。その結果、避けられるようになってしまった。
◇
私はこのナザリック島に来てから日が浅く、位置関係を完全に理解していないこともあって、モモンガ様に隠れられてしまうと探し出すことは困難になってしまう。どうすればよいのかを姉さんに相談すると、『あの人間の子どもに協力を頼むのが一番の方法だ』と教わることとなった。
「……どうしても?」
「逆に尋ねるけれど、アルベドはどうやってモモンガ様の子種を頂くつもりなの?モモンガ様は『死そのものを超越した者』であるオーバーロードであり、肉体は骨なのよ。生殖器がないのだから、同衾したとしたとしても得られるものがないじゃないの」
「うっ……それは……」
「それに至高の方々がリアルと呼ばれる世界に人間の身体を持っていて生活していたっていう話はしたわよね。ユグドラシルの世界で異形の身体で過ごした時間よりも、リアルの世界で人間の姿で過ごしてきた期間が長いから心を映す鏡を通すと、人間の姿になるということも伝えたわよね?」
「ええ、聞いたわ。とても信じられないけれど……」
「アルベド、人間を下等生物と侮っているのは、この島では貴方だけよ。至高の方々の心を映す鏡を通して、人間の姿になることが分かっている現在、ただ下等生物であるからというだけで見下す者はいない。アルベドがそんな考えを抱いている限り、貴女がモモンガ様の子を宿すなんてことは無理よ」
姉さんの叱責を受けた私は一晩考えた後、人間の子ども……ビルドと会うことを決めたのだった。
◇
会談場所として指定されたのは、青の開拓地にあるコロセウムのリングだった。
禍々しいほどのプレッシャーを放つ、大戦槌を軽々と振り回すビルドと斧を持たされて対峙することになった私。周囲を見渡すと、審判員として、ナザリック地下大墳墓の宝物殿を守るためにモモンガ様の手で生み出されたパンドラズ・アクターの姿があった。
「ねぇ、ちょっと待って。どうして、こんなことになっているの?」
「何を言っているのですか、守護者統括殿。私は、貴女の気持ちを理解していますよ。『モモンガ様の隣にいるべきはお前じゃない。私だ。決闘をして勝った方がモモンガ様の隣にいることが許される』ということでしょう?さぁ、レッツファイトと行きましょう!!」
脳裏に思い浮かぶのはナザリック地下大墳墓の玉座の間の天井とモモンガ様の麗しき裸体の描かれた本を読んでいるところに、無慈悲に振り下ろされる大木槌と、お前の事なんか興味ないと言わんばかりに見下ろしてくる無表情の少年の顔。
あっちも私のことをそういう風に認識しているってことは、こっちから歩み寄らなきゃ駄目だと瞬時に理解する。
「違うわ!待って、落ち着いてちょうだい!冷静に話し合いをしましょうっ!!」
斧をリングの外に放り捨てた私の言葉を聞いて大戦槌の素振りを止める、もはやモモンガさまの親友と言っても過言ではないビルドと、訝しげに私を見てくるモモンガ様の息子と呼べる存在であるパンドラの姿にどれだけ好感度が低いのかと泣きそうになる。
「私は、真面目にモモンガ様とお付き合いがしたいのっ!」
すればいいじゃん
「いや、我々に言われても……。そういうのはご本人同士でやってもらわないと」
2人の返答は正に好感度の低さが露呈する返事だった。親身に、どころか興味も持ってくれていない。
姉さんの話によるとビルドは新しい建物を作ったり、道具を作ったりすることが生きがいのビルダーという職業に就いている。パンドラズ・アクターは役者のように、振舞うことをモモンガ様に命じられて創造されている。
そこから導き出される彼らを味方にする方法は、アレしかなかった。
「ねぇ、2人とも。この青の開拓地に演劇を観覧できる劇場があったら、活気づくと思わない?マーレとデミウルゴスに脚本を書いてもらって、メイドたちや階層守護者たちが演じるものを作れば、至高の方々の楽しみになると思うのだけれど」
「ほほう、守護者統括殿も、か~な~りぃ~必死な様子。私は、ビルドくんさえよければ、協力を惜しみませんよ。劇場が出来るのであれば、私も願ったりかなったりですし」
たしかに ころせうむや おおきないしづくりの たてものを つくってきた あおのかいたくちに
げきじょうが あっても いいかもね
それで にぐれどおねえさんの いもうとさんは なにをするの?
「私はこう見えても裁縫が得意なの。脚本に合わせた衣装づくりは任せてもらっても構わないわ」
ふーん こんごの たいおうは そのえんげきを みて きめるね
なざりっくとうに かえってきて そうそうに ももんがさんの となりにいたってだけで
やまのうえから けりおとされた うらみは のこっているから
そう後台詞を残してパンドラと共に去っていくビルド。
彼らの姿が見えなくなって初めて、私は過去の自分が犯した罪に苦しむ。
「……ああ、過去に戻れるのであれば、あの時の私を殴り殺したい~っ!!」
ナザリック島の青の開拓地にある雪原に寂しく私の声が響き渡るのだった。
完結した翌日から投稿です。はい。
ビルドの好感度を底辺にしたアルベドが、『ニグレドのパフパフを人質に』っていう冗談を言えるくらいの仲になるまでの珍道中をご覧くださいませ。