青の開拓地の一角に劇場を作り、そこでシモベたちによる演劇を行い、至高の方々にサプライズで楽しんでもらうべく、主要メンバーに集まってもらった。
脚本を書いてもらうマーレとデミウルゴス、
ビルドが作成する舞台の装置を使いこなす要員で戦闘メイドのシズ。
ナザリック島に住んでいるメイドたちのスケジュール調整のためにメイド長であるペストーニャ。
演劇という観点で助言が期待できるパンドラ。
そして、どこからか話を聞きつけてきたアウラとシャルティアも加えた面々で話し合う。
「発想は面白いですが、中々思い切ったことをやりますね。アルベド」
「脚本を書くのはいいですけれど、僕は推理物。デミウルゴスさんは冒険物を書いているので、そういった方面になってしまいますよ?」
企画案を呼んで眼鏡をクイッと上げたデミウルゴスは意味深にニヤリと笑う。マーレは眉を寄せて情けない表情を浮かべながら意見を述べてくる。
確かに2人の書いた本は読ませてもらったが、そこまで卑下する内容ではなかった。マーレの書く推理小説は、ビルドが作る道具の使用方法を広く知らしめるのに有効で、こんな使い方があったのかと至高の方々もこぞって読んだという。
デミウルゴスの書いた冒険小説は、ムーンブルク島と呼ばれる戦いの島を舞台にした亡国の剣士という設定のモモンガさまの活躍劇。モモンガ様の婚約者が私という素晴らしい設定だったので、購入を希望したけれど、再販の予定は未定だという。シモベたちの中で共有されている1冊が自分の所に回ってくるのを待たなければならない。
「それで、パンドラ。デミウルゴスとマーレに脚本を書いてもらうとしたら、どんな設定の演劇がいいでありんすか?」
「それはもう、マーレ君の書いた『ヘロヘロ殺人事件』を舞台化するのがいいでしょう!配役は決めなおす必要がありますが、犯人は『ナザリック島の怪人』とでもしてしまえば角が立ちませんし。『ヘロヘロ殺人事件』が書かれた後にもビルドくんはあらゆるギミックを搭載した道具を作っています。それも加味した作品にすればよいと思いますよ」
「なるほど。あの時は、ぶくぶく茶釜さまが陣頭指揮を執っていらっしゃったけれど、リアルの世界で悪を取り締まる職に就いておられたたっち・みーさまがいらっしゃいますものね。となると、好敵手としてウルベルトさまも登場させたいけれど、怪人役にするのはちょっと……」
「何も敵同士にする必要はないのですよ、マーレ。パンドラズ・アクターが例に出した『ナザリック島の怪人』を追う立場で好敵手にすればよいのです。警察と探偵という名の好敵手に」
「っ!?なるほどっ!たっち・みーさまは悪を絶対に許さない正義の警察、ウルベルトさまは悪には悪の美学があるというアウトローな探偵役という訳ですね。このネタって、今後の僕の小説に使ってもいいですか?」
「勿論ですよ、だってまだ企画の段階ですしね」
脚本について勝手に盛り上がるデミウルゴス、マーレ、パンドラを他所に私はアウラとシャルティアとペストーニャと配役について話し合う。
「何か、火がついちゃったね。あの3人」
「まぁ、頑張れば頑張っただけ至高の方々に褒めてもらえる作品になるのは間違いないもの。話し合いに熱が入るのは目に見えていたわ。ところでペストーニャ、メイドたちのスケジュール調整はうまくいきそうかしら?」
「演劇の話を聞き、メイドたち全員に周知しましたら、『是非私にお任せを』と全員が言って聞きません。飲食店を任せている5名は辞退してもらいましたが、それでも35人のメイドたちが手を上げっぱなしです……わん」
「アルベド。質問がありんすけれど、この演劇の登場人物は全員、至高の御身の方々でありんすよね?それはどうするでありんすか?」
「ビルドにお願いをして、パンドラの腕輪を解析して劣化品であるけれど複製してもらったわ。2時間くらいは変身したままでいられるものよ」
「つまり、役者は至高の御身の姿で演じると、……わらわは無理でありんすな!」
シャルティアはそう言って立ち上がり、会議の場から去ろうとする。私はその背中にひとつの質問を投げかける。
「それは、もし配役の中にペロロンチーノさまが含まれていても、他の出演者が演じても構わないということかしら?」
「ぐっ……。ペロロンチーノさまは別でありんす」
苦虫を奥歯で噛みつぶしたような苦々しい表情を浮かべるシャルティアが席に座りなおす。それを見て、私たちはすでに脚本の制作に取り掛かっているマーレ、デミウルゴス、パンドラへと視線を向ける。
いつの間にか『トリックアドヴァイザー』として、ナザリック島にある道具のギミックを知り尽くす存在であるシズを交えて会話をしている辺り、その本気度が窺われる。
それから丸2日かけて、マーレが書き連ね完成された脚本。それを持って、私は赤の開拓地にあるビルドの隠れ家に赴いていた。
なるほど えんじゃとなる ひとたちが
いちぶずつは もっていないと よみあわせが できないか たしかに
ちょっと まってて たしか つかっていない さかだるが あったとおもう
そう言って、倉庫に入っていくビルドの背を見送り、乱雑と足の踏み場もない部屋を見渡す。木の壁の至る所にはアイディアがスケッチされたメモが何枚も貼られ、床には壊れてバネが飛び出たものや、弦のキレたハープや形がいびつなピアノなどが無造作に転がっている。
扉が開けっぱなしになっているキッチンを見れば、毒々しい色をした何かが皿の上に乗っているのが見えた。そうこうしていると、奥の方で『トンテンカン』とリズミカルな音が聞こえてきた。そして、戻ってきたビルドが抱えて来たのはハンドルのついた何かの道具だった。
かんいてきな ものだけれど りんてんいんさつき だよ
うえのところに いんさつしたい ぺーじをひろげて おけば どんなほんでも
りょうさんが かのうだよ
「まぁ、ありがとう。きっと、いい演劇にしてみせるわ」
私はその輪転印刷機を持って帰ろうとして、ビルドが私をじっと見ていることに気付く。何か粗相があったかしらと思ったけれど、ビルドは何も言わずに作業に戻っていく。彼の視線の意味を知ったのは、その輪転印刷機を演劇に関係する主要メンバーに見せた時だった。
「こ、これがあれば、禁書を量産できるでありんすね!」
シャルティアが興奮した様子で狂喜したのを見て、私はビルドから向けられた探るような視線の意味を察し、その行為を咎める。
「駄目よ、シャルティア。これは、演劇を成功させるために用意されたものなのだから、それ以外のことには使えないわ。使うにしても、マーレやデミウルゴスの書いた小説だけにしておかないと。今、出回っている禁書を複製して増やして、ビルドが『じゃあ、もう新刊をださなくていいよね』って考えたら、シャルティア。貴女は責任を取れるの?」
「ぐぬっ……それは、困るでありんす」
「まずは、演劇を成功させる。それが私たちに出来る最良のことよ」
心の中では、理性を司る天使の私と欲望を司る大勢の悪魔の私たちがすごーく葛藤していたけれど、私は愛するモモンガ様との未来のために、真面目な淑女を演じるのだった。
◇
「へロっち~!大変、大変だよ~!!」
緑の開拓地の丘の上にある『ヘロヘロ旅館』のオーナーである至高の41人のメンバーの1人であるヘロヘロは、身を粉にして旅館で自慢の混浴露天風呂の掃除を行っていた。ビルド製の自然に優しい洗剤を使っているので、ヘロヘロは泡だらけであったが、覗き防止のために作られた高い柵をぴょんと飛び越して現れたのは、同じギルドメンバーであり、同じ種族のスライムであるぶくぶく茶釜であった。
「どうかしたんですか、茶釜さん。見ての通り、掃除中なんですけれど」
「すごい、泡まみれだね。……じゃなくて、これを見てよ!」
ぶくぶく茶釜が差し出してきた一枚のチラシを受け取ったヘロヘロは書かれている内容を見て、びっくりする。そこには己の名前であるヘロヘロの文字がデカデカと書かれていたのである。
「マーレ作『ヘロヘロ殺人事件』を完全舞台化!?青の開拓地に新たに建築された劇場でシモベたちが演じるって。しかも、演劇日は今夜なの!?」
「私たちに隠れて、守護者たちやメイドたちが頑張った成果を見るんだよっ!いい席を取らないと損だぜ、ヘロっち!!」
「こうしちゃ、いられないやっ!スラッチ、ホイミン、水を流しておいて。後は店先にお休みの看板を出して休んでいていいよっ!!」
そう言ってヘロヘロとぶくぶく茶釜は旅館を後にする。ビルドの手で仲間になり、ヘロヘロ旅館で接客をするようになったスライムとホイミスライムたちは雇い主であるヘロヘロに命じられた通り、露天風呂の泡を流してしまうと並んで日向ぼっこを始めるのだった。
緑の開拓地から青の開拓地へ向かうトロッコの駅には長い列が出来ていた。
彼らの手にあるのは、ぶくぶく茶釜が持ってきた演劇を知らせるチラシである。まったく同じ出来栄えのそれを見て勘のいい、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーは印刷機の登場を察知した。店を持つ音改は、部数に制限のあったマーレやデミウルゴスの小説が量産されることにほっと胸を撫で下ろしている。
「はっはっは!まさか俺らの関係性まで含めた演劇を作るなんてな!俺はアウトローな探偵だってよ!」
「ナザリック島の怪人を追うベテラン刑事を私。若手の熱血刑事をぶくぶく茶釜さんか。配役はどうなのだろうな」
「セバスは漁に出ていたから、ノータッチなんだろ。ぷぷぷ、たっち・みーだけに」
「さすがにそれはギャグのセンスが低すぎて笑えないぞ、ウルベルト」
「「……。表に出ろやっ!!」」
列に並びながら喧嘩を始めそうなウルベルトとたっち・みーだったが、後方にいたバルバに摘ままれて列からはじき出されて、すぐに我に返った。しかし、その時にはすでに後の祭り。2人は走って行った方が早いと列に並びなおすのは諦めて、デミウルゴスの牧場を突っ切るように西の方へ向かって走って行った。
そんな彼らを見送って、遅々として進まない列にぶくぶく茶釜とヘロヘロの痺れが切れそうな頃、アルベド劇場行きという小さな旗を持ったガイドの格好をしたオーレオール・オメガがやってきた。
「はいはーい。特別急行便です~。飛んだ先では止まらずに、劇場にお入りくださいませ~。オクルーラっと」
列に並んでいた面々が次々と空を飛んでいく。確かにこういった集団を送り届けるのにオーレオール・オメガのルーラは適役だ。無論、列に並んでいたぶくぶく茶釜とヘロヘロの2人もアルベド劇場の入り口前に飛んでいくこととなる。
アルベド劇場の前には、普段は緑の開拓地に露店を開いているメイドたちによる出店が開かれている。売られているのはポップコーンやハンバーガー、サンドイッチやフライドポテトなどの片手間で食べられる軽食である。ナザリック島で一番の売り上げを誇るフォスの居酒屋はビールやルビーラの販売に力を入れている。
ぶくぶく茶釜とヘロヘロはポップコーンと色々な果物を混ぜたミックスジュースを手に劇場の客席へと向かう。
「うわー。僕、こういうところに来るの初めてなんだけれど、何だかすっごいね」
「床は全部絨毯だし、椅子は全部高級ソファだよ。机付きだから、買ったものを手に持たずにゆったりしながら見れるね」
ぶくぶく茶釜とヘロヘロは隣通しの席に座り、机の上に置かれていたパンフレットを見る。『モシャスの腕輪』と呼ばれる変身道具を使って、ギルドメンバーに変身して演技が行われる。
ナザリック島の怪人はハテナマークだけで正体は明かされないようだ。被害者①がヘロヘロで、被害者②がモモンガという斬新な配役である。
推理サスペンス物になるので、主役はなんと若手の熱血刑事を務める『ぶくぶく茶釜』である。ベテラン刑事役のたっちとアウトローな探偵役であるウルベルトに挟まれつつ、ナザリック島の怪人を追う役柄のようだ。
「脚本はマーレとデミウルゴス。舞台道具担当はシズ。装飾や衣装の責任者はアルベドかぁ。まさに適材適所って感じだね」
「雰囲気的に私の役はアウラがしてくれるっぽい!うわぁー、早く始まらないかなぁ」
種族がスライムであるぶくぶく茶釜とヘロヘロは自身の期待が昂ると同時に、うねうねとした触手を何本も出し、待ちきれねぇぜと言わんばかりにソファや机をピシッピシッと叩き、飲み物のお代わりを配る役目を与えられたメイドたちにやんわりとお叱りを受けるのだった。
そして、舞台に劇場の支配人であるアルベド、脚本家のマーレとデミウルゴスが上がる。
「皆さま、大変長らくお待たせいたしました。長々しい挨拶は省きまして、さっそく当劇場初の舞台『ヘロヘロ殺人事件』をご覧くださいませ」
そう言ったアルベドが深々と礼をして、マーレとデミウルゴスも倣って礼をすると、舞台の袖にはけて行く。そして、暗幕が上がると舞台の上には
露天風呂のど真ん中にうつ伏せで浮かぶヘロヘロの姿があった。
観客席のあちこちから悲鳴があがる。エキストラじゃない、ガチの悲鳴である。
そんな開始早々のショッキングな現場に現れたのは、ペロロンチーノさんだった。動きが非常にカクカクしている。
「うわぁ いっしょに とまりに きた へろへろ さんが しんでいる え まさか おれが だいいちはっけんしゃ まじかよー」
斜め前の席に座っていた本物のペロロンチーノが恥ずかしさのあまり、別の意味で絶叫していたが、ぶくぶく茶釜の触手による攻撃を首筋に受けて大人しくなったのを見て、ヘロヘロは面白くなりそうだと次の展開を心待ちにするのだった。
◆
へぇ よくぼうに まけずに
ちゃんと えんげきを かんすいさせたんだ いもうとさん
やるじゃん
「第1回公演も盛況に終わり、至高の方々からスタンディングオベーションからのアンコールも要求されたようですが、ペロロンチーノさま役だったシャルティアさまがギブアップ宣言したので、続けての公演は回避されましたね。私も変幻自在の変身能力を持つナザリック島の怪人役を担えて大満足ですよ」
こんどの こうえんが あるときは ぼくもいこうっと
それで いもうとさんが つぎに うってくると
おもわれる てについての そうだん なんだけれど
「さっさとモモンガ様のリアルのお姿を見せておくのが後々に響いてくると思いますね」
なら まじっくみらーの へやに いもうとさんを とじこめて
にんげんのすがたの ももんがさんの にゅうよくしーんを
みせて どんな はんのうを みせるか けんしょうだね
「くっふっふ。守護者統括殿の忍耐が試されると。中々、ビルドくんもあくどいですねぇ」
きをぬいている じょうたいで おとされたから
ぜんしんを つよく うったんだ
おかげで 48じかんも なにも できなかったし
このくらいの いしゅがえしは とうぜんだよね
ビルドとパンドラの2人による理不尽な嫌がらせがアルベドに襲い掛かろうとしていた。
次回『いっそ、殺せ』byアルベド をお送り致します。
<゜)))彡感想待ってます。