いらっしゃい ももんがさん
ここが ぼくの だいさんの ひみつきち
きんみらいがた ほてるふう だよ
「……匿ってくれるのはありがたいが、あのドリルトロッコでの移動はどうにかならなかったのか?線路上にいたキメラとか蟻の魔物がドリルによる突進で木端微塵になる姿を目の当たりにするのはちょっと心臓に悪かったぞ」
またまたぁ しんぞうがない おーばーろどのくせに
はい らーのかがみ 『ぺかー』
きがえは そこの たんすのなかに あるよ
ビルドに促されて箪笥を開けると、デミウルゴスが着ているようなピシッとしたスーツや、昔の日本で着られていたという着物、『冷やし中華はじめました』などの言葉が書かれたTシャツなどが入れてあった。
俺はその中から、『ナザリック命』と書かれた赤いTシャツを手に取り、短パンを履く。全身が映る鏡を見れば、大分血色がよくなった鈴木悟姿の自分が映っていた。
さぁ ももんがさん まずは はらごしらえしよう
せばすさんが かじきまぐろを つってきてきれたんだ
きょうは かじきまぐろ まつりだよ
どでかい包丁を手に、瞬く間にカジキマグロを捌いていくビルドの後姿を見ながら、俺は先日観覧した舞台版の『ヘロヘロ殺人事件』を書籍化したマーレの新作小説を手に取る。そして、広くて天井にクラゲが泳ぐ水槽がある部屋のソファにもたれ掛かり、本を読む態勢になる。
コンッとコップが机の上に置かれる音を聞いて、そちらを見るとマドハンドと呼ばれる魔物がビールの淹れられたコップを置いて去っていくところだった。
「緑の開拓地にいるマドハンドとは別の種類なんだな」
ぶらっどはんどの あかのて くんだよ
とても きがきく せいかく なんだ
はい かじきすてーき ていしょく~
あらじると しろごはんは おかわりじゆうだよ
大きなプレートに載せられた白い湯気を立ち昇らせる出来立てのご飯を見て、俺は姿勢を正す。
しっかりと手を合わせて、作ってくれたビルド、釣ってきてくれたセバス、そして食材となったカジキマグロに感謝の言葉を述べて、俺は箸を持って食べ始める。
程よい甘みを持つ脂と蛋白でありながらしっかりとした旨味を持つカジキマグロの身を咀嚼し、白ご飯を口の中に掻き込む。モグモグと咀嚼し、飲み込んだ後、適温に保たれた粗汁を啜るとしっかりとした出汁の味とカジキマグロの旨味がぎゅっと濃縮されているようで、またご飯へと手が伸びる。
結構な量があったのに、俺はそれをぺろりと食べ終え、至福の満足感に浸りながらソファに横になる。そこでひと眠りした後、俺はビルドに風呂を勧められる。
風呂はゆったりとした空間にバスタブが置かれたシンプルな作り、飾りつけは大きな鏡と観葉植物が置いてある程度。シャワーで汗を流し終えた後、俺はゆったりとバスタブに身を任せる。そして、鼻歌まじり満喫するのだった。
その頃―
鼻歌を口ずさみつつ、上機嫌な様子で入浴する人間姿のモモンガを見ながら、荒い息遣いをする者が2名いた。ナザリック地下大墳墓の守護者統括にして、モモンガを相手に子作り宣言をしたアルベドと、モモンガを創造主に持つパンドラズ・アクターの2人である。
「はぁはぁはぁ。あれが、ももんがしゃまの……ごくり」
「はぁはぁ。サキュバスである守護者統括の性欲を甘く見ていました。ビルドくんが開発した拘束具と、守護者統括殿本人が弱体化していなかったら、押さえられませんでしたね」
キャタピラーのように両手両足がまっすぐになるように金属の糸で作られた拘束具を着せられたアルベドと、至高の41人の1人であるバルバ・トスアタックの姿から元の姿に戻ったパンドラは両者共に息を荒くしているが、その理由は両者別である。
アルベドはあれほど嫌悪していた人間の姿へと変えたモモンガの裸体に釘付けとなり、壁に張り付くように移動し、無防備な姿で眠るモモンガを見て体をくねらせた。そして、入浴するために身につけていた物を脱ぎ捨てたモモンガの股間にあるものを凝視したかと思うと、危うく拘束具を身につけたままガラスを突き破り、彼の下に突撃しようとしたのである。
咄嗟に抑える側に回ったパンドラであったが、すぐにドッペルゲンガーの自分の姿では抑えきれないと判断し、体力と攻撃力を兼ね揃えたバルバへと変身した。
「はぁはぁ……落ち着きましたか、守護者統括殿?」
「はぁはぁはぁ。くぅ~辛抱堪らん」
「あれほど、人間は下等生物だって、自分で言ってたくせに。何ですか、この醜態は」
「愛の前に種族なんてものは関係ないってことは分かったわっ!!」
「人の話を聞けと言っているんですがねぇっ!!」
こんなやり取りが裏で行われているなんてことを全く知らないモモンガは、その後もビルドの第三の秘密基地に滞在を続けるのだった。
◆
さいきん いもうとさんからの みつぎものが ひどい
「あの一件で、完全に守護者統括殿の何かが吹っ切れましたね。一日も早く、モモンガ様と子を成したいと言わんばかりに、あらゆる素材島に赴いては希少なものを取って来られる」
ぼくは そういうのも じぶんで あつめることに いぎがあるって おもってんの!
もういいよ いもうとさんに これいじょうは つきあってらんない!
たぶらさんが あるといいなって いっていた
りぞーとほてると ちゃぺる つくって
ももんがさんを いけにえにだす
「モモンガさまに創造された私の前で中々物騒なことを言いますね、ビルドくん。まぁ、でも家庭を持つという点におきましては、モモンガ様には必要なことだと思うので私は止めませんがね」
いもうとさんの もくてきは ももんがさんとの およつぎなんだよ
かんじんの こどもが できないと
みつぎもの こうげきは おわらないかも しれないから
あまいちごを かこうして なんとか いっぱつで しとめたい
「……ビルドくん。守護者統括殿に『お世継ぎ』というヒントを与えた者がいるようなのですが、彼を使いますか?」
ももんがさんより さきに はかばに あしを ふみいれてもらおうか
ふっふっふ
◆
緑の開拓地にある武人建御雷の道場に珍しい来訪者があった。
コキュートスは師範である武人建御雷に門下生に向けての指導を続けるように言われたため、それに従って指導をしていたのだが、しばらくすると己も呼ばれた。武人建御雷の日本家屋と呼ばれる母屋に赴き、和室へと入ったコキュートスを待っていたのは創造主である武人建御雷とビルドだった。
胸の前で腕を組んでいた武人建御雷が徐に口を開く。
「コキュートス、お前に縁談の話が来ている」
「……ハ?」
コキュートスは武人建御雷が発した言葉を頭の中でしっかりと吟味した後、疑問の声を上げた。そんなコキュートスの前に差し出されるのは、ビルドが持ってきた縁談する相手が描かれたスケッチブックだった。相手はアントノイド(蟻人)の雌。
成人の儀を1か月後に控えた適齢期の女性。とある島の王族であるが、王位は双子の姉が引き継ぐために成人の儀を迎えるまでに島から出て行かないといけない。
それはさておき、ビルドは至高の41人のギルドメンバーを描かせたら、ナザリック島で右に出る者がいないほど、絵がうまい。つまり、スケッチブックに描かれているアントノイドの女性の容姿はそのままであると判断したコキュートスは雷をその身で受けたような衝撃を受ける。
体はおおむね円筒形で細長く、頭部、胸部、腹部のそれぞれの間がくびれておりとても健康的でありながらとてもセクシーな体型だった。
頭部には大きな顎があるが、手入れをされているのかぴかぴかで、大きく円らな複眼はクールな印象も抱ける。
一対の触覚が発達しているのが見て取れ、柄節のところなど非常にチャーミングな印象を受ける感じだった。
好きな食べ物は生肉。飲み物はハチミツと自らを偽らないところもグッドだった。
「ふむ、コキュートスの好みにあっていたようだ。縁談はいつかな、ビルドくん?」
せんぽうも こきゅーとすさんの
すがたえを みて そのきに なっているから
できれば はやいほうが いいかな
「そうか。ならば、しばらくの間、道場は休みとする。今日の夕方にも嫁をもらいに出立するぞ、息子よ!」
「エ?イヤ、ブジンタケミカヅチサマ。マダ、ヨメトキマッタワケデハナイト……」
こまかいことは きにしないで こきゅーとすさん
あいては あくまでも おひめさまだから
くにのへいしさんたちを けちらす ひつようが あるから そのつもりでね
「嫁にしたければ、その強さを見せる必要があるという訳か。コキュートスよ、某の教えを受けてきた息子であるお前なら、問題なく嫁を連れ帰って来れるな?」
武人建御雷の期待の込められた視線を受けて、コキュートスは逃げ場が完全に塞がれていることを悟った。
恐らく、先日のアルベドに対する助言の所為なのだろうなとは思ったが、相手は自分の好みであるし、細かいことは気にしない方がいいかという考えに至る。
船着き場に待っていたのは、『漢は浪漫を語れ!』と書かれたTシャツを着てサングラスをかけた漁師スタイルのセバスだった。魔改造されたガルガンチュアの動力源となっていた力のオーブを搭載した高速漁船に搭乗したコキュートスは保護者同伴でまだ見ぬ嫁が住まう島へと向かった。
船着き場でコキュートスたちを見送ったビルドが某全世界の神になりそこねた天才のようなあくどい表情を浮かべつつ『けいかくどおり』と呟いてたことはナザリック島の近海にいる魚たちしか知らないのであった。
数日後、ナザリック島に一組の夫婦と夫側の保護者が帰ってきた。
その夫婦は遠目から見ても仲睦まじく、今にも子作りを始めてしまいそうなほどラブラブでそれを目撃したアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーたちに大ダメージを与えた。特にユグドラシルで特定の日にログインしていると貰える仮面を複数枚所持していたメンバーには更に特別な大ダメージを与えるほどラブラブだった。
その夫婦は保護者の家の裏に建てられた子供部屋がたくさんある木の壁や柱で作られた3階建ての家に足を踏み入れ、そのまま夫婦水入らずの時を過ごすことになる。それ以降、道場の師範代は一層のこと気合を入れて、その業務に励むことになった。
その上、連れ帰ったお嫁さんのお腹に新たな生命が宿ったことがナザリック島全体に知れ渡ると、同僚たちから祝福の言葉が送られると同時に、ギルドメンバー各位にまた大ダメージの波が襲い掛かることになるのだが、それはまた別のお話。
◆
あまいちごをつかったわいんの こうかは じっしょうされた
はまべに りぞーとほてると かわいいちゃぺるも たてた
ももんがさんを つりだすのは かんたんだけど
にげられないように するには しろじいの しんでんがいいか
おめがおねえちゃんにも きょうりょく してもらおう
ももんがさんを れんこうするのは ぎるめんの ひとたちに まかせてしまえばいい
らーのかがみと あまいちごのわいんの こんぼで いっきに きめる!
ももんがさんに なにか いわれたら にぐれどおねえさんを ひとじちに とられたっていえば かっこうが つくよね
これで だいぶ ぼくのまわりも しずかになるよね
つぎは なにを しよっかなぁ
(ストーリー最終話に続く)
これにて、アルベドの話は終わりです。
また別の話を今度はアップします。