からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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番外編『ビルドの復讐』

漆黒の剣士モモンのパートナーのナーベとして、冒険者の活動をはじめた戦闘メイドのプレアデスの1人であるナーベラルは市場調査のために、1人で市場に赴いていた。

 

露店が立ち並ぶ通りを歩くが、特に目新しいものはなく、主であるモモンガ改めアインズ・ウール・ゴウンのいる宿屋に戻ろうとした彼女に声を掛けてくる者がいた。

 

「そこの くろかみの おねえさん めずらしいものが あるんだけれど おひとつ いかがですか?」

 

舌足らずな声色と口調。ガガンボの子どもかと見下すように声の主を睨みつけると、ヘラヘラとした暢気そうな笑みを浮かべる金髪の子どもがいた。

 

置かれているのは薬草と思われるものや、金や銀といった鉱石をふんだんに使った指輪や腕輪などだ。

 

こんな小さな子供が売っていたら、ガラの悪い大人に奪い取られてしまいそうだと鼻で笑うナーベラルだったが、少年の後ろの壁に飾ってある絵を見て言葉を失った。

 

「え……そん、な……馬鹿な」

 

「おねえさん おめがたかい このえは ほりだしもの なんですよ なんでも みなみのくにで あがめられている かみさまと そのむすめさんを えがいた ごりやくのあるえだそうで おねだんは なんと きんか500まい! のところを おねえさんの うつくしさに まけて 300まい にしておくね」

 

「金貨300枚っ!?」

 

ナーベラルは咄嗟にアインズからナーベ用にと受け取った財布の中を見て、小銭しかないのを悟って絶望の表情を浮かべた。

 

目の前のガガンボの子どもを殺して絵を奪い取ることも考えたが、その方法を取ることは今のナーベラルには出来なかった。

 

なにせ少年の後ろの壁に飾られた絵はナーベラルの創造主である【弐式炎雷とメイド服姿の己】が描かれているものだからだ。殺して奪い取るということは、創造主である弐式炎雷が描かれた絵に対して、(人間に値段をつけられるという屈辱であるが)つけられた正当な対価も用意が出来ないと自ら認める様なものであるからだ。

 

「……必ず、金貨は揃えるから。誰にも売らずにとっておいてもらえますか?」

 

「さいきん うわさの ちーむしっこくの なーべさんに たのまれたら ことわれないね わかりました このえは だいじに まほうのふくろに なおしておきます」

 

そう言って少年は壁から弐式炎雷の絵を外し、光沢のある綺麗な白い布でそれを包むと腰につけていた袋に押し当てた。すると、弐式炎雷の絵は瞬く間にその袋に吸い込まれ、少年はその袋から今度は緑色の布を纏った絵らしきものを取り出した。

 

その様子をじっと見ていたナーベラルは絶句する。弐式炎雷の絵が片付けられた場所に次に掲げられた絵は【ウルベルト・アレイン・オードルとデミウルゴス】が描かれたものだったのだ。

 

わなわなと震えながらナーベラルはその絵も指さす。

 

「そ……それは、おいくらですか?」

 

「こっちは きんか 500まいの ままだよ なーべさん」

 

「ぬ……ぬあぁああああああっ!!」

 

露店が立ち並ぶ通りに、最近登録されたばかりの冒険者チーム『漆黒』の麗しきマジックキャスターの悩ましい声での悲鳴が響き渡るのだった。

 

 

 

 

宿屋にて冒険者としての稼ぎを、硬化を一枚一枚手に取って確認して、『明らかに赤字だよなぁ』とげんなりしていたモモンガは、部屋に戻ってきて早々に土下座するナーベラルを見て、何度も精神が沈静化されていた。

 

ようやく一連の流れが収まったので、モモンガが咳払いをした後でナーベラルに声を掛けたところ、『お金を貸してください』と額を床に擦りつけながら懇願される。

 

「待て、ナーベラル。顔を上げるんだ。一体何があった?」

 

顔を上げたナーベラルは涙目で鼻を啜っていたが、ひとつひとつ赴いた露店通りでのことを話してくれた。

 

そして、12歳くらいの人間の子どもが開く露店で、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーである弐式炎雷さんとウルベルトさんの立ち絵が金色の額縁に入れられた絵画として売られているという話を聞いて、俺はモモンの姿で走り出した。その後を急いで追ってくるナーベラルが追い付けない速度で。

 

ナーベラルの話にあった人間が経営する露店、壁に立てかけられたウルベルトさんとデミウルゴスの2ショットで描かれた絵画を見て、俺は店主に購入の意思を伝える。

 

「少年、その絵を買わせてほしい。だが、今は手持ちがないから、取り置きをしていてもらいたい!」

 

「まぁ きんか500まい なんて そうかんたんに よういは できませんよね けど いっかげついないで おねがいしますね ぼくは たびのしょうにんなので ひとつのまちにばかり とどまっては いられないので」

 

露店の店主である少年の言葉を聞いて、ナーベラルが何故、自分にお金を貸してほしいなどと言ってきたのか、その理由が分かった。期限付きだったのだ。

 

俺は、物は試しにとユグドラシル金貨を取り出して少年に見せる。少年は物珍しそうにそれを見た後、俺の手にそれを返してくる。そして、おもむろに袋に手を入れた少年が似たように金貨を取り出して、俺の手に載せる。重さは俺が少年に手渡したユグドラシルと同じ重さの金貨だった。ただし、表面には何も描かれていないものだ。

 

「ぼくは うるしょうひんに たいして そのひとが どれだけ せいいをもって くれるのかが みたいんです たとえ このくにの きんかよりも かちがあろうと ぼくは そのきんかは みとめないですよ ももんさん」

 

「そうか、君にも誇りがあるのだな。分かった、なんとか金貨は用意してみせる」

 

「なら このえも まほうのふくろに なおしておきます ぼくが もっている まほうのふくろは とくべつせいで たくさんのにもつを いれられるんですが まえのしょゆうしゃのものは きえて なくなって しまうんです」

 

「……それはどういう意味だ?」

 

「ぼくが しんだら このふくろの なかに はいっている しょうひんは あとかたも なくなるってことです」

 

それは暗に、荷物を奪い取ろうとしても少年が死んでしまえば荷物は消えてなくなると警告された気がした。少年は乾いた笑いを漏らしつつ、言葉を紡いでいく。

 

「おきゃくさんの なかには しなものだけを よこせ とか おまえを ころして うばいとるって いうひとも すくなくないので」

 

少年は苦笑いしながら、俺の背後にある細い裏路地を指さす。それに従って俺が振り返って見た路地には、顔に傷があったり、浮浪者のように小汚い格好をしたりした者たちが山ほど気を失って転がっていた。中には革の鎧や武器を持った者もいるので、冒険者もピンキリなのだなと思った。

 

「我々はあのような輩とは違う。誠意は必ず見せる」

 

「ええ そこは うたがって いませんよ ももんさん」

 

そう言ってウルベルトさんの絵を魔法の袋に仕舞った少年が取り出して、壁に立てかけた絵画は【ヘロヘロさんがソリュシャンやメイドたちに囲まれたハーレム風の絵】だった。

 

 

 

 

向こう側とナザリック島の時間の流れが違うらしく、2日ぶりにナザリック島に帰ってきたビルドは復讐を達成して、ほくほく顔だった。

 

旅の扉の前に重ねられた山の様な金貨。ナザリック島に流通するAOG金貨とは比べ物にならないほど、金の比重が軽い金貨だが、あちらの世界ではそれなりに価値があるものだという。

 

ビルドの話では、この金貨が30枚あれば家族3人が1年は何もせずとも暮らしていける額らしい。

 

みんなの たちえを いちまい きんか300まいから 500まいで うってきた

 

ぼうけんしゃや わーかーとして なざっりっくのぜんいんで かせいで こうにゅう してくれたんだ

 

かけいは ひのくるまに なっているらしいけど ぼくを おこらせたんだから しかたないよね

 

 

ビルドの説明ではよく分からない用語もあったが、その世界の俺は随分と涙ぐましい努力を余儀なくされたようだ。支配者ロールで、優秀な部下たちの言動に悩まされ、家計も自分が考えないといけないとか、最悪すぎるだろ。

 

「提案した者として言うのも何だけれど、外道すぎんだろ」

 

るし☆ふぁーさんすら、ドン引きするビルドの所業につくづく彼が味方で良かったと思う。

 

きんしょのほうは ゆぐどらしるきんか いちおくまいずつで うれたよ

 

こうにゅうしゃは それぞれ そりゅしゃんさん しゃるてぃあさん あにきだったよ

 

「……その金貨の出所が知れたら、やべぇんじゃねぇの?」

 

なざりっく ないぶほうかい まったなしだね てへぺろ

 

 

可愛らしく舌をペロッと出してポーズを決めるビルドであるが、彼の帰還を知り集まってきた面々は向こう側の世界でやってきた所業を聞き、恐ろしいものを見るかのように彼を遠巻きに見ている。そんな中、ビルドが袋の中から何かを取り出した。

 

「ビルド、それは?」

 

らーのてかがみ もちはこびに べんりだけれど こうかが いっかいの こういくらいしか もたないやつ

 

「おい」

 

これを かるねむらに たまたまきていた あるべどさんに 

 

ももんがさんとの つーしょっとを みせながら 

 

こうかを せつめいし つかみとれる みらいを ささやきながら

 

ゆぐどらしるきんか ごおくまいで うってきた

 

あまいちごの わいんを ひとけーすは おまけしてきた

 

たぶん いまごろ あっちの ももんがさんも しっぽりと しているんじゃないかな

 

 

遠い目をしながら水平線を眺めるビルドであるが、俺たちはそう思わなかった。

 

 

 

 

「アインズさまぁ~、どちらに向かわれてしまったのですかぁ?お隠れになっても無駄ですよ、こちらにはニグレドお姉さまがいらっしゃるのですからぁ」

 

「ああ、愛しのアインズさまの子種を頂ける日が来るなんて」

 

「ちょっと、偽乳!抜け駆けはすんなって、言ったでしょ!!」

 

ああ。どうして、こんなことになってしまったんだ。ギルドメンバーの子どもたちである階層守護者たちや、守護者統括でありサービス終了の日にテキストの設定を変えてしまったアルベドが俺を探している。

 

ギルメンの立ち絵姿を描いた絵画を売っていた商人の少年は、ナザリック地下大墳墓のNPCたちに俺とは別ルートで販売ルートを築いていた。

 

ユグドラシル金貨には興味がないと言っていた癖に、実に8億枚ものユグドラシル金貨を奪い取っていった少年。

 

その代価に彼がナザリック地下大墳墓に齎したのは、俺がヘロヘロさん、ペロロンチーノさん、マーレの3人と泡塗れになりながら、キャッキャウフフとスキンシップしまくるBL本が3冊と、俺を人間の鈴木悟という弱弱しい姿に変えてしまう恐ろしい鏡。

 

それとセットで渡されたという飲んで性行為をすれば百発百中のワインがボトルで24本。

 

アルベドは完全に正気を失っていて、何をするにしても、『まずはお世継ぎを』と言ってくるようになった。メイドたちの話によれば、彼女の部屋にはタキシード姿の俺とウエディングドレスを着たアルベドのツーショットが描かれた絵画が飾られているらしい。そんな絵のモデルになった覚えはないのに。

 

俺は音を立てないように慎重に息を殺して移動する。すると、何かを踏みつけた気がした。ゆっくりと下を見れば、執事見習いのエクレールがジトっとした目で俺を見上げていた。彼の鳴き声を聞いて集まってくる守護者たち。強制的にベッドルームに連行される俺。

 

その後、ボトルに入ったワインが無くなるまで俺は馬車馬のように腰を振ることになるのだった。

 

「あ……、思い出した。あの、商人の少年って……カルネ村で殺し損ねた……。これは復讐だった……ってことか」

 

目の前で繰り広げられる女体の狂宴。それを見ながら、俺は静かに心を閉ざすのだった。

 


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