からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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モンゾーラ島編 その④

キビの栽培方法を知るエイオウジ教団の副総統マギールの部下の家は、湿地帯の崖上に立つしっかりとした作りの見栄えのいいログハウスだった。

 

そこで村で栽培している作物の小麦と引き換えに『かわきのつぼ』という道具をビルドが貰うこととなった。このかわきのつぼの性能は、ユグドラシルでいうワールドアイテムに匹敵するものだった。

 

使い方は簡単、液体をかわきのつぼで掬う。あとは満たしたい場所でかわきのつぼを傾ければ、延々とその液体が止め処なく放出される。端的に言えば、世界一高い山の頂上からかわきのつぼを使って液体を流せば、その世界をその液体で水没させることも可能だという。完全なオーパーツである。

 

その所有者となったビルドは、マギールの部下のお願いを受け、ため池を満たすため、崖下の湿地帯の泥水を回収しに降りて行った。そんなビルドを見送った俺は、マギールの部下である魔物に尋ねる。

 

「あれを使えば、このモンゾーラ島を丸ごと沈めることだって出来たはず。何故それをしなかったんだ?」

 

「……そうですね、ハーゴン教団は『破壊こそ救い。創造は破滅をもたらす』と唱えていましたが、見ての通り私共が住んでいるこの家は壊されませんでした。他の島々にいる教団に属する魔物たちも同様です。自分たちが住んでいる場所には手を付けず、人の手で作られたものを破壊するのです。矛盾を抱えた組織でした。かつて、この島を支配していたヒババンゴさまも人間が何かを作り、それを壊してやった時の絶望する様子が楽しいのだとおっしゃっていましたが、私共はこうやって人間が育てた野菜を食べている時の方が幸せなのです」

 

マギールの部下たちはビルドから貰ったばかりの野菜をモグモグと口にし始めた。その様子を見ていたヘロヘロさんが疑問を呈する。

 

「あれ、でも今はエイオウジ教団って言うんだよね?」

 

「はい。ハーゴン教団がエイオウジ教団に接収されたという話を私共が知ったのは、この島に新しい総統としてやってこられたアーラマーレさまがやってきた時でした。リリパット族のような小柄な体格のアーラマーレさまを見て、好き勝手してきた総統の地位から降ろされることを知って焦ったヒババンゴさまは馬鹿にするような発言をしてしまったのです。その結果、アーラマーレさまの土を隆起させる魔法やドラゴンの形をした雷撃の魔法、鞭による目にもとまらぬ連続攻撃や、突如黒い瘴気を身に纏って反旗を翻したマンドリルやオークたちの集団攻撃を受け、ヒババンゴさまは碌に抵抗できずにお亡くなりなりました」

 

後ろ手に組んで悲しき過去を語るように話すマギールの部下。その後ろで俺とヘロヘロさんは硬直してしまったピンク色のスライム、ぶくぶく茶釜さんをガン見していた。

 

今まで何の疑問も抱いてこなかったハーゴン教団を取り込んだエイオウジ教団。これは魔物たちの発音の問題だったのだ。恐らく表記するとエイオウジ教団というのは、【AOG教団】。つまり、【アインズ・ウール・ゴウン教団】の略称なのだ。

 

そして、ここモンゾーラ島を支配する存在というのは、アーラマーレというリリパット族に似た魔物ではなく、

 

「アウラ、マーレ……。君たちもここにいるんだね」

 

ぶくぶく茶釜さんがユグドラシル時代に心血を注いで生み出した双子のダークエルフ姉弟のNPCであるアウラとマーレに他ならない。というか、マギールの部下の思い出話で聞き流せない事実があったんだけれど。俺と同じことを考えたヘロヘロさんがそれを口にする。

 

「え、アウラとマーレって、ユグドラシルの魔法を使えるの?それって無理ゲーじゃない?」

 

 

 

なにか あった?

 

崖下の湿地で泥水を汲んで帰ってきたビルドと犬のローラ(俺が名付けようとしたイヌミは却下された)は沈んだ様子の俺たちを見て、心配するように声を掛けて来た。何でもないというにはショックがでかすぎた俺たち。ビルドは何かを察したのか深く追及はしなかったものの、立ち尽くした状態のぶくぶく茶釜さんが一番ショックを受けていると見た彼はローラを胸に抱えた。そして、ぶくぶく茶釜さんの顔の部分を舐めまわさせた。

 

「わっ!?わっぷわわわわ!?」

 

 

なにがあったか しらないけど ここで つったってても なにも はじまらないよ

 

愚直なまでの正論をビルドにぶつけられたぶくぶく茶釜さんは、ぶるりと粘液の身体を震わせる。すると両手の触手を突き上げ、咆哮を上げた。

 

「うおぉおおお!娘と息子がなんぼのもんじゃーい!子育てしたことないけど、子ども達の反抗期だというのなら身体でぶつかるのみー!」

 

「それに2人がぶくぶく茶釜さんを見れば、何かしらアクションがあるかもしれないですしね!」

 

「……あれ、でもルプスレギナもエントマもナザリックのメイドたち全員、自我があるってことは当然……」

 

アウラとマーレにも自我があるという訳で。村に戻ったらNPCたちの意識調査をする必要があるなと、無いはずの胃がキリキリと痛むのだった。

 

 

 

湿地帯で手に入れたキビの種の栽培はビルドと村人たちに任せ、俺たちはナザリックハイツにてルプスレギナたちやメイドたちと面談をしていた。ユグドラシルで過ごしていた記憶、こちらの世界に来てから何をしていたのか、そしてナザリックを去ったプレイヤーたちのことをどう思っているのか。

 

まずユグドラシルでの記憶だが、それは全員が持っていた。ただし、プレイヤーである俺たちに指示されないと動けないこと、決められた言葉しか話せないことに少し不満を抱いていたと。

 

こちらの世界に来てからの活動については個人個人でばらつきがあったものの、ルプスレギナは俺たちと会う直前までの記憶はなく、エントマも気づいたらご飯……蟻がいっぱいいる洞窟の中で目覚めたという。そして、メイドたちは鐘の音を聞いて初めて行動を起こしたらしい。

 

「1人また1人とナザリック地下大墳墓を去っていくプレイヤーを見て、寂しい、置いて行かないで欲しい、自分たちに不備があるのなら直すからどうか戻ってきて欲しい、か」

 

「…………。」

 

「返事がない。屍のようだ……って、ヘロっち!コントしている場合じゃないんだよ!」

 

「いや……だって、こんな健気な子たちを放ってリアルのあんなブラック企業での仕事を優先していたなんて、僕は人間失格だぁー!……もうスライムだけど」

 

「オチをつけるな、オチを。でも、困ったなぁ。創造主ではない私たちでこれだもん。相手が自分を生み出した相手なら感動は人一倍あるよね?」

 

「いや、可愛さ余って憎さ100倍になっている可能性も微レ存では?どうしますか、アウラとマーレに『僕たちを捨ててリアルを選んだ奴だ』って蔑んだ眼で見られたら」

 

「ぐふぅっ!?…………。」

 

その光景を思い浮かべたのか、ショックのあまり弾けて床にべちょっと広がるぶくぶく茶釜さん。メイドたちの切実な訴えでダメージを受け灰になり、それからやっとの思いで回復の兆しを見せていたヘロヘロさんも再度動かなくなった。2人とも精神的ダメージがでかいと判断した俺はメイドたちに2人の介抱を任せ、少し肩を落としながらビルドの下へ向かう。

 

 

 

とまと と かぼちゃの たねを みつけにいくよ!

 

有無を言わせず、ビルドは俺の手を取って走りだす。ローラもきゃんきゃんと元気に吠えながら駆けながら付いてくる。道すがらどういうことなのかを尋ねると、湿地帯を進んだ先に大樹の茂る森があるらしいのだが、その手前にトマトを育てていた集落の跡地があり、森の奥にある教会の跡地付近にかぼちゃを育てていた人の痕跡があるとチャコやポンペ、マギールから聞いたのだと言う。丁度出てきた俺を見て、これ幸いだと動くことを決めたという。

 

湿地帯にある素材はあらかた回収したので、徘徊する魔物たちとの戦闘は極力避けて進む。てくてくと目的地に向かって歩くビルドの背中を見ながら俺はふと問いかけていた。

 

「ビルド、ひとつ意見を聞かせてほしい。ありえないことだが、もしも、……俺が他にすることがあるからと言って、ビルドの前からいなくなるとしたら、君はどう思う?」

 

俺がそう問うと、ビルドは腕を組んで悩むような仕草を見せる。だが、ちゃんと振り返り俺を見ながらはっきりと告げる。

 

 

がんばって っていうとおもう

 

さびしくなるけど きっとももんがさんにも やるべきことが あるんだっておもうから ぼくはおうえんする

 

ももんがさんは そういうときに どうおもったの?

 

 

『頑張ってって言う』『やるべきことを応援する』。ビルドからその言葉を聞いて、俺の心にかつて抱いていて失ってしまったものが再び芽生える。

 

そうだ、俺も、ギルドメンバーがユグドラシルから去る時、寂しさを抱きながらも笑顔で送り出したじゃないか。今まで優先していたユグドラシルよりもリアルで生活することを選び、去っていった仲間たち。

 

それは仕事だったのかもしれない、

 

それは家族のことだったのかもしれない、

 

夢だったのかもしれない、

 

過酷な現実だったのかもしれない。

 

せめて、ユグドラシルでの日々が皆の心の支えになりますようにと願いながら、俺は皆を笑顔で送り出した。リアルに疲れた時に、ふと思い出してくれるように。

 

「ありがとう、ビルド」

 

うん どういたしまして

 

俺自身が忘れていた記憶と想いを思い出させてくれたビルドに感謝の言葉を紡ぐ。どれだけ彼に伝わったのかは分からないが、俺はちゃんと進めそうだ。大なり小なりNPCたちも思うことはあろう。もしかしたら自分たちを置いていなくなったと憎しみを抱いているかもしれない。

 

けれど、きっと彼らも少なからず俺があの時に抱いていた気持ちと似たようなものを持っているはずだ。きっと分かり合える。だって、アウラとマーレは最後の最後にユグドラシルにログインして、俺たちに義理を果たそうとしてくれたぶくぶく茶釜さんの子どもなんだから。

 

その後、ビルドと俺はトマトの種とかぼちゃの種を手にする。

 

トマトの育成方法を学んだ後、洞窟内にいたオークから肥料の作り方を学んだビルドが村人やメイドたちのアレを使って実際に肥料を作るところをみて「あっちゃー」と思ったり、リリパット族の族長の頼みでアローインプの討伐をお願いされ麻痺の矢でびりびりしながら戦ったり、教会跡地でゴーストと簡単な建築と約束をしたりしたが割愛する。

 

ビルドと共に村に帰るとヘロヘロさんとぶくぶく茶釜さんが献身的なメイドたちの介抱を受け復活していた。まだまだ不安定な部分はあるようだが、もう出た時勝負で行くらしい。ついでにトマトとかぼちゃの種を持って帰ってきたと伝えたら、『モモンガさんだけずるいー!』と責められた。肝心な時に燃え尽きている方が悪いのである、フハハハハ。

 

ちなみにビルドはその間も取得したトマトとかぼちゃを畑に植える作業をしており、数日経過するころには彼が作った段々畑は色とりどりの野菜が生り、壮観な景色となっていた。それこそ俺たちがリアルの文献や写真媒体でしか見たことのないような豊かな光景で、俺たちをこの村へと誘ったチャコの夢である大農場の完成の時だった。

 

前々から大農場が完成した暁には収穫祭をすると村人たちは色めき立っており、カボチャのランタンや祭りの旗などを村のあちこちに設置する作業に従事していたビルド。それもようやくひと段落つき、その夜には収穫祭が行われた。

 

かぼちゃの中身をくり貫いたものを頭に被って思い思いに踊り、採れたばかりの野菜を使った料理がふんだんに振舞われ、村人の男が思わぬ美声を発して歌ったり、調子に乗ったヘロヘロさんがかぼちゃのランタンを三つ触手で持ち上げて「キング〇ドラー」とふざけたり、いつの間にか参加していた教会跡地にいたゴーストが姿を現して一種の肝試しになったり、それは楽しい、本当に楽しい時間だった。

 

他のギルドメンバーや、この世界に来ているだろうNPCたちもいればなおのこと。

 

 

 

翌朝、収穫祭で盛り上がったまま思い思いの場所で休んでいた俺たちは、ガタガタと建物どころか村全体が揺さぶられるような突然起きた地震で目が覚めた。それぞれナザリックハイツや農家の平屋から出てきて顔を見合わせる俺たち。その時、

 

「マァギィイイルゥウウウ!!」

 

起き抜けの俺たちの耳に劈くような声で、エイオウジ教団の副総統であるマギールが呼び出される。声の発生源に目を向けると、そこには全身が黒い泥のような身体の大猿、その上に立つ2人組の姿がいた。その姿を見て、ぶくぶく茶釜さんの身体が硬直する。

 

肩口で切りそろえられたショートカットでボーイッシュな服装の少女、おかっぱ頭でベストとスカートを身に纏う少年。姿形はまさにナザリック地下大墳墓第六階層守護者アウラとマーレなのだが、全身が大猿と同じで黒い泥のようなもので構成され、本来であれば緑と青のオッドアイであるはずの瞳は煌々とした濃い赤色の光を妖しく放っている。

 

「お前、下等生物に組したのかぁあああ!あのアホ猿よりは使えると生かしておいたのに!なによ、この体たらく!役立たずが!やってマーレ!」

 

「うん、お姉ちゃん」

 

少女の格好をしたマーレが持っていた杖を前に突き出す。すると、村で苦々しい表情を浮かべていたマギールの直下の土が揺れ、その直後に尖った岩が飛び出してきた。咄嗟の出来事だったため俺たちの誰もが反応できない中、俺の視界の端でビルドが大木槌をフルスイングする姿が見えた。

 

「ッ!?ぐぅあああー」

 

ビルドの大木槌で直前に吹っ飛ばされたことによって鋭利な岩の攻撃の直撃は免れたマギールだったが、体の正面が鋭利な岩の切っ先に大きく切り裂かれる。その衝撃で大きく弾き飛ばされ、農場の一角に作物を押しつぶしながら落ちた。チャコをはじめとした村人たちがマギールに駆け寄る中、ぶくぶく茶釜さんがアウラとマーレの前に躍り出た。武器や大盾を装備せず、丸裸の状態で。

 

「やめて、アウラ!マーレ!」

 

「はぁ?気やすく私たちの名を呼ぶな、下等生物!ほら、アホ猿!ぼさっとしていないでそいつごと、あの樹を滅茶苦茶にしなさい!」

 

アウラとマーレが飛び降りると同時にその場でグルグル回転し加速していく大猿。自分が生み出したアウラとマーレに相手にもされなかったショックで微動だしないぶくぶく茶釜さん。俺は茨の杖を捨て、彼女が置いて板った茨の大盾を拾いながら駆ける。

 

俺がぶくぶく茶釜さんのところに辿り着くのと、大猿が転がり始めたのはほぼ同時だった。俺はぶくぶく茶釜さんを後ろに回し、茨の大盾を構えて衝撃に備える。しかし、大猿の突進攻撃の威力は想像以上で敵の攻撃が盾と接触した瞬間の衝撃で、俺とぶくぶく茶釜さんは桟橋がある方向へと大きく弾き飛ばされた。

 

薄れ行く意識の中で、アウラとマーレが呼び出した黒い瘴気を身に纏う魔物たちの襲撃が行われる。助けに行かないと、そう思いながらも俺はその場で意識を失うのだった。

 

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