【戦後処理】
「いやぁ、さすがモモンガさん。かっこよかったですよ、あの魔王ロール。しかも、何ですか、あの【メラガイアー】って魔法。格好よすぎのヤバすぎじゃないですか!」
AOG教団の壊滅によって魔物の襲撃に備える必要のなくなった北側の防壁を破壊する作業に従事している中、興奮した様子のヘロヘロさんに話しかけられた。彼には悪いのだが、無事な姿のビルドを見てからというもの、あの時のような昂りは鳴りを潜め、せっかく覚えたメラガイアーも使えなくなってしまっている。一種の覚醒状態だったのかな、と冷静になって分析をしているところだ。
「僕もモモンガさんのように攻撃魔法が使いたいなぁ。いっそのこと固定された魔法が使える杖を開発してって、ビルドくんに頼もうかなぁ」
「あぁ、それもいいですね。けど、それはモンゾーラ島で手に入る素材では対応できないのでは?」
「いやいやモモンガさん、しろじいも言っていたじゃないですか。からっぽ島付近の海域には大小様々な島があるって。きっと他にもいろんな素材がある島々がありますって」
「ほんと、人の欲って無限ですよね。お願いばっかりして、ビルドに呆れられないように俺たちも一層がんばんなきゃいけないですね。まずは防壁の片づけを終わらせましょう。村人とメイドたちが美味しいご飯を作って待っていますからね」
「ふははは、スライムの特性を十分に見せつけてやるぞー」
うねうねといくつもの触手を出したヘロヘロさんが積み重ねられた防壁の高いところにあるブロックをどんどん解体し崩していく。それを下の方で受け取ったメイドたちと村人たちが収納箱に次々と入れていく。
そして、あっという間に村の北側に佇んでいた防壁は綺麗さっぱりなくなるのだった。
【アウラとマーレ】
「「モモンガさまー」」
タタタッと駆け寄ってきたボーイッシュな格好をしたダークエルフの少女アウラとベストとスカートを身に纏ったダークエルフの少年マーレ。険がとれた柔らかな印象を受ける丸みのあるボディ(ぷれぷれぷれあです調)となった2人に呼び止められた俺は膝を折り、彼女たちと視線を合わせる。緑と青のオッドアイにがいこつ姿の俺が映る。
「ご機嫌いかがですか、モモンガさま」
「こ、こんにちは。モモンガさま」
「ああ、変わりないよ、2人とも。今日はどこに出かけるんだい?」
「はい!今日はぶくぶく茶釜さまたちと湿地帯の先にいった所にある浜辺でカニを食べます!」
「いっぱい取れたら、モモンガさまたちにもお土産を」
「いや、俺たちの心配はしなくともよい。しっかりと楽しんでおいで」
「「は、はい!」
子どもらしい笑みを浮かべて、完全装備のぶくぶく茶釜さんのところへ戻っていくアウラとマーレを見送る。2人を抱きとめたぶくぶく茶釜さんの周囲には同じく装備を整えたルプスレギナとエントマ、それと非戦闘要員の幾人かのメイドたちの姿もある。俺はその一団に向かって手を振る。すると、アウラとマーレをはじめとした面々が大きく手を振って目的地に向かって徒歩で向かっていった。
「……行ったな。では、話をしよう」
俺が振り返った先にはビルドとヘロヘロさんがいた。
【船問題】
「俺たちの本来の目的であるからっぽ島の開拓に向けて、移住者を募ったところ、チャコやポンペ、リズにみみずんといった村人たちが挙手してくれた。アウラとマーレも正気を取り戻し、からっぽ島を開拓するには何もかも順風満帆だ。しかし、肝心のからっぽ島に戻る船がな」
「行きは僕とモモンガさんにビルドくんの3人に船長だけだったから、広く使えていたけれど、この人数を運ぶとなると何回かに分けないといけないですよね。しかも、プレアデスとメイドたちは僕たちの誰かがいないといけない訳で……」
しかも いきとかえりに みっかずつ おうふくで むいか かかる
淡々と現実を告げるビルドの言葉に俺たちの気持ちはなお一層沈む。ちなみにからっぽ島に移住するメンバーを整理すると、
・ビルド
・至高の41人 そのうちの3人
・階層守護者 2人
・プレアデス 2人
・ナザリックのメイドたち 18人
・モンゾーラ島からの移住希望者 4人(みみずん含む)
の計30人という大所帯。仮に船で10人が移動できるにしても、メンバー選びが重要になってくる。
「ぶくぶく茶釜さんには悪いが、しばらくアウラとマーレのカウンセリング期間という名目でモンゾーラ島に残ってもらう形にしよう。それとヘロヘロさん」
「“貸しいち”ですからね」
「オーケーです。1回目の輸送はビルドと移住者4人に俺とメイドを4人連れていきます。今朝方、朝食の後にメイドたちに引かせた籤がそれでした。4人分は白紙だったので、ぶくぶく茶釜さんのお世話係やヘロヘロさんのお世話係を命じられた者たちから憐みの視線を受けていましたが、きっと船に乗ることになれば一転するでしょう」
ちなみにその光景をたまたま見ていたビルドは引いた籤と同様に真っ白になるメイドたちがいたことを知っていたりする。
【出港】
【阿鼻叫喚】とはこのことだな、と俺は船に意気揚々と乗り込んだメイドたちと岸の方でハンカチを噛んで悔しそうにしているメイドたちの姿を見る。
資材が全くないからっぽ島を開拓するにはビルドとみみずんの力は必須。ナザリックに属するメイドたちのやる気を損なわないために、からっぽ島にもモンゾーラ島にも俺たち至高の41人の誰かはいないといけない。ぶっちゃけ、からっぽ島の開拓に関われないとか俺にとっては地味に地獄だ。
ちなみに見送りにぶくぶく茶釜さんたち一行はいない。彼女たちに付いて行かせたメイドたちには、籤を引かせた際にちゃんとモンゾーラ島全体を観光できるように、アウラとマーレの興味を引くような言葉かけをするように指示を出し終えている。今頃、教会跡地でゴーストと会話している頃だろう。
「では、ヘロヘロさん。次の便でからっぽ島に来た時に留守番役を交代するってことで」
「1週間の辛抱ですね。のんびり露天風呂に浸かりながら待っていますよ」
そう言って言葉を交わした後、俺は船に乗った。船長は連れ帰る人の数を聞いておったまげていたが、俺たちの頑張りを聞いて、船の上でただ待っているだけだった自分が恥ずかしいと、「責任を持って全員を連れ帰れるように頑張る」と約束してくれたのだった。
【3日後】
からっぽ島に帰り着いた俺たちは、取って返すようにモンゾーラ島へと引き返していった船長を見送り、しろじいの案内で神殿へと向かう。しろじいに経緯を説明し、残り20人ほどからっぽ島に移住者がやってくることを伝えると感極まって泣いていた。霊的な存在なのに器用な真似ができるな。
しろじい的にまず開拓するには緑の開拓地がいいとのことにて、徒歩で移動する。風のマントでひとっ飛びだよとビルドが言ったが、試そうとしたチャコがバランスをとれずに落下し、打ち付けた身体の痛みを訴える様を見て全員が首を横に振った。
辿り着いた緑の開拓地は枯れ木や岩がごろごろしている乾いた土地だった。川が流れていたんだろうなという位置には他の枯れ木とは比較にならないほど太い木が鎮座していた。
何をするにもまずは整地をするということで、適当に土地を確保したビルドはモンゾーラ島から持ってきたカカシを確保した土地に突き刺し、みみずんが作物を育てられる土壌へと変える。その後、その近くに木の壁で囲んだ水場を確保し、作物を育てられる環境を作った。そこで俺たちは料理したら一番腹持ちの良いパンを作る材料である小麦を植える。種を植えて、そこにビルドが、成長が飛躍的に早まる肥料を撒くと、すぐにぴょこんと小麦の芽が出る。すると辺りが急に薄暗くなった。
雲が出てきたのかなと思って見上げると、川が流れていたであろうと思われるところに鎮座していた大木が俺たちの様子を上から覗き込んでいた。
「「「「ほぎゃあああああっ!?」」」」
思わず樫の杖を構える俺たちと大木槌を構えるビルド。
大木は俺たちと一緒に驚いた後、両手にあたる部分の枝を上にあげて、敵ではないアピールをしている。
「待ってくれ、俺はブループラネット。こんななりをしているが敵ではない。というかスケルトンも共に行動しているのなら、トレントの俺がいたって問題ないだろう?」
その声と名前を聞いて俺やメイドたちの身体が震える。俺は恐る恐るそのトレントに話しかける。
「……え?本当にブループラネットさんなんですか!?」
「その声は、まさかギルマス?地獄に仏とは、まさにこのことだな。生前、一体どんな罪を犯して食べ物の無い地獄に送り込まれたのかと思えば。なんだ、そういう訳ではなかったのだな。……何か、食べ物をくれないか?20日ほど、何も口にしていないんだ」
俺やヘロヘロさんとは違って、ガチの飢餓状態を経験したブループラネットさんはそうすごんで気を失った。
【緑の開拓地開発中】
あの後、空腹で起きたブループラネットさんにからっぽ島で栽培した記念すべき第一号小麦を使ってメイドが調理したパンを提供すると、大木の身体を揺らしまくって歓喜しつつ、用意されたパンを貪っていた。満腹状態になったブループラネットさんと共に緑の開拓地の作業を本格的に始動しようとした時、彼はすっと枝の手を崖上に向けた。
「あの位置から水を流せば、滝になって見応えがあると思うんだ。俺はこんなだから登れないけど」
俺たちはブループラネットさんの意見を聞いて崖を上る。確かに彼がさしている場所は水を流すには絶好の場所だった。さすが、第六階層を作る際にその知識と才能を十二分に披露し、夜空を作る際の入れ込みように周囲をドン引きさせただけはある。
俺はビルドに目配せする。こくりと頷いたビルドは袋からかわきのつぼを取り出して、世界樹を作る際に汲んできた透き通った地下水を流し始める。見る見るうちに水は崖下に向けて流れていき、ブループラネットさんが言っていた通り、見応えのある滝へと変貌した。
その後、ビルドは簡易的な寝泊まりが出来る施設を建てた。寝床と台所と食事処とトイレと風呂があるまさに一軒家。風呂の排水先を調節して、木ブロックで大きな木の風呂を作った時は何だとは思ったが、「家の中に入れないブループラネットさんのためのものだ」と聞いた時にはビルドの気配りに俺は泣いた。
しばらくの間、俺たちは緑の開拓地を住みやすい土地に変えるべく奔走した。とはいっても、土地の緑化はビルドとみみずん、ブループラネットさんが行っている。景観を気にする理知的なブループラネットさんと後でどうにでもなると天性の勘で緑化を行うビルド、そんな2人に挟まれたみみずんが悲鳴を上げている。
俺は枯れ木や岩が取り除かれ、綺麗に整地された土地に刺さったカカシの周りの畑を耕し、モンゾーラ島で手に入れた種を植えて育てる。育てたら育てたでその作物を狙って島にいる魔物が狙ってくるものだから気が抜けない。
開拓地のあちこちに松明が置かれているので、あの反則的な強さを持つ死神は寄ってこないが雨が降った時は注意が必要である。家の周りには雨が降っても大丈夫なように松明の上をカバーする屋根を付けているが、その範囲外は野ざらしだからひとつひとつ付けなおさなければならない。
そうこうしていると、船が2便目の人員を連れてからっぽ島にやってきた。
「おー……、ブルプラさん。おひさー」
メイドたちがモンゾーラ島から運んできた物資を荷下ろしする中、疲れた様子のヘロヘロさんは、ねちょっと触手を上げて挨拶する。すると手である枝を上げながら気さくに返すように声を掛けるブループラネットさん。俺はメイドたちにモンゾーラ島から持ってきてもらった物資内容の確認をしつつ、ギルメンのやり取りを遠目に眺める。
「ヘロヘロは相変わらずヘロヘロだなぁ。どうしたんだ、そんなにへこたれて?」
「……ぶくぶく茶釜さんに計画がばれたんだよー。死ぬかと思った。ところでブルプラさんは何で船に乗ってんの?」
「何でって、ビルよりも高い世界樹をお前たちで作ったそうじゃないか!これは見ないと損だろ!それに大農場だと、俺を抜きにそんな面白そうなものを作るなんてひどいぞ!ギルマスに話を聞けば、俺がやってきた前日ぐらいにモンゾーラ島とやらに向かったそうじゃないか!!」
「いや、そんな直後に、ブルプラさんが、来るなんて、予想がつくはずが、ないじゃないかー」
トレントに揺さぶられるスライムという非常に珍しい光景が繰り出されている。大丈夫、これまでの経緯を話した際に俺もされたから。
べちょっと潰れた状態でブループラネットさんが乗っていった船を見送るヘロヘロさんを抱える俺。羨ましそうに見ていたメイドたちがいたので、役割を代わってもらう。俺は開拓中の緑の開拓地へ向かうための先導役となり、ヘロヘロさんたちを連れて歩く。
「ブルプラさん、なんであんなにキレ気味だったんですかね?」
「いや、ゲートがある洞窟から船着き場までにあるコンブと貝は、俺たちがモンゾーラ島に行くための食料として全部取っちゃったじゃないですか。その所為でブループラネットさんは20日近く絶食を強いられて」
「(ガクガクブルブル)そのこと、ブルプラさんは?」
「知らないに決まっているじゃないですか。知られたら、俺たち死にますよ。……と、そこから降りるから気を付けるんだぞ」
すると神殿へと続く道に突如、横幅が3ブロック分の木で作られた長い階段が現れる。落下防止のためにちゃんと手すり付きだ。それを降りて、途中から木の橋を渡る。
支えがあるものの、下を見れば遥か彼方に地面があるという恐怖体験を終えたら、草原と森林に満ち溢れ、モンゾーラ島で採れた野菜たちが実っている畑のある集落へと辿り着く。いくつかの空き地には建設予定地と書かれた看板が立てかけられており、2便目で来たヘロヘロさんたちは『おぉー』と感嘆の声を漏らしたのだった。