からっぽ島開拓記~ナザリック風味~   作:甲斐太郎

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緑の開拓地編 その②

【ぶくぶく茶釜一行襲来】

 

「たばかったな、モモンガー!」

 

船の甲板から飛び降りてボディプレスを仕掛けてくるぶくぶく茶釜さんの攻撃を、甘んじて受ける俺。押しつぶされて浜辺に埋まった後、アウラたちに掘り起こされるまで貝の気持ちを味わっていた。まぁ、俺を掘り起こしてくれたアウラとマーレの姉弟も戦闘メイドプレアデスの2人も不満そうな表情だったが。

 

「確かに島と島の移動手段を聞いていなかった私たちも悪いけど、一言。たった一言でいいから、相談してくれてもよかったんじゃないの?」

 

「いや、面目ない」

 

「お土産を沢山、持って帰ってきたあの子たちが落胆するとは思わなかったのかー!」

 

「いや、本当にすみません」

 

「一緒に来る予定だったメイドたちは島に残ったよ。モンゾーラ島に意気揚々とやってきたブループラネットさんを見て驚いて歓喜して、「また1人、お仕えする方が帰ってきてくれた」って言って。その言葉で私とブループラネットさんは大ダメージ受けたけどね!」

 

「悪意がない分、心にグサッと来ますよね」

 

そんな会話を怒り心頭のぶくぶく茶釜さんとしながら緑の開拓地に向かう。そして、木々が溢れ、花が至る所に咲き乱れる豊かな緑が氾濫する様子の緑の開拓地を見て驚き、感動し、キレたぶくぶく茶釜さん。

 

「私抜きでこれをやったかー!許さーん!!」

 

俺はたぶんこうなるだろうなと思っていたので、特に抵抗もせずアインズ・ウール・ゴウンの壁役の茨の大盾によるパリィを受けて空を飛んだ。

 

 

【新たな素材を求めて】

 

モンゾーラ島を一通り観光し帰ってきたブループラネットさんだったが、帰ってくる途中の船の上で小さい島を見つけたと興奮気味に俺たちに話した。新たな素材があるかもしれないと聞いて黙っているはずがないビルドは、それ早速と言わんばかりに大木槌を背負い船着き場に向かおうとした。

 

俺はその場で素材回収しか目に映っていないビルドの首根っこを掴み、少し考えた後、親子で住む予定の家のイメージを膨らませているぶくぶく茶釜さんたちを呼び寄せた。

 

「ほぅ、殊勝な心掛けだね、モモちゃん。いいでしょう、今回の事はこれで水を流そうじゃないか」

 

「そうしてもらえると助かります。あ、それと島を発見したブループラネットさんも同行するんでルプスレギナも護衛に出します。くれぐれも無理しないでくださいよ。あと、ビルドから絶対に目を離さないでくださいね」

 

「分かってる、分かってるって」

 

気楽に触手をプラプラ振るぶくぶく茶釜さんの能天気な返事と、あらたな自然に触れられると上機嫌なブループラネットさんの姿に一先ずの不安を抱いたが、2人ともいい大人だし大丈夫だろうと自分に言い聞かせ、俺は船着き場で捜索隊を乗せた船を見送るのだった。

 

 

【案の定】

 

捜索隊が帰ってきたのは船がからっぽ島を出発して、丁度10日目のことだった。

 

素材を山ほど回収してホクホク顔でスキップしながら降りてきたビルドに対し、他の人員は船長以外が甲板に倒れ身動きできないほど疲弊した状態の死屍累々だった。

 

船着き場に待機させておいたメイドたちによる救護班が、大量に生産していた薬草を片手に慌てた様子でぶくぶく茶釜さんやアウラたち、トレントという巨体のブループラネットさんに駆け寄り、船の上から陸地に搬送していく。

 

「……モモンガさんの予想が的中しましたね」

 

「だから忠告したのに。ビルダーであるビルドを新たな素材があると分かっているところで野放しにするとか、無謀に他ならないのに」

 

俺とヘロヘロさんは意識朦朧の状態で運ばれて行くぶくぶく茶釜さんやブループラネットさんたちを見送りつつ、収納箱に回収してきた荷物を移しているビルドに近づいた。

 

そして、すぐに俺たちは判断を見誤ったことを悟った。

 

ももんがさん へろへろさん いいところに もういっかしょ しまを みつけたんだ

 

満面の笑みを浮かべて言うビルドの背後に、ギルドメンバーの1人である正義の使者である彼と同じ感じのエフェクトが垣間見えた。ただし、その文字は『正義降臨』ではなく『素材回収』だったけど。

 

船着き場周辺にはすでに俺とヘロヘロさんしか残っておらず、メイドたちの姿もない。冷や汗を流した俺とヘロヘロさんは脱兎の如く、その場から逃げ出そうとしたが、振り返った先には大木槌を大きく振りかぶったビルドの姿が。

 

 

・モモンガたちは にげだした

・デデーン♪

・ビルドのフルスイングからは逃れられない

 

 

俺たちが気づくとすでにからっぽ島から船は出港した後で、船着き場には宙に浮いたしろじいがいて俺たちを憐むように見送っていた。

 

海の上を船が走ること1日弱、離れ小島に船を横付けし、俺とヘロヘロさんは風のマントで滑空するビルドの足に掴まって、その島に上陸した。シトシトと小雨が降る島で、全体的に薄暗い印象を受ける。しかし、盛り上がった丘を見れば木々が人間の手入れがまったく入っていない乱雑な状態で生え、崖のような切り立った壁に蔦や紫陽花が咲いている。確かにモンゾーラ島でも見なかった生態系、そして新たな素材があるのは理解できる。だが、

 

「降り立った瞬間にダッシュとかふざけんなぁー!!」

 

「茶釜さんたち。きっと、このスタートダッシュでビルドくんを見失ったんだよ!思いのほか速いし、スタミナが切れないとか、ビルドくんって本当に人間離れし過ぎているよ!待ってー!!」

 

「うぉおおお!諦めるな、ヘロヘロさん!ぶくぶく茶釜さんたちの二の舞だけは避けるんだぁあああああ!!」

 

運よく、この島に生息していた鶏を捕まえるために息を潜めてチャンスを伺っている最中のビルドに合流できたため、なんとか大事には至らなかったが、この後も新しい素材を見つけては暴走機関車となるビルドに無茶を押し付けられることとなった俺たち。

 

ビルドが島の全体を見て回り、満足してようやく帰路につくこととなった。俺たちは帰りの船の甲板の上で息絶え絶えになりながら、早くからっぽ島につけ!と心の中で叫ぶのだった。

 

 

【ビルドについて】

 

ピンク色のスライムであるぶくぶく茶釜さんが肘と思われる触手の部位を机につけ、ゲンドウポーズを取りながら呟く。

 

「ビルドくんってさ。人間の姿をした竜人でしたってオチはない?」

 

滝の麓に建設されたナザリックハイツ本館。木製の壁や家具が備えられた⑤階建ての大型マンションで、最上階には大きなテーブルを置いて、簡易的な円卓の間としている。そこに集まったギルドメンバーは俺を含めて4人。「四角のテーブルでこと足りたね」というのはヘロヘロさんの談。そんな円卓の間で議題に上がったのは、明らかに人間離れした身体能力を持つビルドについてだった。

 

「よくよく考えれば、アウラの鞭攻撃を縄跳びの要領で避けつつ、マーレの『チェイン・ドラゴン・ライトニング』を大木槌で弾くなんて芸当をこの中の誰が出来ます?」

 

俺の発言に全員が腕に相当する部分を横に振った。

 

「いや無理無理」

 

「あのビルドって少年、そんなこともやっているのか?」

 

ブループラネットさんはからっぽ島に帰ってきてからのビルドしか知らないため、一緒に行った素材回収捜索隊でのひと時はきっとショッキングだっただろうと思われる。そんなブループラネットさんにヘロヘロさんとぶくぶく茶釜さんが、ビルドがこの短い期間に打ち立てた伝説を話す。

 

その間、手持ち無沙汰になった俺は窓から外の景色を見ようとして、宙に浮かんでいるしろじいと目が合った。

 

「うおっほうっ!?」

 

俺の驚きの声にギョッとするヘロヘロさんたち。外から円卓の間を覗いていたしろじいが不意に部屋の中に現れる。そして、部屋の中をぐるりと見まわして、うんうんと頷く。その表情はほっこりしている。

 

『おぉ、中々趣のある空間じゃな。豆腐ハウスしか作れんかったビルドの成長が窺える』

 

「あれ?ビルドくんって、モモンガさんの後にからっぽ島に来たんじゃないの?」

 

ヘロヘロさんが疑問を呈すると懐かしむようにしろじいは話を続ける。

 

『ほぼ同時期じゃな。当初、ビルドが流れ着いたのは入江の奥まったところで素手では出られん場所じゃったんじゃ。沖にはマーマンもおったし。それに、ビルドがビルダーであることにわしが気づかんかったでの、素手で砂を崩して掘った地下の豆腐ハウスで枯れ草をかき集めただけのベッドで寝て過ごしておったんじゃ。しかし、わしが用意した作業台で松明とひのきの棒、そしてわらベッドを瞬く間に作成したのを見て、ビルダーであることを確信し、あのおおきづちを渡したんじゃ。その直後じゃぞ、モモンガ殿と出会ったのは』

 

俺はしろじいの話を聞いて、ビルドと自分の過ごし方の差に驚いていた。確かにユグドラシルの世界からこの世界に転移した先である洞窟で何日か過ごしたが、夜は極寒だった。枯れ草は見かけていたが、それをかき集めて布団のようにするなんて発想は俺になかったし、砂を掘って地下に部屋を作るとか普通は思いつかない。

 

「そもそも、ビルドがこの世界の人間なのかも疑問なんですよね。皆さんも見てきたと思いますが、モンゾーラ島のナザリックハイツ1号棟。その設計図を書く段階でビルドは俺に『マンションを作る』と告げたんです。俺たちはリアルを知っているから違和感なく受け入れたけれど、あれが完成した後、村人たちに『ナザリックハイツ』って何ですかって尋ねられたんですよ」

 

「ああ!あれって、そういう意味で尋ねられたんですか!?うわぁ、僕、見当違いなことを返しちゃったよ」

 

ヘロヘロさんがうぼぉあーと変声を出して机に項垂れる。心なしか赤く火照っているところを見るに恥ずかしいのだろう。

 

……うん?

 

「あれ、そもそも俺……。ビルドに自己紹介したっけ?」

 

「うん、どゆこと?」

 

大木槌を使って崖の壁を粉砕して出てきたビルド。大量のコンブを抱える俺。自己紹介したビルドが浜辺に干されたコンブを見て何をしているのかを俺に尋ねてきて、力なくこれしか食べるものがないって告げた。そしたら、袋の中から作業台を取り出して、樫の杖を作ったビルドが俺にそれを差し出してきて、確かこういったはずだ。

 

『かしのつえ だよ “ももんがさん”』と。

 

「ビルドは……俺のことを知っていた?」

 

俺が円卓の間で呟いた言葉を聞いたヘロヘロさんやぶくぶく茶釜さん、そしてブループラネットさんは沈黙した後、吹き出してケラケラ笑った。

 

「ぷぷぷ。いやぁ、モモちゃん。さすがにそれはないよ」

 

「ひーっひっひ。異世界転移なんて不可思議なことに巻き込まれている僕らが言えたことじゃないけど、さすがにその理論は100%ないない」

 

「ギルマスも洒落た冗談を言えるんだな」

 

俺の考えは散々な酷評をされた。顔に皮膚があったのならば頬を大きく膨らませていただろう、俺はふんっと鼻を鳴らしつつ、円卓の間に現れたしろじいに話を振る。

 

「それで、しろじい。俺たちのところに来たのは何か用事があってのことなのか?」

 

『おぉ、そうじゃった。そうじゃった。からっぽ島の南に行った先にオッカムル島という金や銀といった鉱物が取れる島があるらしいんじゃよ。これからのからっぽ島の開拓にも鉱物は必要になってくるじゃろう?ビルドと共に行ってきてはくれんか?』

 

しろじいの用事を聞いて、円卓の間での話し合いの議題は当然オッカムル島のことへとシフトチェンジする。主に誰が行き、誰がからっぽ島の留守を預かるのかという血で血を洗う話し合いという名のバトルが……行われなかった。

 

 

【オッカムル島へ】

 

「「「荷物を持っていくな~!?」」」

 

船着き場に建てられた倉庫から船に荷物を載せようと準備していたメイドたちの動きが俺たちの声で止まった。船長の話によると島の生態系を壊さないために、必要最低限のもの以外は持ち込まないのが基本らしい。

 

だが、ビルドが暴れまくった素材島はあらかた素材を採集され尽くして結構ボロボロになったはずだぞ。あれはいいのかと船長に尋ねると、素材島は採集され尽くし丸裸になっても次に行くときは元通りになっているらしい。え、それなんてオカルト?

 

「武器と防具はオッケー。食料はあぶりコンブと焼きモモガイはいいけど、野菜系は全部だめ。種は勿論、不可。それとモンゾーラ島で作った飾りとか家具系もダメなんだね?」

 

「かなり制限されるな。けど、この人数がいればそれなりにやっていけるか」

 

「アウラ、マーレ。ちゃんとハンカチとティッシュは持った?」

 

「「はーい」」

 

ぶくぶく茶釜さんとアウラとマーレのやり取りが雰囲気をほんわかとさせる。

 

今回、金銀銅などの鉱物を求めてオッカムル島へと赴くメンバーはビルド、俺、ヘロヘロさん、ぶくぶく茶釜さん、アウラとマーレの姉弟の6人。

 

ブループラネットさんはからっぽ島で留守を預かり、その補佐を戦闘メイドのルプスレギナとエントマがする形となった。

 

ナザリックのメイドたちの何人かは俺たちのオッカムル島への遠征についていきたい旨の嘆願書を提出しようとしたが、恐らくオッカムル島にもナザリックの者たちがいることが考えられるので島に残るように命じた形である。

 

何せ、モンゾーラ島と同じくらいの人数が俺たちの下に訪れた場合、からっぽ島への帰還時に必要となる食料は単純計算で今までの倍。素材島でビルドが採集し得られた新しい野菜と一緒に、量産し倉庫で保存しておいてもらわないといけない。そういったことを丁寧に説明すると、メイドたちは渋々であるが納得し、野菜作りに励むことを約束してくれたのである。

 

ちなみにビルドは船の先端に座って一言も喋らないが、彼の背中が思いを十二分に語っている。『まだ見ぬ鉱物素材が欲しくてたまらない』と。

 

俺たちが準備を終えて船に乗り込むのを確認した船長が船を出港させる。岸からどんどんと離れていく船。俺たちはビルドを船の先端から降ろして、一緒に甲板に並んで立ち、次の島へ想いを馳せるのだった。

 

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