双夜譚月姫   作:ナスの森

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これは本編ではありません。
ななやさんのちょっとした独白なので、読まなくても構いません。


その、彼の胸の内(読み飛ばし可)

“――――ソレがお前の勘違いだ。■■■”

 

“――――命と死は背中合わせでいるだけで、永遠に顔を合わせる事はないものだろ”

 

 昔、どこかの誰かが、そう言っていた気がする。

 それを言ったのはまったくの第三者なのか、それとも“前の自分自身”であるかは定かではないが、何とも感慨深い言葉だと思う

『命』とはなんなのか、と問われれば生きている状態の物と答えるのが一般的な回答だ。

 『死』とはなんのか、と問われれば生きていた『命』が停止してしまう事だ。

 生きている事は即ち、これから死ぬ事である。

 死ぬ事は即ち、その個体はついさっきまでは生きていた『命』である事を意味している。

 『死』があってこその『命』であり、『命』があってこその『死』である。

 ……比喩的に表現するのなら、コインの表裏みたいな関係だ。

 背中合わせとは、そういう事で、命と死が顔を合わせる事は永遠にない。コインの裏表同士がどうして顔を合わせることが出来ようか。

 『命』が『死ぬ』時、両者は顔を合わせることないまま、『死』は背中を向けたまま『命』を『死』へと引っ張ってゆき、『命』はそれを知らぬがまま振り向かずにそのまま『死』へ引きずり込まれる。

 振り向かないのは、『命』は無意識に『死』を恐れ、知らないままに振り向く事をしないからである。

 そして『死』は何の善意も悪意もなく、ただ唐突に訪れるその時――――即ち寿命が来た時に、『命』を『死』へと連れ去る。

 つまり、『死』とは生きている『命』を停止へと導く概念なのだ。

 そして『命』は、『死』が訪れるその時まで『生』を謳歌する存在。

 『命』とは『生の状態』である。

 ならば『生の実感』とは何か――――簡単だ、『命』――――『生きている』全ての状態を表す。

 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感に加えて、痛覚がいい例だ。

 生きているからこそ視覚で見る事ができ、生きているからこそ聴覚で聴く事ができ、生きているからこそ触覚で触感を感じる事ができ、生きているからこそ味覚で味を感じる事ができ、嗅覚があるからこそ匂いを嗅ぐ事ができ、痛覚があるからこそ痛みを実感する事が出来る。

 何気ない日常生活においてソレは常に機能されるが、ソレが最も刺激される時――――それこそが俺が最も好む生存競争――――即ち『殺し合い』だ。

 殺すべき相手を視覚で捉え、殺すべき相手の位置を聴覚または嗅覚で感じ取り、血の味を味覚で味わい、触覚で殺すべき相手に触れた事を感じ取り、痛覚で自分の生命が脅かされている事を痛みで感じ取る。自分は勿論の事、相手もまた然りだ。

 『死』に浸っている殺し合いは、『生の実感』を一番に感じることができる行為だと俺は思う。

 日常で常に感じているちぐはぐな『生』など既に死人である俺にとっては、鬱陶しいしがらみである事この上ない。

 餓鬼は餓鬼らしく『死』を味わいながら、刺激的な『生』を感じ取るのが妥当だろう。

 『死』を以て、『生』を味わうのはこの上ない恐怖である共に、この上ない喜びである共にこの上ない『生』であるのだ。

 ……所謂、俺はそれだけの存在なのである。

 以前の俺がどういう人間だったのかは定かではないが、この『眼』がある時点で真っ当な人生を送っていたかは非常に疑わしい所だ。

 咲夜は以前の俺と面識があるようだが、生憎今の俺には関係ない事だ。

 『壊れる前』と『壊れた後』じゃ、似てもにつかない。以前の俺と今の俺を同一にするのは非常に嘆かわしい事この上ない。

 まあ、咲夜が今の俺をどう思うのかは別にして……。

 ……まあ、そんな事は正直どうでもいい。

 殺し合いこそ、俺にとって最高の『生』を謳歌できる瞬間であり最高の『生』を実感できる唯一の行為。

 だが、死人である俺がいくら『生』を実感できようとも、得られる事は決してない。

 

 

 

 

 

 

 ――――そんな事は、とっくのとうに分かっていた。

 

 

 

 

 

 

 『生』とは『命』であり、『命』は『死』とは背中合わせの存在である。

 いくら殺し合いで『死』を味わい、いくら『生』を感じ取ることがあろうとも……。

 背中越しにしか『生の実感』を感じる事しかできない故に、『生の実感』を掴み取れる日なんて永遠に来やしないのだ。

 ……だが、それでもいいさ。

 元より、この身は生き続けることなど望んでいない。

 この身は既に死した身――――既に燃え尽きた後の燃えカスにすぎない。

 だが、燃えカスが残っているということは、まだ『消える』まで燃え尽きていないという事。

 そんな中途半端な『生』など根っから願い下げである。出来ることなら誰にも邪魔される事なく、自殺することなく今この場で消えたいものだ。

 

 ……だが何も成さずにただ漠然と消えていくのだけは頂けない。

 生かされているのだというのなら、せめて最後まで自分の『役目』を全うして悔いなく消えてゆきたい。

 土壇場で力尽きて消滅、というオチは何がなんでも御免だ。

 

 

 

 

 

 

 だから、俺が『役目』を全うする、その日まで――――

 

 

 

 

 

 

 ――――よろしく頼むよ、ご主人様。

 




 感想欄を見ていると、どうも勘違いしている人がいるようなので、この際言いますが、この七夜はメルブラの七夜ではありません。
 そこの所を勘違いしないようにお願いします。

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