兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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意外と早くあがったな……


その23

 

「というわけでお話、しましょう!!」

「もっとこう、なんかあるでしょ!?」

 

 強引な場面転換からこんにちは、まだるっこしい前置きを抜きに先手を打つ僕は兵藤一誠! 現在ホテルから離れ暗い暗い森の中からおおくりしてます!

 そして対峙するは猫耳の生えた黒髪の着物女性! えらくはだけさせてその恵まれたスタイルを見せつけてまァ………………

 

「…………方向性似てないね?」

「次胡乱なこと言ったら潰します」

「OK、僕が悪かった」

 

 そしてこのえっちぃタイプのおねいさんの襲来に気がついたのはウチの後輩小猫チャン。使い魔らしき黒猫を見つけたので僕に合図をくれたのである。

 

「…………で、うまーく周囲の気配に溶け込んでるあちらの方はお姉サンのお仲間で?」

「……なんで速攻バレてるんだよぃ。素人に分かるような隠形してないっての」

「情報にあった勘の良さ……ってところでしょ。鼻歌混じりに見破られたら、仙術も形無しね」

 

 言葉とは裏腹に、楽しげに気配を浮かび上がらせたのは、オリエンタルな意匠の鎧を纏った美丈夫………。手に持つ赤い棒の様なものといい、頭を締め付けてるかの様な金属の輪っかの装飾…………もしや、お前っ!

 

「おーっと、だいたい何考えてるか察しはつくが、それは早とちりってヤツだぜぃ。俺っちは美猴、闘戦勝仏……孫悟空の末裔ってやつだねぃ」

「なぁ、自分のこと『美しい猿』って自称して恥ずかしくならん?」

「それは名前っつーか称号みたいなものだからいいんだよぃ! ……さては詳しいな、赤龍帝」

「日本人で西遊記知らんやつはそんないないよ。僕の場合気になって児童文学版まで読んだから、ちょっと知ってる。哪吒とのくだりとかちょー好き。あ、サインもらえますか?」

「あ〜……俺っちそういうのやってないんでぇ……でも面白そうだから一筆仕る」

「あんたら本来の目的忘れてんじゃないの!?」

 

 いやごめんつい、というのは嘘だが。空気感のイニシアチブ握るのはデフォってことで一つ。

 

「そもそも、正直なところ意外にゃん。こちらの話も聞かずに一方的に排除しにかかると思っていたわ」

「8割嘘。違うだろ小猫チャン姉、アンタはある程度の確信をもってここに来た。交渉の余地は十分あると踏んで。思ってもみないことを言うものじゃあないよ」

「もうちょっと会話を楽しむとかできないものかしら? 余裕の無い男は嫌われるわよ」

「さっきの美猴クン? ので売り尽くしてね。そういうのをやりたけりゃもっと軟派なヤツに頼むことです」

 

 それとも、それとも…………ああ、点と点が線で繋がったぞ。それなら一方的に排除してくる予想もおかしくはないか。そうはならないと思ってそうではあるが。

 

「アンタら、禍の団か。そーかそーか、それなら納得……とでも言うと思ったか? やはり僕の結論に違いはない。その前提を踏まえてもお前はぶち殺されない公算を高く見積っている。…………ヴァーリ(あの野郎)から僕の話を聞いたな?」

「大正解、というか覗きでもしてたのかってレベルで薄ら寒いわ。それでよく普通を嘯けるにゃん」

「嘯いてねェよ事実だ! 生まれてこの方成績表は平均点ど真ん中! 思考盗聴はできるかもだが!」

「ええ〜……アルミホイルで防げるタイプ?」

「防げねェよ陰謀論者か!?」

「冗談冗談♪ いじりがいがあって面白いにゃー。これがいわゆる打てば響くってヤツ?」

「姉さま、あんまり先輩をいじると後が怖いですよ?」

「赤龍帝が?」

「後ろに控えてる誰かが、です」

 

 ……上手いこと言ったな。これなら部長が怖いかガン子が怖いか分からない。僕としてはどっちも怖いが。

 

「というか白音の方も驚いたわ。てっきり私を恨んだり怖がったりしてると思っていたけれと」

「思(・)っ(・)た(・)通(・)り(・)じゃなくて驚きましたか、黒歌姉さま」

 

 目配せ、頷き。それで大方のことは察したのだろう、つまらなさげに小猫チャン姉は鼻を鳴らした。

 

「主殺しを決行した、それは事実。その真相なんて、今更過ぎてもうどうでもいいことよ」

「私にとってはそうではありません。だから、私はここにいます。姉さまと、ちゃんと話し合う為に」

 

 煽るように、ニヤリと口の端を釣り上げる。小猫チャンを安全地帯に退かせるつもりだったんだろうが、そうはいかねぇ。こっちとしても、小猫チャンの為にできることはしておきたいからなァ。お前の絵図を、可能な限りしゃぶり尽くしてやる。

 

「では改めて、初めまして小猫チャン姉。リアス・グレモリー眷属兵士担当、兵藤一誠です。どうぞよろしく」

「……黒歌よ。今は一応、禍の団に所属しているわ」

 

 握手は交わさない。これから始まる綱引きを前に、視線の先で火花が散った。

 

 

◆◆◆

 

 

「では本日の渡航目的から教えていただいても?」

「アンタは入国管理官かなにかにゃん???」

「いやぁ、一応大事ッスよ? ココでドえらいこと企んでる様なら小猫チャンの事情無視してでも叩き出さないといけないし」

 

 パチン、と指を鳴らしてここら一帯を囲う結界を作る。音を外に漏らさないための遮音結界。だが、足元の影がざわりと揺らめく。乗っ取られ、完全に外界とを区切るそれに変質した。『使命感(ガン子)』の仕業だろう。……『感情(ぼく)』と一致している間は頼もしいんだけどなァ。

 

「それが噂の反天使ってヤツにゃん? 私たちを逃がさないって意思しか感じ取れない結界ねこれ」

「ふむ、お詳しい感じで?」

「結界術の派生でそこそこ覚えたわ。……このレベルになると乗っ取って逃げることもできない。厄介だわ、ほんと」

「僕らなりの誠意と思ってください。ここでの会話、やり取りは僕の方からは決して外部には漏らしません」

 

 仮に禍の団に不都合なことを喋ったとしても、それすらも漏れることはないというのも含めて、だ。テロ集団なんて唾棄すべき存在だが、末端だろう連中を二人始末したところでたかが知れてる。それで警戒を強められるよりは泳がした方が現状はいいだろう。

 

「これを解除するには僕と反天使両方があなたの話に納得して消すか、僕を殺すしかありません。不義理なので言っておきますが、今回反天使は戦闘では出てきません。僕が死ぬとなれば素直に死ぬでしょう。ここで不穏分子を消したいのなら、今がチャンスですね。無論、テロ屋に屈する道理は無いので全力で抗いますが」

「…………」

 

 不服そうな顔をするんじゃないよ小猫チャン。アレが表に出てきたら本当に厄介なの僕らの方なんだから。僕の方で片付けられるならそれに超したことないんだよ。……それに死ねないってヴォーティガンが思ったらどーせ色々反故にして復活するだろうしね。

 

「随分な譲歩にゃん。そんなに白音に絆された?」

「家族と仲間ってのは、それだけ大事ってコトっす。そして僕が『家族』を大事にしていることについてあなたはヴァーリから伝えられているハズだ違いますか?」

「ええ、最後の最後まで私がことを起こすのを渋っていたけれどねん。けれど、そうであるほど付け入る隙……交渉の余地があると思ったわ。手が出てないのは、そういうことにゃん?」

「ご慧眼」

 

 とはいえ素直に小猫チャンを家族の下に返す程世情を甘くは見てないし、それは部長も同じだ。その点で絶対分かりえない以上、黒歌サンは敵である。

 

「ねぇ美猴、これ本当のこと言うしかない状況にゃん?」

「嘘を見抜く赤龍帝がいるからねぃ。素直に話さないと逆に細い確率すらなくなるさね」

「そうよね……。単なる待機命令にゃん。事を起こせ、と言われたらするしかないけれど、そういうのは一切降りてきてないにゃん」

「で、俺っちら二人は非番でねぃ、黒歌は自由時間がこのタイミングしかないってんでこの場にいる。俺っちは黒歌のお目付け役さ」

「…………嘘なし。いいでしょ、ソコは信じます」

 

 とはいえ別の問題が出てきたな。冥界の入国管理結構ザルじゃない? …………いや、旧魔王派なる連中もいるんだっけか。じゃあ隠しルートとかそういうのもある程度筒抜けって考えた方がいいね。まあそれに関しては僕が言うまでもなく対応してるたァ思うが……間に合わなくてこうなってるって感じがするな。

 

「では本題。これはそちらの要求と掠る部分もあると思うので、慎重に話してください。拒否する、または相容れないと判断した場合、譲歩の可能性すらなくなることを肝に銘じてください」

「話し合い、なのよね? さっきから尋問を受けてる気分にゃんだけど」

「あなた方、テロ集団、僕ら、冥界の一応体制側。OK?」

「OKOK……」

「付け加えて言うなら、この結界は全てを遮断する関係で空気も通りません。タイムリミットはきっちりありますよ」

「……嘘でしょマジで言ってるにゃん!?」

 

 ゲハハハハ! ついでに言うなら僕はバッチリ対策してるし小猫チャンが窒息しない手もちゃんと打ってある。もちろん完全に空気が無くなったからといって人外二名がすぐに死ぬとは思っちゃいねぇが、ある程度有利に立ち回れるだろう。ガン子グッジョブ!

 

『(グッ!)』

 

「僕を出来損ないの赤龍帝だと思って、雑魚の赤龍帝だと思って甘く見ましたね? 何のためにこんなに多弁を振るってるかも分かったところで大人しくキリキリ話してもらいましょうか。…………黒歌サン、あなたが主殺しをすることになった大まかな経緯について」

「……まぁ、どの道説明はするつもりだったけれどね」

 

 ため息一つ、そして話してくれるのかと前のめりになった僕の唇に人差し指をあて。黒歌サンは静かに条件を切り出した。

 

「私は白音とあんたを納得させられる分しか話さないわよ。つまり争点になる部分だけ。それ以上は余分だし、話したくも思い出したくもない」

「…………ンまぁ、僕の方はいいデスよ。小猫チャンは?」

「私も、それで構わないです」

「助かるわ。美猴、あんたもここでの話は聞かなかったことにしなさい」

「へいへい。鳥頭ってわけじゃねぇが、きっちり忘れてやるさね」

 

 一呼吸の静寂。その後に僕は切り出した。

 

「僕はあなたが主を殺した理由を、姉妹共倒れを避けるための措置だとうっすら思ってます。理由は二人が希少な種族……猫魈であることと、仙術を扱えるからであること。合ってますか?」

「……そうよ。嫌なやつで、目障りになったからというのもあるけど。ある程度修練を積んだ私ならともかく、まだ身体が成長し切っていない白音にまで仙術を使うように強制することを計画していた。そうなったら目も当てられないわ、暴走しちゃっただろうし」

「そう、だったんです、か……」

 

 安堵と共に、力が抜ける気配がした。その頬に一筋の……って言うのは、見て見ぬ振りをすべきだろう。

 

「どうしてなんです、姉さま。どうして私を連れて行ってくれなかったんですか」

「勘違いしてるかもしれないけど、私はそこそこ残酷よ。確かに私はあなたにとって優しい姉だったかもしれないけれど、ほかの相手にまでそう振舞ったわけじゃない。じゃなけりゃ、あの元バカマスターを殺したりなんてしてないわ。気に入らなければ後を濁してその場を去る、気ままな野良猫なのが私」

 

 嘘なし、というか清々しいまでに本音だ。まあ露悪的にそういうキャラを少しは演じてるのかもしれないけれど、嘘に引っかかる範疇ではないな。

 

「でも、あなたはそうじゃない。あなたは優しい子よ白音。野良猫をやるにはあなたはバカ正直が過ぎた。連れていけば、私の気質があなたを殺していたわ」

「そうなるくらいなら……私に恨まれてでも生きてほしかった。そういうことですか……!?」

「どう受け取っても構わないけれど。私の中での事実は、バカマスターを殺したことと、あなたを見捨ててしまったことよ」

 

 ……うーんどう受け取ったものだろう。ズビ、ズビビ。まあ見捨てて『しまった』なんて表現出る時点で推して知るべしって感じだが、ズビビ。

 

「おら、だらしのない顔するんじゃねえよ赤龍帝。ほら、これで顔ふけ」

「ありがとう、優しいねテロリストの癖に」

 

 さて、顔を拭いて思考をリセットして、だ。これ以上は不粋と言っていいだろう。いっちゃん知りたいことは知れたし、僕の思惑が上手くいけば後の情報だってどうとでもなる。小猫チャンの心情を加味しても、あとは自分の中で噛み砕くフェーズだろう。となれば、だ。あとは続く本題……どれだけ相手から譲歩を引き出すかの条件ってことになるでしょう。

 

「……だから、私の目的は言わなくても分かるわよね?」

「もちろん。生きていて欲しい妹の近くに、ろくでもない奴がいる。どうやら自分の力も制御できてねぇ赤龍帝だ、妹の命が危ない。だったら……テロリスト集団でも、自分の目の届くところにいた方が安全だ。そういう辺りですか?」

「そういうこと。……白音を守るには、今のあんたは弱い以上に不安定が過ぎる。それを如実に感じているはずよ赤龍帝。そういう点では、私とあんたは似ている」

「まァ、そうでしょうなァ。似たような状況になりゃ、殺しもするし誘拐もするでしょう。つまりは手段を選ばない」

 

 まあしかし、しかしだ。それでハイそうですかと頷ける程物分りがいいワケでもないので。

 

 パチンと一つ、指を鳴らして合図を送る。アイツ的にも潮時と感じたのだろう、素直に結界が溶けていった。

 

「そう、手段は選ばない。だから僕の方からもそういう提案を考えるわけですよ黒歌サン。前提として、僕には魔王が後見人として着いていましてね。だから、こういうことも言えちゃうワケです」

 

 ニタリと、意識して憎たらしい笑みを浮かべ、言う。

 

「黒歌サン、司法取引みたいなことをして、冥界に戻ってくる気はないですか?」

 

 さァ、さァ、さァ!! …………綱引きの始まりだ。

 




悪魔の誘惑は、甘いものである。

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