ランナーは、私こまるん、月見肉団子先生、あざらし先生、べあるべあ先生、トルビス先生 です。
*マークで走者が変わっています。
文字数制限は、初回ということで500前後でした。
……さて、余計な口上は不要。『混ぜるな危険』をごゆるりとお楽しみくださいませ──
〇
『トンネルを抜けると、そこは雪国だった』
皆も一度は聞いたことがあるんじゃないだろうか。
そう、かの有名な小説、『雪国』での一説である。
私の今置かれている状況を、それになぞらえて言ってみようと思う。いわゆる、おまーじゅ ってやつだ。
「目が覚めると、そこは宇宙だった」
え?何言っているのかわからない? 奇遇だね。私もだよ。
宇宙というのは、語弊があるかもしれない。
正確に言えば、宇宙のような空間……と言ったところだろうか。
足元に地面のようなものは見当たらない。上も、下も、右も、左も。全方位が、どこまでも続いていくような黒色に染まっている。
自分がこうして二本の足で立てていることから、確かに地面としては存在するのだろうけど……完全に透明なのか、全く目で見ることができない。
足元には今も変わらず、底知れない闇が私を呑み込まんとするように広がっている。
本当に訳が分からない。確かに、私はいつもの通り、就寝したはずだ。
それが、どうしてこうなっているのか。
夢なら覚めてほしい。 ここまでそう切実に思ったのは初めてかもしれない。
だけど。
当然と言うべきか、そんな訳にはいかないもので……
ん?夢?
ああ、そうじゃん──これ、夢だわ
◇◇◇◇◇◇◇◇
☆
さて、私にもやりたいことがあるんだけど、まずは落ち着こう。
ここは夢の中。大人にも子供にもなれる。そんな空間。
いつも始まりは緊張してしまう、夢の中で寝ぼけているから。いや、起きぼけているのかしら? なので、取り乱したりとかではない。ないったらない。
はっきりと覚醒、もとい睡眠した私。何をやろうかは決まってる。わたしが誰よりも願ったこと、それは「理想郷の発見」。
今回は能力が強制的に発動してしまったみたいだけど、問題ないわ。これは明晰夢、焦ることも戸惑うこともない。
いつからか、私は夢を自在に操れることに気づいた。私だけの特別な能力、これを「夢渡り」と読んでいるわ。ふふ、かっこいいでしょ?
さて、覚めてほしい夢こそ、見えるものもあるわ。何が見えるのかしら。
現実において、人は私のことを天才と誉めそやす。僅か十歳であらゆる言語を使いこなし、論文を読む私。それを人達は何故か天才と呼ぶ。
気味が悪いともいわれる。周りに馴染めない浮いた子。そんなことをいわれても、それをわたしは気にしないし、興味もない。
私の興味の直下は「非統一性魔法理論」それと、それを提唱したあの人。
オカザキの名前はもうないけれど、その血はきっと流れてる。
これは私の挑戦。あの人が言っていた理想郷とやらにたどり着けるのか、否か。「夢渡り」は科学なのか否か、それを証明するために、私は夢へと潜る。
真っ黒い空間が水のような感触を持ち始め、私はそれに向かって飛び込んでいく。
ちゃぽん、という音が夢の中に響いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
★
──非統一魔法世界論。科学が大手を振って世間を跋扈する中で、とある比較物理学の申し子によって学会にて提唱された、オブラートに包んで言うならば非常に目新しい理論である。
重力・電磁気力・原子間力。これら全ての力について、人間は統一的な原理を設定し説明する能力を得た。ここに科学は、数多伸ばした枝の1本に一種の終結を見さえしたのだが、やはりいつの時代においても異端と呼ばれるべき者は存在している。世の学者達が統一原理の支配下にある「世界」に目を向けていたなら、あの異端児はその外側──さしずめ「宇宙」を観測しようとしていたのかも知れない。今にして少女はそう思う。
非統一性魔法理論は、この荒唐無稽で皮相浅薄とお偉い学者様が一笑に付した理論を元として、彼女が新たに構築した考え方だ。世界を牛耳る統一原理、その強固で因果的な戒めに囚われないものが、この次元にはある。少女はそう信じて疑わなかった。星の数程の論文を読み漁り、彼女は自身の考えに対する堅牢な支柱を得るに至った。
そして今、少女は夢を渡る。推論を確信に変えるために。誰のためかと問われれば、非常に難しい。かの麒麟児の仇討ちか、単なる己の知的好奇心の発露か。尤も、いずれにせよ夢を駆け理想郷を目指すのに変わりはない。
見渡す限りの暗闇の中に、うっすらと白い明かりが見えた。或いはあそこが、理想郷への入り口なのかも知れない。だとすれば、辿り着く先はアヴァロンかアガルタか、はたまた蓬莱か。言い知れぬ高揚に身を包み、少女は人知れず暗黒から薄明かりへと消えていった──
◇◇◇◇◇◇◇◇
□
暗闇を抜けた薄明りの向こうは、雪のように白い世界だった。
でも、雪というには無機質で、それは空間全面に広がっていた。
いや、広がっているかすら分からない。分かるのは、ちょっと歩いた程度じゃ見える景色は何も変わらないだろうということくらい。
正直、私は途方に暮れた。
やっぱり危険な賭けだったんだと思う。
それでも半分は叶った。
だって、ここは少なくとも現実なんていうつまらない世界じゃないことは確かなのだから。
「――元気そうね」
背筋が浮いた。
「え?」
慌てて周りを見渡したけれど、誰もいない。
「ねえ、まだ気づかないの?」
もう一度見回してみても、やっぱり誰もいなかった。でも声はすごく聞き覚えがある。
「貴女、何のためにここに来たの?」
はっとした。
論証の為? それとも仇討ち?
いや違う、私は……。
目的を思い出すと、ふと目の前の白いだけの空間に人型の枠があるのに気づいた。
「自分の夢の中に飛び込むなんて、正気じゃないわよね」
「だって私は――」
「理想を思い求めたから」
目の前の人型、いやくっきりと見える。
そう、間違いなく私だ。
「研究の結果は」
「非情だった」
「分かったこと、それは――」
「このままでは私は理想の地へとは行けない」
「だから私は――」
「私と会った」
私が右手をつき出すと、私も合わせて手を出してきてくれた。手を合わせ、握り合う。そう、これは間違いなく私。
「人々から忘れられていないと訪れることが出来ない秘境」
「人である私が忘れられることは難しい」
「でも『夢渡り』という、とうに忘れられた存在でもある私」
「だったら――」
合わさってしまえばいい。
私を半分ずつ消して、混ざり合う。
人としての私も、『夢渡り』としての私も、どちらも私を欲している。『夢渡り』としての私は、生身の肉体が無い限り人の夢をさ迷い続けるしかない。人としての私もまた現実という檻では生きていられない。
全ては理想の為に──
◇◇◇◇◇◇◇◇
■
「いやー死ぬかと思ったわ。あんな思いはもう懲り懲り……だけど、今回の試みはどうやら大成功だったみたいね。やったやった」
初の理想郷探訪の為に常備していた
私が元いた世界とこの世界……存在している場所は違えど、根本的な構造までは変わっていない。空は青く、草木は茂り、こうして風も吹く。
本当に私の望みは叶ったのかと疑問に思う気持ちもあるが、それについては先程の私の体験が証明してくれている。
静寂、虚無――そして激痛。
狂い澱む精神の中、私はなんとか壊れずに済んだ。
認めよう。早計であった事を。
夢と現を隔てる境には瑕疵がない。故に、それぞれの世界に住む者達は半ば別個として確立され、本体の裏の意思を持つケースがある。
『オカザキ教授』のレポートなどから確認されていることであり、そんな夢人格を統合してしまったのが、今の私である。
『夢を操る』なんて大それた能力を持っている私だ。自らの夢人格の存在なんて気にも留めていなかった。寧ろ私にも一丁前にそんなのが居たのかとびっくりした。
まあ居たなら居たで丁度いい。あっちも何故か乗り気だったので思い切って統合しちゃった。その結果、私はこうして理想郷に爆誕できた。
ただ激痛は予想外だった……そこは反省! なので賢い私は些細な反省も次に活かす! 天才の中の天才とはそうして形成されてゆくのだよ!(ドヤァ)
何はともあれ、こうして夢の理想郷に脚を踏み入れることができたのだ。私はこの喜びを噛み締めるべく大股で歩みを進め――
――
「あば、あばばっ」
嗚呼、聞こえてますか? 敬愛なるオカザキ教授。そしてついでにチユリ助教授。
私いま、理想郷で転がってます!
目印として、各員に記号を割り振っています。
〇こまるん
☆月見肉団子
★海のあざらし
□べあるべあ
■東方兎流陽寿