科学少女は幻想郷の夢を見るか【リレー企画】   作:こまるん

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二周目。一人千文字以内になりました。順番は変わりません。
三週目。シャッフルを行っています。今話ではトップバッターの月見肉団子さんのみ。

〇→☆→★→□→■→☆


第二話

 表でも裏でもない。幻想郷の何処にあるのかも定かではない。

 狭間の世界とでも称しておこうか。

 並大抵の生物では、知覚することすら出来ない空間。

 そんな場所に、一軒の家がポツリと建っていた。

 木で作られた、質素な一軒家。そこには、住人がいる。

 

 ──八雲紫。 妖怪の頂点の一角にして、幻想郷を造った張本人。

 自他ともに認める、この世界の支配者である彼女は、今……

 

 

 のっぴきならない表情で頭を抱えていた。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 ハッキリ言って、何が起こっているのか訳が分からない。

 

 それが、私の嘘偽りのない心境。

 原因は、今まさに目の前に映し出されている、一人の少女。

 一見ただの人間……の筈なんだけれど、どうも、普通じゃない。

 存在が安定していないというか、まるで二つの相反するものを無理矢理に合成して、反発も何もかも全て抑え込んでいるような、そんな感じ。

 それが意図されたものなのか、彼女の能力によるものなのか、それはまだ分からない、けれど、あの娘、気付いているのかしら。

 あのまま放っておけば、何かの拍子に魂が拒否反応を起こして、そのままポックリ逝ってしまう……ということに。

 

 ……まあ、それはこの際いいわ。まだあの娘が敵か味方かハッキリしない以上、この件は保留で良いでしょう。

 敵なら勝手に死んでくれれば良いし、味方だとしても、わざわざ伝えてあげる義理はないわね。

 

 ──問題は、別。

 

 この娘が、どうやってこの世界に入り込んできたか……ということよ。

 いえ、その表現は正確ではないわね。

 

 そう、『どうやって博麗大結界を破って入ってきたのか』

 

 そもそも、この世界には、博麗大結界というものが張ってある。

 幻想を受け入れ、護るこの世界に置いて、余計な外のモノが流れてこないよう、外の世界で忘れられた存在のみを誘い込み、他は弾き出す、そんな優れもの。

 勿論、外からこの世界を探知しようとしても出来ないようになっているし、入ってくるなんて以ての外。

 それを、この娘は…………

 

 いえ、今は原因究明よりも先に、結界の修復をしなきゃね。

 あの少女が半ば無理矢理に入ってきたことで、一部綻びが生じている。それを治さなきゃ。

 

 並行しつつ、スキマ越しに監視ね。私のカンは、とくにこの少女に悪意は感じられないと言っているのだけど…………油断大敵。万一があっては困るわ。

 

 今は……どうやら妖怪の山にいるようね。やたら浮かれているみたいだけど……

 

『あば、あばばっ』

 

 ……うん、結界の修復を最優先でいいわね。

 

 自らのマントを踏みすっ転びながらも、何処か晴れやかな表情を見せる少女の姿に、紫は何も言わず視線を結界に向けた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 土だ、風だ。

 

 転がる度に体の端々が痛い。土にまみれて葉が服にまとまりつく。鼻につく湿った土の匂いと、むせかえりそうな緑の香り。あまりにも新鮮かつ鮮烈な刺激に、脳が歓喜の叫びを上げている。

 笑い声と悲鳴が半々な声をあげつつ、舗装の一切ない坂を転がっていく。

 

「あば、あばばば」

 

 夢だけど夢じゃない!! それは、頭上を通りすぎる烏羽の生えた人間が居たことで確認出来た。

 土の味はどうだろう、構成する物質は? 木の年代はいくつなんだろう? 興味が泉のように溢れては私を突き動かす。

 

 ……ん? そもそも人間は擬似的に浮くことは出来るけど、翼というのはどうなのだろう?

 

「あぁ、話しておけばよかったかぁ、もったいない」

 

 後悔が漏れる。ただ、夢中な私はそんなことなど次の瞬間には忘れてしまう。それだけこの空間が、幻想染みた理想郷なのだから。

 

 ──ひとしきり楽しんだあと、ふと我に返る。

 

「そう言えば私の能力って、どうなっているのだろう?」

 

 仮にここが夢の中であるのなら、()()()()()()()も不可能じゃない。それが出来ないということは間違いなく現実ではある。

 ただ、今の私は現実と非現実が夢によって結合した存在。ノットリアリティな私が現実に触れたとして、果たして何がおきるのか? 

 まぁ、やってみれば分かるか。と、「夢渡り」時の感覚を強く意識する。

 

──ぐにゃり、と私の体が飴細工のようにたわむ。

 

「なるほど……キモいね、これ」

 

 色々と自身の体を弄くった後、だいたいの感覚は掴む。お次は、と手近な木に触れてイメージを発露させる。

 

「おぉ」

 

 出来た。というより、元よりこうなっていた。という感覚に近いか。既存の常識をまるで、「侵食」したかのように、 触った木は液体金属へと形を変える。

 

「なるほど……お次は」

「そこで何をしている」

 

 警告染みたその声に神経が凍りつく。喉元に牙を突き立てられたような感覚のままに、振り向くと……

 

「犬耳?? いや、狼?」

「動くな。ここは天狗の領域だ」 

 

 狼耳をおったてた女性が私に剣を向けている。耳がピコピコ動いて可愛い。

 あまりに、現実離れした光景に興味の炎が舞い上がる。

 

「その耳は本物? その剣は何で出来ているの?」

 

 ──その時、私は興奮のあまり失念していた。

 

 いくら天才と持て囃されようと、いくら計算が早かろうと、齢十歳あまりの世間知らずであったことを。

 

「動くな、と警告したはずだ」

 

 本日、刃物が体を通った感覚を初めて味わうこととなった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 ”

 哨戒任務のさなか、侵入者を発見した。ならば、白狼天狗として見逃すわけにはいかない。極力気配を殺して、私はそいつの背後を取った。

 それは、見たところ人間の少女だった。年の頃は凡そ10かそこらで、思わず目を引くような蒼い外套を身に纏っている。私を見て、一瞬ぎくりとしたものの、すぐにこちらへ強い関心を向けてきた。

 

 故に斬った。丁寧に天狗の領域だと教え、動くなと警告までして、その上でそれは全てを無視した。上が定めたルールに従い、私は人間の少女を斬った。

 造作もなかった。非力な人間、その中でもとびきり弱い未成熟な雌など、適当に太刀を振るうだけでいとも簡単に胴体を切断できる。決して驕りでも傲慢でもなく、事実私は愚かな童女の腰骨から臓物まで、すっと斬った。感覚としては、家で豆腐を切っている時に近かっただろうか。

 

 故に全身が総毛立った。剣術の才能が開花した喜びにでもなく、仕事を終えた達成感にでもない。斬った手応えが、私に強烈な()()を齎した。

 全力で飛び退き、距離を離す。不気味に蠢く人間()()()()()()から、1寸たりとも視線を外せなかった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あっっっぶな。あっっっっぶな。あっっっっっぶなッ!!

 今、体を液体金属にしてなかったら、上半身と下半身とが今生の別れに咽び泣いていた。流すというか流れるのは、涙ではないけれど。

 警戒されているのは、分かっていた。だからちょっと、あの狼少女の気を解そうと思った。ぷるぷる、わたし悪いスライムじゃないよ、みたいな感じの小粋なジョークで。

 

 結果、私は三文芝居にも劣るジョークに命を助けられた。痛みはないが、体の中を刃物が通った感覚はある。不思議で奇妙で、そして背筋にドライアイスを当てられたような感触だった。

 

こ、これはちょっと不味いわ

 

 死ななきゃ安い、それ即ち死んだら高く付くということに他ならない。払い切れない負債を抱えるのは趣味ではないので、ここは大人しく撤退しよう。一旦離れてくれた狼さんに内心感謝しながらそろーり、そろーりと後退りをして。

 

「……あっ」

 

 私は、マントの裾を踏んだ。デジャヴと硬直感が、再びの出番に狂喜乱舞しながら私の周りを巡る。

 

 第2次人間転がし祭り、開幕。もうかなり土で汚れてしまったが、どうやらまだ足りないらしい。倒れゆく中で、悪戯な神の囁きが聞こえた気がする。

*

 

 背中から伝わる衝撃。

 でも私はそんなことに構っている余裕なんてない。

 だって今殺されかけた。もし私が見た目通りのただの美少女だったら、間違いなく死んでいた。

 まぁ、今この時点でもやばいんだけど。

 とにかくこの体勢はまずい。

 斬りかかってきた相手に対して、尻餅付いて見上げてる状況。

 せっかく理想の地に来たのに何も分かってない。このまま死ぬだなんて嫌だ。

 

「……目的は何だ?」

 

 そんなのここに来ることそれ自体なんだけど、多分そんなこと言ったって『はい分かりました』とはならないよね。知ってる。私頭良いし。

 で、どうやって伝えようか。それで立ち上がろうと─―

 

「っ警告を忘れたか!?」

 

 天狗が飛び掛かってきた。

 剣が降ってくる。

 死。

 嫌だ。

 まだ私は─―。

 

「っ!?」

 

 音が二つ。

 高くも鈍い音。驚きと怯えが混じった声。

 水のように柔らかく出来るなら、鉄のように硬くだって出来る。つまり全身を硬化させて防いだ。ふふ、そこまで驚くことかしら? 前情報は充分にあったと思うのだけど? あ、私が天才科学者だから?

 てかこの状況、最強じゃない?

 ふふ。やった。このまま天狗に近づけば、私の勝ち決定じゃない。

 ―─って、体が動かなっ!

 関節も何もかも硬くなってる!!

 ……幸い天狗はさっきよりさらに離れてくれたし、通常状態に戻そう。

 あ、やば。

 

「っひぃ」

 

 顔がドロった。

 元ってどんなだっけ。……とりあえず崩れない程度に抑えておこう。

 びっくりする度に身体が硬化するのも面倒だし、能力の使い方に慣れとかないといけないわね。

 ということで、命の危険は薄れた。

 なら後は目の前の存在から情報を聞きださなきゃ。

 

「ねえ、聞いていい?」

 

 返事なし。なんか牙出してグルグルいってる。

 

「もういいわ。直接聞くから」

 

 分からなさそうな顔をしてるけど―─。

 

「検体は何も知らなくていいわ。意識が無くなった貴女に直接乗り込んで調べるから」

 

 後退る天狗。逃がすわけがない。

 右腕を変質させ、剣を形取ると硬化させる。

 さっきのお返しとばかりに飛び掛かり、右腕を振り下ろす。

 剣と剣がぶつかる瞬間。硬化を解いて、軟化させる。そうすれば―─。

 

「っ!?」

 

 天狗の剣を私の右腕が飲み込む。そのまま硬化させれば―─。

 

「おやすみなさい。次は夢の中で会いましょ?」

 

 その瞬間、天狗が消えた。

 違う。黒い影が目の前を横切った。

 右上、木の上に天狗が増えていた。

 睨まれてる。

 

「あら、検体が増えたわ。降りてきて?」

 

 あ、逃げそう。追わなきゃ。

 その時、なぜか青空が見えた。

 泣きそうなくらいに綺麗だった。

 

 ……うん、このマント大きいのかもしれない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「何をしているんでしょうあの妖怪は」

「先ほどの私達を見る目といいあの態度といい、天狗を愚弄しているとしか思えない。それに奴は危険すぎる!」

 

 射命丸文は興味深げに、犬走椛は憎々しげに地面で悶絶する少女を見遣る。パッと見ではそこらの外来人と大差ない風貌だが、彼女が内包している"異能"の強さは初見の二人をして容易く感じ取る事ができるほどだ。

 山への脅威となり得る危険度は確実に備えている。強制退去か、或いは処分か……。ただ、まだ彼女の目的や思想が見えてこない。

 今後の対応はそれで分かれてくる。

 

「……聞き出してみましょうかね」

「その必要はありません。ここで仕留めねば!」

「椛とアレの戦闘相性の悪さは先程の攻防から見て取れるでしょう? ここは大人しく私に任せときなさいって」

「ぐぬぬ……!」

 

 椛は悔しそうに唸るが、文は妖怪の山有数の実力者だ。荒事に関しては彼女に任せておけば万事オッケーだろう。

 痛みから復帰した侵入者へと声を投げかける。

 

「こんにちは侵入者さん。そろそろ我々との対話に応じてもらえますかね?」

「ちょっとちょっと! 聞く耳を持たなかったのはそっちの癖にー。……まあいいけどね、天才は寛大なの。そのくらいじゃオコラナイ」

 

 少女は余裕がある風を装いながら肩を竦める。そして晴れやかな笑顔を浮かべると、勢いよくマントを翻した。

 いちいち仕草が大袈裟だ。

 

「理想郷在住の検体諸君ごきげんよう! 色々と話したい事はあるけどまず自己紹介からね! 私の名前は一見月(ひとみつき)椪子(ぽんこ)、最果ての幻想を追い求める探求者である!! ……完っっ璧だわ!」

 

 感極まって拳を握る。おそらくこの瞬間を何度も頭の中でデモンストレーションしていたのだろう。正真正銘のおバカである。

 椛は呆れ返り、文は「ほうほう」と頷きながら文花帖に『ぽんこつ現る!!』と文々。新聞の将来の見出しを書き連ねた。

 

(うーん、危険度は少なそう? ならひとまず警戒は解いてもいいかしら)

 

 文は肩の力を抜いた。

 これで一安心――

 

「うわぁこれ本物の羽なの?」

 

 背後から声――

 むずむずとしたこそばゆさ――

 

「もしかして天狗ってヤツ? 初の未知との遭遇にして凄い大物だわ! やったやった」

「ッ旋符『紅葉扇風』!」

「うわ、どひゃあ〜〜!?」

 

 咄嗟に抜きはなったスペルカードが大竜巻を発生させ、椪子を大空へと吹き飛ばした。

 流石は理想郷、竜巻に飲まれるという稀有な体験に遭遇することができた。椪子は感激していた。ありがとう理想郷! ありがとうオカザキ教授!

 

 雲の彼方へと消えていった椪子を見送った文は、苦々しい表情で額の汗を拭い、目を伏せた。文を長く見てきたから椛だからこそ分かる、その珍しい『焦燥』に椛は困惑する。

 

「大丈夫ですか文さん!?」

「……私が易々と背後を取られるとは」

 

 油断、軽視。

 それらがあったことは否定しない。だがそれでもなお、射命丸文の背後を取ることは困難を極める。なにせ文は『幻想郷最速』である。

 その彼女が背後を許し、挙句には羽を弄ばれた。しかも椪子が椛に見せたあの能力から鑑みるに、あの時、椪子に()()()()()()()()……。

 

「……!」

 

 流石に肝が冷えた。

 やはり、あの少女を野放しにしておくのは危険すぎる。

 

 射命丸文の、長きの年月により培われた勘がこそばゆく囁いているのだ。

­­­­少女が幻想郷に齎すであろう、不吉な予感を──

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

──平行世界(パラレルワールド)という概念をご存知だろうか。

 

 数多の世界に内包される可能性。それを含んだ世界のおとぎ話。

 もし、博霊の巫女が紅白でなかったとしたら? もし、普通の魔法使いが、ただの魔法使いであったとしたら。そんな異なる世界を観測し、確定するのはいつだって自分自身の感覚である。

 

 しかし、世の中には必ず例外というものは存在する。例えば、船に乗り可能性を旅した科学者がいた。彼女は平行世界への到達を可能にしていた、といっても過言ではないだろう。

 

 その背中を追い続け、理想郷を夢見て、白昼夢の中を漂白し続けた少女がいるとしたら?

 夢は常に不安定なもの。夢の持ち主によって形を変化させ続ける。ある意味人間の最奥であり、最大級の神秘。剥き出しにされた狂気ともいえる。そんな最奥の神秘を幾千、幾億の夢を観測し続けた少女。果たしてそれが正気を保っていられるのか?

 

 ──果たして、その少女が夢見て止まぬ理想郷を偶然観測してしまったら? その観測結果というのはいかほどなものなのか?

 

 幻想郷の賢者は、ある小さな見落しをしていた。しかして、これが致命的な見落としでもある。

 

 彼女は結界を破って侵入してきたのではない。彼女はただ、幻想郷に居る「自分」を観測したのだ。観測による事象の確定化。彼女は幾度の可能性を渡り理想郷を観測した。

 自分の夢の中に存在する理想郷と現実の幻想郷を夢で繋ぎ、自身を顕現させる。まるで現実が夢を見ているかのように、そして、現実を食い破るかのように、幻想郷へと辿り着いたのである。

 

 彼女の本質とはすなわち観測すること。事象を見て、感じて、自分の中に落とし込む。どんな可能性であれ観測さえしてしまえば、自身へと取り込める。

 しかし、ここである懸念が発生する。

 

 科学を知り尽くした彼女がもし、妖怪達を別の現象として観測してしまったら?

 天才的な頭脳を持つ彼女がもし、人間を脅かす妖怪達を科学によって退けてしまったら?

 

 人間と妖怪。その関係が表面張力によって押さえつけられた水の様に、すんでのところで形を留める幻想の国。

 天才の落とす波紋は、決して小さいものでは無い。

 

 狂喜によって観測された理想郷。

 幻想の名をもつ、妖怪と人間の最後の楽園。

 

 もし、観測される事自体に重要な意味を持つ妖怪達がこの少女に出会ってしまうとしたら、どのような化学反応をもたらすのか。

 

 夢の中の少女。夢見た理想郷。

 可能性の揺り籠の中、彼女は静かに夢を見る。

 

 

 




目印として、各員に記号を割り振っています。
〇こまるん
☆月見肉団子
★海のあざらし
□べあるべあ
■東方兎流陽寿
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