《警告》
ムーンナイト史上一のシリアスが文中に挟まれています。
出産や、命についての描写が苦手な方はご注意下さい。
ママ様に外出許可が出てから2週間。
日々お腹の中の妹ちゃんに話しかけたりピアノを弾いて歌ったりしてます、3歳4ヶ月
予定日は来週だけど待ちきれなくてウズウズしてるわ!
早朝からお仕事に行くパパ様を見送って朝ごはんを食べて、ただいま勉強ちゅー…
メアリさんは朝陽くんを連れて近くのお店までお買い物。
だからお家にいるのはママ様と夜空ちゃんと私の3人よ。
えっと〜、コレはこうだから…(集中)
「まま、まぁま?」
最近ままとまぁまの割合が6:3.5くらいになってる夜空ちゃん可愛い(反射)
ちなみに残りの0.5割は
んー、ここはこっちで〜…(集中)
「まま、いたぃたい?」
シュバッ(高速顔上げ)
ママ様お腹に手を当ててどうしたの?!ちょっと苦しそうよ?!!
はっ赤ちゃん!(超速理解)
総員、緊急たいせーいッ!!!(1名)
◆◇◆
まずはママ様の携帯を借りてメアリさんの携帯番号を高速入力!よし!
「よぞら、メアリさんがでたらママがおなかいたいっていってね?」
頷いてくれたのを確認して次はお家の固定電話からタクシー会社に連絡!
番号は
早く出て早く出て(念)
繋がった!
「タクシーを1だいてはいできますか?ママのおなかのなかのあかちゃんがうまれそうなんです」
住所も伝えたんだけど、オペレーターさんめっちゃ焦ってるわね。
目的地の住所?よし覚えてるわ。
この間パパ様に診察券を見せてもらっておいてよかった(真顔)
タクシーの手配完了!
「めーりぃ?まぁまいたぃたいの」
メアリさんにも電話が繋がったみたいね。
次は病院に電話!
あっおはようございます
よし!次!
荷物の確認ッ
パパ様がリストを用意してくれてたから照らし合わせるだけね。
母子手帳診察券保険証書類が入ったファイルお財布汗拭きシート歯磨きシートスキンケアセットミニポーチショーツフェイスタオルパジャマ充電器飲み物ストロー飴とおやつ、よし(高速確認)
あと必要なのは病院で用意してくれるって言ってたわ。
Next!戸締まり!
寝室、オッケー
トイレ1、オッケー
お風呂場、オッケー
書庫、オッケー
トイレ2、オッケー
ウォークインクローゼット、窓無し。
1階クリア。
2階への踊り場、オッケー
トイレ3、オッケー
メアリさんのお部屋、問題ありません。
残りのお部屋、オッケー
廊下の窓、オッケー。ダメだったとしても手が届かないから危なかったわ(真顔)
バルコニー、オッケー
階段を降りてリビング、オッケー
オールグリーン!!
この間のお出かけの時に買ってもらったリュックサックの中におもちゃとか絵本とか塗り絵とか2人のお気に入りタオルとかツメツメして…
あと入れたいのはパパ様が作ってくれてた私たちのおやつだけど、それは柵の向こう側のキッチンにあるの。
…やるしかないわね(決意)
リビングの椅子をズリズリして柵の前へ設置。
うんしょっと。
とうッ(跳躍)
すちゃッ(着地)
香澄夕空、キッチンへの侵入に成功しました。どやぁ
あっメアリさんと朝陽くんが帰ってきたわね(センサー)
タクシーが来るまで時間も無いし、おやつとついでに飲み物を確保!よし!
それじゃあリビングに・・うん?
向こうには椅子があって柵を越えられた(確認)
でもこっちには足台になるものが無い(認識)
出れないわぁ…(白目)
◆◇◆
キッチンからメアリさんに救出してもらってタクシーに乗車したわ。
赤ちゃんが生まれそうって伝えたからか女性ドライバーさんを派遣してくれたの。
そして病院へ向かう間にパパ様に連絡!
べ、別に忘れてた訳じゃないわよ?
ただ頭から抜けてただけなの(必死)
パパ様は今から向かうと言ってたんだけど、そんなにすぐには生まれないから今日の分の会議が終わってからでいいってママ様に言われてたわ。
病院に到着したら即入院。
案内された個室にはテレビやトイレ、テーブルにソファなどを完備…ホテルかな?(疑問)
もう出産も4人目だしお昼過ぎくらいには生まれるんじゃないかしら、とのことよ。
10月27日!
早くはじめましてマイシスターってしたいわ!
◆◇◆
「花純!」
そう言ってパパ様がお部屋に飛び込んで来たのは夕方の5時。
お昼過ぎには生まれると言われていたけど、まだ赤ちゃんは生まれていないわ。
泣いちゃった朝陽くんやそばに来た夜空ちゃんを何度か抱っこしていたママ様だけど、今はその余裕もなくなってきているみたい。
もう9時間近くも経ってるんだもの。疲れちゃうわよね…
私は長くて広いソファの上で夜空ちゃんや朝陽くんと遊んだりしてるの。
3時にはお家から持ってきたおやつを食べて2人はお昼寝。
よく寝る朝陽くんとは対照的に夜空ちゃんはすぐに起きちゃったから、持ってきていた絵本を一緒に読んでるわ。
ママ様がふーっと痛みを逃しているのを見ている夜空ちゃんが不安そう…
よしよぉーし。大丈夫よ〜
「ねぇよぞら、つぎはなにをよみたい?よぞらのすきなえほんはどれかしら〜?」
目をキラキラさせて絵本を選びはじめた夜空ちゃん。
本当にかわいいわ。
◆◇◆
時刻は夜8時。
まだ赤ちゃんは生まれていないわ。
立ったり動いたりひたすら痛みを逃しているママ様が時々辛そうに声を出しているのを見て胸が張り裂けそうな夕空です。
今も…
「……んん…」
〔大丈夫、大丈夫よ。ゆっくり息を吐いて〕
立った姿勢のまま、手をとりながらそばに寄り添うメアリさんの肩に頭を預けたママ様が深くゆっくり息を吐いて、また吸って、吐いて。
一瞬その呼吸が痛みで止まりかけてもメアリさんが腕や腰を優しくさすりながら
パパ様はついさっき晩ごはんを買ってくるためにお部屋を出て行ったわ。すぐに戻るって言ってたわね。
少し落ち着いた瞬間を見計らってストローをさしたペットボトルとタオルを持ってトコトコ。
〔ママ〕
ベッドに腰かけたママ様に飲み物を渡したあとにタオルを優しく頬の汗にペトン。
〔ありがとう、ゆーちゃん〕
疲れた顔に優しい笑顔を浮かべてママ様は撫でてくれたわ。
〔うん〕
これくらいしか出来ないのが悲しいわね…
私がパパ様くらい大きかったらもっと支えられるのに…
ちょっと落ち込みながらウトウトしてる夜空ちゃんの隣へ戻った所でパパ様が帰ってきたわ。
「失礼いたします」
そして、そのうしろにいたのは…
「みれいせんせい?」
どうして美麗先生がここにいるの?
「夕空。夜空や朝陽も、今日は美麗先生のお家に預かってもらおうとお願いしたんだ」
・・・え?
「急にごめんなさい、美麗さん…」
「いいえ、わたくしに出来ることがあるのでしたら喜んで」
わけの分からないままお部屋の外で待っていた春雄さんと合流して歩き出したわ。
「分娩室の佐藤さん、分娩後出血量増加。Rh陰性のB型輸血を準備」
看護師さんたちがバタバタしていたから少し廊下の端に避けて…
佐藤さんって、お昼過ぎに病院に来ていた人じゃなかったかしら。もう生まれたのね。
夜の間に、赤ちゃんが生まれるといいな。
◆◇◆
次の日の朝。
雨が降る中、出来るだけ急いで病院へ来たわ。
お部屋の扉を開けて入ったんだけど、誰もいないの。
もしかしてもう生まれたの??
まだ眠そうな夜空ちゃんと朝陽くんを美麗先生と春雄さんがソファに寝かせてくれてるのを横目に入り口近くでウロウロ。
「──分娩室2。子宮収縮は徐々に間隔が短くなっていますが、母体の消耗も考慮し促進剤の投与を開始しました」
「帝王切開への移行は?」
ちょうど外の廊下の看護師さんと先生の会話が聞こえたわ。
ママ様も分娩室にいたりするのかしら?
「いえ。体に傷を残すのは避けたいとのことで自然分娩を選択されてます」
「なるほど、モデルさんだものね」
ッ!!!!
◆◇◆
春雄さんや美麗先生の焦ったような声を聞かなかったことにしながら全力で分娩室2へ走ったわ。
「ママ!!」
今出る力の限り開けた扉に体をねじり込ませるようにして入った分娩室。
看護師さんに、パパ様、メアリさん。
そして。
「ゆう、あ…」
昨日よりも更に疲労を顔に滲ませたママ様。
まだ、生まれてない。
台の近くに駆け寄ったらメアリさんが黙って抱き上げてくれた。
「ゆーちゃん、ごめん、ね」
どうして謝るの?
どうして、ママ様。
「愛してるわ、
知ってるわ。
ママ様が私をたくさん愛してくれているのは知ってるの。
どうして今そんなことを言うの、ねぇ。
「ママ…」
思わず伸ばした手を握ってくれた、汗に濡れた冷たいママ様の手。
この世界に生まれたときから、無条件の愛と幸せをいつも与えてくれていた世界一優しい大好きな手。
「夜空と、朝陽を…よろしくね」
そんな風にお願いをされたら、私は断れないじゃない。
「うん、うんっ」
夜空と朝陽の所へ行かなきゃ。
ママ様の手を離して、メアリさんの腕から降りた。
振り向かない、振り向かない。
だって振り返ったら、泣いてしまう。
◆◇◆
あの子が振り向かず、走るようにして出ていった部屋の中。
握り込まれるように私の手に力が加わる。
「カスミ」
唯一無二の、親友の名前を呼ぶ。
「メア、リ」
大きく息を出し入れしていたカスミの口が動いた。
「子どもたちを、おねがい…」
か細い声。長い時間痛みに耐えながら泣き言も弱音も吐かなかったカスミが、震えていた。
「おねがい、メアリ…っ」
その口から、楽しそうに私を呼ぶ声が愛しい。
その笑顔が、その優しさが、私を救ってくれた。
〔ずっと、いくらでも聞いてあげる〕
自分の声の震えをコントロール出来ないなんていつ振りなのか。
ずっと、いくらでも。
この言葉に偽りなんてない。
何かを失うことには、慣れたつもりだった。
敬愛する姉を。
愛する両親を。
子どもを産む未来を。
そして、結ばれることを誓った
…でも、親友を、失いたくない。
〔だから生きなさい、カスミ。…お願いよ〕
強く強く手を握られた。
〔ヨシヒロ〕
〔あぁ〕
するりと手を解く。
それが
〔子どもたちと待ってるわ〕
◆◇◆
〔ユーア〕
部屋を出たところで、ユーアは立ち尽くしていた。
前に回り込んでから膝をついて小さな手に触れる。
「まま、だいじょうぶよね」
この子は生まれた頃から
よく笑い愛に満ちた行動をとるユーアが取り乱すとき。
「しんじゃったりしない…やだ…」
大抵、死が関わっている。
病気、怪我、可能性。少しでもそこに死を想像する余地があったなら。
体を包むようにして抱くと力一杯に抱きしめ返してきた。
「もっと、いっしょにいたいのに…どうしてあんなこというの…いなくなっちゃいや…!」
世界に生まれ落ちたばかりの無垢を持ちながら、まるで
それがユーア。愛しい子。
──〔ほらさわってメアリ!動いてるでしょう?分かる?〕
──〔どうかしら〕
──〔もぅ…ならこの辺りを押してみて〕
──〔嫌よ。何かあったら怖いもの〕
──〔いいから、ほら〕
──〔ちょっと……ぁ〕
──〔ね?押し返してくれるの。すごいでしょう?命があるのね〕
あの時。
小さな命が、大きな力をくれたから。
◆◇◆
分娩室から出た直後に動けなくなった私を、メアリさんが抱きしめてお部屋まで連れ帰ってくれたわ。
怖くて、辛くて、すがりつくようにして泣いて、ようやく落ち着いたわね。
お部屋に備え付けてあるお風呂でメアリさんがシャワーを軽く浴びて汗を流している間に美麗先生と春雄さんにごめんなさいをして。
時刻は12時。
突然、窓から急に光がさしてきたわ。
え、なにごと?
わぁ…!
「きれい…」
雨が降っていたのに、この病院を中心にして雲が晴れているの。
「まるで祝福しているよう…」
しばらく無言で見ていたあとに美麗先生の言葉がお部屋に響いた瞬間、急いだ様子でお部屋に看護師さんが入ってきたわ。
まさか…!!
「おめでとうございます、12時00分、無事に生まれました」
生まれてきてくれたのね…!!!
「ただ…分娩に長い時間がかかったために出血が多く、輸血をする可能性が高いです。万が一のことがあるので、お子様たちを分娩室の前に連れてきていただけますか?」
…万が一?
それって。
〔ユーア、カスミは絶対に大丈夫よ〕
深呼吸、深呼吸よ香澄夕空。
大丈夫。
◆◇◆
さっき出た分娩室の前に来たわ。
夜空ちゃんと私は手を繋いで、朝陽くんは病院のベビーカーに乗ってメアリさんと一緒に静かに待機。
小さいけど、かすかに赤ちゃんの泣き声が聞こえるの!!
「よぞら、きこえる?あかちゃんのこえ」
ちゃんと生きてる。私たちの妹の声が聞こえるわ!
「輸血パックの在庫がない?」
「はい。昨日別の方に使った後、病院からの応援要請も重なって──」
だけどそれ以上に、不穏な会話が聞こえた。