彼方の傭兵   作:悠士

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玄界編
1話 傭兵


 耳を澄ませば戦闘音がいたるところで響いていた。剣がトリオン兵を切る音、ビームを受けて吹き飛ばされる音、建物が破壊される音。そして背後から剣が振り下ろされる音が聞こえると、半歩右へずれて左回転しながら勢いもそのままに叩きつける

 

「っぐ!やるな、まだ若いのにそれほどの腕前を持っているとは。我軍に欲しい逸材だ」

 

 吹き飛ばされた相手は片膝を地面に付けながら言ってきた

 

「そうか、でも悪いな。オレは傭兵だから今はこっち側なんだ。あと軍とか固くるっしいところには居たくないな」

 

「自由気ままな傭兵がいいのか?」

 

「おう、こっちのほうが性に合ってる。だから悪いな、仕留めさせてもらう!」

 

 まるで世間話をするみたいに敵のリーダーと会話をすると、剣を構えて突撃する。迎え撃とうとするが、その攻撃はオレには()()()()()

 

「なにっ!?」

 

 横に振られた剣は確かにオレに当たる軌道だった。けど途中で上へ()()()()()()。敵が驚いている隙に下から切り上げて、トリオン供給器官を破壊する

 

「……我々の負けだ。最後確かに捉えたと思ったのだが?さすがはブラックトリガーってところか」

 

「オレが来た時点で負けは決定だから、だから残念がる事ないぞ?あとオレのトリガーは、ブラックトリガーじゃないから」

 

「……ブラックトリガー……じゃない……!」

 

 腰の鞘に剣を収めて音を聞いた。聞こえる範囲ではどうやら加勢に行かなくても程なくして戦闘が終了しそうだ

 

「そうだよ。オレはレイ、篠島(しのしま)(れい)。貿易国家ソチノイラを拠点としている。用があるときはそこへ行ってくれ。あと旅行とか行ったりするからそのときはごめんな」

 

 去り際にそれだけ言って苦戦してそうなエリアに向かった。モールモッドが7体だったが、オレからすれば雑魚の集まりだ

 

「おい!後退しろ!オレが片付ける」

 

「す、すまない!」

 

「たすかる……」

 

 負傷している兵を下がらせて前に下り立つと、モールモッドが一斉に襲い掛かってきた。けれどもう()()。振り下ろされた刃は腰から抜いた剣で叩いて砕けた

 

「はいはい、おしまいだよ!」

 

 次々と壊しては弱点の目を斬って撃破する。7体全て倒すと同時に今回の戦闘が終わった。トリオン兵のなかでは最高硬度を誇るモールモッドのブレードが壊れる音は聞いてて気持ち良かった

 

 オレが倒したリーダーは捕虜に。攻めてきた国への交渉材料として使うわけだ。負傷兵もそこそこ、トリガー使いの戦士も半分が倒されたらしい

 

 作戦本部に帰還すると今回の侵攻の被害と戦果の報告をする。以外にも市街地とかはそこそこ、酷いのは戦士の負傷者だったみたい。血や薬品の匂いが医務室を中心に広がっている。怪我人も廊下や休憩室などを使っても埋め尽くされていた。もうこういう光景は幾度と無く見てきた

 トリガーを使えない戦士はトリオンでできた大砲や剣で応戦するのが精一杯、使える者も能力によってどれくらい戦えるか左右されるため、長時間戦えない者ものいる。しかもトリオン体が破壊された後は死ぬか捕まるかどちらかだ。生き延びられても怪我を負ったりすることも多い

 

 中を少しだけ覗いたら司令官の部屋に向かった。今回依頼主はその人だからだ。仕事が終わった後の話をするためにドアを叩いて中へ入った

 

「レイくん、今日は助かった」

 

「どーも、ちょっかいしてきてる国の戦士を相手にするのが今回の依頼だからね。そっちも忙しいだろうから面倒な話は抜きにして、報酬の話しをしようか」

 

「そうだな、そうしてくれると助かる」

 

 机の上には書類の山。何が書かれているのかはちょっと気になるが、傭兵のオレが気にしたってしょうがない。今回の戦果は敵兵3人、トリオン兵29体。決まった報酬額50万ココと敵兵10万ココ×3人、トリオン兵5万ココ×29体で合計225万ココ。オレの中ではいつも通りの稼ぎだ

 

「失礼します」

 

 報奨金を入れた箱を持った女性が入ってきて受け取る。中を見て確かめるとしっかり現金である事を確認すると、依頼書に完了のサインをして退室する

 

 これで仕事を終えたオレはこれ以上滞在する理由もない。だけどお土産くらいは買っていきたいから街へ向かった。戦闘のあとだというのに空は晴れている。さすがに動物の声はしないが

 少し歩いていけば街があり、飲食はもちろん服やアクセサリーなどの店が立ち並んでいる。色々見て買ったのはお菓子がほとんど。こっちの国の品もある程度はソチノイラにもあるし

 

「よし、ん?」

 

 両手に抱えるほど買い込んだらゲートを開く場所までいくだけなんだが、視線を感じて振り返ると、小さな子供がオレを見つめていた

 

「どうした?父さんか母さんはどうした?」

 

「…………死んじゃった……」

 

 子供が一人でいる少し不安はあった、聞いてみれば昨日の戦闘で建物の壁が乗ってて返事をしてくれないという。戦争をしてるからそういうことはよくある。今回はたまたま、この子の家族が被害を受けてしまっただけ。だが他人事とはいえ、運がなかったね、なんて無神経な事は言わない

 

「これあげる。一人になった子が一緒に暮らしてる場所に行こうか?」

 

「………うん」

 

 買った袋からお菓子を一つ出して渡す。これで元気を出せなんて無理な話だ。けど親が死んだのなら昨日からご飯とか食べていない。その証拠に小さく胃袋が鳴っているのが聞こえた。腹が減っていたら頭が回らなくて正常な判断ができないし。子供は袋を開けて食べながら後を付いて来る。街の人に聞きながら30分ほどで孤児院に到着した

 

「……一緒に居て」

 

「ごめんな、兄ちゃんこの国の人間じゃないんだ。お仕事でこっちに来てたんだ」

 

「帰っちゃうの?」

 

「ああ、元気に生きろよ?お父さんとお母さんの分までね」

 

「…………うん」

 

 かわいそう、一緒に居てあげたいという気持ちはある。けどそれだけで助けるのは傲慢だ。何でも救えるほどオレは器用じゃないし、神様や天使ってわけでもない。最後に頭を撫でて別れて街から遠く離れた草原に来る。拳ほどの大きさの球体を取り出して、スイッチを押して起動すると投げる。するとゲート()が発生した

 

「よし、間に合った」

 

 オレが投げたのは携帯型ゲート発生装置。使いきりのちょっと高めもの。帰還先を設定できるもので、もちろん出口はソチノイラだ。生身では危険だからトリオン体に換装してからゲートに飛び込んだ

 

 水中に居るような浮遊感を感じながら、到着するまで身を任せていること15分。閉じていた視界が少しだけ明るくなったから目を開ければ貿易国家・ソチノイラに到着だ

 

「よーレイ!仕事終わりか?」

 

「ああ!そこそこの稼ぎだけどな!」

 

 帰還ゲート用の発生ポイントから出てきたオレに声を掛けてきたのは、顔なじみの傭兵のゲージュ。豪腕で振られるハンマーの一撃はクレーターができてしまうほど。トリガーの性能も桁外れの威力を誇っている

 

「オレ等にも土産とかねえのか?」

 

「ないよ!あそこに持っていくものがほとんどだし、ゲージュが欲しいのはお酒だろ」

 

「ははは!よくわかっているじゃねぇか!!」

 

 ゲージュは酒好きでもあるためお菓子には目もくれないのだ。会話もそこそこにまずは帰還したら「ソチノイラ派遣協会」に出向いた。ここはソチノイラを拠点としている傭兵たちが依頼を受ける場所であり、帰還したら報告をするのが義務だ

 

 ちゃんと終えたのか? ソチノイラに居るのかどうか? 依頼内容に誰が適切なのか? そういったこことを管理する施設だ。中に入りカーブしていないめがねをかけたポニーテールの女性の人が居るカウンターへ向かった

 

「久しぶり、メノイさん。帰還報告をしにきたよ」

 

「あら、久しぶりねレイくん。はい、依頼終了のサイン確認しました。お疲れさま」

 

「メノイさんもお疲れ。これお土産」

 

「いつもありがとうね」

 

 メノイさんとは傭兵登録をしてからよく依頼の受注や完了などの報告で会うことが多い。そのため他の人よりは世間話とかプライベートな会話をしたりなど仲がよかったりする

 

「次に近付いている国から依頼が色々あるけど、どうする?」

 

「うーん、今回はいいかな。旅行とか考えているし」

 

「あら、ずるいわねレイ君は。じゃあお土産は期待しちゃおうかな?」

 

「えー余裕があったらそうする」

 

 みたいにまるで友達との会話に近い。ちなみに旅行というのは言葉通り、他国へ遊びに行くことだ。ゲートを使っての移動はトリオンがないとできないことだが。逆に言えばあれば行けたりもする

 

 この貿易国家は自国の利益のために戦争をしたりはしない。というよりは軍事力を持っていない、というのが正しい。いつ襲われて侵略されてもおかしくないが、そこは何代も前の国王が他国との会談を重ねて、貿易国家と呼ばれるほどに作り変えていったのだ

 ソチノイラにトリガー技術はあるが、戦争のためでなく、貿易のために日々研究開発されている。帰還に使った小型のゲート発生装置もその一つ

 

 オレのトリガーも他国からの技術を元に、開発者と相談しながら作ったもの。複製も上位互換もない一点もの。結構苦労はしたけど、満足できるトリガーに出来上がった

 

「おにいちゃーん!」

 

「やっときたー!おせーよ!」

 

「悪い悪い。お土産は買ってあるから」

 

 協会から出て南通りの端にある建物に行けば、戦災孤児を集める孤児院に到着した。するとオレの姿を見つけた子供達が一斉に集まって、持っていたお土産を奪っていった。がめつい子供達だ

 

「お帰り。無事でよかったわ」

 

「ただいま先生。オレは強いから!簡単には倒されないよ、いてっ!」

 

「バカか!そんなに自信持ってたらさっさと死んじまうぞ!」

 

「おっさん乱暴……敵にやられる前におっさんに頭叩かれて倒れそー」

 

 長い髪を束ねた美人の40代が孤児院の先生。そのあとオレの頭をたたいたのが、顎鬚生やした色黒のおっさん。ちなみに2人は夫婦だ

 

「おいお前達!喧嘩するな!」

 

 オレはこの人たちに勉強を教わっていたことがある。美人の先生は玄界(ミデン)という国で教師をしていたらしい。ここでは孤児院の職員だけでなく、子供達に勉強を教えたりしている

 運がないことにトリオン兵に連れ去られたが、そのときはトリオン能力が低すぎるという事で捨てられここに流れ着いた、と数年前に先生が思い出すように言ってくれた

 と、ちょっと昔のことを思い出していたら遠くでお菓子の取り合いをする声が聞こえた。全く、先生から譲るということを覚えなさいと教えられているはずなのにいつも取り合いの喧嘩になるのだ

 

「それにしてもちっこい頃はビービー泣いてたガキがよ、今じゃ無敗とも言える傭兵になるとはな」

 

「おっさん、ジジ臭いこと言うなよ。オレまで老けてしまう!」

 

「残念だな!お前もいずれジジ臭いおっさんになるんだよ!」

 

「あー!若者にそんな事言っていいのかよ!グレるぞ!」

 

「おーグレろ!何度だって引っ叩いてやらぁ!」

 

 全く。まだ17の未来ある若者にジジくさいこと言わないでほしい。一緒に老けてしまいそうな気がするからやめて欲しい。まあおっさんの言うとおり、オレは昔はなんでもすぐ泣いてしまうような子供だった。そんな子が今じゃ傭兵家業を始めるほどだから、気持ちは分からなくもない

 

 雑談もそこそこに孤児院を後にして自宅へ帰った

 

「ただいまー」

 

 癖で言ってしまう帰ったときの挨拶。今は誰も居ないのにだ。電気を付けて買ってきたご飯を広げて食べる。いつもは作るのだが、仕事の後なので作る元気はない

 

 本が少しと着替えとベッド。それだけの簡素なオレの部屋。長期で仕事をするときもあるため、私物はできるだけ少なくしているのだ。泥棒が入っても盗るものがないと思えるように

 

「ふぁ~………旅行………どこ行こっかなー」

 

 食べ終えて窓を見ると、丁度月が昇り始めていた。旅行しようと思ったら遠征艇をレンタルしなくてはいけない。安くはないから滞在期間と資金を考えて決めないといけない。雑誌を片手に捲りながらその日は終えた

 

 

 

 目が覚めると、まずすることは

 

「いただきます!」

 

 ご飯だ

 

 軽くストレッチのあと朝食を作った。師匠から色々教えられたから今ではもう完璧だ。完食をすると次は部屋の掃除。昨日は帰ってきて疲れていたから、片付ける暇もなかった。掃除機を取り出してトリオンを吸収するとスイッチを押して動き出す。ごみを吸い取って綺麗になっていく床を見て清々しい気分になる

 

「さてと、次は洗濯っと」

 

 掃除機のごみを捨てて片付けると、次は洗濯物だ。あらかじめトリオンを吸わせておいて必要な量をチャージさせたから、ごみ掃除の間に完了している。脱水された衣類を取り出して干していく。やることやると手持ち無沙汰になったので、情報を集めるために外に出ることにした。といっても3~4日しか空けていないから大して変わっていないだろうけど。適当な雑誌を購入、一緒に飲み物も買って近くのベンチに座った

 

「………ふーん……アフトクラトルから移住者が50人越え……多すぎだろ」

 

 軍事大国アフトクラトル。神の国とも言われ、傘下になっている国も多い。だがそのアフトクラトルから移住者というのは結構珍しい。貴族社会で有名で、地位が上がれば楽できるし遊べるほど金ももらえる。低くても庶民には問題ないほど生活はできる。そのアフトクラトルの人が50人近くもこっちへ移住してきたのだ

 

「よそ者が集まるから拒むことはないけど、何があったんだ?」

 

 移住した人たちは情勢が少し怪しいので避難してきた。と取材に記事には書かれていた。他にも移住者達からの情報で、新型トリオン兵が完成したという

 

「従来のトリオン兵を凌駕する性能を持っている。手練れの戦士でもなければ勝てないだろう。ふーん……どのくらいなんだろう?モールモッド10体分の強さだったり?なわけないか」

 

 詳しい性能までは書かれていなかった。他には品切れだった商品の入荷、新デザインの服の紹介、今月の依頼数など書かれていた。あらかた読み終えたから立ち上がって街を歩くと、「マカロン」と書かれたお菓子が目に入った

 

「噂のミデンのお菓子…不思議な食感に手が止まらなくなること間違いなしか……ミデンのお菓子、ね……」

 

 ミデン生まれのオレだけど、こんなお菓子があるなんて知らなかった。というよりも一度も行ったことないし、赤ん坊の頃にここに流れ着いたから知らなくて当然だ

 

「おっちゃん!マカロンってミデンのお菓子なんだ?」

 

「おう!この間レシピが手に入ってな!さっそく作って売ってんだ!」

 

「へー……でも塩って……お菓子に塩味って変じゃない?」

 

 丸っこいマカロンというお菓子は見た目からして甘いものって思える。色も淡いから女性には結構人気が出そうだ。だけどそこにしょっぱい塩味っていうのは戸惑う

 

「そこは決まってるだろ!冒険だ」

 

 さも当たり前のようにいったおっちゃん。冒険して売れなかったらどうするんだってツッコミは言わないことにした、でも

 

「じゃあキャラメルと……塩で」

 

「あいよ!930リィルだ」

 

「意外とするね?」

 

「そりゃーレシピを買うのに結構払ったからな!材料にも高いのもあるからな」

 

「なるほど………ん!なにこれ!?」

 

 パンともクッキーとも違う不思議な食感。フワッとサクッとしてて、味もしっかりある。少し高いけど、余裕あれば買って損はないお菓子だ。続けて塩も食べると甘さも少しある、けど塩があとからやってきて口の中をスッキリさせてくれた

 

「うまいだろ?」

 

「うめー!でも高いかな?子供は買えないだろうね」

 

「そこはしょうがねーよ。売り始めたばかりだから、時間が経てば少しは安くなるだろうな。それまで我慢してくれってところだ」

 

「それまで店が続いているといいけどね」

 

「このガキ~。ん?爆発?」

 

 遠くから爆発音がして、目を向けてみれば爆煙があがっていた。一箇所だけでなくほかにも何箇所から。破壊音の中には悲鳴も聞こえる。バムスターとバンダー来ていると叫び声が聞こえた

 

「どうやらどっかの国が送ってきたか、送るはずの部隊を拾ってしまったか。とにかく一応店じまいはしたほうがいいよ」

 

「マジか?そりゃ大変だな。坊主はどうするんだ?」

 

「オレは、戦うよ。トリガーオン!」

 

 大した驚きもなく、じゃあそうしよう程度の感じでゆっくりと店じまいの準備を始めるおっちゃん。オレは懐から腕輪の形をしたトリガーを左腕に嵌めて起動した

 

「おまえ傭兵だったのか?気をつけろよ」

 

「ありがと。おっちゃんも手遅れにならない内に逃げてな!!」

 

 ちょっと驚いたみたいだけど、今の時代子供もトリガーで戦うのは不思議ではない。オレくらいの年になればもうどの国でも軍人として戦っていたりもする。会話もそこそこに地面を蹴って住宅の屋根に着地しながら戦闘エリアへ向かった

 

 

 

 

 

 

 

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