彼方の傭兵   作:悠士

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道に迷うって意味じゃないですよ?


11話 (まよ)い子たち

「なんて呼んだらいいの?」

 

「えっと、好きに…呼んでくれたらいいよ」

 

 病院の待合室でオレは弟の涼治(りょうじ)と妹の涼子(りょうこ)と3人で座っていた。ちなみにこの二人は双子だという

 それでどうして病院にいるかというと、母親の中の赤ん坊がもうすぐ生まれそうだから、入院していつでも生まれてもいいように準備しておくんだと

 

 涼治はいままで自分たちに兄が居ると知りながらも、会ったこともないし呼んだことも無いからオレのことをどう呼べばいいのか迷っているらしい

 オレとしてもどう呼ばれてもいいと思っている。周りからは名前で呼ばれることもあるし、フィーロには「師匠」や「兄ちゃん」とも呼ばれる。あまり認めてはいないが「黒狩りの魔術師」とか

 

「ふーん……じゃあ兄貴と言おう」

 

 呼びなれていないのか照れ隠しなのかは分からないが素っ気ない返事だった。もしかしたらオレみたいにどうしたらいいのか分からないだけなのかも

 

「なあ、赤子って…男の子?」

 

「いや、女の子だよ」

 

「じゃあ妹、かぁ…」

 

 聞いておいてこの答え方はどうなんだろうと思う。だけどオレにまた新しい妹ができるのかと思うと不思議とドキドキしてしまっている。家族が増える事に喜んでいるのか? 誰かと付き合ったりとか仲間が増えるときでもこんな気持ちにはならなかった

 

 どうしてなんだろうと考えていると思い出した。師匠に引き取られたとき、フィーロがまだ赤ん坊のときだ。まだあのころはオレより下はいなかったから初めてできた弟に、はじめて見た赤ん坊にドキドキした覚えがある

 オレより小さいのに重たかったり、握られた指が思いのほか柔らかかったり、どう見てあげたらいいのか分からないと緊張もしたりした

 

「兄貴はさ、ネイバーからどうやって逃げてきたの?」

 

 懐かしいころを思い出していたら涼治がそんな事を聞いてきた。そりゃ突然帰ってきたら気になるのは当然だ。だがオレは逃げたのではない

 

「逃げたわけじゃないよ」

 

「じゃあ何しに来たんだよ?」

 

「旅行だよ。ある程度お金も溜まったからまたどこか行ってみようと思ったんだ」

 

「え?じゃあ、帰っちゃうの?」

 

「そうだよ。オレの家はここじゃないから」

 

「ここじゃないって……兄貴は連れ去られたのにネイバーの国に帰るのかよ!?」

 

 涼子も帰る言葉に驚いているみたい。まるで玄界(ミデン)に帰るのが当然みたいに思っていたみたいだけど、生まれた国がソイツの帰る場所とは限らない。人によって違うだろうが、オレからすれば育った国が帰る場所なんじゃないかと思う

 

 そこで過ごしてできた思い出によっては違うのかもしれないけど。オレはソチノイラで過ごした17年間は大切なものだ。苦しい事や辛い事とかあったけど、帰りたいところは? と聞かれれば迷わずソチノイラだ

 

「なんだよそれ……じゃあさっさと帰れよ!!」

 

「……それは難しいかな。ボーダーから少し仕事請けたからすぐにはできないな」

 

 涼治が怒って帰るように言われた。まあ家族としてはたしかに出会ったのに帰らないというのは、何しに来たんだよ!? ということになるのは当然だ

 

 これ以上ここに居ても涼治たちの気分を悪くさせるだけだ。大人しく帰るべきだと判断して待合室を出た。丁度そのタイミングで父親と会った

 

「あれ?どこに行くんだ?」

 

「ああ…行くところがあるから、もう行くよ」

 

「そうなのか?また来いよ?母さんも色々話したいだろうし、生まれた子も見に来いよ」

 

「……うん、時間があれば」

 

 そう答えたけど来るかはどうかは分からない。涼治たちに嫌われてしまっただろうし。受け入れられないならそれもしょうがないことだ、オレの考えが正しいわけでも常識でもないのだから

 

 でもうれしい事はあった。オレの名前だ。「怜」といままで思っていたけど、本当は「伶」が正しいと。少しの違いだけど母親たちは「賢く無くても良いけど、周りから頼られる人になってほしい」と意味を込めて名付けたと

 

 玄界(ミデン)の人たちは子供の名前に意味を込めたりするらしい。ネイバーの世界じゃ思いつかなかったことだ。あるとするなら先祖のように立派になってほしいと付けたりはするけど

 

「あれ?どうしておまえこんなところにいるんだ?」

 

「え?あ、林藤支部長。その人どうしたんですか?」

 

 出入り口に向かって歩いていると声をかけられて、顔を上げれば林藤支部長が茶髪の大きな人を担いでいた。顔色はとても悪い。聞けばオレが降りた後そのままフィーロと支部へ向かったが、帰ってみたら大きな人、木崎レイジさんが倒れていたという。あわてて車に運んで病院に運んできたということらしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――伶が墓地で家族と再会していたころ、玉狛支部ではレイジが倒れていた

 

 

「おい!大丈夫か!?」

 

 玉狛支部というところに行ったらすごいデカイ人が倒れていた。林藤さんが声をかけるが小さな呻きしか聞こえない

 

「フィーロ、悪いけどここで待てるか?」

 

「わ、分かった!」

 

 慌てて荷物を運び込んでシートを倒して乗せると車は走り出した。オレはとりあえず中に戻ってみたがすることが無い。部屋はどこを使えばいいのか分からないし。というかここってボーダーの施設らしいが、ソファにキッチンにテレビって、どうみても大きめの家にしか見えない

 

「ほんとうに…基地なのか……ん?…………なんだろこれ…オレの勘がすごい警戒している?」

 

 大きな人が食べたであろう食べ物がオレの第六感が危険だと告げている。見た目は多分普通。茶色い見た目をしているけど。思わず手にとって匂いを嗅いでみる。とてもおいしそうな匂いだった。けれど口にして見ようと思ったら今度は冷や汗まで出てきた

 

「もしかして……これって………」

 

 なんとなく分かったこの危険な食べもの。これは進さんが作ったものだ。一度兄ちゃんが作ったのだと思って食べたら急に眩暈がして、目が覚めたら病院だったのを覚えている

 あの時はほんとうに食べ物が恐ろしいものだと理解した。兄ちゃんが分量とか手順とか加減を間違えたら不味くなるとしつこく言うのがほんとうに分かった

 

「あんた誰!?」

 

「ん?お前こそ誰だよ?」

 

 誰かが帰ってきたのは分かったから林藤さんかなと思っていたけど違った。髪が長くてオレに指を指してくるなんか偉そうな女の子だった。その後ろでこの人も長いが、兄ちゃんみたいに髪が黒くメガネをかけている。次に小さな子供と動物らしい生物

 

「どうしたの小南?あれ?君だれかな?」

 

「しんじんか?」

 

「オレはフィーロだけど。お前たちは?」

 

「何で答えなきゃいけないのよ」

 

「あたしは宇佐美栞だよ」

 

「おれはようたろうだ。こいつはらいじんまるだ」

 

「ちょっと!!なに普通に答えてんのよ!!」

 

 黒髪の子がウサミで、子供がヨウタロウと言うのか。動物はライジンマルらしい。コナミっていう女の子は隠そうとしているけど、オレと兄ちゃんはこれからここで泊まるのにそれは無理じゃないかなと思う

 

「それでフィーロ君はどうしてここに?」

 

 ウサミという女の人に聞かれて泊まる事になった理由を話した

 

 

「そうかー君たち傭兵だったのね」

 

「あんまり驚かないんだね?ネイバーでもあるんだけど?」

 

「そんなこと玉狛支部(ここ)じゃ、あまり関係ないから。というかあんた、まぁまぁ強いでしょ?遊真と同じ感じがするんだけど?」

 

 関係ないってどういうことなんだろう? 玄界(ここ)じゃ結構重要な事じゃないの? 協力しなかったら常に監視するみたいな事言いそうな怖い人とかいたのに。人によってネイバー(オレたち)に対する考えが違うのかな?

 

 しかもオレが強いってこと見抜かれてしまったし。ブラックトリガーは服の下にあるから見えないだろうし、見えてても傍から見ればただのアクセサリーにしか見えないはず。あれかな、雰囲気ってやつかな?

 

「ユウマって誰なのかは知らないけど、まあ強いほうだよ」

 

「ふーん。言っとくけど玉狛(ここ)じゃあたしたちが強いんだからね」

 

 一体どこにそんな自信があるんだろ? こういうやつって虚勢とか張っているんだよね。兄ちゃんにもブラックトリガー持っているからってかなり強いから大丈夫、なんて思うなと散々言われた。最初は意味をよく分からなかったけど、知っている傭兵が帰ってこなくなったのを知って分かった。強いからと思って実力に見合わない依頼を受けると失敗すると

 

「じゃあお前は大した事ないんだな」

 

「な、なんですってーー!!」

 

「兄ちゃん言ってたぜ。自分のこと強いと驕っているやつは虚勢張ってるって」

 

「こ…の…いいわ!!そこまで言うならあたしと勝負しなさい!!虚勢じゃないってこと教えてあげるわ!!」

 

「お!バトル?いいぜ!」

 

 なんか声が大きくてうるさいけど、バトルなら大歓迎だ! 後を付いて行ってみるとまさに基地っぽい部屋に来た。さらに扉が三つあって中に入ると壁しかない簡素な部屋だった

 

「10本勝負ね。あたしに1勝でも多く勝てたらまぁまぁ強いってこと認めてあげなくないからね」

 

「…なにその変な言葉?意味が分からないんだけど」

 

 認めてナンタラって言ってたけど、オレにはわからない。玄界(ミデン)の人なら意味が分かるのかな? とりあえずトリガーを起動して換装すると、コナミというやつは髪型が結構変わった。腰近くまであった長い髪が今じゃ肩までしかない。あそこまで大胆にトリオン体をいじっているのを見るのは久しぶりだ

 

「まあ10回勝てばいいんだろ?」

 

「あたしに勝てるなら…ね!!」

 

 腰に提げてるホルダーみたいなのから武器を抜くと小さな斧だった。超近距離タイプなのか判断して手の平から真っ黒いナイフの形にして2本出した

 

「へー、あんたそんなちっちゃい武器なんだ」

 

 一気に接近してきてナイフで受け止めた

 

「お前に言われたくない、っ!!」

 

「あたしは違うわよ!メテオラ!!」

 

「っ!?爆弾!?」

 

 力任せに振りぬいたと思ったけど、あまり抵抗されてなかったから勢いを利用して距離をとられた。同時にトリオンの弾丸を生成して飛ばしてきて、着弾すると爆発した。爆煙で少しの間視界が奪われたが、接近しているのが気配で分かるため。武器を振られる前に飛び退いた

 

「は?でかい斧になってる!?」

 

 煙は徐々に晴れて見えてくるようになるとコナミが持っているのは小さな斧じゃなく、身の丈ほどある大きな斧になっていた。オレみたいな変化するトリガーなのかな?

 

 これは少し慎重にいかないと危なそうな気がする

 

 そう判断したオレはナイフからいつも使っているただの棒に形状を変化させた

 

「っ!!アンタ…一体何、そのトリガー?」

 

「勝てたら教えてもいいよ」

 

 レーゲンの形状を変えたからなのか雰囲気が少しだけ鋭くなった。もしかしたら自分が強いと言っているのってあながち間違いではない? どちらにしてもやることは一つ。倒すのみ

 

「いくぜ!!」

 

 睨み合いをしてても意味が無いからオレから突撃する事にした。レーゲンを振り下ろすと斧で防がれるが流すように弾かれた。手元で回転させて握ってから斧が横薙ぎに振るわれた

 

「おっと!」

 

「どこでも出せるなんてズルいわね」

 

 間違いなく胴体を狙っていたから丸い壁を展開して防御する。オレのトリガーは手持ちの2つだけだと思っていたらしいが、それは違う。レーゲンに展開する数の制限は無い。でも多すぎると味方に当ててしまったりなど狙いが定まり辛くなるから、兄ちゃんからはしっかり制御できる数だけ出せばいい、と

 

「でしょ?だからこんな事もできるんだぜ!!」

 

「っ!!ほんとうにズルいトリガーね…」

 

 近距離ではあるが方向さえ気を付ければ当たる事はないから至近距離でレーゲンを放った。その数は15本。足に数箇所掠っただけだった

 以外と反応速度が速くて驚いた

 

「今のを避けるなんてすげー」

 

 大抵の人って何が起こったのか理解しようと固まるのに、コナミは理解するより避けるほうを選んだ。こういうのって頭より体で動くタイプって兄ちゃん言ってたっけ? 納得できないけどオレもそのタイプらしい

 

「アンタのそれ……もしかしてブラックトリガー?」

 

「え?どうして分かったの?」

 

「そんなの分かるわよ!あたしの双月でも傷つけられないなんてそれしか考えられないわよ!!それにネイバーのトリガーにしては柔軟すぎるのよ」

 

「あーなるほど…?」

 

 レーゲンが硬いのは分かるけど、全部のブラックトリガーがそうとは限らないと思うけどね。でも後の理由はオレも分かった。みんな何かしら特化していて、ボーダーみたいな色々なトリガーは装備していない

 

 敵に情報を与えすぎるのはよくないというけど、ブラックトリガーだとバレても狙われる確率が上がるか、その場に足止めしようとするくらいだ。今のところオレが仕事で負けたことは無い

 

「じゃあ、オレの最近のお気に入りでいこうかな」

 

「お気に入り…?……は?な、何よそれ…?」

 

 手に持っていた棒を消して、代わりに両腕の横にさらに大きな腕を出現させる。鎧みたいな見た目で指先はモールモッドのブレードのような形状をしてる。オレの動きと連動していて、兄ちゃんも「物騒なのを考えたな…」とちょっとだけ呆れられてた

 

「いくぜ!」

 

 さっきと同じように接近して今度は払うように腕を振る。双月とか言う斧で防がれるが、力はこっちが上だから吹き飛ばした。追撃しようと踏み込むが弾丸が飛んできて塞ぐようにガードする。やっぱり爆弾の弾で爆音と衝撃がきた

 

「っ!?足が!」

 

 撃ち終わったと思った瞬間にはバランスが崩れて倒れた。どうしてなんだと思ったら足が膝から下が切られてた

 

「下ががら空きだったよ!!これでトドメ!!」

 

「させるかよ!」

 

 声に気づいたときにはもう目の前にいてレーゲンの腕を動かしてももう遅かった。だけど負けるなんてかっこ悪いから自爆覚悟でレーゲンをゼロ距離から放った

 適当に配置したからいくつかはトリオン体に自分から損傷を与えてしまったが、なんとかコナミを胸を貫く事には成功した

 

「一歩間違えたら自爆してるじゃん」

 

「いや~油断しちゃった」

 

 オレは左腕を切り落とされるだけだったので勝負はオレの勝ちだった。だけどまだ1勝。残り9戦もある

 

「次はあたしが勝つからね!」

 

「勝てるものならどうぞー」

 

 勝って気分がいいオレは再び棒を握ってコナミと勝負を再開した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソチノイラの王城、その王がいる執務室では息子のルクセンがいた

 

「ならん。先代が築きあげてきたこの国を戦争に巻き込むなど」

 

「そうですか。失礼しました」

 

 話の内容は武力を持たず、ならず者の傭兵が大勢いる状況をルクセンは納得できていなかったのだ。そこで軍を発足し近隣国を支配下に置いて更なる発展を目指そうというものだった

 だが王であるアーヴァルンド国王は先代が苦心して築いたこの国を、戦争に巻き込むというのは頑なに反対した。それは武力ではなく対話でこの国の平和を手に入れたという実績があるからだ

 

 血を流さなくても平和は手に入れられる。アーヴァルンド国王も周辺の国々に更なる交易や技術提供など持てる策を使って今のソチノイラを維持しようと努力している

 でもルクセンは根っからの貴族主義で、傭兵たちをよく思っていないのだ。どうにかして排除してから軍を持とうと企てている

 

「ルクセン様。国王はなんと?」

 

 扉で控えていたルクセンの部下。忠誠を誓っており、なにより部下に対して愛情があることからルクセンがどう考えていようとかまわなかったのだ

 

「…父上も耄碌されたようだ。そろそろ私が玉座に座らねばならないようだ」

 

「お供します。ルクセン様」

 

 以前から計画していたことを決行しなければならないようだと知ると、部下たちは跪き頭を垂れた

 

「うむ。皆のもの、私について来い!」

 

「っは!!」





サブタイトルはいつも書き終わった後に決めるからなんて書こうか迷ってしまう・・作者も迷い子です・・(泣
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