彼方の傭兵   作:悠士

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13話 小さな虎

「お邪魔します」

 

「ただいま」

 

「今日もよろしくお願いします」

 

「ん?」

 

 宇佐美からトリガーを設定してもらっていると、下から誰かが帰ってきたらしい。声は3人だが、1人だけ心音がしない。でもトリガーを使っていればそんなのは当たり前だから気にしなかった

 

 でも訓練室へやってきた3人を見てやっぱり少しだけおかしいと思った。服装はみんな同じなのに、髪がクシャクシャになってる小さい少年だけが髪が白いのだ。髪を染める人も居たりするからおかしくはないのだが。なぜ他の2人は生身のままなのか? もしくはその逆、白い少年だけがなぜトリオン体なのか? 気にしてもしょうがないのだろうけど、そいつはどこかで見覚えがあった

 

「ん?誰かいるぞ?」

 

「おかえり遊真くん、修くん、千佳ちゃん。この人たちは伶くんとフィーロくんだよ。遊真くんと同じネイバーだって」

 

「遊真……?」

 

 どこかで聞いた名前だった。誰だったのか記憶を思い返すと思い出した。一度だけ会ったことのある、頭が鳥の巣みたいで小さい子供を。確か12年前くらいだった気がする。オレが引き取られて1年経つくらいに父さんが仕事先で知り合った言って2,3日泊まったんだった

 

『久しぶりだな、レイ』

 

「ん?………あーなんだったかな…かすかに覚えているけど…すまん」

 

 記憶を思い返していると指輪から液体が吸い込まれるとは逆の動きをして出てきたのは見たことがある何かだった。残念ながら名前は覚えていないし、これがトリガーなのか別の何かなのは忘れてしまった

 

『無理もない。あの頃はまだ5歳の子供だったのだ、覚えていなくても不思議ではないだろう。改めて、私はレプリカ。遊真のお目付け役だ』

 

「一応こっちも、篠島伶。久しぶりだよ。こっちはフィーロ」

 

「よろしく!ところで兄ちゃん会った事あるの?」

 

 フィーロもまだ赤ん坊だった頃だから覚えていないのは当然だ。むしろこれで知っていたら逆に怖い。フィーロの疑問は遊真も思っていたらしくレプリカに問いかけていた

 

 まだ5歳のときに会っていた事を話し、続きはレプリカから語られた

 

『遊吾はネイバーフット国々を歩いて情報を集めていたのだ。自らの足で出向き計算して情報を記録して。なのでソチノイラという国はあのときが初めてだったので情報を集めるために大陸中を歩いて、そしてまた別の国へわたったのだ。出るときに挨拶に行ったのだが、たしかその時は夜だったから2人は寝ていたと記録している』

 

「そうだったのか。まあなにはともあれ再会できてよかったよ。ところで遊真」

 

「なんだ?」

 

「お前、髪が白かったっけ?小さい頃だったから合ってないと思うが、黒かった気がするんだ…」

 

「そうだよ。前は黒かったけどいつの間にか白くなった」

 

 記憶に間違いはなかったみたいだが、返ってきた答えは大分端折られていた。「いつの間にか」のところにほんとうに何かあったんだろう。極度に精神的なストレスを感じると髪が白くなるなんて聞いたことがあるが。トリオン体に換装していることと何か関係があるのだろう。手足がない、とかだったら生身のままでは不便だからな。下手に触れてしまうのはよくないだろう

 

「そっか」

 

 と、ここで置き去りになっていた後ろの2人は黙ったままだった。自己紹介はさっきしたからいいとして、メガネを掛けたのが三雲修。B級隊員らしいが、階級と腕が合っていない気がする。将来的には遊真と隣の雨取千佳という少女とチームを組むらしい。どう考えても遊真以外は戦力にはならない気がする

 

 3人はそれぞれ師匠がいて、現在修行中らしい。ランク戦に向けて鍛えているとか。遠征任務に行くためとかいっている。オレからすれば、無謀なことをしている気がする

 

 

 そのあと歓迎を兼ねた夕食を食べてオレとフィーロは言われたとおり夜の遅い時間に警戒区域に来ていた。初めてのことということもあって他のチームと組んでもらうことになった

 

「待たせたな!オレは嵐山隊の嵐山准だ」

 

「時枝です」

 

「オレは佐鳥賢!必殺はツインスナイプ!」

 

「木虎よ。いい?腕があるようだけどあまり活躍しすぎないことよ?」

 

『はじめまして、オペレーターの綾辻遥です。なにか分からない事があったらなんでも聞いてください』

 

 5人での編成チームみたいだ。赤い服とブーツに黒のズボン。みんな同じ格好だった

 それぞれが簡単に自己紹介を始めたが、木虎という子は何か嫌なことでもあったのかオレたちに手柄を奪われたくないのか忠告をしてきた

 

「篠島伶だ。そこの木虎はどうかは知らないけどサポートを頼む」

 

「フィーロだよ!よろしく!」

 

「ちょ!?なんで私だけ邪魔者みたいに言うのよ!?」

 

「それはこっちだ。初対面でいきなり活躍するなと威嚇してくるヤツとよろしくなんてできないだろ?あと、その高飛車な性格はどうにかしたほうがいいぞ?無駄に敵を作るだけだ」

 

「アタシのどこが高飛車な性格をしているって言うのよ!」

 

 いまの言動がそうだと言いたいが、火に燃焼剤を投げ込むような結果にしかならないから黙っておく。すると何か言いなさいよ! と言ってきて、どのみち面倒な性格だなと口の中の空気を吐き出した

 

「木虎、とりあえず落ち着こう。ポジションの確認をしたいんだけど、いいかな?」

 

「ああ、オレはアタッカー寄りのオールラウンダーだ」

 

「オレもオールラウンダー!!」

 

 時枝という少年が出てきて木虎を落ち着かせた。こういうやり取りも手馴れているのか自然だった。ポジションと言ってもボーダーのトリガーはまだ不慣れだからいきなり実戦で使うのは危険、だから慣れるまでは自分たちのトリガーを使うことにした。もちろん本部長には許可を取った

 

「そうなると伶くんは木虎と充、フィーロくんはオレと佐鳥で分かれて行動しよう」

 

「了解だ。よろしく、時枝」

 

「うん、こちらこそ」

 

「ちょっと!私には?」

 

「…よろしく」

 

 仲良くできそうな時枝にだけ挨拶したら木虎が不満そうな声で言ってきた。無視したのは事実だけど、さっきまでの態度を改めようとしないやつにまでよろしくしようと思うほどオレの心は広くない

 

「よろしくなフィーロくん」

 

「よっろしくね~!」

 

「よろしく!嵐山!佐鳥!」

 

 あっちは楽しそうだな。この面度なヤツさえいなければ、なんて思ってしまうのは気が緩んでしまっているのかな。まあ元々旅行のつもりだったからしょうがないのかも

 

 オレたちは西から、フィーロたちは東から回るように巡回をすることになった

 

「僕はオールラウンダーだけど、二人とも前に出るなら僕はサポートに回るよ」

 

 そう言った時枝の肩からは銃を提げている。腕前は分からないが自らそう言うって事は慣れているのだろう。他にもチーム内でも立ち回りとか決まっているのだろうな

 

「オレは1人で大丈夫だから時枝くんはこの女のサポートに専念してくれて」

 

「この女って何よ!?あたしは木虎よ!木虎!藍!」

 

 ほんとうにどうにかしてほしい。時枝くんは分かった言ったけど、多分僕と年は同じだと思うから呼び捨てでいいよ、と言って驚いた

 

「あ、そうなんだ?オレ17だけど」

 

「僕は16だよ。一つ上だったんだね。先輩って呼んだほうがいいかな?」

 

「いや、呼び捨てのままでいい。向こうじゃ名前で呼び合うのが当たり前だったから」

 

「わかった。それじゃ今日はよろしくね」

 

「ああ、よろしく。あと木虎も」

 

「当然ね。足を引っ張らないでよ!」

 

 無視したらまた騒ぎ出すかと思って付け加えるように言ったけれど、相変わらず上から目線の態度にうんざりする。時枝くん、と呼ぶのはなんか違和感感じるので時枝と呼ぶの事にしよう。木虎はもう面倒なのでそのままだ

 すでにフィーロたちは見回りに動いているし、オレたちも行こうと時枝を先頭に進みだす

 

「…にしてもこっちの星ってあまり見えないんだな」

 

「そうかしら?街と比べればよく見えるほうだけど」

 

 木虎答えてきたけどソチノイラと比べると少ない。というか暗いのだ。光が点々とあるだけで夜の川がない。しかも空の向こうにあるとされる虹雲も全くないから、玄界(ミデン)の夜空はなんとも寂しい。ソチノイラの夜の空が綺麗だと知ったときは初めて他国に言ったときだ。帰ったときの空が綺麗だと知ったときは泣いたこともある

 

「君たちの国の夜がどんなのかは知らないけど戦闘に切り替えて。(ゲート)が開くよ」

 

 時枝の言葉の次には(ゲート)が開いた。モールモッドが5体にバンダー2体か。1分で方がつくと思っていると木虎が

 

「自信があるなら私より多く倒してみなさい?」

 

「…分かった。それで少しは舐めたような態度は変えるのか?」

 

 正直下だと思うならそうしてくれていいよ、そう思っていたのだがどうやら傭兵としての実力を身に付けているからなのか、木虎の態度は気に食わないと思っている。多く倒せば考えを変えてくれるのならチャンスかなと思ってしまった

 

「ええ、A級の私より倒せたなら認めてあげてもいいわよ」

 

 この感じじゃほんとうに認めてもらえるか微妙だな。とにかくやることやらないとな。見えない脅威(ノヴァ)起動、400mくらいか? 範囲内だな

 

 木虎は屋根の上を飛んで接近するが、それよりもオレのほうが早い。上空に7本の刃を『硬化』で生成。右腰の三日月を抜いて掲げると振り下ろす

 それと同時に生成した見えない刃が落下を始めてすべてのトリオン兵の目を上部から貫いた

 

「ッ!!?な、なにが起こったの!?」

 

 スコーピオンを手にした木虎がこれから攻撃しようとしたときトリオン兵たちが一斉に撃破された。一体どういうことなのかと慌てているが。言われたとおり多く倒した

 

「今の君が?」

 

「そうだよ。見えない脅威(ノヴァ)の能力の一部だよ」

 

 後ろで構えていた銃を下げて驚く時枝に答えた。詳しく言うわけにはいかないが何も教えずにいるのは後々面倒ごとになるのかもしれない。とくに木虎はどうやったのかとしつこく聞いてくるだろうし。というか来た、すごい形相で

 

「ちょっと!なんで私の標的まで倒したのよ!?さっきやったのは一体どんなトリガーなのよ!?詳しく教えなさいよ!!」

 

「……『硬化』だ。トリオンを固めて攻撃したり防御したりするだけだ」

 

「それだけ?もっと他にあるんじゃないの?」

 

 やっぱり聞いてきた。一体何が不満なのか分からない。怒る理由なんてないはずなのに。女性って言うのはたまによくわからないことで怒ったりするから少し面倒なところもある。とはいえ、木虎の場合はプライドが以上に高いせいで舐められた態度や言動すると怒ったりするから分かりやすいといえばそうかもしれない

 だが納得するだけの理由はあるのに怒るのはよく分からん。数式で答えが正解したのに、どうしてそうなったのか? みたいな

 

 子供でも納得できることなのに

 

「あるが。言わない。これ以上のオレのトリガーの情報公開はしない」

 

「なんで?協力しているなら」

 

「違う。協力じゃなく契約関係だ。何でもかんでも教えるわけじゃない」

 

 別に利害関係が一致しているわけじゃない。ただオレ達の旅行が邪魔されるの避けるために仕方なくボーダーに従っているだけ。そうでないと四六時中監視が付いたり襲ってきて命の危険だってあるからだ

 玄界(ミデン)は面倒な国だ

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「ただいまーー!」

 

 木虎という面倒な女の子を相手にしているせいで精神的疲労が耐えなかった。こんなことなら普通に寝ていたほうがまだマシだ

 

「おう、お帰りお前等!」

 

 だけど一難さってまた一難。玉狛支部に帰ってきたオレ達を出迎えたのは一人の男を病院送りにした元凶だった

 

「「進さん!!!」」

 

 風間進が椅子に座ってコーヒーを飲んでいた

 

「アンタ!なに暢気に飲んでんだよ!?」

 

「へ?」

 

「そうっすよ!!レイジさん危うく天国に送ってしまうところだったんですよ!!」

 

「あ、ぁあ……それは聞いた……」

 

 全くその通りだ。林藤さんたちが戻らなければレイジさんは死んでいた可能性があるかもしれない。本人が食べるのは平気でも、他の人が食べると途端に毒物になる不思議な料理に変わってしまうのだから

 

「聞いた。じゃない!!誓ったよね!?オレとフィーロの前で!もう2度と料理は一切しないと!!」

 

「…すまん。冷蔵には食べれるものがなくて……インスタントなら大丈夫かなって……」

 

「かな…じゃないよ!!進さんの料理この世のものじゃないほどのマズさなんだよ!?」

 

 実際に食べたフィーロが言うのだから言葉に厚みがある

 

 作った料理を酷評するのは作った人からすれば激怒するようなものだが、今回の場合完全に進さんが悪いため擁護する余地はない

 

「一応聞くけど、あれからまた作ってないよね?」

 

「作ってない作ってない!…さすがにレイジまで倒れたとなったらいよいよオレに料理の才能はないって分かったよ……」

 

「そうしてくれ。腹が減ったなら買うか食いに行けばいいんだから」

 

 幸いに進さんも傭兵として依頼をそれなりに受けていたからお金もある。金遣いは悪いわけじゃないからしばらくは金銭には困らないだろうし、ボーダーに所属したと聞いているから収入もあるだろうし

 

「ああ…これからはそうするよ」

 

 全くもってそうしてほしい。これ以上犠牲者は出したくない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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