彼方の傭兵   作:悠士

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久しぶりの投稿

他のも少しずつ書いています


14話 会いたいと思う理由

 弧月が縦に振り下ろされたのでオレも弧月で防ぐ。すると空いている手で殴ろうとしてきたのだが、普通じゃない速度が出ててシールドを展開して防ごうとするが、ピシッと亀裂が入った

 

「ッ!?」

 

「1発じゃ割れないか。なら、スラスターON」

 

 対峙するレイジが落ち着いて状況を理解すると再度レイガストのオプショントリガーを続けて使ってきた。確かにスラスターの勢いならあの速さは納得できる。しかも広くは無いがシールドに亀裂を入れるなんて威力も尋常じゃない。3度目でついに割れてしまい顔を傾けてギリギリで避けるが

 

「ブレードモード!」

 

「ッ!!あっぶね…」

 

 引き戻すときにレイガストがナイフのように小さなブレードモードへ変えて首が切られると思い、テレポートを使用してレイジの後ろへ回避した

 

「テレポートを入れていたのか」

 

「一応ね、不意打ちにいいかなと思って入れたんだけど。まさかそのまま殴ってシールドを壊しに来るなんて思わなかった」

 

「だが使うなら気をつけろ。移動する距離と方向には制限があるから慣れているやつには場所がすぐに分かるぞ」

 

 振り返ったレイジは追撃することなく使うなら注意しろと言ってきた。これをセットするときに宇佐美にも同じことを言われたから使う頻度は控えめのほうがいいと考えている。連続して使えないから今みたいな回避のために使うのがほとんどになりそうだ。だけど使いすぎるとカウンターとか受けてしまう可能性もあるからほんとに考えないといけない。まあこれはそのための訓練でもあるけど

 

「旋空弧月!」

 

 やはり弧月の専用オプショントリガーはセットしておいたほうがいいと思ったので入れておいた。レイジは無理に避けることはせず、シールドモードにしたレイガストで受けてから弧月からアサルトライフルに持ち替えてアステロイドを撃ってきた。シールドで防御していたら射撃が止まるとレイジが接近してきてまたレイガストを持った手で殴ってきた。また同じように割りにくるのかと思ってアステロイドを分割して放った。当然回避されるがいつまで近くにいられるのはやり辛い

 

「今度はオレから…ぅわっ!?ワイヤー…?いつの間に!?」

 

 弧月を構えて近づこうとするとが、足が地面と離れなくてこけそうになった。いつ仕掛けたのかワイヤーが足と地面が繋がっていた。さっきまでこんなものはなかったはず。じゃあいつなのかと考えるとついさっきレイガストで殴りに来たときだ

 どうやったのかは謎だけど仕掛けるならこのとき意外考えられない。罠のような物も考えられるが、弧月で切れるところを見ると足止めとしては効果は弱い

 

 確か宇佐美の説明によると弾丸みたいなトリガーだった記憶がある。ソレから両端にワイヤーが伸びて設置して足止めや、仲間の足場として役割もあるとか。細かい設定もできるらしいが、オレは選ばなかった

 

「…さすがに1本じゃレイジを倒すのは難しいか?……なら、アステロイド!」

 

「シールドモード!」

 

 飛んでアステロイドを細かく分割して、弾速を捨てて威力を上げて放つ。いつもよりは遅い弾丸にレイジも調子を狂わされたのか構えたレイガストを下げようとするが

 

「旋空弧月!!」

 

 2回振ってその場に留まらせる。シールドで防がないあたりオレのトリオン量で放たれる旋空を警戒しているのだろう。それは好都合でもう1度振ってレイガストで防がせているとさっきの弾丸がついにレイジに近づいて触れた。当然シールドでもないから簡単には壊れないが、周囲には弾丸が浮いてて下手には動けないはず

 その隙にオレは地面に旋空を放ち地面にぶつけて煙を上げると煙幕代わりになる

 

「いない!?…上か!」

 

「後ろだよ」

 

 レイジが見えげた先にはオレが脱いだ上着があり、それをオレと勘違いしてしまったのだろう。だが本当は後ろに移動しており、シールドで触れそうな弾丸を消して弧月で供給機関を突き刺した

 

「上で脱いでテレポーターで移動したのか?」

 

「お?さすがレイジさんだね、正解だよ」

 

 落ちた上着を拾って羽織るとレイジさんが正解を言ってきた。この玉狛支部のチームの隊長をしているだけあってすぐに答えに行き着いたのだろう

 

「続けるか?」

 

「いや、まだトリガーは考え直す必要がある」

 

 練習を続けるかと提案されたが、この構成ではまだオレに合っていないことがわかり考え直す必要があるため断った

 

「そうだな。まだ手にして日が浅いけど筋は悪くはないからな。時間さえあればランク戦で上位を狙えるはずだ」

 

「わるいけど、玄界(ミデン)には観光が目的で来たから。ボーダーに入るなんてことはしないよ」

 

 ボーダーのトリガーは面白いからじっくり練習をしてみたい気持ちもあるけれど、まだまだ見えない脅威(ノヴァ)を満足に使えているつもりもないから、ボーダーのランク戦のときこのトリガーを使おう

 

「オレこれから出るよ。夜までには帰るようにする」

 

「わかった。気をつけていけよ」

 

 もうすぐで25日でプレゼントとか用意する大人たちで大忙しらしい。オレも世話になる玉狛に何か買っておこうと出ようと予定していたのだ。レイジに一言言って玉狛支部を出た

 

 吐く息が白くなるほど冷えた空気に体が震えた。トリオン体にでも換装しようかとも考えたけどボーダーに文句言われそうだからやめておこう。体を震わせながら向かったのは病院。その6階に行くと並んだドアのひとつをノックする

 

「どうぞー」

 

 中から返事が返ってきて扉を引いて中に入る。母親の他に双子の涼治と涼子がいた。オレが来たと知ると楽しそうな表情から一瞬で曇り睨まれる

 

「何しに来たんだよ?」

 

 開口一番拒絶の感情が篭った問いかけだった。ここまで誰かに拒絶されるのはいつ以来だろう?いろんな国に行くから頻繁にあったのかもしれない。そういった不要なことはすぐに記憶の奥底に捨てて依頼に集中できるようにする。傭兵はそのとき限りの出会いがほとんどであり、早くても4ヶ月経たないと再会できないなど国の位置や速度の関係もある。ましてや乱星国家だと尚更だ

 

 だが、オレはこの二人にはできれば嫌われたくないという感情がある。「レイ・シノシマ」という人間を形成したのはソチノイラであり、傭兵として生きてきたことでできた。その過程で家族以外で嫌われてでも依頼を達成することが最優先であったため気にはしてこなかったが、涼治と涼子はオレの家族。それを再び認識するとどうして嫌われたくないのか分かった

 

 そうか…二人はオレの家族。弟と妹…だからなんだな

 

 答えはシンプルだった。言葉にして3つ。文字にして2文字の言葉に気持ちいいほどに納得できた

 

「お見舞いだが…もしかしてその赤ん坊が?」

 

「そうよ。(のぞみ)って言うの」

 

「希…少し大きい?」

 

 母親が答えてきて涼子の隣に来て抱いている赤ん坊を覗き込む。おととい産まれたばかりでまだ目は閉じているし、手も握られている。全身も少し赤みがあるが、生まれたばかりならそういうものだろう。と時々見ていた記憶の中にある赤ん坊と比べると少し大きいように見えた

 

 オレが大きくなって小さく見えたならまだ分かるが、逆だった。その疑問に答えるように産まれたときの体重は平均より少し重たかったらしい

 

「抱っこしてみる?」

 

「ちょ、母さん!?こんな危ない人に持たせたら危ないって!!」

 

 涼子があわてて母親の提案を阻止しようとしている。涼治も考えは同じなのか焦っていた。オレは2人から危ない人と思われていのかと少し衝撃を受けてしまった。確かに傭兵としやっていくには体も大事だから普段から鍛えていているため力には自信がある。だからと言って赤ん坊を誤って力を入れ過ぎてしまうなどしない。施設に行った時だって何度か抱いたことだってあるのだから

 

「大丈夫よ。ほら涼子」

 

「……気をつけなさいよ」

 

「ああ、分かった」

 

 気をつけるのは元より分かっていることだが、それを口にすれば入らぬ口論に発展しそうだから涼子の言葉に頷くように答えた。両腕を伸ばして受け取った赤ん坊は重たかった。抱き寄せてみれば簡単に壊れそうなほどの柔らかい筋肉。音から伝わる骨の密度も高くもなく低くもなくて簡単に折れそうだ。確かに気をつけないといけないと注意を払いながら抱っこをする

 

「希……妹」

 

「そうよ、伶の妹」

 

「オレの…」

 

 再度確認するようにオレの妹だという母親。確かにその通りで、眠っているのか顔を見ていると可愛いと感想が漏れる

 

「きっも。なにニヤニヤしてんだよ」

 

「…ニヤニヤ、してたのか?」

 

「自覚なしかよ」

 

 涼治に言われてどうやらオレの頬は緩んでしまっていたらしい。キモイと評されてひどいことを言うなと思うが、言われて意識すると確かに緩んでいる。気持ち悪い顔をしているのかもしれない

 

「希もいるのにここに残らないのかよ?」

 

「涼治…」

 

 最初に会って病院の休憩室でも聞かれたことをもう一度聞かれた

 

「…悪いけどオレの考えは変わらないよ。オレの家はここにはない、オレが住めるような世界でもない」

 

「そんなことはないよ。伶の家はここにあるじゃない?」

 

 母親が否定をするが、家があるなしの問題じゃない。オレが「家」は「家族と過した思い出の場所」だと思っている。たまたま旅行に訪れた先で家族に出会ったとしても、そこがオレの本当に帰るべき場所だったとしても、そこに「オレが過した記憶」はない

 

 他人の家に過す、という感覚が付きまとってしまう。家族と言えど慣れるまでに他人と思えてしまうのだ。それに比べてソチノイラで過したあの家には愛着がある。引き取られて現在に至るまで10年以上も暮らした。施設と違って広い家、欲しい物があると買ってくれた父、いつも一緒に居た弟。小さいときは嬉しいという気持ちが大きかった。だけど父さんは仕事以外だとごみは片付けないほど横着で、広い家がすぐに汚くなるなんて珍しくなかった。フィーロが大泣きしてお漏らししたときは情けないやつだと笑ったこともあった。調子に乗って料理をして食器を割ったことなんて両手で数え切れない

 

 そんな小さなことまで懐かしいと思うほど長く過し、所々に思い出が存在しているのだ。階段だったら転んで落ちたとか。だけどこっちで過すとなったとしてもそういった記憶は欠片もないのだ。目の前にいる母親の顔さえ墓で再会するまで記憶していなかったのだ。赤ん坊のときに攫われたのだから当然であろう。ならば向こうの世界で生まれたと言っても間違いではない

 

 もう一つ、大きない理由としてオレが近界民(ネイバー)であるということだ。この三門市の人たちは心にも体にも

 傷を負っただけでなく、住んでいたところを蹂躙されたということで酷く憎んでいる。この三門市を離れていった人だっているほどに、近界民(ネイバー)に対して理解をしようとしない。玉狛支部のような一部の例外はあるようだけど。国を動かすのは結局大勢の国民。いくら少数の人が「いい人も居る」と訴えたところで大多数の意見に掻き消されてしまう

 

 たとえ元玄界(ミデン)の人間であるオレであってもそれは例外ではないだろう

 

「伶は、なにも悪くないわよ…」

 

「ありがとう。でも世界ってそういうもんだよ。どの国でも多数の意見が正当化されてしまうんだ。それに……オレに本当の家族がいた。それだけでも十分だよ」

 

 そう、家族に会えた。これは攫われた人間の中でもほんの小さな確率、オレはそれに当たったのだから幸運だと言える。オレにできるのはこの人たちが危険な目に遭わないようにしてほしいと願うだけだ

 

「そうだ、今日来たのはこれを渡そうと思ったんだ」

 

「なにこれ?」

 

 こんな暗い空気にしてしまったのはオレだから、話題を変えて空気を変えようと鞄から茶色の封筒を3つ取り出した。1つは一杯になるほどの厚み、他2つはその1/3で中身はどれもお金だ

 

「万札!?いくらだよ…」

 

「涼治たちのは確か30万だったかな。そっちの大きいのは120万で両親と…希に」

 

「伶、このお金どうしたの?」

 

 いきなり大金を渡されて困惑するのも分からなくもない。けれどオレが渡してあげられるのはこれしか思い浮かばなかったまだ涼治たちのことを知らないオレは何をあげたら喜ばれるのか分からない。身体つきがいいから何かやってて鍛えているのだとわかるが、予想が外れて違うの渡したら意味がない

 

 じゃあ何をあげたらいいのかと悩んだ末がお金だった。これなら好きなものを買ったり食べたりできる。それに赤ん坊が腹の中に居ると知っていたら、色々と必要なものとかあって買わないといけないだろうと思った。ついでに入院費とかも含めて

 

「オレが仕事で稼いだお金だよ。心配しないで、人を殺したとかじゃないし盗んだわけじゃないよ。それに今はちょっとボーダーと契約中だから滞在中も少し収入がある」

 

「そ、そう……」

 

 安心、はしていないなと聞こえてくる心臓の音が伝えてきた。驚きと緊張が体の筋肉からも分かった

 

「あ、兄貴!」

 

「ん?なんだ?」

 

 用事も終わったから部屋を出ようとしたとき涼治がオレを呼んだ

 

「……もう、会えないわけじゃない……よな?」

 

「……生きてたらそのうちまた会えるよ」

 

 驚きの言葉だった。嫌われているから尚更涼治の言ったことはオレから少しだけ思考を奪った。その次に感じたのは嬉しさだ。好きになってくれたわけじゃないだろうけど、少しは好意的になってくれたことに今日来て良かったと思った

 

 ネイバーの世界で育ったオレがこうして会えた。生きていればいつかは再会できる。それをオレが証明しているのだから不可能ではない。何よりオレがまた会いたいと思っているから遠くないうちに叶うはずだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伶が病院で家族と会っていたころ、フィーロと烏丸は以前来たことのあるおもちゃ屋にいた。手には大金が入ったお金と、高額の商品を買おうと入れてたカゴがある

 

「ずいぶん沢山買ったな。伶に怒られないか?」

 

「ぅぅ…で、でも!兄ちゃんに上げるのだから大丈夫だよ!!」

 

 どこからその自信はくるのか悩んだ烏丸だが、伶に上げるものだと考えると確かに大丈夫だろう。こっちにきてどうやら気に入っている様子を何度も見たからだ

 

「兄想いだな」

 

「へへ!でしょ!オレ、兄ちゃんこと好きだから!」

 

 屈託のない笑顔で答えるフィーロに、烏丸は自分たちの兄弟を思い出した。何の疑いもなく向けられる笑顔はバイトや防衛任務をがんばる原動力になる。そんな兄弟を烏丸は好きだった。だからこう返した

 

「伶もお前のこと好きだろうな」

 

「うん!!」

 

 いい兄弟だなと思って烏丸も兄弟のためにとゲームを数本購入していた

 

 その1時間後に伶本人が来たのは知ることがなく、また先にフィーロたちが来ていたことをお互いすることなく目的のものを購入していった。お店の人たちはクリスマスが近いからなのかと思われたが、数万、十数万の買い物をしたと店員の間で話題になった

 

 


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