彼方の傭兵   作:悠士

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16話 鬼ごっこと大晦日

 屋根の上を走って下で逃げている修を追いかけながら弧月を抜いて頭上に飛んで振り下ろす

 

「っ……上っ!!っく!」

 

「ギリギリだね。でもこの程度なら簡単に倒せるよ」

 

 刃があと少しで切りそうなところで修はやっと気付いてレイガストでギリギリ防いだ。そのままお互い追撃などせず修が離れていった。オレは追うことなく10秒数えて再び追いかける

 

 今やっているのは「鬼ごっこ」だ。オレとフィーロが考えた訓練方法。「鬼役」は攻撃が1回に1度のみ。10秒の間を置いて「逃走役」を追いかける。「逃走役」は制限が無く逃げに徹するも反撃に転じるも迎え撃つも自由。この訓練での勝敗は「逃走役」が「鬼役」を倒すか、制限時間が終わったときに鬼役が生きていたら勝ち。「鬼役」が攻撃を当てたときは役が変わるため、時間が経ったときに負けにならないために必死になって追い掛け回したものだ

 

 フィーロの夜の雨(レーゲン)は硬いから勝つのにもそこそこ苦労した。亀みたいに篭られると中で「硬化」で刃を作って刺したり。数の撃って壁を破壊されて無理やり責められたりと、今思い返せば中々にごり押しな戦い方をしていたなと思う

 それでも気は抜けないから訓練としては一応成り立っていた

 

 今追いかけている修は正直言ってかなり弱い。構えも逃げ方も反応も何もかもだ。当然オレがその気になれば一瞬で役を交代できるが、それじゃ修の訓練にならない。もちろん攻めるときの戦い方も身に付けないといけない、けれど先に教えるべきは防御と逃走だ。大した戦闘力は無くとも敵に見つかって少しでも生き延びることができれば戦い続けることはできる。進さんも攻撃面は並。けれど一度死に掛けた経験から逃げることの重要さを知っているため生存率ではかなりあがっているほうだ。それでも譲れない場面があると残ろうとする、ボーダーとして守らないといけないとと言って。いつか本当に命を落とすんじゃないかとヒヤヒヤするばかりだ

 

「うわっ!?」

 

「防げよ?」

 

 追いついた修の目の前にテレポートで移動して弧月を横に構えるとさっきよりは強めに振る。レイガストでは間に合わなかったみたいだが、シールドで防ぐも力に負けて数m後ろに吹き飛んだ。振りかぶったオレはそれで攻撃1回なのでまた10秒経つまでその場にいなければならない。すると起き上がった修が右手を向けたと思ったらトリオンキューブを生成した

 

「アステロイド!」

 

 6つに分割した弾は威力は無いが、時間差で放つようにしてて少しでもこの場に留めたいようだった。撃ち終わるとそのまま逃げた

 

「留めようというのは悪くないが、アステロイドだと逆効果なんだけどね」

 

 撃ち終わるまでにおよそ3秒。一度に放てば1秒程度なのにこの2秒差は逃げれる距離を大きく縮めることになる。返り討ちや迎え撃つのもアリのルールだが、修にそこまでできるのかわからない。もしかしたら空いているスロットにオレが知らない何かをセットしたのかもしれない

 

「9…10……さて、ただアステロイド撃っただけじゃないんだろ?………っ!!?」

 

 時間が経ったので再度追いかけるが、曲がった瞬間には広範囲に広がる小さなアステロイドの弾。いつ準備したんだと考える。生成時に空気が震えるため分かるのだがそんな音は無かった。大して離れていない距離でどうやってオレの耳を騙して作ったのか? 考えるよりもまずシールドでこれらの弾を排除しなければいけない

 

「アステロイド!スラスターON!」

 

「っっ!!」

 

 弾を放つと同時にレイガストのオプショントリガーを起動して一緒に近づいてきた。修が考えているのはアステロイドで耐久力が下がったシールドを壊せると。オレの耳を騙して弾の壁を用意したのはいいけれどまだ詰めが甘い

 

「…いない!?」

 

「後ろだ」

 

 レイガストが振り下ろされた瞬間、オレはテレポーターを起動して修の背後に回り逆手に構えた弧月で胸を貫く

 

「っく…またやられた」

 

「敵が修の想定どおりに動いてくれるとは限らない。常に周囲に気張ることだな」

 

「はい……」

 

「だけど時間差で放ったアステロイドはよかったと思うぞ。角を曲がったときに設置してあるなんて思ってなかったからな」

 

 おそらくだが弾がシールドに命中している間に用意したのだろう。当たって弾ける音と出して分割する音が重なったから気づかなかったのだと思う。技術や動きはまだまだだが考える頭は秀でているみたいだから、このまま成長すれば立派な参謀とかにはなるだろう

 まあそれでも数年はかかるだろうが

 

「それじゃ今度は修が鬼役だ。がんばってオレを鬼にしてみろ」

 

「はい!」

 

 やる気があるのはいいことだが、まずは追いたところでオレのガードを突破できるかだ。修のトリガーの構成だとレイガストとスラスターでのシールドを破壊の強引な方法くらいだろう。だがそれに以前にトリオン量の違いもあるから簡単には壊れない

 それじゃあアステロイドを設置して待ち構えるのか? それも無理だろう。耳がいいオレにはわざわざ罠に飛び込むことがない。力量的にもトリオンでも劣っている修がどう工夫して追いかけるのか少しだけ興味があった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生まれ故郷に帰ってきて残っているメンバーに再会したり、成長したボーダーを調べたり、この5年間三門市にあったことを知ったりなど慌しい日々から抜けて、今日は久しぶりに街をゆっくり見て回ろうと歩いていると、ソチノイラにはない服を見かけてそう言えば持っているのは全部向こうで買ったものだったと思い返してこれからここで暮らすわけだから買おうと服やに入った

 

「うひゃー高っ」

 

 レイジから聞いてはいたが税率が上がったことでオレが知っている値段より少し高かった。多分だがソチノイラの物価がそんなに高いわけじゃないから、それに慣れてしまったからそう思うのかもしれない。とりあえずジーパンを2つ籠に入れて他にも見て回ると店員に声を掛けられた

 

「なにかお探しでしょうか?」

 

「ああ、えっと上の服を適当に見て回って……て…真都ちゃん?」

 

「風間くん…?…え、うそ……なんで…!?」

 

 驚いた。たまたま寄った店に声を掛けられた店員が旧メンバーで唯一引退した九條(くじょう)真都(まと)ちゃんだった。目じりに涙を溜めて口を手で隠して驚いている。それもそうか、死んでいたと思っていた人間がいたら当然の反応だ

 

「ほんとうに…風間くん?」

 

「おう、あの時助けてくれた子供がいてな。死に損ねたよ」

 

「っっ!!」

 

「九條さん!?」

 

 ついには泣いてしまった真都ちゃんは店員に支えられながらバッグヤードに入り、少しして出てきた。早いけれど休憩をもらったらしい。近くに喫茶店もあったのでそこへ誘った。それからはお互いのことを話し合った

 

「そっか。その伶くんのおかげで」

 

「ああ。あいつが居てくれなかったら本当に死んでたよ」

 

「…他のみんなは……?」

 

「…すまん。生きれたのはオレだけだ」

 

 一度はボーダーのメンバーとして一緒に過ごしてきたけれど、今はアパレルショップの店員という一般人なため詳しいことまでは教えられない。ネイバーのことも大きくはいえないから本当に簡単にしか伝えられない

 

 真都ちゃんはオレが生きているからもしかしたらと思ったらしいが、残念だけど死ぬのを免れたのはオレだけだった。やっぱりと言った表情で真都ちゃんは顔を曇らせた

 サンドイッチを頬張り咀嚼しているとこれからどうするのかと聞かれた

 

「とりあえずはボーダーにいるよ。5年も行方不明だったからね。ダチとかにばったり出会ってしまったら面倒なことになりそうだけど、頃合を見てお袋たちに顔を見せようかなって思う」

 

「そうだよね。ネイバーのこと知らない人からだとびっくりするよね」

 

 蒼也から聞いたけれどオレの戸籍は故人として記録されているらしい。つまりは死亡したということだ。一応7年の猶予はあるが、お袋たちが気持ちの整理をしてそうなったらしい。墓石にも刻まれているようだ

 

 このあとは特に何かがあったわけじゃない。真都ちゃんの休憩の時間が少なくなってきたので別れた。連絡先も交換して店を出たオレは玉狛へ帰った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

 部屋で鉄道模型を走らせて眺めていたらドアがノックされた。来る音からかなりの重量を持った音だったから林藤かレイジかと予想していたら後者だった

 

「これから時間があるか?」

 

「あるが、買い物か?」

 

 入ってきたレイジは服を何枚か着ていた。支部内でこれということは出かけるということなのだろう。それえなんでオレを連れて行くのかは分からないが、乗った車内で教えてくれた

 

「国の料理?」

 

「ああ、進さんからお前とフィーロは1人でできると聞いてな。今年も最後だからお前たちの国の料理も食べてみたくてな」

 

「そういうことか」

 

 折角タダで住まわせてもらっているし、何も手伝わないわけにもいかないからレイジの提案には文句はない。むしろもっと早くに手伝うと言えばよかったのだ

 最近は忙しくて忘れていたが、レシピを入手してほしいという依頼があるのを思い出した。だが玄界(ミデン)の言葉は難しいから本を買って済ますことができない。けれど隣にいるレイジは支部内では一番の料理上手で種類も豊富。味も店を出してもおかしくないほどだから教えてもらおう

 

「なあレイジ。教えて欲しいことがあるんだが、この国の料理を教えてくれないか?」

 

「料理?レシピのことか?」

 

「そう。他国のレシピをいくつか持ち帰ってくれって依頼で、スタミナ系とデザート系がいいらしい」

 

「なるほど。それなら支部に戻った後でいいか?」

 

「それで大丈夫だ。作り方をオレが書く」

 

 翻訳できるほど国の言葉を知っているわけじゃないからレイジが言ってくれたレシピをオレが書き記すしかない。時間は掛かるだろうけど

 

 そして着いた先がスーパーという店だ。何がすごいんだと「スーパー」という言葉と食料品の関係を考えるがやっぱり分からない。カートという押し車に籠を載せて店内へ

 オレも自国の料理をするために食材を見るがどれも残念なものばかり。形が整ったものがほとんどだ

 

「…鮮度の見分け方は」

 

「いや、それは分かるんだ。オレが思っていたのは綺麗に整った形ばかりなのが残念だってことだ」

 

「それが普通じゃないのか?お前たちの国は違うのか?」

 

「ああ、ソチノイラじゃ歪なほうが高級だ」

 

 形が歪ということはそこへ栄養が詰まっている、もしくは足りすぎて溢れている状態で高値で売られているのだ。逆に形が整っているのは基準値を満たしているだけ。調理のときにしやすいけれど、やはり味や栄養は歪なほうが上だ

 

「だから基本の形より大きい、どこかが膨らんでいる、曲がっているなど高値で売られるし。こんな形に育つのかよって言うようなものが料理屋とかが落札している」

 

「なるほど」

 

 まさか食材の考え方まで文化の違いを知ることになるとは思わなかった。とりあえず歪な形のがないとなると整ったのを買うしかないとあきらめて籠に入れていく

 

 

 




気づけばもう11月になろうとしている・・

1年経つのが早いなぁ・・・
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