少し無駄話をしよう。今回はちょっと話から逸れてオレの昔の話をしようと思う、だから無駄話なんだ
始まりは少し戻る。少し前の依頼に行く前日会った少女からだ
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「またやっちまった……ここは東地区か」
買い置きしていたお菓子が切れそうだから買い足しに行こうと思っていたのに、気がついたときには首都デルシスの東地区に来ていた。目的地は西地区のはずなのに全く反対に来てしまった
これはもう方向音痴のレベルで危ない。なのに家にはしっかり帰れるし、散歩やお菓子が絡まなければ目的にちゃんと行けるのにおかしい。オレの散歩癖って直せないんだろうか?
「お、ここはカカオクリームが美味い店か」
甘いけれどちょっとした苦味があるトロっとしたカカオクリームの専門店。割合によって苦味しかないクリームだったりと大人から子供までおいしく食べれる店でオレが12のときに気に入ってたお菓子だ。ちなみに施設の先生は「チョコクリーム」と言っていた
久しぶりに食べたくなったというか、見つけてしまったから食べたくなったので買うことにした。クリームを使ったケーキ類が半分以上あるのだが家においてい置くためのを買う予定なので焼き菓子を買うことにした
10種類あるなか3種類をいっぱいに買って抱えるように持って店を出る
「さーて帰るか…ん?」
目的のものとは違うけれどとりあえずお菓子は買えたので家に帰ることにした。オレの家は南地区にあるから数十分着く。天気もいいし遠回りでもしようかなと考えたけど明日には依頼を受けて接近している国に行かなくちゃいけないから、それまでに少しでも休んでいようと思っていたのだが
オレの耳が遠くで女の子の泣き声が聞こえた。オレがいる位置と聞こえる声からして多分壁の向こう側なんじゃないかと思う。急いで門に向かった
「協会の怜だ。今日女の子がここを通らなかったか?」
「…いや、通っていないし」
「そもそも許可がなければ通ることすらできないからな」
派遣協会所属の証のカードを見せると確認した門番が答えてくれるがオレの耳には確かに聞こえている。罠にしては人の声に近すぎるし、機械だったとしたら独特の反響音も聞こえるはず。それがないということはこの声は紛れも無く人間の女の子だということだ
「ならオレを通してくれ!勘違いとかならそれでいい!」
「…分かった。協会の人間なら問題ない。ただし夕刻7時には閉じるから気をつけろよ」
「助かる!トリガーオン!」
緊急時や依頼などで傭兵が頻繁にデルシスの外に出るのは珍しくない。それでも本当は通行するための書類を書いたりなどしないといけないのだが、SSランクのオレはそれを無視できる
実力や実績ももちろんだが、SSランクになるにはそいつの性格や態度など人間性なども重要視される。周りに迷惑をどれだけかけているか。人付き合いや交友関係はどうなのか。嘘などはつくのか? と調査をされて問題がないと判断されればやっとSSになるのだ
同時に協会や国にとって重要な存在にもなるから、不利益になるようなことは極力しないようにしなければいけなかったり。良好な関係を絶ってしまうような事態にならなように注意しないといけないほど交渉や対応は気をつけないといけないのだ
本当ならフィーロもSSになっても問題ないほど実力と実績はあるのだが、交渉が苦手なため下手をすればソチノイラにとって不利益なことをおこしてしまうんじゃないかということでSランク止まりなのだ
「なあ。お前が当番のとき女の子って来たか」
「ああ、来たよ?10歳くらいの子が。隣町におばあちゃんがいるからって」
「バカ!
広い土地を走っているとさっき通った門から衛兵同士の話し声が聞こえた。どうやら女の子は本当にとっていたらしい。オレが聞いた衛兵は交代してたから知らなかったということだ
だけど叫びが聞こえているからわかっていたが、東側は近い街でも1万km以上はある。途中に森があるがそこにも村が1つ。それでも魔物の生息地でもあるから、10歳の女の子が行くにはとても危険なところだ。奇跡でも起きない限り生きてたどり着くことはできない
それくらい危ないから協会に護衛や討伐依頼が絶えない
「いた!……サイスタイガーか不幸中の幸い…ってのは違うか?」
視界に前足から鎌のような切断武器を生やした犬型生物。こいつらは基本的に群れで狩を行うのだが、たまに1匹でうろついているのがいる。その場合獲物を逃がさないように監視しながら仲間を呼んで、全員で確実に仕留めるのだ。幸運だったのは数が2匹だということ、女の子が気を背にしているがまだ無事だったということだ。すでに群れを呼ばれているだろうが目視できる距離までこれたなら助けられる。
「…逃げないのか。悪いがその子は食べさせないよ」
「グガァァア!」
2匹のうち1匹がオレに気がついて向かってきた。前足の鎌は鋭く群れのリーダーくらいになると樹木を切り倒すことだってできたりする。ただの生物がなんでそんなことができるのか? それはトリオンによって肉体に変化が起こってしまったからだ。もちろん人為的に
このサイスタイガーはどこぞの乱星国家が捨てていった置き土産。非常に危険なため殲滅したとされていたけれど、生き延びて数をいつのかにか増やしてしまったのだ。もうほかの生物同様襲撃や邪魔をしてくれば返り討ちにしても構わないとされてしまっている
走ってきたサイスタイガーは飛ぶと前足を伸ばしてきたが、左手で三日月を振りぬきながらタイガーを切り殺す。そのままオレは女の子のそばを離れないもう1体も倒す。人は殺さないのがオレたちの家の心情だが、ほかは危険であれば命を奪うことだってある。討伐依頼だってこれまでにいくつも受けたりした。中には災害が起こった後のような凄惨な状況になるような生物も。ただこれらの危険度が高いもののとかはオレみたいなSSSランクのが担当だったりするのだ
とにかく女の子はこけたのかひざに擦り傷がある程度で目立った外傷はなかった
「大丈夫か?もう怖いのはいないよ」
「っ……ぅわっぁぁあぁーー!!」
「おっと!……うん、怖かったな」
ひざを地面につけて声をかけると安心したのか泣き始めて飛びついてきた。トリオン体だから濡れた感触はしないけど、オレの胸は今女の子涙と鼻水で酷い状態だろうなとどうでもいいことを考えてしまった。シャツをを脱いでしまったらインナーウェア1枚しかないから水を被ってしまったら、乾くまで代わりのものがないなんてこの衣装に替えてからはそんなことを思ったこともあった
そういえばフィーロはもう泣いてる姿を長いこと見てないなと女の子の頭を撫でながら大切な弟を思い出した。小さいころはものが壊れたり、好きな食べ物が無くなって食べれないことによく泣いたりしていた。女の子みたいにかわいい時期があったんだよなとまるで父親みたいなことを思った。これもあのジジ臭いことをオレに言うからうつってしまったのだと施設のおっさんに恨み言を呟いた
女の子の名前はキーア。姉と母親の3人暮らしでオレと同じ養子だった。どうして街の外に出たのか聞くと姉と喧嘩をしたらしい。その理由が妹が生まれるということだという。それがよくわからないからさらに聞いて見た
「だって生まれたらおねえちゃんいっつもアタシに『これからお姉ちゃんになるんだから我慢しないといけないし、お手伝いもいっぱいしないといけないんだよ』って言うの!アタシまだ大人じゃないもん!」
「そ、そうなんだ…でもお母さんもお姉さんも手伝ってくれるとうれしいんじゃないかな?」
どうやらまだ11歳だから甘えたいというのが理由みたいだった。確かにソチノイラでは16歳から大人として扱われるが、それでも未成年でも家の手伝いやお店で働いたりなどがんばっている子もいる。特にデルシス外周に住んでいる人たちは10歳にも満たない子でさえ土木作業の仕事場で汗を流している
だからといってこの子甘えたいという気持ちが間違っているわけじゃない。だがいずれは16歳になり大人として働くこととなる
「違うもん!!お姉ちゃん絶対私のこと嫌いだもん!だからいつも手伝いなさいって怒るだもん!」
「……そっか。でもこのままお母さんやお姉さんに甘えていたら、誰にも助けてもらえなくなるよ?」
「そんなことないよ!」
「ううん。君の家もどれくらいお金があるのかはわからないけどね、ご飯食べたりするのにお金が必要なんだよ?いつまでも甘えてばかりだと何もできなくなる。外周に住んでいる子達だって小さくても毎日ご飯を食べようとがんばっているんだよ?」
「アタシあんな汚くならないもん」
「………」
どうやら徹底して自分は甘えていられる立場だと思っているようだった。養子として迎えてくれたから愛情いっぱいに育てられたのだろう。その影響でここまで育ってしまった
さっきまで死んで食べられるという危機的状況に遭いながらも変えないのならオレにもうこの子を諭す理由なんてない。このまま甘えて見限られてしまう結果を他人事として傍観するしかない
いくらSSSランクだからって自立できるようにするまで面倒を見てあげる義理はない。そもそもオレにこの子を助ける理由なんて最初っからないのだから。たまたま悲鳴を聞いて傭兵として、協会の人間として助けないいけないと思ってからであり、万人を助けてあげる聖人でもない
「そっか。じゃあお兄ちゃんからはもう何も言わない。それからいっぱいお姉さんたちに甘えて怒られたらいいよ?」
「…え?」
「その代わりお母さんとかはいっぱい迷惑を受けることになると思うよ?新しい子の面倒を見てあげないといけないのに、君があれが欲しい、これが食べたい、あそこに行きたいと甘えて疲れてしまっても君は知らないんでしょ?」
「ち、違う…お母さんは悪くないの!悪いのはおねえちゃんだもん!」
「誰が悪いとかじゃないよ。お姉さんもお母さんも大変なときに君は何もしないのかって話。何もしないのならお兄ちゃんは君を助けたことを後悔するかもね。お姉さんもお母さんも疲れさせてしまう原因を作ってしまったのはお兄ちゃんだから」
「ちがうぉ…なんで……っそんなごと言うの…」
別れる前に少しだけお説教でもしてあげようと思う。これでも一応1人の弟を持つ身として、本当は誰かの子でありながらも養子として迎えてもらった者同士として。そしたらというか当然責められていると思った子は徐々に泣き始める
まだ小さい女の子だから泣かせてしまうのは少し心が痛いが、この子のためにも言っておかないといけないと鬼になる
「だけど君が、たとえばお皿を洗うのを手伝うだけで何が変わると思う?」
「ぅ……っっー!」
「君が変わりにしてあげることでお姉さんもほかの事に集中できるし、お母さんも赤ん坊の世話をできるんだよ?たったそれだけですごく助かることなんだ」
「お、にいちゃ…んはおでづだ…して…」
「うん、してるよ。というより今は手伝ってもらっている、かな?」
「ふぇ?」
「お兄ちゃんも君と同じ養子なんだ。だから昔は部屋の掃除や皿洗いとかいっぱい手伝ったよ。そしたらお駄賃もらえたけどね」
「……アタシも手伝ったら……もらえる?」
「それはお姉さんたちに相談してみたら?それでいつか貯めたお金で何か好きなもので買ったら良いよ。面白いことがわかるよ」
「面白いことって…?」
「それは秘密。誰かに教えてもらうんじゃなく自分で感じたら良いよ」
少しだけオレのことも話すと興味を持ってくれたのか少しずつ泣き止み始めた。やっぱり共通点がある者同士だからかわかりやすいのだろう
施設で4年も過ごしたこともあるかもしれないがみんなでお手伝いや掃除をしようという風に教えられて育ったから、父さんに引き取られてからも甘えることもあったが家政婦さんのお手伝いをしようということに文句はあまりなかった
しかも父さんが帰ったとき家政婦さんに報酬を払ったり次のことについての相談とかするのだが、そこでオレが手伝っていることも話していた。父さんは偉いな、とかがんばったな、とか言ってお駄賃をもらった。それがオレがはじめて働いて得たお金だった。そのお金で買ったお菓子はいつもより味わって食べておいしかったのを覚えている
「お手伝いしてみたくなった?」
「…うん」
「うん、いい子だ。それじぁ帰ろうか」
この子は甘えたいだけの子なのかと思ったけど、案外そうでもないみたいだった。今の動機としてはオレがお駄賃をもらってそれで好きなものを買ったときの『面白いこと』ってやつが気になっているからだろう。理由はどうであれお手伝いをする切欠は与えることができた
まだ襲われないとも限らないから『硬化』で周囲に膜を作り安全を確保する。
道中暇なのでオレの身の上話でもしてあげた。聞いてて面白くもないかもしれないけど、これからもお手伝いをしたり、新しく生まれる子のお姉ちゃんになるための参考程度に聞いてもらえれば十分だ