彼方の傭兵   作:悠士

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17話 ランク戦

 新年を迎えて次の日。オレはそろそろトリガーを組めたのでボーダーからの頼まれごとのランク戦をするために本部にやってきたのだが。やはりというか全く見たことのないオレがいることで一体誰なのか? どこの部隊の隊員なのか? 強いのか弱いのか? と噂されている。仕方ないとはいえ本人が居る前でするのはやめて欲しいところだ

 

「なぜお前がここに居る?」

 

「ん?あ、えーっと進さんの弟だよね?」

 

「風間蒼也だ」

 

 誰に声をかけて戦おうか迷っていたら後ろから聞き覚えのある声がして振り向いた。180cmもあるオレからは見下ろす形になったがそこには進さんの弟の風間蒼也がいた。会ったのはあの夜の日だけだから少し振りだ

 

「篠島伶だ。好きに呼んでくれていいけど、今暇なら少し相手してもらってもいいか?」

 

「ランク戦を?ネイバーのお前が許可されているのか?」

 

「ああ、近いうちに何かあるんだろ?そのために少しでも戦力強化してほしいって頼まれててな。ボーダーのトリガーも借りている」

 

「そうか。それなら相手を頼む」

 

 オレも名乗って自己紹介を済ませるとランク戦に誘った。蒼也はトリガーをもって換装すると部屋に入りパネルの操作方法を教えてもらった。別室で待機していると対戦の申し込みがあったので言われたとおりパネルを押した。その次はデーター上で再現された仮初の街に転送された

 

「すげー、中々に再現されているな」

 

 道路の先には蒼也もいて、周囲は住宅街が建ち並んでいた。人の気配がないのは当然だが窓から見えた室内はテーブルやテレビや皿など細かく作りこまれていた。ソチノイラでもこれくらいの訓練室はあるが、ボーダーは結成してから10年も経っていないはずなのに、ここまでの技術力は感嘆する

 

「ボーダーが技術はそう低くはないぞ」

 

「そうだね…ッ!!」

 

「2本じゃないのか?」

 

 戦闘開始の合図はないから蒼也がスコーピオンを片手に接近してきた。弧月を抜いて防ぐが耐久が違いすぎるのでかけることはないが、右の甲から2つ目のスコーピオンが伸びてきた。シールドで防いで力ずくで振って距離を取らせた

 

「そうだな、確か蒼也の部隊は3位って聞いてるから1本じゃキツイかもしれないけど。まずは図らせてもらいたいかな。2本目抜かせるかは蒼也次第だよ」

 

「なるほど。オレを甘く見ているみたいだな。その言葉すぐに後悔することになるぞ」

 

 多分オレの悪い癖なんだろうけど最初は手加減していって。段々この程度じゃ対応できなくなるかなってところで加減をしなくなる。直すべきなんだけどついやってもしまう癖だ

 後悔するぞ言った蒼也の言葉嘘じゃないのはその気配から伝わった。まっすぐオレにだけ狙いを定めた鋭い刃。油断したら間違いなく狩られてしまうような気さえしてしまう

 

 再び蒼也が接近してきたが直前で姿を消した。これは蒼也の部隊がみんな装備しているカメレオンというものだ。風景に溶け込むステルストリガーだがその間は攻撃も防御もできない。オレはその弱点を知っているしサイドエフェクトでどこにいるかなんて音で位置が分かる

 後ろに回ったところで体を回転させながら弧月を振る。着地した瞬間だから咄嗟に回避なんて難しい。すれば体勢が崩れて倒される。だから蒼也は姿を現してスコーピオン2本で防いだ

 

「っく、ッ!!」

 

「他の奴らは斬撃だけでだけで済んだかもね?」

 

 弧月だけならスコーピオンで防げたかもしれないけど、オレは旋空を同時に起動していたからスコーピオンを壊してそのままトリオン体を切断した

 

 ほかのボーダー隊員なら弧月だけだったかもしれない。蒼也が活動限界がきたため戦闘が終了しそれぞれ部屋に備え付けられていたベッドに落ちた

 

「おっと?なるほど、部屋に戻るときはベッドに転送されるのか」

 

 蒼也が消えた直後にオレも転送されて部屋に戻ったのだが、落ちると思ったときには柔らかいベッドに受け止められた。トリオン体には痛覚は無いけれど床に落とされるよりは配慮されているなと感心してしまった

 

『旋空を起動していたのか?』

 

 ベッドから立ち上がるとモニターから対戦している相手の部屋から通信が来た。対戦の申し込みだけでなく、戦った後の会話までできるのは以外だった

 

「お?会話できるのか。そうだよ、弧月だけならアンタが相手だと防がれると思ったからな」

 

『なるほど、だが弧月を2本目を抜いていないからまだ本気ではないだろ?なぜ手を抜く?』

 

「癖みたいなものだし、なにも手を抜いているわけじゃない。2本で慣れたら1本で戦うのに隙ができてしまうからだ。戦場では何が起こるかわからない、だからこそ追い込まれても落ち着いて戦えるようにと普段から1本で戦うようにしているんだ」

 

 これは癖と言ったがそうなるように毎日訓練をして身につけたらからだし。父さんも武器を二つ持つなら一つだけでも戦えるようにした方がいいと言ってた。まさにそのとおりで黒狩りの魔術師なんて呼ばれていてもトリオンには限界がある、夜の雨(レーゲン)のような相性の悪い相手だっている

 何度か片腕だけで戦わないといけない場面だってあった。内心死ぬかもしれないと怯えながら何とか戦い抜いた事だってある。進さんも死ぬかもしれない経験があったから戦いは慎重だったし

 傭兵としての経験が長い父さんの言葉がどれだけ正しかったのかと身を持って知った。もちろんフィーロにもそう教えている

 

『そうか。なら2本目を抜かせれるよう本気でいかせてもらおう。準備が終えたらモニターに点滅しているボタンを押してくれ』

 

「これか?お?」

 

 言われた通りにボタンを押したら再度仮想空間に転送された。これで何度でも戦えるという仕組みみたいだ。玉狛支部のようなその場でトリオン体が修復されて戦うという仕組みじゃないらしい。蒼也とは何度も戦った。トリガー構成はいたってシンプルなのにスコーピオンの特性を熟知しているのか搦め手で何度も戦闘不能のまで追い込まれることがあった

 

 言い訳がましいがオレがまだボーダーのトリガーを理解していないことも関係はあると思う。支部の人たちを相手にそれなりに構成や訓練をしてきたつもりだったが、所詮は付け焼刃だったということだ

 

「君、見ない顔ね」

 

 蒼也と別れて椅子で休憩していたら今度は女の子が声をかけてきた。白い服が基調だが、肩をすこし出しすぎなんじゃないかと思うほど襟が広かった。トリオン体だけど風邪を引かないか心配になってしまう

 

「ああ、最近入ってね。まあ訳ありだからその辺の詮索はなしだとありがたい。オレは篠島伶だ、あんたは?」

 

「あら、偶然ね。私も名前が玲なのよ、苗字は那須って言うの」

 

「そうなのか…!」

 

 これは驚いた。オレの名前と同じ言い方をする人と出会ったのは初めてだ。字は違うけれど名前が同じというのは不思議と嬉しくなる。ただの偶然でしかないのに

 それで那須がオレに声をかけたのはランク戦を申し込みたいからだと言う。オレは戦うためにここに居るので断る理由はないためすぐに部屋に入り届いた申し込みを承認するが

 

「ん?バイパー?って言うことは…射手(シューター)か」

 

 モニターに表示された文字を見て攻撃手(アタッカー)でないことに少し疑問が浮かんだがすぐに解決した。けれどシューターは接近戦が苦手だからアッタカーに申し込むと言うのはあまりないはず。ということはこの那須は相当自身があるのだろう。しかも弾道を自身で設定しないといけないバイパーがメインと言うことは厄介な戦い方をしてくると思う

 

 そういえばガンナー用トリガーの説明を受けたとき宇佐美がリアルタイムで設定できるのは「イズミ」と「ナスさん」くらいと言っていたのを思い出した。これから対戦する那須が「ナスさん」だったなら結構注意しないといけないかもしれない

 

 転送された場所は遮蔽物が多い工場地帯だった。あちこちにパイプが張り巡らされており、風のあたる音で反響音が聞こえるから想像通りのものみたいだ。見た目だけの棒とかなら聞こえる音の情報量は少なかっただろうと少しだけ残念に思う。でもこの程度は多く戦場を渡ったからさほど障害ではない

 

 問題なのは那須の能力だ。どんな攻撃をしてくるのか知らないオレは待ち構えるしかないのだが、どうやら来たらしい。空気を貫く音が近づいてきたのだが、それにしては横に広がっているし、窓とかのひび割れたみたいに方向が一定じゃない。ランダムに動かして弾道の方向を特定させないようにしてる

 普通なら目標に向かってまっすぐ飛ばすものだが、それでもフェイントを含ませるにしても全弾を設定するなんて今までに居なかった

 

「こりゃ、確かに手強そうだな……嘘だろ?」

 

 壁を蹴って屋上に出るよ確かに弾道はジグザグに進みながら、3発を横に並べてそれが1発分のようになっていた。1発ずつなら弾の数だけ設定すればいいが、3発同時にとなるとかなりの空間把握能力が必要となる。那須はどうやらオレの想像を上回るトリガー使いのようだ

 

「っく……中々避けるのも、一苦労だな……ふぅ…まだ来るのか!?」

 

 近づいて倒さなければ一方的にやられるだけなので、那須の居るところまで走ったり建物と建物を飛んで近づこうとするのだが。通り過ぎたバイパーが追尾するかのようにオレを追いかけ始めた。まだオレの知らない性能でもあるのかと驚いたのだが、6割は建物に命中している

 ということは何パターンかオレの行動を予測して放ったということだろう。それにしては狙いの精度が高い。シールドでなんとか防ぎながら進んだのだが、建物の影から現れて驚いた。周囲はまだ命中している音も響いているから弾丸の音はわずかにしか聞き取れず、接近していることにすぐに気付けなかった。咄嗟に韋駄天で高速移動して回避してしまった

 

「危なかった…けどここまでくれば那須の居場所は分かるが、何をしている?弾丸が1つに…?」

 

 サイドエフェクトで聞こえる音の情報は波のように伝わるだけでなく、形までもラグはあるが性格に伝わってくる。目が見えなくても耳がその代わりとなる。目は色を補完する為の補助のような役割にも近い

 

 だから那須が隠れていてもオレには分かるのだが、両手で作ったトリオンキューブを近づけて1つにした。2つを1つにする意味はあるのかと疑問が浮かんだ瞬間に、キューブは分裂し放たれた

 

「っく……爆破!?」

 

 建物に隠れながら走っていたら弾丸が飛来してきてシールドで防いだが、着弾した瞬間さっきとは違い爆発した。弾丸は4種類あってその中にメテオラという爆発するトリガーがあるが、メテオラに追尾性能はないはず。だけど先ほどの弾丸は明らかにオレに向かって放たれた

 

 一体どういうことなのか考える暇もなく今度はバイパーが放たれる。那須はオレに近づかれないように距離を保ちながら逃げ回っている。けれどやられっぱなしになるつもりはない。メテオラが追跡することに関しても終わった後で考えればいいと疑問の解決を先送りして韋駄天を起動して限界距離まで飛ぶ

 

「やっと見つけた…!」

 

「追い詰めたのかと思った?でも残念、私が追い詰めっ…!!」

 

「残念。この程度防げれば問題ないよ」

 

 何度か繰り返して近づくと見える距離にまで来た。だがその瞬間上空からバイパーが降り注いだのだが、音で聞こえていたからシールドで難なく防げた。那須は不意打ちができたと思ったらしいがサイドエフェクトで聞こえているオレには不意打ちにはならない

 

 驚く那須に弧月を抜くと同時に旋空を起動して防御しようと展開したシールドごと斬る

 

 意外と手強さを感じた那須を倒すことができてよかった。初めての相手だからってのもあるけど毎回違う軌道を描いて飛来するだけあってそのときにならないと対処ができない。このまま訓練を続けて精度を上げたら傭兵としてもSランクは取れるはずだ

 

 残り9戦と戦ったが、お互い相手の戦い方を知ってきたこともあり7,8戦目は苦労した。9戦目はステージが河川敷ということもありオレのが優勢だった。最後10戦目は那須が引き分けを捥ぎ取った

 近接トリガーを持たない射手(シューター)とはいえ苦戦を強いられるとは思わなかった。いろんな国で戦ったがここまで強いのはそうそう居ない

 

 いや、そもそもオレの見えない脅威(ノヴァ)が強すぎるからなのかもしれない。遠距離系のトリガーを持つ相手には『硬化』で守りながら接近だったから、いつもと違うトリガーで苦戦したのだろう

 その分消費量は多いけど協力ではある

 

 この後は他のボーダー隊員と戦ってアドバイスなどして夕方には玉狛支部に帰りはじめた

 

『…大丈夫かな……』

 

『それはオレにも分からないなー。ま、聞いてもらえることを信じるしかないだろ』

 

『うん…そうだね…!』

 

 建物が小さく見えるところまで来るとフィーロの声が聞こえてきた。なにやら林藤さんと話しているみたいだけど一体何のことなのかまでは分からない。音が声や物の形を教えてくれても色や文字までは見えない

 

 徐々に近づいてきても話しは終わったみたいでそれ以上はなにも分からなかった

 

「ただいまー…お?今日は修と千佳が作っているのか。これは、カレー?」

 

「伶さん、お帰りなさい。これはカレーじゃないですよ、ハッシュドビーフです」

 

「はっしゅ、どびーふ…?」

 

 玉狛に帰るとキッチンには修と千佳がエプロン着てご飯を作っていた。なべの中にはカレーが入っているものと思ったのだが違った。なんていうのかはよく分からなかったが見た目はカレーに近い。でも刺激的な匂いはしないから確かに違うものだと分かる

 どんな味がするのかなと修が用意してくれるのを待っていると、上からフィーロが降りてきた

 

「兄ちゃん!!」

 

「どうしたフィーロ?そんな思いつめた顔して…?」

 

 ドアを開けて近くまで来ると緊張した顔で見てくる。心音も少し高くもしかして風邪でも引いたのかと考えてしまったが、もしそうなら部屋で大人しく寝ているはず。フィーロは昔から風邪を引くと大げさなくらいに気だるそうにする。だから風邪ではないと判断して次の言葉を待ったのだが、それが衝撃的だった

 

「これ…」

 

「紙?…ボーダー………修、なんて書いているんだ?」

 

「えっと、ボーダー入隊申請書ですね」

 

「入隊……?」

 

「お願い兄ちゃん!オレ、ボーダーで強くなりたいんだ!!」

 

 白い紙の一番上にはボーダーと書かれていた。けどその後の漢字の部分は読めないので修に読んでもらった。ボーダー入隊申請書、と書かれていたらしい。それを聞いた瞬間眉を顰めた

 

 頭を下げてお願いをするフィーロにオレは怒りしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

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