段々と街の中心から離れていくと見えてきた。確かに多い。どこかの国に本格的に攻めにでも行くつもりだったのだろうな。波のように押し寄せてくるトリオン兵だが、オレ達の住処を何してくれてんじゃー! って怒って迎撃にむかった傭兵も多い
「さっすが傭兵だな~強い。オレも家を守るために戦うか。
オレもトリガーを起動すると、半径600mがトリオンでできた領域が展開される。目には見えずトリオンを感知するレーダーでも使わない限りは反応がない
剣型トリガーの三日月を抜いて向かう。モールモッドがオレを捉えて背中から展開された。先端からブレードが生えて振るわれたが
「遅いぞ!!」
通常の振るわれる速度とは半分ほどだった。余裕で躱して目玉を斬って振り返ると同時に2体目も斬る。迫ってくるモールモッドは全て動きが遅く撃破は容易い。あっという間に20体ほどの残骸を作った
今度はバンダーが近付いてくるも、普段から鈍足だが今はいままで以上に遅い。目の前に来ると大口を開けて食べようとするが、三日月を一振りするだけで弱点を斬って撃破する
なぜトリオン兵の動きが鈍いのかは、オレのトリガーが原因だ。専用トリガーノヴァは、展開した範囲内にあるトリオン全てに干渉する能力を持っている。そしていくつかの効果を付与する機能があり、今はその一つの動きを鈍くする「鈍化」を発動中だ。だから多対一ではかなり有利にもなるが、味方が居ると一緒に効果を受けてしまうため集団戦には向かない
「師匠ーー!!」
「ん?フィーロ?帰って来たのか?」
「はい!」
腕を振ってオレの下に来たのはフィーロ。オレに戦い方など教えてくれた師匠の忘れ形見。お調子者であまり物事を深く考えないから少し困っている
「帰ってきてたなら言ってくださいよ!」
「ああ、悪い悪い。それでどうでした?シンさん」
「そうだな。60点かな。交渉ごとは相変わらずってところ」
「やっぱりか……」
すぐにやってきたのはシンさん。5年前に立ち寄った国の戦いで死にかけていた
今回フィーロは戦闘では申し分ないほど強いから、交渉ごととかもやらせてみようと思ったのだ。その付き添いとしてシンさんにも行ってもらっていたのだ。だけどやはり深く考えない所為で危うく安い報酬で済ませられそうになったと
「うるさーーい!!師匠と話してるんだから静かにしてろ!!」
「………トリオン兵にそれは無理だろ……」
地鳴りがうるさく、我慢できなかったフィーロが真っ黒い棒を突き出すと先端が伸びて命中する。相当な威力でバンダーがひっくり返るほど。シンさんも呆れている
2時間の戦闘で今回やってきた敵は殲滅が完了した。しばらくいたがどうやらどこかの国が送っていたのを拾ってしまったらしい。いくら待っても次が来ることはなかった
「帰るか?」
「おう!」
フィーロのほうも来ることはなかったらしく、オレと合流してきた。後始末専門の業者も来たことだし引き返すことにした
「じゃーん!どうよ!」
家に帰るとテーブルにはフィーロが今回稼いだ金が山積みになった。シンさんと2人で行ったから正確にはその半分なんだが。とりあえず報酬額が600万リィルだった
「あそこは結構金があるからな。なんとか妥協してくれるまで粘ったぜ」
「さすがシンさんだったよ!いきなり120万リィルも言ってびっくりしたよ」
「フィーロ、前からいてるだろ?報酬の交渉するときは最初に高額にして、相手がこれならいいだろうって妥協するまで少しずつ下げていけって。トリオン兵の相場は何度も教えたろ?」
「う……はい…」
撃破した数はそんなに多くはないらしい。ぼったくられる前に倒せって命令されてたみたいだ。財源は無限じゃないから、できるだけ払う額を減らしたかったのだろう
やはり交渉はまだまだ勉強させないといけないとフィーロの評価は変わらずだ。対してシンさんはもういいのではないかと思う。自分の国に帰るのを
「シンさん。いつまでいるんですか?」
「……迷惑なのか?」
「違いますよ。むしろ助かってます。けど、恩返しがしたいって言ってもう5年も経ってるんですよ?十分助かりましたし……あまり居過ぎると、今度は帰りづらくなりますよ?」
「………」
オレの言葉になにも答えない。いつまでもいるのはシンさんの家族が心配する。もう5年も経っているから心配というよりは、気持ちの整理をしてしまっているかもしれない。確か弟がいるとも言っていた。怪我が治ったときは何度も帰ったほうがいいと言ったが
そのたびに恩返しがしたいといってきたのだ
シンさんが持っていたトリガーを元にノヴァも作れたし、フィーロの教育とかも手伝ってくれたし。なによりオレが
それに、居過ぎると今度は
「だけどな、5年もいたから向こうじゃとっくに死んだことになってるだろうし。いきなり死んだ人間が帰ったら驚くだろ?」
「……親しい人まで忘れてここに居たいんですか?」
「………」
2度目の沈黙。少なくともオレが知る限りじゃソチノイラに親しくなった人は居ないはずだ。たしかに死んだ人間が帰れば騒ぎなるだろう
以前教えてくれたことのなかには、
それまで必死で守ってきた人たちに非難が集まるらしい。どうして早めに伝えなかったのか? 警察や自衛隊に
実際シンさんがいた日本という国は平和なんだという
「今度、
「っ……どうしていきなり」
「旅行!
旅行と聞いてはしゃぐフィーロをみてから続けた
「そのときにシンさんを帰そうかなって思ってる。強引だけどこうしないといつまでもいそうだし。あとついでに食べ物とか興味出てきたし」
「興味……?」
「うん。さっきの戦闘まえにマカロンってお菓子を食べたんだ。おいしかった」
「ずるーい!!師匠、オレ達のは!?」
「自分で買え、ここに稼いだ金があるんだから」
「行ってくる!!」
まだまだお子様なフィーロは何枚かお金を持って飛び出ていった。少しは落ち着きをもってほしい。師匠の子のはずなのに性格は結構違う
「…これはオレの考えなんで、もう十分恩は返してもらえましたから。長く滞在しようと思っているのでその間に決めてください」
「決めるって……なにをだ?」
「帰るか、残るか、です」
「分かった。まあ正直オレも二の足を踏んでいた感じはあるからな。切欠が欲しかったのかもしれん。いつ行くんだ?」
「うーん1週間後、くらいかな?それくらいあったら準備はできますか?」
「十分だ。オレを助けてくれてありがとうな」
「オレが未熟だったからですよ。しっぺ返しもされちゃったし」
実はシンさんにオレのトリガーを渡したすぐ、近くで流れ弾が落ちて爆発したのだ。それなりの怪我だったが特にどこかが使えなくなるとか後遺症とかはなく回復はした。あとで師匠に酷く怒られたのは懐かしい思い出だ
「ただいまーーーー!!いっぱい買ってきたよ!」
「………何個買ったんだ……?」
「えーと……60個!!」
両手で袋を抱えて帰って来たフィーロは、テーブルに大量のマカロンを置いた。数を聞いたら急に頭が痛くなった
「シンさん……コイツの教育どうしたらいいかな……?」
「すまん…これっばかりは難しい……」
シンさんも頬を引きつってしまうほど考えなしに買うフィーロにお手上げみたいだ。そいつが稼いだ金はそいつの自由だ、というのが師匠の教えだ。だからオレもフィーロの金はフィーロが自由に使えばいいと思っていたのだが、本気でオレが管理しないといけないかもしれない
「師匠……?」
オレ達の悩みを理解していないフィーロはジュースをコップに注ぎながら声を掛けてきた
それからオレ達は旅行について色々話し合った。行き先は三門市というところ。
依頼は受けるのかととも聞かれた。傭兵には大きく依頼方法が二つ。一つは協会を通しての正式な依頼、もう一つは個人が直接出向いて受ける略式依頼
略式は協会を通さない分手続き料はかからないのと、報酬が100%と自分のものにできるのだ。本来は10%は所属料として払う必要があるのだが必要ないのだ。ただしデメリットも。報酬額は決めれるが、相場よりも安くなる。そして依頼主が踏み倒す可能性もあるのだ。これが原因で一時期国の商品が入ってこないこともあった
どちらの依頼にせよ、慎重に考えて交渉しないといけないのだ。フィーロは依頼があれば戦う気満々だ。だが戦うのではなく、目的は観光だから依頼はなければ引き受ける必要はない
「えーー。戦おうよ!」
「ダーメ。あと観光中も今回から使うお金はオレが管理するからな」
「えー!?どうして!?」
「どうしてもこうしても、コレをみれば金遣いが荒いのだから当然だろ」
目の前には沢山のマカロン。当然オレ達だけじゃ食べきれない
「……」
口を尖らせて不満を露にするが受け付けない。自覚はあるみたいだが。とにかく1週間後に行くのを予定に決定。残りの時間をはぞれぞれ準備のために使った
「
「ああ、コレ食べて少し興味が沸いてね。ついでにおっさんの依頼もやってやろうかなと」
「そいつはありがてえ!」
旅行2日前にきたのはマカロンを買った屋台。最初来たときと同じおっさが店番をしていた。話を聞くとちゃんとした店はあると、この出店は人気が出そうなもの、新しいアイデアができたときにどれほど売れるかの調査とかを目的に使っているらしい。ついこの間も大量購入した子供がいたと。間違いなくフィーロのことだ
ここに来たのは依頼の確認だ。さっき協会に行けば他国の料理のレシピを1つ持ってくる毎に報酬を支払うという。まさかこのおっさんだとは思わなかったけど、依頼を出すほどだから相当儲かっているのだろう。旅行ついでにやってやろうかなと引き受けたのだ
「長く滞在するつもりだから渡すのは先になるけど、いいか?」
「いいが、そんなにいても大丈夫なのか?」
おっさんの心配も最もだ。惑星国家は決まった軌道を描きながら進んでいるが、もちろんそれぞれの国で速度は違う。滞在の時間が長ければ長いほど帰還は困難になる
だが問題はない。帰還する際の道は2つほど国を経由すればいい
「問題ないよ。帰る道も考えてあるから」
「ならいいけどよ、この時代何があるかわからねぇからな。気をつけろよ」
「ああ、分かった。ところでレシピって具体的にはどんなのがいいんだ?」
「そうだなーお菓子とスタミナ料理かな。お菓子は女性や子供に人気でな、すぐに広まってくれるから結構儲かるんだよ。スタミナ料理はぶっちゃっけ量があればいい。お前達傭兵とかに需要はあるんだ」
理由も一緒に聞いて納得がいった。確かに男のオレは味もだけど、とにかく腹が減ったら量がほしい。女性や子供もお菓子には弱い、フィーロも60個も買ってしまうほどだし。まだ10個ほど残っているのに、ほんとうに無駄遣いはどうにかしないといけない
アイツの場合はトリガー開発は必要ないが、生活費は必要だ。いつか好きなこと付き合ったり、結婚したりするときには必要だ。オレはそんな子もいないし、付き合う予定などない。傭兵をやっていればいつかは死ぬ。悲しい思いをさせるくらいなら、一緒にならないほうがいい
これまでに幾度となく大切な人を失って悲しむ人を見てきた。最初は苦しかったけど、何度も見ていくうちに、変わっていった。戦争だからしょうがないと
依頼の確認を終えると家に帰宅した。気が早いフィーロはもう準備を終えていた
「行くのは2日後だぞ?早いな」
「師匠がいつも言っているじゃん!準備は何度も確認しておけよって!」
「ああ、そうだったな。でもそれだけじゃないんだろ?楽しみで仕方ないんだろ?」
「もちろん!」
オレの教えをしっかり覚えているのはいいが、本当は旅行が楽しみなのだろうと聞けば満面の笑みで答えた。全くしょうがない奴だ、と呆れるがまだ13の子供だから仕方ない。オレもそろそろ準備をしようと部屋を出ようとしたら、フィーロに呼ばれた
「どうした?」
「……本当にシンさんを帰すの?」
さっきと違って表情を暗くして聞いてきた。5年もいれば仲間としてだけでなく、家族のようにも思える。5年前はオレは12歳、フィーロは8歳だ。そんな幼い頃から過ごせば兄のようにも思っていてもおかしくはない。だから故郷に帰すのは嫌なのだろう
「しょうがないだろ?シンさんは帰るべき場所があるんだから」
「……じゃあ師匠も?」
「え……?」
「だって師匠も
フィーロの言うとおり確かにそうだ。オレは生まれは
オレの帰る場所はこのソチノイラだ
「バーカ。オレの帰る場所はここだ。だからそんな泣きそうな顔するな」
「だって……だって…師匠も、シンさんも…オレには……お兄…ちゃんだから……いなくなっちゃうって思ったら……」
安心させようとしたはずなのに、なぜかまだ泣きそうになる。こういうのは苦手だから勘弁して欲しい
タオルで涙を拭いたりするが止まらない、もうどうすればいいのかわからない。師匠から頼むと言われてるけど、あやし方は教わったことないから困る
あたふたしていたらシンさんが入ってきて頭を撫でた
「ありがとうな、フィーロ。オレもネイバーの弟ができるとは思わなかったよ」
やっぱりシンさんは頼れる人だなって思ってしまうオレも、案外涙もろいのかもしれないな
「っ!…シンさん」
「お前もだ。色々ありがとな、お前達のことは絶対に忘れない」
「おれも…ジンざんのごど……わずれないぃ!」
「はい。オレも忘れません」
フィーロのことは笑えないな。オレもシンさんがいなくなるのは寂しい。胸の中がジワリと暖かくなってくるがわかった。頭を撫でられてちょっと複雑でもあったけれど
「よーし今日は外で食うか!奢ってやるよ」
「うん!」
「いいですけど、帰ったときのお金が少なくなっても知らないですよ?」
これ以上しんみりとした空気を吹き飛ばすかのように、シンさんが外食をしようと言ってきた。フィーロはすぐに答えたのは当然といえるだろう、表情もいつも通りになっていた。でも気持ちのほうは落ち着いていないだろうな。帰ったらまた泣いてしまうんじゃないか不安だ。どこまでも手のかかる弟だ
フィーロのイメージボイスは?
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下野紘
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桑島法子
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その他