水飲み場から暫くして歩き着いた部屋札にはシンプルに
余分な考えを咳ばらいで飛ばし、扉を開ける。
「おはよう」
現在時刻、七時二十八分。ここのルールの一つ、「朝食は、何がなんでも皆で食べようマルナナサンマル」にはなんとか間に合ったようだが人数が少ないように見える。一番遅いのは俺だと思ってたけれど、どうやら違ったみたいだった。
「おはようございます。しかし、随分ゆっくりでしたね」
間髪入れず非難の声をあげたのは、既に食卓に着いていた噂の『駆逐艦 三日月』。黒を基調にした飾り気のないセーラー服には唯一『小隊長』と書かれた腕章が。
お茶を啜りながら見つめてくる一連の動作は洗練されていた。
「別に遅れた訳でもない。そんな怒るなよ」
「慌ただしい、と言ったんですよ。もう少し余裕を持って来て皆で団欒したらどうですか?」
ドがつく正論なので何も言えずに指定された席に座り一息つく。何も言わず差し出される湯飲みをありがたく貰い啜る。七十度前後に淹れられたお茶は素人目 ――この場合は舌だろうか?―― から見ても上手くできていた。
「おお、ありがとう。って言っても居るのは俺とお前と……あと奥に瑞鶴か? それだけだろ」
「天龍は兎も角、榛名は瑞鶴の手伝いです。貴方と一緒にしてあげないでください」
手厳しい。大きなアホ毛が威嚇するようにピョコピョコなびいていた。
「はよーっす」
噂をすればなんとやら。整備に時間がかかったのだろうか、『軽巡洋艦 天龍』が抜身の刀身をギラつかせていた。
「おはよう。つかソレなんとかならないのか。危ないぞ」
気にすんな、と行儀悪く足を組む。椅子の後ろ脚だけでだらけるように座り三日月が淹れたお茶を啜る。
ずぞぞ。まるで蕎麦でも食っているのかと勘違いするほど豪快な飲みっぷり。しかし蕎麦ならいざ知らず、お茶でやるものだから三日月とはまるで別。風勢もクソもない。ここが茶道部なら柄杓で頭を芝かれてるだろう。
「オレが言えたことじゃないけどな提督。本当ならアンタが最初に来て、こうドッシリと構えているべきでなー」
「物言いは同感ですが、汚いです。とても」
「はは、失敬失敬」
ジロリと睨みつける三日月に天龍は悪びれもなく手をひらつかせる。
「……全く」
そういう物言いは柔らかい。なんだかんだ同僚である天龍には優しいのだった。
なんて二人の会話を楽しんでると奥からエプロン姿の『戦艦 榛名』が食器を持ってきた。
「あら、おはようございます。昨日は随分お疲れだったようですね」
瑞鶴の手伝いだろうか。彼女の姿は新妻そのもので、天使か、いや新妻だ。 誰の? 俺のだろう。
「おはよう。あんまり覚えてないんだけれど酒を飲んだみたいでな。悪いけど後で頭痛止め持ってきてくれるか?」
「はい、榛名にお任せください!!」
なんて彼女の決め台詞。胸元でこぶしを握る姿は年相応か、それ以下の年齢に見える。
それと同時に瑞鶴が鍋を机に置いた。蓋越しに匂うスパイスは朝から空腹感を刺激させると右からぐうぐう。左からくうくう。
「お疲れ、遅かったじゃない?」
三者三葉。いや一人多いか。合否は、悪いペケを押され、解答欄は全て、遅いで埋まっていた。
「ああ、悪かったな準備任せちまって」
「もう、いいって。ほら皆、食べようよ」
各々が頂きます、といい食べ始めた。ワンマンプレイは組織を滅ぼす。これはいけないと一人大きく「頂きます」というと、「うるせえ」と汚いヤジ。頭を掻きながらスプーンをルーに沈める。
「それにしても朝からカレーですか」
「いいでしょ。作るの簡単だし」
「そりゃ具が入らなきゃ簡単だろうよ」
非難の声を上げる天龍と三日月。確かにルーの中には肉は疎か、野菜すら入ってない。
嫌なら食べなくてもいいのよー? という声に黙るふたり。
まあ、概ねいつも通りの光景。
――そうして朝の時間は進んでいく。