「神竜の力、教えてあげても良いけど?」
私はサウザーにそう語りかけるが、奴は怪訝な表情でこちらを睨んだままだ。
「ヨヨ様!?」
私の言葉にビュウが驚いている。まあいきなりこんな事を言えば当然か。さらにマテライトも私に向かって叫ぶ。
「ヨヨ様!? なりませんぞ! サウザーなんぞに……」
「あら、マテライト。この尊き私が、他者に膝を折るわけがないでしょう?」
私は髪をかき上げ、マテライトにそう言葉を返す。別にマテライトが思っているように、下手に出るためにそうするわけではない。
ただ、このサウザーという男は何かを諦めるような人間ではない。なぜわかるかって? 私がそうだからよ。
それに、ここでサウザーを倒すのも正直なところ難しい。最大戦力である私は相殺以外に動けないし、ビュウも武器の差が埋まったとはいえまだサウザーに致命傷は与えられていない。後方の皆も参戦してこのまま戦い続けるならばともかく、本気で危うくなればさすがにサウザーも撤退するだろう。私たちにとってそれはあまりよろしくない。だから、だ。
「これはそう、ちょっとした戯れよ」
ただし、単なる戯れではない。これは言うなれば、王の器を試す命を賭けたゲームだ。
「……どういうおつもりかな?」
「何、単純な話よ。あなたに現実を理解してもらうにはそれが一番早いかと思ってね」
自分ならば手に入れられると考えるのは、要するにその力をよく知らないからだ。ならば、サウザーが求める神竜の力、ここで見せてやるのも一興ではないか。
「ほう。それで、私に神竜の力を見せて下さると?」
「力だけではないわ。神竜の感情──その心も知る事ができるでしょう」
私のドラグナーとしての力の方向性を操れば、おそらくは可能だ。可能だが……。
「当然、命の保障は無しよ? あなたにその想いを受け止められるだけの器が無ければ、あなたの命の炎はここで消えることになるでしょう」
そう。神竜の抱く強い想いは、ドラグナーの力を持たない常人にとっては危険すぎるものだ。並の人間ならば即座に死に至るほどに。
「ふっ……世界の覇者たるこの私が、想いの一つや二つ受け止める事ができないとでも?」
その言葉には限りない王気が込められていた。一代で帝国を築き上げた覇王の矜持。自身はここで終わる存在ではないという確信と、絶対なる自信が。
「──よく言ったわ」
そこまで言うのなら、味わってもらおう。サウザーに神竜の力を御する事ができるかどうか、自らの命を以て試してもらおうではないか。
私は我が身に宿る存在を呼び起こすべく、これまでで最も強く魔力を高める。
「ふふふふ、光栄に思いなさいサウザー皇帝。あなたはオレルスの歴史上、ドラグナー以外で初めて神竜の心を知った男となるのよ?」
「それは素晴らしいことだ。私こそが伝説になるに相応しい」
「あらあら、大した自信だこと」
実際、このサウザーならばそうなる可能性は十分にあると思っている。ドラグナーの力を持たない人間が神竜の感情をその身に宿してなお生きていられるとすれば、それはこのオレルスの覇王たる皇帝サウザーしかいないであろう。それほどの力をこの男は有しているのだから。
(まぁ、まともな神竜なら、の話だけど)
私が今から呼び起こす存在はまともな神竜とは少々言い難い。もっとも、私が呼べるのは『彼』と先ほど私に入ってきたヴァリトラの二体だけだが。
別に、神竜の力と心を知るだけならヴァリトラでもいいのだが、それだと私が面白くない。何よりあんな
だから、私が呼ぶのは『彼』だ。このオレルスに存在している神竜の中でもとびきりの大物である。私ですらその力は完全に把握しているわけではない。
サウザーとて、その身で受け止めきれるかは怪しいが……。まぁ、やってみればわかることだ。敵であるこの男がどうなろうと私の知ったことではないのだから。
「こ、これは……!?」
「森が……違う、大気が揺れている!?」
あれほど覇気に満ちていたサウザーが思わず驚愕の声を上げ、その異変にビュウも周囲を見回す。私がただ魔力を高めるだけで森はざわめき、大地が揺らぐ。しかし、これは私の力ではない。
これは──そう。私の中にいる『彼』のもの。その気配に、大気が、世界が怯えている証。
(さぁ、起きて?)
私は自身の心の最も奥深く、深淵とも呼ぶべき場所に眠る『彼』に目覚めを促す。ここ最近、『彼』を目覚めさせたのは思い出の教会が破壊されたあの時だけ。しかもあれは現世に呼び出すわけではなく単に会話の為に一時的に起こしただけだ。『彼』はその後すぐに眠ってしまったし。
いつしか私の内に在る事が当然となっていた『彼』。私がもっと幼い頃は、『彼』の想いに耐えられずよく倒れたものだ。まぁ、私にかかればどうという事はなかったが。
私が十数年生きてきて、最近ようやく制御できるようになったその力。気難し屋な『彼』は、私が完全にその力を制して以降はずっと眠っている。本格的に目覚めさせるのは、私の生涯でこれが初めて。