ヨヨ様奪還というかご帰還から翌日。確実に士気は高まっている俺たち反乱軍は、まぁ、いつも通りに過ごしていた。辺りを見回せば、
「モニョ〜!(おどるぜおどるぜ!)」
「マニョ〜!(近づくと危ないぜ!)」
「わーい♪」
ひたすら踊り狂う悪魔と幼い魔術師に。
「ああ……ク、クスリ……クスリは……」
危ない目付きで大量の薬を漁る僧侶に。
「ちょっとバルクレイ。もっと速く移動してよ!」
「そりゃ私だってそうしたいさ。でもこの鎧が重くてな……」
「そんなのろのろしてたら戦場では私みたいな魔術師のいい的よ!」
「なんだと? そっちこそ私たち騎士が盾にならんと防御もろくにできないじゃないか!」
「なんですって!? べ、別にあんたに守って欲しいなんて頼んでないわよ!」
大声で言い争う重騎士と魔術師。
……うん、本当にいつも通りに過ごしていた。で、俺こと戦竜隊長ビュウが何をしているかと言えば。
「好きなもの?」
「おう。ちょっと皆の人となりを聞いててな」
ファーレンハイトの操縦士であるホーネットから好きな物を聞き出そうとしていた。
「そうだな、甘いワインなんか好きだな。ちなみに嫌いなものはうにうじだ」
「それが好きな奴はあんまりいないと思うぞ」
聞いてもいないのになぜか嫌いな物まで教えてくれたが、とりあえず礼を言って移動する。
「……というわけらしいぞ、エカテリーナ」
「あ、ありがとうございますビュウさん……!」
そう。ホーネットの好みを知りたかったのは俺でなくエカテリーナだ。彼女、反乱軍結成前からカーナに仕えるウィザードで割と古参なのだが、奥手で男性に免疫がなく、隊長として普段から会話している俺ぐらいとしか男とまともに話せない。
「ああ、甘いワインに心を込めてあの方に送りましょう……」
エカテリーナはそう呟きながら女部屋に戻っていった。あんな美少女に惚れられるとはホーネットも隅に置けないな。……愛が重そうだけど、彼女。と、さっきから踊っていたプチデビたちとメロディアが俺に近寄ってきた。
「モニョ〜!(おうビュウ! ヨヨ様ってな人間にしちゃ素晴らしい女だな!)」
「マニョ〜!(俺様に言わせれば特上だな! 今風に言うとウルトラレアだぜ!)」
「ヨヨ様、プチデビにも大人気だね!」
「そうか。ヨヨ様を気に入ってくれて何よりだが……」
主君が気に入られるのは嬉しいのだが……仮にも死神であるプチデビが人を褒めるってのは何か妙な気が……。
「なぁ、二人とも。それはヨヨ様が人間として素晴らしいお方だってことでいいんだよな? 悪魔的な意味じゃないよな?」
俺はそうプチデビたちに問うが……おい、なんで目を逸らす。答えはどうした。まさかマジでヨヨ様は悪魔的な意味で素晴らしい人物なのか!? 確かに誰がどう見ても暴君の類になるであろう御方だけども!!
「モニョ〜!(そうだ、急用を思い出したぜ!)」
「マニョ〜!(プチデビ二人はクールに去るぜ!)」
「にげろー!」
「おい待て!?」
答えは!? 答えはどうなんだ! おーい!?
◆ ◆ ◆
私の夢に踏み込んできた不届き者を焼き尽くした後、気付くと私の周りの様子が大分変わっていた。ふむ、見覚えの無い空間だ。
「……また夢かしら」
『娘よ……夢は終わりだ』
んん? 何やら声が聞こえる。しかし、この尊き私を娘呼ばわりとはね。すると、上空に緑鱗を纏った巨大な竜が姿を現す。
『私は……神竜ヴァリトラ』
「ほう、お前がね」
アレキサンダーと比べると凄まじく劣るが、まぁ強力なオーラは感じられるわね。……なんでか焼け焦げているけど。
『娘よ、お前が? お前が伝説の、神竜の心を知る者』
「私は伝説なんぞ知らないわよ?」
ヴァリトラが問い掛けて来るが、私は本当に伝説なんぞ知らない。帝国の蛮人どもも散々聞き出そうとしてきたが、私が伝説を教わる前にお父様はあの襲撃で亡くなられたのだ。
『伝説を知らぬ娘……ならばお前は何者』
「この私にそのような問いを投げるなど蒙昧極まりないわね。私はカーナ王女ヨヨ。唯一絶対なるこの世で最も尊き人間よ」
『カーナ王女ヨヨ……神竜と語る娘よ。我ら神竜の心を集めるがよい』
神竜の心を集める、ね。まぁ、神竜の力は私にとっても有用だからわざわざ言われずともそうするつもりなのだが。
『相応しき者なら我らは力を与えよう。そしてお前は、ドラグナーとなり世界を手に入れる』
「そう。それで?」
『え?』
私が聞き返すとヴァリトラから間の抜けた返答が来た。ちょっと、まさかそれだけなのこいつ?
「お前、私がいずれ世界を手に入れるだなどと、
『いや、その……』
どうやら本当にそれだけらしい。はぁ、仰々しく現れるから何なのかと思えば全く以てくだらない。それに、そもそもからして気に入らないのだ。
「お前、誰の許しを得て天に仰ぎ見るべきこの尊き私を見下ろしているのかしら?」
『……は?』
「頭が高いわ、不敬者」
私は状況を理解していないヴァリトラに魔力波を操作してぶつけ、地面に叩き落とす。
『がはぁ!?』
「神竜であるお前が唯一絶対の主であるドラグナーたるこの私に取り込まれるという栄誉を賜ったのよ? 地に伏し、服従の意を示すのが道理でしょう?」
そもそも神竜はこの私の力が無ければせいぜい怒りの念を発するしかできない存在だ。であれば、自ら進んで私の下僕となるのが道理であろうに。
『ふ、ふざけるなよ、小娘が……! ドラグナーとはいえこの神竜ヴァリトラが脆弱な人間如きに服従するか!!』
「ほう? どうやら自分の立場がわかっていないようね?」
◇ ◇ ◇
『わ……私、神竜ヴァリトラはこの世で最も偉大な存在であるヨヨ様の忠実なる下僕です……』
「ふふふふ、ようやくお前にもこの世の理が理解できたようね」
――こうして神竜ヴァリトラは当然の如く私の下僕となったのであった。オーッホッホッホッホッゲホッ、ゴホッ!?
ヴァリトラ「やっぱりヨヨ様には勝てなかったよ……」