──帝国皇帝の右腕たる金髪の男は、私の策によって成す術なくその場に崩れ落ちた。
「ふっ、愚かなりサスァ・パルパレオス。敵国の王女に心を許した挙げ句に隙を見せるとは軍人の風上にも置けぬ男ね」
私はクッキーを食べて倒れ伏した眼前の愚か者を見下してそう言った。さして親しい間柄でもない人間に差し出された物を無警戒に食べるなど軍人として無能の極みだ。そもそも、毎夜無許可でこの私の部屋に入って来る事自体が不敬である。この私の側に寄る事が許されるのは私の臣下の民だけだというのに。
そもそも、私は帝国に崩壊させられた国の王女である。そんな女にクッキーを差し出されて怪しいと思わなかったのだろうか? こいつは私に優しくしていたし、私も愛嬌を振る舞いていたから私が惚れたとでも勘違いしたのかしら?
だとしたら中々におめでたい頭をしている。祖国を殲滅した国の将軍に惚れるような女がいるなら是非とも私が会ってみたいものだ。さぞや脳内お花畑のビッチに違いない。
「いや、これもひとえに私が美しすぎるせいかしら? ああ、美しさは罪だわ」
よく考えてみればサウザーの右腕がそんなに無能なはずもない。きっとこの男は美しい私に差し出されたクッキーを食べずに突き返すのを躊躇ったのだろう。全く、自分の美少女ぶりが怖いわ。
……うん? お前は誰だって? この私にそんな問いを投げるとは蒙昧極まりないが、知らぬならば答えてあげましょう。
私の名はヨヨ。全ての人間より尊く、全ての法より正しく、全ての神より偉大な存在。カーナ王女、ヨヨとは私のことよ!
こう答えると、大抵の人間は狂人でも見るような視線を向けるのだけどね。全く、
そんな私の転機は世界に覇を唱える新興国家グランベロス──偉大なるベロスなどと仰々しい名を冠した蛮族共の帝国に我が祖国カーナが敗れた事だ。あれから数年、私は捕虜として牢の中で過ごしていた。愛すべき我がカーナを壊滅させた挙げ句、この尊き我が身を薄汚い牢獄に押し込めるなど、全くとんでもない蛮族どもだ。まぁ、これも私の輝かしき生涯を彩る一ページであると考えればどうという事もないが。
殺されるかもしれない不安は無いのかって? 何を言っているのかわからないわね。この私の素晴らしき生がこんなところで終わるわけがないでしょう?
さて、どうも帝国皇帝サウザーは私のドラグナーとしての力を欲しているらしい。
『ドラグナー』。神と呼ばれし竜、『神竜』の心を知り、その強大な力を行使できる唯一の人間。そんな偉大な私の力を知れば、欲しいと思うのは当然であるけれどね?
帝国はよほど私を重要視しているらしく、牢に居続けることによる悪影響での精神崩壊を懸念してか、私は捕虜でありながら短時間ならば牢を出て自由行動が許されていた。無論、監視付きではあるけれどね。
先ほどこの将軍に食べさせたクッキーはこの自由行動時に厨房を借りて作ったものだ。無論、監視付きなので毒など入っていない。
ならばなぜこの男は昏倒したのかって? そうね、それはひとえにこの尊き私が手ずから作った料理がこの世のものたちの口に入れるにはあまりに過分であるからに他ならない。
私の料理を口にした生物は、その幸福感から数秒で天国へと旅立ってしまうのよ。時折「単純に死ぬほど不味いだけではないか」などとのたまう不敬者がいるが、全く以て理解不能である。単に不味い料理を食べただけで死ぬわけがないでしょうに。
まぁ、ベロスの蛮人共も私を利用するなら知っておくべきだったわ。カーナ騎士団には「王女を厨房へ入れるべからず」という鉄の掟があることをね。
なぜそんな掟があるのかといえば単純だ。以前私が自分で作ったクッキーを食べたら昏倒したからだ。
いや、アレは思い返してもかなり危険な出来事だったわね。リタンシブルが無かったら即死だった。
その後、人の身にはあまりに危険すぎるそのクッキーをその場を離れたらマテライトがうっかり食べてしまい殉職しかけたりもした。懐かしい。そうそう、捨てたクッキーをサラマンダーが見つけてしまい、食べた結果さびしいドラゴンになってしまった事もあったわね。お父様のコレクションからくすねてきたスーパーウォッカをサラマンダーに飲ませてあげることで事なきを得たが。
……思考が大分逸れてしまった。ともかく、クッキーを食べて昏倒したこの男はサウザーが信頼を置く右腕である。幹部しか所持を許されていないマスターキーも持っていた。これを使ってここから逃げ出せば、晴れて私は自由の身だ。
そして私は『彼』と添い遂げるのだ。我がカーナが誇る戦竜隊隊長、ビュウと!
そう、私が今回行動を起こしたのは、帝国内にビュウが率いる反乱軍が決起したという情報が広まってきていたからなのである。ビュウが生きているというなら一刻も速く彼の元に行かなければならない。
私とビュウは幼馴染みだが、数年顔を合わせていないというのは痛い。ビュウはとにかく魅力的な男性だ。ゆえに彼を狙っている女性はカーナにも数多く存在した。きっと反乱軍にもそんな女性たちがいるに違いない。……一部の男にも狙われていそうだが。センダックとか。
ともかく、ビュウ争奪戦に出遅れないうちにさっさと反乱軍と合流を果たさなければ。ビュウと添い遂げる事が私の最優先事項だ。
何? カーナ再興はどうでもいいのかって? 笑わせないでちょうだい。再興も何も、そもそもカーナは滅びてなどいないわ。
なぜなら、カーナとはすなわちカーナ王族たる私自身。そう、私が存在する場所こそがカーナなのだからね!
「さぁ! 行きましょう……この空の果てまで!」
そうして私は牢屋から脱出し、牢のある建物から飛び出すと──目の前に屈強なドラゴンが立ちはだかった。
「お前は……」
私はその姿に見覚えがあった。それは、私が捕虜になった時に乗せられた、先ほどの将軍の騎竜──レンダーバッフェであった。
【パルパレオス】
グランベロス帝国八将軍の一人で、帝国皇帝サウザーの右腕。サウザーの親友であり、彼が唯一本心を語る人物。成り上がりの皇帝であるサウザーには完全な味方は彼だけであった。
原作ではカーナ陥落後、帝国の捕虜となったヨヨと両想いになり、サウザーの命令で反乱軍入りした後は正式に結ばれる。
しかし、あまりにも周囲の人の機敏が読めずに四六時中ヨヨといちゃついてばかりいたため反乱軍内に不和を招き、一気に軍内の空気が悪くなった。
戦乱終結後、主要人物のほぼ全てを失い無政府状態となったグランベロスに戻り、怒れる民衆の刃を自ら受け入れ死亡する。
マテライトは彼に「死んで取れる責任など何もない」と論したが、結局はその言葉は彼には届いていなかったようだ。
散々カーナ軍を掻き乱した挙げ句に全て放り投げたような死に様の為、人によってはヨヨ以上に嫌っている。
戦力としても正直微妙で、ビュウと同じクロスナイトであるが、ビュウに勝ってる能力がMPが1高いぐらいしかなく後は全て劣る。
元々クロスナイト自体複数いるメリットの薄いクラスなのもあり、プレイヤーからの感情も相まって二軍落ちしがち。
何気に敵、味方、NPCの全てを経験した男である。