「ホーネット、キャンべル・ラグーンの周囲を旋回してくれる?」
「了解」
皆との顔合わせを終えた私はひとまず解散を伝え、操縦士ホーネットにはキャンベル周辺の巡回を命ずる。
「さて、これからはこの私が旗標として反乱軍の総司令官を務めようと思うのだけど」
「まぁ、当然ですね」
「亡きカーナ王に代わりヨヨ様が我らを率いる……時代の流れを感じるのう」
私の宣言にビュウとマテライトがうんうんと頷く。まぁ、総司令官と言っても戦場では基本的にこの二人に指揮してもらうだろう。
今我々は帝国と戦争をしているわけだが、極端な話をすれば、この戦争に勝つだけなら簡単なのだ。私がアレキサンダーを呼んで帝国をラグーンごと消し飛ばしてしまえばそれで終わりである。ただしこれだと当然ながら帝国国内の無辜の民まで一人残らず絶滅する事となり、私ことヨヨは世紀の虐殺王女として歴史に名を残すことは間違いないであろう。
別に私としてはそれでも構わないが、そうなると私を危険視した他国らが対カーナ連合軍でも結成して私の討伐に乗り出すという展開になる可能性がある。そうなってはさすがの私でもお手上げだ。まさかカーナ以外の国を全て消し飛ばすわけにもいくまい。日々の生活必需品をカーナ内だけでまかなうなど到底不可能に近いし、何よりそこまですると臣下の誰かに後ろから刺されても文句が言えなくなるであろう。それはいただけない。
そんなわけで、地道に……と言うのも何だが、普通に戦闘するにはやはり反乱軍の皆を頼りにする事になるであろう。
「で、キャンベルなのだけど……叔母様なら伝説を知っているはずなのよね」
「おお、キャンベル女王! カーナ王の妹君ですな」
そう、キャンベル女王はお父様の妹、つまり私の叔母だ。現カーナ王族では私を除くと唯一の生き残りである。
「神竜の伝説ですか」
「サウザーは結局私に話さなかったからね。こうなれば叔母様より聞き出す他ないわ」
別に帝国と戦うのには知らなくとも支障はないが、しかし知らないという事自体が気に食わない。ここは是が非でも叔母様から聞き出したいところである。
「というわけで、マテライトはラグーンの様子を見ていて頂戴」
「ふふふ、お任せ下さい」
マテライトは張り切りながら監視の任に向かった。これで部屋には愛しのビュウと二人きりである。うふふ。
「ヨヨ様、何かありますでしょうか」
ビュウがそう問い掛けてくる。私としては『ハグして』とか言いたいところなのだが、皆が戦争ムードなのに私一人だけイチャついてるわけにもいくまい。一兵士ならともかく、君主がそれでは軍の士気にも関わる。
まぁ常識的に考えて、そんな脳内お花畑な君主などいるわけがないし、仮にいたとしたらその国は長くないであろう。
「そうだわ。ビッケバッケが栽培してるキノコがあったわね」
「はい。あれで商売をやるとか」
聞くところによると、ヴァリトラがいたあの森に生えていたのを取ってきたらしい。ちょっと興味がある。
「ビュウ、持ってない?」
「ビッケから買った奴がありますが……」
「私に頂戴な」
「はぁ」
ビュウからキノコ三種を受け取り、小規模な火炎魔法で焼いて食べてみる。うん、中々イケるじゃない。
「ところで、ヨヨ様は戦場へは「出るけど?」ですよねー」
当然である。臣下だけに戦わせて一人安全な後方で待機というのは私の性に合わない。無論、ビュウたちが守りやすいように前には出すぎないようにするが、私も普通に戦うつもりである。
というか最大戦力は恐らく私なのだし、何より君主も戦場に出た方が軍の士気も上がるでしょう。王族が戦場に出るなど非常識ですって? そんな常識などドラゴンにでも食わせてしまいなさい。
「……美味いんですか? そのキノコ」
「クセの強い味わいだけど私的には中々イケるわよ? この、身体を蝕むような毒々しさがいいアクセントになっているわ」
「めっちゃ毒物じゃないですか!?」
まあそうなんだけどね。ビュウは「ビッケの奴ちゃんと管理できんのか!?」などと心配げである。あの子はああ見えてしっかりしてるし大丈夫だと思うけどねえ。
「でもこのキノコ、私の見立てではそれぞれ雷、毒、回復の魔力を秘めているわよ。ドラゴンの餌には最適なんじゃないかしら」
「む……それは良いかもしれませんね」
ビュウは「これでモルテン以外にもリフレッシュが……」などと呟いている。相変わらず、ドラゴンのことになると楽しそうね。
「どう? ビュウも一口」
「いや、いりませんよ!? 下手したら死にますって」
餌だけでなく一度食べるのも奨めてみたが、あえなく断られてしまった。美味しいのに。
「ビュウは毒はダメなの?」
「普通の人間は毒はダメですって!」
そうかしら? 私は結構良いと思うのよ。王宮にいた頃は毒入り紅茶とか良く飲んでいたけど、美味しかったし。
とかなんとか言っている間に、キャンベル本土についたようだ。皆が慌ただしく動いている気配を察知する。
「行きましょうか、ヨヨ様」
「ええ」
ビュウにエスコートしてもらいつつ、ドラゴンたちが待つ艦外へと向かう。そこでは皆が出撃準備をしつつドラゴンに乗り込んでいた。センダックがさりげなくサラマンダーの側にいるが……まぁいい。
「キャンべル解放の暁にはヨヨ様の右腕たるこのワシは英雄扱いじゃ。これで計画も上手くいくに違いないわい」
「空から見るキャンベルもいいもんだね。あの子は元気にしてるかねえ……」
ふむ、何やらマテライトもゾラも色々あるようだ。
「おお、ビュウ! そちらがヨヨ様か!」
と、白髭を蓄えた老人が私たちに気付き近寄ってきた。ふむ、見ない顔ね。
「先ほどは挨拶に向かえずすみませんですじゃ。わしは戦竜たちの世話を任されている者です。ドラゴンおやじとでも呼んで下され」
ふむ、なるほど。普段は彼がドラゴンたちを管理しているようだ。しかし『ドラゴンおやじ』とはあからさまに偽名である。この尊き私に対して偽名を名乗るなど本来なら不敬であるが……。
(どうも、気配が人間と違うわね?)
この老人、好々爺といった感じだが人間ではない雰囲気を纏っている。これはどちらかというと……そう、ドラゴンに近い。
(なるほど、
どうやら反乱軍には中々面白い人材がいるようだ。私が納得していると、ビュウは私に目配せして許可を取るとドラゴンたちに餌やりしに行った。ふむ、餌か。
「お前たちもいる?」
「────♪♪」
私が話しかけたのは下僕一号二号改めブランとドゥングである。どうやら餌が欲しいようなので、この私の尊い髪を少し切ってまた与えてやる。
「ヨヨ様、終わり……変化ですか?」
「ええ」
戻ってきたビュウと一緒に光に包まれた二匹を見つめていると、やがて変化が終わる。
「二段重ねですね……」
「そうね。かわいいわ」
そこには正体不明の人面が二つ重なった更なる謎生物の姿があった。ビュウは「かわいいですか……?」と首を傾げているが、私は肉団子みたいでかわいいと思う。
「ま、まぁいいか。行きましょう、ヨヨ様」
「そうね、そろそろ出ましょう」
私とビュウはサラマンダーとセンダックの所へと歩いて行き──
「どけ、ジジイ」
──ビュウがセンダックを突き飛ばして私の手を引いてサラマンダーに乗せた。
「そ、そんな……」
愕然としているセンダックはマテライトたちが乗るサンダーホークに回収された。ふっ、残念だったわねセンダック。ビュウは私とランデブーしたいそうよ。
「こうして二人でサラマンダーに乗るのも久しぶりですね」
「そうね。やはり素敵だわ」
うん、やはりサラマンダーの背の上は最高の特等席である。レンダーバッフェよりずっとはやい!
しかしキャンベル本土は目の前なので、空の旅はすぐに終わってしまった。残念。
「ここに降りましょう」
キャンベル・ラグーン本土の端へと降りる。……が、いきなり一人の帝国兵に見つかった。
「きさまら、はんらんぐんだな!」
帝国兵──レギオンがこちらに向かってくるが、ビュウに一刀のもとに切り伏せられてあっさり葬られる。さすがにこの程度の雑兵は相手にならない。
「見つかったかしら?」
「いえ、こいつが偶然ここにいただけのようです。キャンベル駐留軍本隊には察知されていません」
「それは吉報。さて諸君、戦争よ。青きキャンベルを下賎なベロスの蛮族どもの手から解放するのよ」
私の言葉に反乱軍の皆が一斉に頷いた。
「イエス・ユア・ハイネス!」
「我が神のお望みとあらば」
加えて二人のプリーストが私に返答する。ディアナはノリノリで最敬礼し、まだ例のクスリを飲んだテンションのままのフレデリカは狂信者みたいな事を言っている。まぁこの世で最も尊き私が神の如き存在なのは当然の事なので良しとしよう。
「キャンベル駐留軍の総司令官だったゾンベルド将軍はヨヨ様が倒しているし〜、新しい指揮官が配置された情報も無いから、大した兵はいないんじゃないかな〜」
ふむ、ディアナの情報なら信用できるだろう。油断さえしなければ問題なく勝てそうだ。
「ヨヨ様、作戦はどうします?」
「作戦? そうねえ……」
うちの軍は全体的に自己主張が強く個性的な戦いをする面々ばかりだから、正直細かい作戦とか立ててもかえって皆の持ち味を殺すだけな気がするのだが……そうね。
「『雄々しく、勇ましく、華麗に進軍』よ!」
「それ作戦なんですか!?」
ビュウには不評なようだが、マテライトは気に入ったようで、「そいつはわかりやすいですな!」と頷いてタイチョーらを率いて真っ先に突撃していったのだった。
【センダック】
カーナ王国の老師で、カーナ一の知識人。ヨヨと同じく神竜を祭る司祭であるワーロックである。
カーナ旗艦ファーレンハイトの艦長であり、艦内の風紀を纏めクルーの給料などを決めている。
職業柄、ヨヨほどではないが神竜の想いを感じ取れるらしい。味方キャラ唯一の男性魔術師であり、ヨヨに次ぐ魔力を誇る実力者である。
……こう書くとファンタジーによくいる老賢者のようだが、そんな彼の性格はというと『ビュウLoveの乙女ジジイ』。本気でビュウに好意を寄せており、事あるごとにビュウに言い寄る。
原作ヨヨが心弱き娘なら、センダックは心弱きジジイであり、かなりのネガティブ思考。原作序盤の臆病な頃のヨヨとかなり性格が似ている。
というか言動までほぼ一緒であり、サラマンダーに一緒に乗って「もっと強くつかまってもよい?」、手作りのクッキーを差し入れするなどビュウへのアプローチの仕方もヨヨと全く同じ。
ビュウの選択肢は「イヤです……やめて下さい……ジジイ!」「いらないよ……ジジイ!」など辛辣なものが多いが、当の本人はどこ吹く風でひたすらアタックし「ビュウのおしり……まろやか……」などとのたまう。
センダックは最後までビュウ一筋なので『原作ヨヨがビュウに一途だった場合の予想図』がセンダックであると言っても過言ではない。
問題は、センダックは幼馴染みの可愛い王女様ではなく枯れたジジイだということである。どうしてこうなった。
ファーレンハイト艦長かつカーナの司祭という重鎮であるにも関わらず、ビュウを含めてやたらと軍内での扱いがぞんざい。
ビュウとサラマンダーに乗ろうとしたら定員オーバーを理由に断られる(直後に来るヨヨは即座に乗せられる)、帝国にスパイを送り込む際に「死んでもいい人物」として候補に上がる、存命なのに遺書を勝手に読み上げられビュウが艦長代理になる、病気で倒れるも「くたばったらくたばったで名誉の戦死」と無理矢理戦場に連れ出される、パルパレオスと結ばれ幸せになったヨヨに神竜の怒りを押し付けられるなど散々な扱いをされている。ジジイの明日はどっちだ。