──想い人を失い心折れたドラグナーの娘が死に、居場所を失った彼は別の世界に移動した。オレルスでありオレルスでない、異なる可能性の世界。しかし、その世界がどのような可能性を歩むのか彼には興味はなかった。もはや彼には未来はないから。
彼が行き着いた場所はカーナ。彼は知らなかったが──それは在りし日の、まだ王も生きていた頃、滅亡の時を迎える以前のカーナだった。
そこで彼は一人の娘──恐らくは成長すれば彼の知る娘と同じ容姿になるであろう、まだ齢一桁だろう幼いドラグナーの娘の身に入り込んだ。
「姫様!?」
「姫様がお倒れになられた!!」
彼が入り込んだことで娘が昏倒し、周囲の従者が慌てて娘を自室に運び医者を呼ぶように言う。しかし未来の成長したドラグナーでも耐えられずに死んだ彼の憎悪を、まだ幼いこの娘が受け止めきれるとは到底思えなかった。
──このまま永遠に眠ってしまおう。
このまま娘が死ねば、彼をその身に宿している事は誰にも知られぬまま、その遺体は埋葬されるだろう。そうして、娘の遺体を棺に自分も眠ってしまおう。彼はそう考えた。
『──おい、お前』
ドラグナーの娘は気の毒だが……そう思い、彼はまだ自分にそんな感情が残っていた事に驚いた。
『──ちょっとお前。聞こえていないの?』
そして彼はようやくその声に気付き、声のする方に目を向けた。
『聞こえているじゃない。いきなり私の中に入ってきた挙げ句、私を無視するとはとんでもない不敬者ね』
彼に向けていかにも不機嫌そうに眉を吊り上げてそうのたまったのは、今まさに彼が入り込んでいるドラグナーの娘当人であった。彼は驚き、娘になぜここにいるか問うた。
『なぜも何も、ここは私の心の中よ? ならば私がいるのは当然でしょうに』
それよりも、と娘は腰に両手を当て彼に言葉を投げる。
『お前、神竜よね? 勝手に人の心の中に入ってくるような存在はそれぐらいしかいないもの』
それを彼は肯定した。実際には彼は更に一段上の神竜王であったが、そこまで言うつもりはなかった。
『お前、なんでいきなり私の中に入ってきたの? かと思えば、人の心の中で何やらメソメソとやっているし』
彼は自分がはぐれであり、居場所が無く彷徨っていた事、そこで娘に宿った事を答えた。
『あのねえ。そのおかげで私は今、死にかけているのよ?』
死にかけているという割には全く危機感を持っていなさそうに娘が言い、更に彼に言葉を投げかける。
『そもそも何ではぐれになったわけ? 元から居場所がなかったわけじゃないでしょう?』
彼は自分が現世に強い憎悪を抱いている事、その憎悪は決して消えないであろう事、その憎悪に耐えられず前の宿主は死んだ事を話した。最も重要な事実──自分が異なる可能性の未来から来たという事は伏せて。
娘はそれを聞くと、呆れたようにこう言った。
『お前……哀れね』
彼は面食らった。彼を哀れと称した存在は今までいなかったから。ただ、不思議と怒りは湧かなかった。
『お前ほど哀れな存在は初めて見るわ。勿論、私はお前の苦悩は知らないし、憎悪のままに生きるのも結構なこと。好きにすればいいと思うわよ? 憎しみは、心ある限り永遠に続く感情なのだというからね』
ただ、と娘は続けた。
『それ、疲れるでしょう?』
それは簡素な言葉だったが、彼の心境を的確に表した一言であった。
『憎悪のままに全てを傷つけ、何かを失い、いつかそんな事にも気付かなくなって。明日どころか今日も見えていない』
確かにそうだ。もはや彼の目には憎しみしか映らない。
『でも、お前が本当に見えていないのは自分のこと。お前、欲望はある? 自分がどうやって生きたいか、自分は何が欲しいのか考えた事はある?』
そう言われて彼は答えを──返せなかった。彼の生には憎悪しかなかったから。その様子を見て、娘は再び呆れたように息をつく。
『お前、弱いわね』
それはこの日、彼が一番驚いた言葉だった。強大な力を持つ彼は弱いなどと言われた事は初めてだった。彼は娘に問うた。
──自分は弱いのか?
『弱いわよ。何も見えず、生きる目的もわからずにいる存在を、弱いと言わずして何と言うの?』
そして娘は言う。「何より、欲望が足りないわ」と。
『欲望は生の原動力よ。あれが欲しい、ああなりたい、こう在りたい。その想いこそが生物を未来へと前進させる』
欲望こそが命を繁栄させる。そう語ると、娘は天を見上げて両手を広げる。
『私の欲望! それは頂点であること! このオレルスの頂点に上り詰めて、世界の王になって、皆を傅かせて、愛する人と一緒にあまあまハニーな日常を過ごすのよ!』
自分が死ぬなど微塵も思っていないようなその娘の姿を不思議に思って彼は尋ねた。今まさに死の淵に立たされているのに、どうしてそう笑っていられるのかと。
返答は、とてもシンプルなものだった。
『──だって、笑っている方が楽しいでしょう?』
ある意味で、それは真理であった。どんな時も笑っていられるなら、生きるというのはどれだけ楽しくなるだろうか。
『それにね。私には今の状況に不安など一切ないのよ。だって私は自分を信じているもの。この尊き私の夢が叶わずに終わるわけがないわ!』
一体どこからそのような自信が来るのであろうか。まるで世界は自分を中心に回っていると言わんばかりである。彼は感心すべきか呆れるべきかわからなかった。
そんな彼に対し、娘から思わぬ提案が投げかけられる。
『ねえ。お前、目的がないのでしょう? なら──私のものにならない?』
あからさまな勧誘。彼を恐れ、遠ざける存在は数多く出会ってきたが、自ら彼を求めてきた存在は初めてであった。娘とよく似た存在──前の宿主も、状況的に彼を受け入れざるを得なかっただけだ。つまりこれは、彼が初めて誰かに必要とされた瞬間だった。
『その強大な力、素晴らしいものだわ。この私の守護神竜となるに相応しい』
まぁお前はその力を嫌っているようだけど、と付け加えた娘は、そうは言いつつも断られるとは思っていない様子である。彼はふと思った事を尋ねた。
──バハムートはいいのか?
『この尊き私の呼びかけに答えないような駄竜なんぞどうでもいいわ。それよりも、どう? 私のものになってくれる?』
あっさり自国の守護竜を切り捨てた娘に対し、しかし彼は未だに答えを返せずにいた。そこに娘が畳み掛ける。
『何も恐れる必要などないのよ? ただ頷いてくれればいい。お前に居場所が無いなら、私がその居場所になってあげる。お前の憎悪が消えないなら、その憎悪は私が受け止めてあげるわ』
──その言葉には王気が込められていた。この娘なら、その言葉を違えない。彼はそう感じた。そして、彼は頷いた。
『契約成立ね。まぁ、お前の力を制御するのにはこの尊き私といえど少なくない年月が要りそうだけれど、仕方ないわね。今は雌伏の時よ』
そう言って今にも高笑いでもしそうな娘だったが、ふと気付いたように両手を合わせた。
『あぁ、私とした事が、一番大切な事を聞き忘れていたわ。──お前の名は?』
そう聞かれ、彼は答えた。かつて神竜王と呼ばれた、憎悪の化身たる自身の名を。
『──アレキサンダー、か。良い名ね』
彼の名を聞いて、そう言ったのは娘が初めてであった。そして、彼も娘に名を聞いた。聞かずとも知っていたが、娘自身の口から聞きたかった。
『私? この私に名を尋ねるなど蒙昧極まりないわね。まぁ、知らぬならば答えてあげましょう』
──そうして、まだ十にすら満たない生まれついての王は、誇り高き自身の名を高らかに叫んだ。
『私の名はヨヨ。全ての人間より尊く、全ての法より正しく、全ての神より偉大な存在。カーナ王女、ヨヨとは私のことよ!』
【ヨヨ様】
我らがヨヨ様。
好きな物はビュウと自分と権力。
嫌いな物は帝国と犬と約束を破る輩。
神竜の波動を自分の意思で完全にコントロールできるので原作より戦闘能力が高い。
原作通り容姿は金髪翠眼で非常に美しい。多分APP18以上。しかし常に他者を見下すような微笑みを絶やさない。
原作ヨヨの悪い部分が改善……されずに、
他人にあまり感謝や謝罪をしない→この尊き私が頭を下げるに足る存在などいない
他人より優先されるのを当然と思っている→私はこの世で最も尊いのだから他者より優先されるのは当然である
他人が自分に仕えるのを当たり前のように振る舞う→民が尊きこの私に身命を捧げるのはこの世の摂理である
周囲を気に留めない→尊きこの私が有象無象に配慮する必要などない
上から目線→下々の者たちは尊きこの私を地べたから見上げていれば良い
自己正当化が激しい→この私が世界の法であり私は常に正しい
罪悪感が全く見られない→私が法なのだから私が罪を負う事はありえない
自己陶酔が酷い→尊きこの私は誰よりも美しく素晴らしい
常に自分を中心に物事を考えている→この世の全ては尊きこの私を飾り立てる為に存在している
……と全体的に超悪化した挙げ句に天元突破を果たした、悪女を超越した何か。
自我が揺らぐという事が全くないので、祖国を滅ぼされて監禁されようがショックを受ける事もなければビュウから浮気する事もない。
『尊きこの私が揺らぐわけがない』という理由で神竜の怒りすら平然と跳ね返す。貴女なんなんです?
自身の絶対性を信じて疑わず、世界の全てよりも自分一人の方が価値があるという思考に疑問すら抱かない。ぶっちゃけ完全に暴君。
とにかく自己評価が凄まじく思い込みも激しいが、その思い込みを実力で現実の物にしてしまうトンデモ人間。
どんなバグがあってヨヨ様がこういう人になったのかはわしにも分からん……。