「大人になるって悲しいことなの」
──あの教会の中で、美しい彼女はそう言って、幼馴染みとの過去の優しい思い出を捨て去り、見つけた人と新しい幸せを掴んだ。
「……ってざけんな〇すぞクソビッチがああああっ!!」
──あまりの理不尽極まる展開に思わず叫んだ俺の目に飛び込んで来たのは、まだ見慣れない自室の天井であった。
「……あ? なんだ夢か……」
全く、嫌な夢だった。何が悲しくて自分が女に捨てられる夢を見ないとならないんだ。
ん? 何だ、誰かいるのか? そうだな、なら自己紹介でもするか。
──俺の名はビュウ。対グランベロス帝国反乱軍の一員で、カーナ戦竜隊の隊長だ。
まあ、戦竜隊はカーナが誇る伝統ある部隊だが、反乱軍っていうのはつい最近結成したばかりの急造軍だけどな。戦果も、
「オレ様がボスだー! 槍投げでボスになりました!」
とかいう帝国兵を倒した。軍人にしては随分と間の抜けた……いや、うちの軍も大概だな……ま、まぁとにかくそのおかげで、ようやくこのヤングゴーゴー(センダック老師談)なカーナ旗艦──ファーレンハイトを奪還したところだ。帝国に大した打撃は与えられていない。まだまだこれからってところだ。
「しっかし、夢に出て来たあの女は誰だったんだ?」
夢というには嫌に生々しいものだったが、腹立たしい事に俺を捨てやがったあの女は結局誰だったんだろうか。隣に居た男は確か帝国の将軍だったと思うが……。
ん? あんた、あの女を知ってるのか? ……ヨヨ? バカっ! あんたが誰だか知らないが、あの方を呼び捨てにするんじゃない。カーナ騎士団一の腹黒女のミストでもあの方にだけは本心から逆らわないほど恐ろしいお方なんだぞ。あの方の名を呼ぶなら最低でも王女を付けろ。呼び捨てになんかして無礼打ちにされても俺は知らないからな。
そもそも幼馴染みである俺だってあの方を呼び捨てにした事はないんだ。一応、ご本人からは「気安くヨヨと呼んでいいのよ」とのお言葉を頂いてはいるが、正直呼び捨てなんて怖くてできない。
……で、ヨヨ様がどうかしたのか? え? あれがヨヨ様? 夢に出て来たあの女が?
いやいや、馬鹿も休み休み言えよ。不敬罪で死刑になっても知らんぞ。
「……確かに、容姿はヨヨ様だったが……」
いや、でもなぁ。あの女をヨヨ様と考えるにはやはり無理がある。
なぜかって? だってヨヨ様はあんなに儚げなお方じゃないからな。というか、儚いだのか弱いだのはヨヨ様とは最も程遠い表現である。
ヨヨ様はもっと苛烈な方だ。少なくともあんな言い訳がましい説教をする方ではない。むしろ、そういう人間はヨヨ様ご自身が一番嫌う人種だしな。
でもヨヨ様とあの教会に行ったんだろうって? ああ、確かに行ったさ。あれはヨヨ様が10歳ぐらいの時だったか。朝起きたらいきなりヨヨ様が俺の部屋を尋ねてきて、
「ビュウ、何も言わずに私をサラマンダーに乗せなさい」
と命令され、問答無用でヨヨ様と空の旅をすることになった。この時マテライトが必死に止めようとしていたのだが、ヨヨ様はガン無視だった。
「すごく速いわ! さすがサラマンダーね」
と、俺と一緒にサラマンダーに乗ってご満悦だったヨヨ様に、最終的に連れて行かれたのがあの教会だ。
「ヨヨ様、ここは?」
「いいから入るわよ」
と、その場に着くなり詳細を聞く間も無く二人で教会に入った。
「さて、ビュウ。今あなたと私はこうして二人で教会の中にいるわけだけれど」
「はい」
「この教会にはね、二人きりで訪れた男女は将来必ず結ばれるという伝説があるのよ」
「へえ、そんな伝説が……ってええええええ!?」
と、教会に入ってから伝説を聞かせるという、とんでもないことをやらかしてくれた。……改めて考えても無茶苦茶なお方だ。
「というわけだから、ビュウが将来カーナ王になった時の為に帝王学を私が教えてあげるわ」
「俺がカーナ王になるのは確定事項なんですね……」
「当然でしょう、何を今さら」
と王族の心得みたいな事を色々と教えてもらったりもした。懐かしいな。随分振り回されたものだ。
もしヨヨ様を救出したら、また色々と俺を振り回してくれるに違いない。ま、それが結構楽しかったりするのだが。
……ただ、ヨヨ様のような美少女に好意を向けられるのは正直嬉しいが、あの方の夫に相応しいかというと俺には自信がない。いや、ならヨヨ様に相応しい男って誰だよと言われても思い付かないが。何しろ、
「お前たち、これがキャンベル王宮の間取りよ。よく記憶しておくのよ」
と、どこからかスカウトしてきたらしい二人組のお抱え暗殺者に他のラグーンの王宮の間取りを記憶させたり、
「大いなるラグーン♪ 美しきこのそ〜ら〜♪ このオレルスのすべて〜♪ みんな私のものよ〜♪」
と吟遊詩人に作らせたという自分のテーマだという曲に乗せてそんな野望を口ずさんでいたりと、色々とんでもない行動が多い。
まあそんなとにかく型破りで規格外なお方だ。はっきり言って、野心ならサウザーより上なんじゃないだろうか。ぶっちゃけ既に暴君に両足ぐらい突っ込んでいる気がしてならない。
そんなヨヨ様が、夢に出て来た、あの気弱で、受け身で、流されやすそうな、夢見がちな女? ないない。容姿だけなら確かに似てるが、人物像が真逆じゃないか。
「いい? この世のあらゆる法は、私の意思の前には無意味なのよ」
とか平然と言い放つ方だぞ? それに弱音を吐く場面も想像できないし。むしろ追い詰められても高笑いを上げていそうだ。
そもそも、敵国の将軍と恋仲になる事からして有り得ない。一度でも自身に敵対した人間は全て叩き潰すのがあの方の信条だ。もし恋仲になっていたとしたら、ハニートラップにかけて利用するだけ利用した後に始末するんだろうとヨヨ様を知る全員が思うだろう。あの方はそういう方だ。
ま、そんなわけだ。わかったらあまりヨヨ様を侮辱するような言動は控えた方がいいぞ。
しかし、俺たち反乱軍もファーレンハイトという拠点兼足を手に入れて、当面の目標はヨヨ様の救出であるが……。
「ヨヨ様のことだ、俺たちが助ける前に勝手に逃げ出しているかもな」
──そう冗談ぽく呟いた俺だったが、今まさにヨヨ様が夢に出て来たあの将軍を始末して、帝国から脱走している真っ最中であるなどとは、俺には知るよしもなく……
「ビュウ……部屋に入ってもよいか?」
「イヤです、来ないでください……ジジイ!」
──部屋に入ろうとしてくるセンダックに寒気を感じながらとりあえず、あしらって追い返す俺なのだった。
【ビュウ】
カーナ戦竜隊隊長で原作『バハムートラグーン』の主人公。
クロスナイトと呼ばれる双剣使いで、全体攻撃の必殺剣を得意とする。
わりと女性にモテるが、ドラゴン臭いのが欠点。
原作ヨヨとは共に思い出の教会に行くほど親密だったが、紆余曲折あってフラれる羽目に。それでもヨヨ曰く『依然大切な人』らしい。
台詞がないドラクエ系の無口主人公かと思いきや、シナリオ中の選択肢ではやたら自己主張が強く、「オレサマは忙しいのだ!」「これはドラゴン向きの味付けだね」「マテライト、お前がいけ!」「イヤです……やめて下さい……ジジイ!」「それよりそこどけ!」などと言い放つ意外と愉快な性格の持ち主。女の子の「彼の好きな物を聞いてきてくれ」という依頼に対しわざと嫌いな物を教えたり、部下の夢のアイテムを盗み出すなど外道な面も。
ただ、主人公とは言うがそれはプレイヤーが動かすキャラクターという意味での主人公でしかなく、シナリオ面において主人公の立場にいるのはむしろヨヨの方だったりする。