ヨヨですけど、何か問題でも?   作:れいのやつ Lv40

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奇跡の大陸マハール
カーナ軍ドタバタ訓練日誌・前


 ──新生カーナ王国旗艦ファーレンハイト、その兵士訓練施設にて、異様な光景が広がっていた。

 所々に倒れ伏す死屍累累といった様子の人間たちと、誇らしげにポーズを取るプリーストの少女、そしてボロボロの訓練場であった。

 一体なぜこんな事になっているのか、時はしばし遡る。

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

「やはり皆の能力を把握しておきたいわね」

 

 始まりは女王ヨヨのその一言であった。カーナ軍のメンバーの具体的な実力を知りたいという彼女の発言を受け、訓練場にて女王見学の下、軍の主要メンバー同士で手合わせを行う流れとなった。

 そして、最初は一対一で試合を行っていたのだが、それを特設の椅子に座って見ていたヨヨは一言。

 

「まどろっこしいわね。どうせ実戦でタイマンなんてほとんどないんだし、この場にいる全員で同時に戦って頂戴」

「ええ!?」

 

 元々派手好きかつ、退屈が嫌いな性格のヨヨである。地味な試合に早々に飽きて、全員同時参加の実戦訓練を命令。カーナにおいてヨヨの意向に逆らうという選択肢はない。かくして第一回カーナ軍バトルロワイヤルが開始される事となった。なお、ヨヨの思い付きで始まったので特にルールは決められていない。

 

 とりあえず、皆が皆、思い思いの配置につきバトルロワイヤル開始。

 

「フレイムヒット!!」

「アイスダスト!!」

「サンダーゲイル!!」

 

 試合開始と同時に、遠距離攻撃手段のあるビュウ、ランサー勢、ウィザード勢が一斉に技を放つ。それらが向かう先は──全て同じ方向であった。

 

「へ? きゃああああっ!?」

 

 炎、氷、雷の三属性の攻撃に襲われ乙女のような悲鳴を上げたのは、しかし色気とは掛け離れた老人。センダックである。

 ヨヨが不参加のこの戦いにおいて、神竜召喚という唯一無二の破壊兵器を持つ彼が集中攻撃を受けるのは自明の理であった。

 

 そんな身内、しかも老人にも一切の容赦と躊躇のないカーナ軍からの同時攻撃に老魔導師センダックが耐えられるわけもなく、あえなく撃沈。

 それを見たカーナ女王から一言。

 

「誰か、汚いから片付けておいて」

 

 それを聞いてか、今回の戦いには不参加である戦竜サラマンダーが、ボロ雑巾と化したセンダックを割と雑に引きずって訓練場から退場させた。

 

 そんな哀れな老人に一瞥すらくれる事もなく、各人はそれぞれ戦闘に移行。そして乱戦となると基本的に自力の低い者から脱落していくのは当然の流れであり。

 

「はあっ!」

「「うわあああ!?」」

 

 カーナ軍では下から数えた方が早い実力のフルンゼとレーヴェがビュウの一撃により呆気なく吹き飛び。

 

「フレイムタワー!!」

「フレイムゲイズ!」

「ひいい……!」

 

 ゾラの息子がルキアとエカテリーナの挟撃を受ける。母ゾラの支援もあり多少は粘るが、あえなく敗れ親子揃って脱落。息子は母に慰められていた。

 

 そして同時攻撃をしたものの特に協力していたわけではない二人の戦いは、

 

「…………やる?」

「…………降参でーす」

 

 ルキアがエカテリーナに得物を突き付けた事で速攻で決着した。

 

「ふむ。まあ順当な流れかしらね」

 

 ヨヨも予想通りといえば予想通りな展開を笑みを浮かべながら眺める。そんなヨヨの様子を見て側に控えているディアナは「剣闘士を殺し合わせて楽しんでる悪の女王みたいね」など口に出せば不敬罪は免れないであろう感想を抱いていた。

 なおディアナだが、プリーストゆえの攻撃力の低さと、今のところ誰かのサポートに回る気配もないところから周囲にスルーされていた。そしてその横では同じプリーストのフレデリカが、

 

「いけるはず。だって私には……クスリがあるから……」

 

 と危ない事を呟きながら何やら赤と青の怪しいクスリを混ぜていた。

 

 そんな中、戦況は変化し続けていた。

 

「ぬう……捉えきれんでアリマス!」

「掴まらなければ!」

 

 エカテリーナを倒したルキアは重騎士であるタイチョーを持ち前の機動力で翻弄していた。

 

「ぬんっ!」

「おっと!」

 

 マテライトの戦斧の一撃をビュウが双剣で以て受け流し、そのまま間合いが開く。

 

「アイスブース!」

「アイスマジック!」

「ぬおおおおっ!?」

 

 そしてバルクレイとアナスタシアが氷技の連携攻撃によってグンソーを撃破。「やった!」とはしゃぐアナスタシアだったが、そこに思わぬ襲撃者が現れる。

 

「モニョ〜!(天よ叫べ!)」

「マニョ〜!(地よ唸れ!)」

「魔力よ躍れ〜っ!」

 

 プチデビ二匹とメロディアが周囲の様子などお構いなしに踊りながら突撃。そして──彼らを中心に大爆発が起きる。

 

「ぬおっ!?」

「なっ!?」

 

 思わぬ大規模攻撃に危険を察知したビュウとマテライトが機敏に後退し、ルキアとタイチョーも驚きに目を見開く。そんな彼らの代わりに爆発の標的となったのは──バルクレイとアナスタシアであった。

 

「え!? きゃああああっ!!」

「うおおおお!?」

 

 嵐のような大爆発──バグデムに飲み込まれてバルクレイとアナスタシアが絶叫する。爆発が治まるとさほど傷を負っていないアナスタシアと彼女を庇い所々焦げたバルクレイの姿があった。

 

「あんた、頼んでもいないのに私の盾に……ってちょっと!? 大丈夫!?」

「このぐらい大した事はない」

「そんなボロボロの格好で何言ってんのよ! 私たち、棄権します!」

 

 その場の勢いのままアナスタシアが棄権を宣言。「お、おい。何を勝手に」と抗議しようとするバルクレイだったが「いいから手当てするわよ!」とアナスタシアに引きずられて退場していった。それを見てディアナが「お熱いわね〜」と呟く。ヨヨも同意するように頷くと、続けて先の大爆発に関して感想をもらす。

 

「あんな大技があったとはね。さすがは死神たるプチデビルの力と言うべきかしら」

「ハマった時のプチデビの強さは凄まじいですからね〜」

 

 関心したようなヨヨの呟きにすっかり観客気分のディアナが追従する。

 

「モニョ〜!(フハハハハ、怖かろう!)」

「マニョ〜!(プチデビ帝国の威光に脅えるがいい!)」

「逃げまどえ愚民ども〜!」

 

 調子に乗った悪魔と幼女がはしゃいで飛び回り更に踊り狂う。そして今度は彼らから無の波動が放たれ、今まで戦闘に加わらず機を伺っていた面々に襲い掛かる。

 

「きゃっ……!」

「ネルボ、気をつけて! ホワイドラッグ!」

 

 キャンベルの二人はネルボが直撃を食らうも、ジョイが素早く回復魔法でリカバーする。

 

「うおっ!? 危ねえ!」

「ラッシュ、落ち着いて射程範囲外に退きましょう」

「あわわ……」

 

 そしてナイト三人組はどうにか逃げて無の波動を回避した。

 

「モニョ……(無様だな、人間よ……)」

「マニョ……(我らを前に臆するか……)」

「ふふふ〜怖いだろ〜!」

「て、てめえら……」

 

 完全に見下されている事に青筋を立てるラッシュと嘲笑する小悪魔たち。

 ……が、ここで優位な状況を維持できないのがプチデビがプチデビたる所以である。

 

「モニョ?(ん?)」

 

 ふとモニョが何気なく横に目をやると、先ほど自分たちが放った無の波動が軌道を変え、再び攻撃力を取り戻して襲い掛かった。()()()()()()()()()

 

「モ、モニョ〜!?(ば、馬鹿なーっ!?)」

「マ、マニョ〜!?(な、なんだとぉー!?)」

「ぴぎゃ〜っ!?」

 

 自分が放った攻撃によって吹っ飛ばされるプチデビたちとメロディア。そう、先ほど彼らが放った攻撃はその名も『みんなダメージ』。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()無差別攻撃である。

 

「今です!!」

「何かわからんが食らえ!」

「そ、それっ!」

 

 当然そんな隙を周りが見逃してくれる訳もなく、剣を構えるナイト三人。

 

「「「フレイムパルス!!」」」

「モニョ〜!?」「マニョ〜!?」「うにゃー!?」

 

 容赦ないナイト渾身の剣波により大ダメージを受ける小悪魔たち。モニョとメロディアはそのまま目を回してダウンするが、プチデビの片方、マニョはしぶとく立ち上がる。

 

「マニョ〜!(おのれ、このままでは済まさんぞ!)」

 

 力を振り絞りデビルダンスを舞い反撃を試みるマニョ。その踊りが齎した効果は──

 

「あ、元気になった気がします」

「マニョ〜!(ぬぁぜだぁ〜っ!)」

 

 ()()()()()()()()()()()()()。……『敵だけ回復』であった。

 

「サンダーゲイル!!」

「マ、マニョ〜!(プチデビ帝国に栄光あれ〜!)」

 

 万策尽き果てたマニョはネルボの放った雷撃によって倒され、プチデビ帝国の野望は潰えるのであった。




【プチデビル】
主にゴドランドに生息している悪魔。
人間の幼児ぐらいの体格で道化師のような格好をしている。
小さくとも死神であり、大抵のラグーンでは死の象徴として忌避されている存在で、カーナ軍内においても親しくしているのは同郷のメロディアのみ。
原作ヨヨは彼ら曰く『中の上』らしいが、何の評価なのかは不明。

普段の行動や言動は悪魔というより悪ガキそのもので、仲間うちで蹴りを入れて下剋上したり、ドラゴンに勝手にキノコを食べさせてうにうににしようとしたり、アイテム屋を占拠したら出られなくなったりなどやりたい放題。雷が苦手らしく、雷雲を抜ける時はかなりビビっていた。

人間並に知能は高いが普通のプチデビは自分の名前と同じ言葉しか喋れないため、人間と意思疎通しにくい。ただし某熊本弁よろしく、プレイヤーには何を言っているのかわかる。

「真の平和……それは永遠の幻……」
「それは危険さ……そうなれば俺たち悪魔は生きられない」
「だが希望を持つのは悪くないな……それが人間って奴なんだろう?」
「愛すべき人間たちよ……悪魔が滅びぬようにお前たちもな」

と悟った事を話す一面もある。

戦闘キャラとしては、人間ではないので武器や防具は一切装備できないが、HPはヘビーアーマー並に高く、防御力も全クラス最高。悪魔らしく人間より頑強な肉体を持っているようだ。ただし装備で耐性を得られない関係上、状態異常攻撃にかなり弱い。
そして近接戦闘時は一切の命令を受け付けない。悪魔は人間の命令になぞ従わないのである。

彼らの唯一の攻撃手段である『おどり』は近接戦闘、フィールド共に効果が完全ランダム。要するに常時パルプンテしか使えないというあまりにもピーキーすぎる性能の持ち主。
一応、パートナーとしているドラゴンによって効果の選出候補が決められており、魔力MAX、うにうに、しょうたいふめい(ベヒーモス)だと強力な効果が見込める。しょうたいふめい(ベヒーモス)と組ませる事をよく薦められるが、しょうたいふめいはレベルを上げにくい上に、実はうにうにとおどりのラインナップが大して変わらない。

完全に運任せな分、ハマった時の爆発力は凄まじく、大技が出れば軽く9999のカンストダメージを叩き出す。また『MPダメージ』という攻撃で相手のMPを0にして技を封じ込める事も。さすがにラスボスには無効だが。
『みんなぜんかい』というフィールド全域に作用する敵味方のHPMPを完全回復するとんでもない効果が発動する場合もある。回復魔法なのでアンデッドには強力な攻撃手段とも化す。

一方、役に立たない場合はとことん役立たずであり、しょっちゅう『しっぱい』して画面に空しく『スカ』の文字が飛び交うのは序の口。
『みんなダメージ』で敵味方全員に被害を与えたり、挙げ句の果てには『てきだけかいふく』を連発してせっかく与えたダメージを無に還す。

生きるか死ぬか、本人にすら予測不能の困った死神。それがプチデビというヤツらである。

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