「あっはっは! 面白いわねあの子たち。戦力としては少々博打が過ぎるが、道化としては一流よ」
プチデビたちのはちゃめちゃな戦いぶりに観戦していた女王ヨヨが面白げに笑い声を上げる。何が起こるかわからない悪魔の踊りは見ていて面白い。それだけでなく、先ほどアナスタシア&バルクレイ組を倒した時の大爆発のような、あの攻撃力も素晴らしい。
が、生きるか死ぬかの戦場において完全に運任せな上に味方に被害を齎したり敵に利を与える可能性があるのは、戦力として計算するにはあまりに酔狂すぎると言わざるを得ない。
「でもヨヨ様なら使いますよね?」
「あら、よくわかっているじゃない」
が、そこは唯我独尊なカーナ女王ヨヨである。酔狂で生きているような彼女の臣下としてはプチデビたちはうってつけであった。何、要は何が起きても問題ない状況で運用すれば良いのだ。
ヨヨがそんな事を考えている内に戦況も再び動こうとしていた。
「フレイムヒット!!」
「ぬっ……やるのう」
ビュウが炎の必殺剣を放ちマテライトを追い詰める。マテライトはビュウの攻撃に舌を巻きつつも後退しようとするが──
「アハハハハ! 私も混ぜて下さぁーーい!」
「「なっ!?」」
高笑いしながら二人の戦いに乱入してきたのは……明らかに正気ではないフレデリカであった。
「一暴れさせてもらいますうううフウゥー!」
テンション高く叫びながら杖に魔力を込めるフレデリカ。その普段とのあまりの変わりように、観戦していた女王ヨヨは思わずフレデリカを目を丸くして見つめる。一方のディアナは「あちゃー」と言いながら頭に手を当てていた。
「フレデリカってば、またハイになってるわ」
「……なにあれ? 以前、キャンベル解放の時もあんな感じになっていたけど……」
「ああ……ヨヨ様は見るのは初めてでしたよね」
戸惑うヨヨにディアナが解説する。曰く、キャンベルの時のあれはフレデリカにしては大人しい方だったらしい。
「フレデリカはクスリを飲みすぎると時々ああなるんです。あの状態のフレデリカは身体能力が異常に高いうえ、痛覚やら恐怖心やら倫理感やら、いろいろとぶっ飛んでるみたいで派手に暴れ回るんです」
一応、敵味方の区別はついているし命令を聞く程度には理性は残っているので特に問題になった事はないらしい。
「派手に暴れるって言ってもあの子プリーストよね? 敵陣で暴れ回れるほど強いの?」
そういえばキャンベル解放時の戦いでは投擲槍を杖で叩き折ったりしていたな、とヨヨは思い出す。
「フレデリカがああなったら並大抵の戦力じゃ止められないですよ。ビュウとマテライトの二人でもどうにかできるかどうか」
「そう。ふふふ、これは面白くなってきたわね」
そんな話題の主、フレデリカはというと、今まさに攻撃態勢に入っていた。
「えびぞり大回転分身アターック!!」
フレデリカがグルグルと身体を回転させながら魔力を集中させた杖をフルスイングで地面に叩きつけると、魔力が解放され大爆発を引き起こす。
「うおっ!?」
「ぬおおおお!?」
ビュウは素早く飛びのき回避するが、マテライトは対処が間に合わず爆風によって大きく吹き飛ばされ──
「ぐはっ!?」
「ぬわーっ!? でアリマス……ガクッ」
吹き飛んだ先のタイチョーと衝突し、二人揃って気絶。マテライトはともかくタイチョーは完全にとばっちりであった。
「アイスマジック!」
「アハハ、涼しいですね!」
「嘘っ!?」
フレデリカを脅威と見たネルボが氷魔法を放つが、フレデリカは全く意に解さず、そのままネルボに対して突撃。
「見るがいい、神の威光を! ジーザス・フラァァァッシュ!!」
「きゃああああ!?」
「ネ、ネルボーっ!?」
ジーザス・フラッシュ(単なる威力を高めただけの魔力波)を放つフレデリカの前に為す術なく沈むネルボ。続いてフレデリカはその相方のジョイに杖を突き付ける。
「次はあなたです、2Pカラー女!」
「何の話ですか!?」
理不尽な罵倒を繰り出したフレデリカの特に理由の無い暴力がジョイを襲う!
「跪け、神の光に! ゴッド・ストリィィィィム!!」
「さっきと同じ技じゃないですかああぁっ!?」
技名が変わっただけでやっている事は全く同じという適当極まりない攻撃を受け、ジョイも無念の敗退。
「フレイムパルス!!」
と、攻撃直後の隙を狙ってか、ラッシュがフレデリカに対して剣波を放つ。それを察知したフレデリカは、
「間合いが遠いわ!」
そう言い放つと普段の病弱さなど一切感じさせない華麗な動きでバック宙をしつつ回避。更に着地と同時に杖を構えてそのままラッシュたちに向かって前転。
「地獄のメリー・ゴーラウンド!!」
「「「うわああああっ!?」」」
前転の勢いのまま地面に叩きつけられた杖から先ほどと同じように魔力が爆発を起こし、ラッシュと彼に巻き込まれた相棒二人、ナイト三人組もあえなく撃沈。大暴れするフレデリカに、ヨヨが手を叩いて称賛する。
「無茶苦茶ね、あの子。いいじゃない、さすが私が見込んだだけあるわね」
と、そんなカーナ女王は天井付近に動く気配を察知する。サジンとゼロシン、ここまで潜伏し戦闘に参加していなかったアサシンたちである。
「「イヤーッ!」」
二人は掛け声を上げて天井からフレデリカ目掛けて襲い掛かるが、フレデリカが素早く察知し回避した事により狙いが逸れてフレデリカの背後に着地。
「私の背後に、立つんじゃねえ!!」
「「グワーッ!」」
そしてフレデリカの一撃により哀れアサシンコンビはしめやかに爆発四散。ザンネンな結果に終わってしまった。
「か、勝てる気がしない……」
何気にここまで生き残っていたルキアだが、鬼神の如き戦いを見せるフレデリカに全く勝てるビジョンが浮かばなかった。
「ええーいっ!」
「むむっ!」
一か八か剣を構え突貫してきたルキアの攻撃をフレデリカは容易く反応し杖で受け止める。
「優しい剣ですね!」
「力負けしてる!?」
余裕の微笑みを見せるフレデリカと焦りを浮かべるルキア。僧侶と騎士の鍔ぜり合いで僧侶の杖が騎士の剣を押し返す異様な光景が展開され、そのままルキアの剣が弾かれる。
「きゃあっ!」
剣を弾かれ体勢を崩したルキアは素早く立て直すが、目の前にいたはずのフレデリカの姿がない。
「っ!? どこにっ」
「あははっ、うえですよっ!」
「しまっ……きゃあああ!!」
頭上からの攻撃を察知するが時既に遅く、フレデリカの攻撃を受けルキアも倒れた。
「おいおい、マジか?」
残るビュウが思わず呟いた。勝手に周りが脱落してくれるならそれに越した事はないと途中から傍観者に徹していたがまずかったかもしれない。
誰かと協力してフレデリカを倒すべきだったか。しかし今さら遅い。こうなれば一人でフレデリカをどうにかするしかない。
「アハハハハ! さぁ、受け止めて下さいビュウさーん!」
「上等だフレデリカ! プリーストの一人ぐらい受け止められない俺じゃない!」
正直、フレデリカがもはやプリーストとかそういう区分に収まるのかどうか怪しいが、しかしいくらトリップ状態のフレデリカが規格外に強いといっても、ここで負けては戦竜隊長の沽券に関わるとビュウは奮起した。
「フレイムヒット!!」
「バァァァニングゥ! ラァァァヴ!!」
ビュウとフレデリカ、それぞれが技を放ち激突しようとする瞬間──
「スリーピン」
「あ」「え」
──突如発動された睡眠魔法によりビュウとフレデリカは仲良く眠りに落ちた。
「へへ、やーりぃ!」
ガッツポーズを決めたのはスリーピンを放った少女──そう、今の今までヨヨと共に観戦していたディアナである。完全に存在を忘れられていたのを利用した完璧な奇襲であった。
「ディアナ……狙ってたわね?」
「ふふ、私が勝てるとしたらここしかないので〜」
フレデリカのようなデタラメな戦闘能力の無い真っ当なプリーストである彼女にはこのバトルロワイヤルでの勝ち筋はほとんどない。唯一のチャンスが自分が最後の数人まで生き残って睡眠魔法を成功させた場合であった。
元々、影が薄い事を利用して情報屋紛いの事をやっているディアナである。よって彼女は最初からヨヨの側に控えて戦場の中心から離れて傍観者に徹し、最後の最後に奇襲を行ったのだ。完全な作戦勝ちであった。
「強かだこと。でも好きよ、そういうの」
「えへへ、ありがとうございます」
元々ヨヨの思いつきだけで始まったこの試合、別に勝とうが負けようが特に問題はない。しかしやるからには勝ちを目指すのは当然。そして今立っているのはディアナだけであった。
「強者とは強き者の事ではない。戦場で最後まで生き残った者の事よ。ディアナ、あなたは紛れもなくカーナ一の強者だわ。このヨヨの名において認めましょう」
「やったぁ〜!!」
──こうして、プリースト・ディアナはカーナ最強の称号を得て、彼女には優勝賞品として甘いワイン一年分とスーパーウォッカ詰め合わせ、そしてヨヨ女王特製手作りクッキーが贈られたのだった。