ヨヨですけど、何か問題でも?   作:れいのやつ Lv40

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マハールへ

「さて、戦力確認も終わった事だし、そろそろ次の目的地を決めなければね」

 

 戦力確認というよりはほとんどヨヨが楽しむ為の余興であったが、それはさておき。ファーレンハイトにて、新生カーナ軍として初の目的地を決める為の話し合いが行われていた。

 

「私としてはどこから攻めても良いのだけど」

「ヨヨ様、ひとつよろしいでしょうか」

 

 挙手して発言の許可を求めたのはキャンベル組のジョイである。ヨヨはそのまま発言を促す。

 

「我が女王様からの言伝を預かっております」

「叔母様から?」

「はい。神竜を探すならば水の国マハールへ、と」

 

 どうやら、神竜の伝説に挑むヨヨの為にとキャンベル女王の気遣いらしい。あるいは罪滅ぼしのつもりかもしれない。全く、律儀なことだ。

 しかし、マハールか。

 

「ビュウ、確かマハールは帝国によって基地化されていたわね?」

「はい。各国への中継基地として帝国に利用されているようですね」

 

 マハールはオレルスのラグーンでは中層に位置し、水や食料も豊富な大陸だ。中継基地としては最高の条件であった。つまりは、軍事的に重要な拠点であるという事だ。

 

「マハールを落とせば、帝国は中継基地を失う事となります」

「帝国から見たマハールの価値は他のラグーンの数倍、と」

 

 神竜を探す意味でも、戦略的にも、次の目的地としてはお誂え向きという事だ。

 

「決まりね。我がカーナ軍の最初の目的地は水の国マハールよ!」

「「はっ!」」

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

「異常なし」

「異常なし! でアリマス!」

 

 ビュウとタイチョーの言葉が暗いファーレンハイト内部に響く。二人は異常を察知する為の空の見張りを行っていた。寝ずの番だが、これも軍人の仕事の一つだ。

 

「もう少しでマハールだな。どんな戦いになるやら」

 

 ビュウの呟きを聞きながら、タイチョーは物思いに耽る。自分は戻ってきた。マハールの民は元気にしているだろうか。あの男の暴虐に苦しめられてはいないだろうか。

 

(未だに忘れる事ができんでアリマス……忌々しいあの日の事……)

 

 マハールから逃れた日の事を。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

「レスタット! 覚悟ッ!!」

「おやおや、威勢がいいですね」

 

 マハール騎士がレイピアを構えた貴族風の男──グランベロス将軍レスタットに斬りかかる。レスタットはそれを余裕の笑みで受け流し、レイピアを騎士に向かって振るう。騎士は身を避わすが、レイピアが腕を掠める。すると途端に騎士は崩れ落ちた。

 

「ぐっ……! 毒、か……!?」

「ヒヒヒヒ、真面目な騎士様は簡単に引っ掛かってくれて助かりますよ」

「む、無念……」

 

 毒で息絶えるマハール騎士を見ながらレスタットは笑う。

 

「この私にかかれば、マハール騎士団などカス以下の以下だ!」

 

 耳障りな高笑いをしながらレスタットはマハール宮殿へと進撃する。

 

「どうしました? 出て来なさいマハール騎士団隊長、タイチョーよ! 出て来ないならこのままマハールは私が頂いてしまいますよ!」

 

 レスタットが呼びかけたそのマハール騎士団は、今や宮殿内部に少数の騎士が残るのみであった。

 

「隊長! もはやマハール陥落は時間の問題であります!」

「我々がなんとかせねばマハールは壊滅であります!」

「うむ……」

 

 進退窮まった状況下においてタイチョーは決断を下す。

 

「自分がレスタットに一騎打ちを挑むでアリマス!」

 

 もはや戦力のほとんどを失ったマハールがこの戦争に勝つにはこの帝国のマハール侵攻の司令官であるレスタットを討ち取る他ない。

 

「そんな! それでは隊長が死にに行くようなものであります!」

「自分達が露払いをしますから隊長はその隙にレスタットを」

「黙るでアリマス! 誰に指示をしているでアリマスか!?」

 

 タイチョーの身を案じての部下の進言にもタイチョーは耳を貸さない。

 

「自分にとって大切な物はこのマハール、マハールに住む人々! それを守る為なら、この命少しも惜しくないでアリマス!」

「しかし……」

 

 タイチョーの決意を聞いても部下の顔色は優れない。もしもタイチョーがここで討ち死にすれば本当にマハールは終わりだ。

 

「皆さんの言う通りだと思うわ、あなた」

 

 突如、宮殿の奥から姿を現してタイチョーにそう声をかけたのは美しい女性。タイチョーの妻のセリーヌであった。

 

「セリーヌ! お前まで何を言うでアリマスか! 自分が命に替えてもマハールを守らねば、一体誰が守るでアリマスか!」

 

 そう言う自身の夫に対して、しかしセリーヌは首を振って否定する。

 

「あなたの実力では無理と言ってるのよ……」

 

 あろう事か実の妻の口から放たれたタイチョーへの暴言に場がざわめく。

 

「セリーヌ殿! なんて事をおっしゃるのですか!」

「し、失礼極まりないでアリマス! このマハールに自分より強い騎士がいるとでも言うでアリマスか!」

 

 タイチョーの腹心であるグンソーもあまりの暴言に口を挟み、当人であるタイチョーは激昂する。しかしセリーヌは本気でそう思っていた。

 

 勿論、セリーヌも純粋な切り合いならレスタット如きにタイチョーが負けるとは思っていない。しかしレスタットは帝国将軍の中でも勝つ為なら手段を選ばない男。

 まず一騎打ちに応じるとは思えなかったし、よしんば応じたとしても間違いなく途中で部下をけしかけて一対多数の戦いにしてくるだろう。

 要は、レスタットとの一騎打ちしか勝つ手段が無くなった時点でマハールは詰んでいるのだ。セリーヌは冷静にそれを察していた。

 

「自分はマハール一の戦士でアリマス! その誇りを捨てるぐらいならば命を捨てるでアリマス!」

 

 そう言い放つとタイチョーはそのまま宮殿を出ようとするが、それは叶わなかった。

 

「スリーピン!」

「な……!」

 

 タイチョーは妻セリーヌによって眠りに落とされる。セリーヌは夫に謝罪した。

 

「あなた……ごめんなさい。この戦争……マハールはきっと負けてしまうわ」

 

 だが、マハールが帝国の手に落ちても、生きていればいつか取り戻す機会は来る。だから彼女は夫に生て欲しかった。たとえその誇りを踏みにじる事となっても。

 

「いつの日か……帝国は滅びる日が来ると思う」

 

 力による支配を進める帝国はいつか、別の力によって滅びるだろう。だからその日まで生き延びて欲しい。

 

「グンソー……この人をお願いします」

「……はっ!」

 

 グンソーはその願いを聞き、敬礼して彼女を送り出した。

 

「行くわよ! みんな!」

「「「はっ!」」」

 

 そうしてレスタット率いる帝国軍との最後の戦いに赴いたセリーヌだったが、もはや結果は見えていた。タイチョーを欠いたマハール軍にこの侵攻を跳ね返す力はない。

 

「フレイムゲイズ!」

 

 自身も一流の魔術師であるセリーヌの火炎魔法が帝国兵を焼き尽くす。しかし司令官のレスタットは涼しい顔で魔法を受け流した。

 

「ヒヒヒヒ! なかなかの腕ですが、これだけでは私は倒せませんよ。お返ししてあげなさい!」

 

 レスタットの命令に応じ、部下の魔術師部隊が一斉にフレイムゲイズを唱える。数の力を以て放たれたその火炎はセリーヌの魔法の数倍の規模となってマハール軍を襲った。

 

「ぐわあああああっ!?」

「みんな……!」

 

 成す術なく消し炭にされてしまった味方に狼狽するセリーヌ。そんなセリーヌを見てレスタットは嫌味に笑う。

 

「ヒヒヒヒ! セリーヌ嬢、タイチョーはどうしました? あなたの夫はどこへ行ったんです?」

「くっ……!」

 

 悔しげに唇を噛むセリーヌを見てレスタットが哄笑する。

 

「おやおや、さてはタイチョーめ、死ぬのが怖くて逃げましたか! マハール一の戦士がとんだ役立たずですね!」

「違うわ! あの人はそんな人じゃない!」

「ヒヒヒヒ! あの男はそんな男なんだよ!」

 

 そこでレスタットは高笑いを止め、閃いたとばかりに手を叩く。

 

「そうだ、セリーヌ嬢。あなたはお美しい。私のコレクションに加えてあげましょう!」

「なんですって!?」

「ウヒョヒョヒョ!」

 

 レスタットが笑うと三角形の魔法陣がセリーヌに襲い掛かる。

 

「きゃああああ……!」

 

 悲鳴が収まると、そこにあるのは物言わぬ石像と化したセリーヌだけだった。

 

「ヒヒヒヒ! 石像と化しても美しいですね。まぁセリーヌ嬢、タイチョーが役立たずというのは取り消してあげましょう」

 

 そこで言葉を切ると、レスタットは再び高らかに笑う。

 

「なぜなら、あなたの夫は! 役立たず以下、だからだー!」

 

 ──この日、マハールは陥落した。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

(自分は守れなかったでアリマス……)

 

 騎士の誇りも、マハールの民も、そして……最愛の妻も。

 

「悲しいでアリマーーーーース!!」

「うおおっ!?」

 

 突然のタイチョーの絶叫に、同じく見張りをしていたビュウが驚いて階段から滑り落ちる。

 

「す、すまんでアリマス」

「いや、いいんだが……」

 

 タイチョーとしては故郷のマハールが近づき色々と思う事があるのだろうとビュウは察している。

 

「ビュウは守るべき人はいるでアリマスか?」

「それは、いるさ」

「守るべき人がいるという事は、この世で一番幸せな事でアリマスよ」

 

 タイチョーは遠くを見つめながらそう語る。彼は守るべき人を守れなかった男だ。

 

「守るべき人を失ったら……それはこの世で一番悲しい事でアリマス……」

「そうだな……そう、だな……?」

 

 神妙な様子のタイチョーに頷くビュウだが、何やら妙に歯切れが悪い。

 

「どうかしたでアリマスか?」

「いや……人生の先輩としての忠告ありがたく思う」

 

 ただ、とビュウは語る。

 

「俺の守るべき人たちは……正直、守る必要があるかどうか疑問なぐらいパワフルな御人ばかりなんで……」

「た、確かに……でアリマス……」

 

 ──法衣を翻して高笑いするカーナ女王や、先日大暴れしたプリーストの少女を思い浮かべて、ビュウの言葉に頷くしかないタイチョーであった。




【タイチョー】
元マハール王国近衛騎士団長。ヘビーアーマー。グランベロス帝国によるマハール侵攻の折、妻のセリーヌと部下のグンソーの手によってマハールを逃れ、反乱軍へと参加した。

タイチョーという名前と地位の割に「〜でアリマス」と一兵卒のような口調で喋る。帝国の侵略戦争の被害者として重い過去を持つが、普段はそう見えないほど明るく振る舞う。
反乱軍においては大体はマテライトの腰巾着のようなポジションであり、マテライトの不器用な性格を察しているが、横暴なマテライトに理不尽な目にあわされる事も多く「いつか泣かせてやるでアリマス!」と言ったりも。

帝国との戦争で様々な物を失ってしまい、腑抜けた事を自覚している。しかし「今まで斬り捨ててきた帝国の兵たちもきっと守りたい物の為に戦っている」など深みのある言動も見られる。恐らく反乱軍では一番『大人』な人物。
場面によってコミカルからシリアスまでこなせる守備範囲の広い男。
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