「さて、アクシデントはあったけど、行きましょうか」
いきなりセンダックが戦線離脱してしまったが、作戦通りに行けば問題なかろう。この尊き私がセンダックの分までカバーすれば良い。というわけで、皆に強化魔法ビンゴをかけておく。
「おお、力がみなぎる!」
「ヨヨ様から直々に強化魔法をいただいたのだ。無様な戦いはできんぞ!」
「我が神に、勝利の栄光を!!」
うむ。皆の士気も高まっているようだ。
「手筈通りに行くわよ。マテライトたちは下流の敵軍を引き付けておいて。私たちは水門を目指すわよ」
「はっ」
なお支援役として、プリースト部隊は半々に分かれる。
「ひゃーっはー! 汝らの魂、ヨヨ様に捧げよぉー!!」
「ふ、フレデリカさーーん!?」
……約一名が早々に支援を放棄して敵陣に突撃していったが。ルキアが慌ててその後を追いかけ、彼女たちを先頭にマテライトたちも敵陣に進軍する。
……ライトアーマーのルキアがフレデリカに追い付けてないんだけど。どんな俊足してるのかしら、あの娘?
「さて、私たちも行くわよ」
「はっ。御身に近付く輩はこのビュウが切り捨ててみせましょう」
あら、頼もしいじゃないビュウったら。そんなあなたも素敵よ。
◇ ◇ ◇
「死ね! 反乱軍ども!」
帝国の魔術師が火炎魔法を放つが、ビュウが双剣でそれを受け止める。
「何っ!?」
「残念だが、死ぬのはお前らだ」
ビュウはクールにそう言い放つと、氷の剣撃──アイスヒットで反撃した。
「う、うわああああっ!」
「他愛もない。ヨヨ様のお手を煩わせるまでもないな」
ふっ、やはりベロスの雑兵如きでは私のビュウの相手にはならないわね。
「それにしても、遠隔攻撃が専門の連中ばかりね」
こちらの大水門に配置されている帝国兵は魔術師やカタパルトの担い手ばかりだ。
「こちらは高台ですからね。魔術師や砲兵で我が軍を狙い撃つつもりだったのでしょう」
「ではこちらに兵を割いたのは正解だったわけね」
今回の作戦は性質上戦力を二分しなければならないという厄介な欠点があったが、結果的には敵の目論見を潰す事ができたようだ。さすがは私。素晴らしい人間には素晴らしい結果もついてくるのだわ。
「フレイムパルス! どけどけぇー!!」
「ぐわああああっ!」
そうこう言っている間にまた一人帝国兵がラッシュの剣波で倒れる。が、その直後を狙ってか、近辺に潜んでいたらしい敵の槍兵からラッシュに槍が投擲される。
「うおっ!?」
「危ないよラッシュ!」
槍が直撃する寸前にビッケバッケがラッシュを庇い、盾で槍を受け流す。その後に控えていたトゥルースが素早く投擲してきた槍兵を斬り捨てた。
「す、すまねえ二人とも」
「よかった~」
「ラッシュは前に出すぎなんですよ」
ラッシュの無事にビッケバッケが安堵しトゥルースがやれやれと息を吐く。どうにも慣れた感じだし、いつもラッシュは突出しているのだろう。まぁ、何事もなくて何より。
「くそっ、反乱軍の犬どもめっ!」
と、生き残りの砲兵がカタパルトを撃とうとするが、その背後にアサシン二人が忍び寄る。
「イヤーッ!」「グワーッ!?」
哀れ下賤なベロスの兵は爆発四散。
「これで一掃できましたか」
「そうね。あとはタイミングを見計らって水門を開くだけよ」
あとは向こうの皆次第である。上手くやってくれると良いのだが。
◆ ◆ ◆
「ヒヒヒヒヒ! 現れたね反乱軍の諸君! どうぞ私のところまで来てみなさい!」
「ちいっ! 数ばかり揃えよって!」
大量の兵士の遥か後方に陣取り挑発するレスタットに対し、マテライトが思わず悪態を吐く。そしてタイチョーが前に出てレスタットを睨む。
「レスタット! ここで会ったがでアリマス!」
「おやおや、誰かと思えば私が怖くて一人逃げ出した元マハール騎士団のタイチョー殿ではないですか。今度は逃げないのかね? ヒヒヒヒヒ!」
「その減らず口もここまででアリマス!」
タイチョーの怒りも意に介さずレスタットは哄笑する。彼の余裕を保証するかの如く、衝突する前から戦況はカーナ軍の不利であった。単純に帝国軍はカーナ軍の三倍以上いたからである。
「食らえ!!」
「ちいいっ!」
軽装の帝国兵の部隊から一斉にハンドボムが投擲され、たまらずタイチョーやマテライトらが足を止める。その隙に後衛に攻撃を仕掛けようとした帝国兵をグンソーや機動力の高いルキアが抑える。が、さすがに防ぎきれずに数人が後方へと抜ける。
「しまった……!」
「とったぁ!」
帝国兵が目についた獲物、見るからに華奢な僧侶に斬りかかる……が、その剣は細い腕に握られた杖であっさりと受け止められた。
「なっ!?」
「さぁ、神に祈りなさい!」
残念、そこはフレデリカ。カーナ軍に潜む特大の地雷であった。腕力だけで剣をあっさりと弾き返し、そのまま脳天目掛けて杖を振り降ろす。
「がっ……」
「まだまだ、ですね」
帝国兵を殴り倒して昏倒させると素早く杖──ファイアロッドを掲げて火柱を巻き起こす。
「ここですか?」
「うぎゃあああっ……」
自身に向かって来る多数の兵士に対して到達する順通りに的確に炎を浴びせかけると、さらに訓練でやったように杖に魔力を集中させて地面に叩きつける。
「神罰です! お別れです!」
「がはぁっ……!」
魔力が解放されると帝国兵が冗談のように吹き飛び、気付くと彼女に向かってきた部隊は全滅していた。
「神のご加護があらんことを」
一方的に蹂躙しておいて神のご加護も何もない気がするが、ともかく彼女の活躍で帝国兵の士気はガタガタであった。他の兵士たちも思わず後退り──突如、ラグーンに凄まじい音が響いた。
「な、なんだ!?」
「これは……!」
帝国軍に動揺が走り、対してカーナ軍は士気を上げる。そう、マハールの水門が開かれたのだ。見れば、大量の水が戦場に向かって押し寄せており──その向かう先はラグーンの外の空中である。呑まれればまず命は無かった。
「こ、洪水だぁ~!!」
人為的に引き起こされた水害に帝国軍がパニックを起こす。一方で、カーナ軍は音が聞こえた直後には既にドラゴンたちによって回収され全員が安全な上空へと避難していた。
「た、助けてくれー!」
「ちきしょう、奴ら高見の現物かよぉ!」
逃げ惑う帝国軍に対し余裕のカーナ軍。しかし彼らの言うように高見の現物をしているほどカーナ軍は悠長ではない。
「さー! 派手にやるわよ!!」
「ウフフ……ウフ……」
「悲しいけど、これ戦争なのよね」
「やっちゃうぞ~!」
張りきったウィザードたちが一斉に詠唱を始め、さらに戦士たちは懐から魔力草を取り出す。
「な、なんだ!? 奴ら何して……まさか!?」
激流に呑まれながらもラグーンの外に押し流されまいと必死に踏ん張る帝国軍の兵士らは、ようやくカーナ軍の不穏な動きを察知するが、しかし彼らに為す術はない。
──そして、ウィザードたちが詠唱を終える。
『『『『サンダーゲイル!!』』』』
一斉に唱えられた雷の魔法、そしてだめ押しに投げ込まれた魔力草──雷の草により凄まじい雷鳴が轟き、着弾する。そう、今まさに帝国軍が呑まれている水へと。
──どうなるかなど考えるまでもない。
「ぬわーーーーっ!!!」
「げぐぁ~っ!!」
「アンドルフおじさーーーーん!!」
「これが人間のやることかよおおおっ!?」
感電し、痺れて自由の利かなくなった彼らの身体は大量の水に呑み込まれ、断末魔の叫びを上げ、哀れ雲海の露と消えるのであった。
「見ろ! ベロス人どもがゴミのようだ!」
「な、ななななな……」
僧侶とは思えない発言をするディアナであったが、彼女の言う通りゴミ掃除の如く文字通り全滅した自身の軍に激しく動揺するレスタット。そこにすかさずドラゴンから飛び降りて切り込みをかける一人の男。タイチョーであった。
「レスタット覚悟!」
「こ、こしゃくな!」
なんとかタイチョーの一撃を受け止めるレスタットであるが、元々体格で劣り、得物も戦斧を受けるにはあまりにも分が悪いレイピアでは明らかに劣勢であった。しかしその程度で討ち取られるほど帝国将軍は弱くない。
「これでもくらえ!」
「ヌッ!?」
レスタットが腕を振るうと三角形の魔法陣が現れ、タイチョーと、彼に続いて攻撃をかけようとしていた後続のグンソーらに襲い掛かる。そしてかつてセリーヌがそうなったように彼らを石像へと変えようとしていた。
「クリーンアップ!」
と、そこにフレデリカから、珍しくプリーストらしい浄化の白魔法が飛ぶ。恐ろしい石化の術といえど、あらゆる状態を正常にするこの魔法の前には形無しである。
「ヒッヒッヒ! このお返しはするよ!」
しかし、レスタットにはこの一瞬の時間が稼げれば十分であった。即ち、戦略的撤退である。
「待つでアリマス! レスタット!」
「待てと言われて待つ者がいますか!」
尤もな台詞を吐いてレスタットは逃亡。清々しいまでの引き際であった。クリーンアップの白魔法といえども瞬時に石化から戻す事はできず、まだ動けないタイチョーにはそれを忌々しげに見送るしかなかった。
「逃げ足の早い奴ねえ」
あまりに華麗な撤退に、遅れて合流したヨヨがそう呟いて感心していた。
「申し訳ありませぬヨヨ様。逃げられました」
「まぁ、マハールの解放は果たせたのだから問題ないわ」
この戦いの目的はレスタットを討つ事ではなく帝国駐留軍をマハールから追い払う事であり、作戦自体は大成功と言って良い。タイチョーには思うところはあるだろうがそれはまた別の問題であった。
「……今は素直にマハールの解放を喜ぶべきでアリマスな」
「その通りじゃ、タイチョー。今この時だけは憎しみを捨てて喜ぶのじゃ!」
マテライトの言葉にタイチョーは頷く。
「この戦い、我々の勝利よ!」
──こうして、カーナ軍によってマハールは帝国より解放されたのであった。
【レスタット】
グランベロス帝国八将軍の一人。旧ベロス政権の軍閥に生まれたエリートであり、成り上がりのサウザー皇帝を快く思わない将軍の代表格。その為、旧ベロス派であるグドルフ派に属している。
マハール侵攻の総司令官であり、マハールを陥落させタイチョーの妻セリーヌを奪った人物。
戦闘では『ヒヒヒヒ』と『ウヒョヒョヒョ』と笑い声が技名となっており、前者は毒のレイピアによる突きさし、後者は三角形の魔方陣による石化攻撃。状態異常攻撃を使ってくる唯一の将軍で、特に『ウヒョヒョヒョ』はフィールドでは全体石化、直接戦闘では脅威の100%石化を誇る。しかしドラゴンには対抗手段が全くない。
初戦では水責めに巻き込まれないようにする為かなんと移動力0に設定されており、初期位置から全く動けない。その為状態異常無効のドラゴンたちに一方的に遠距離攻撃でボコボコにされたりする。何気にバハラグ唯一のボイス付きキャラである(笑い声のSEがあるだけだが)
タイチョーの因縁の相手であり、本人の性格的にも完全な悪役なのだが、世間のプレイヤーからのヘイトは味方であるはずのヨヨとパルパレオスを圧倒的に下回る。それがバハラグクオリティ。