ヨヨですけど、何か問題でも?   作:れいのやつ Lv40

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虹の見えた日

 目前まで進撃してきたカーナ軍によって、今まさに自身の直属の親衛隊を消し飛ばされたレスタットは、その悪賢くも狡猾な頭脳を以てしても、自身の圧倒的窮地を悟らざるを得なかった。

 

(お、おのれ……! タイチョー……負け犬の死に損ないめ……!)

 

 レスタットは帝国将軍としての地位にありながらも、武人としての力量はそう優れているわけではない。彼の真価は謀略を巡らせ、敵将を陥れることにある。そんな彼の率いる兵士らもまた、隠密や搦め手を主とする者たちが集まった部隊である。故に、カーナ戦竜隊のような正面からの斬り合いをこそ最も得意とする者たちとぶつかれば、不利な戦となるのは仕方がない。しかし、だからといってカーナ軍に僅かな損害すら与えられず、一方的に蹴散らされた挙げ句に早々に自身の居る玉座の間まで乗り込まれるなどというのはさすがに想定外であった。

 こんなことになった原因はただひとつ。レスタットへの復讐に燃えるタイチョーが、単騎で宮殿に乗り込んで来た上に、そのまま大半の兵を切り捨てて突破するなどということをやってのけたからだ。鬼神の如き戦いぶりを見せるタイチョーに、恐慌状態に陥ったレスタットの兵は為す術なく討ち取られていき、あまつさえ親衛隊を動員しタイチョーを討ち取れるかと思えば、タイチョーを追って乗り込んで来たカーナのトップスリーによりあっさりと救出され、逆に親衛隊が壊滅する有り様だ。

 

「さて……レスタット将軍。あなたが行ってきたことの因果が、今ここに廻ってきたようよ?」

「く、くそっ……!」

「レスタット! ここが年貢の納め時でアリマス!」

 

 タイチョーを先頭に、カーナ軍が一斉に武器を構えながら迫ってくる。しかし、この後に及んでもなお、レスタットは諦めていなかった。

 

(ヒヒヒヒ……バカめ!! そうやって集まっていれば、オレの石化の術の餌食になるだけだ!)

 

 レスタットの頭上に展開される三角形の魔法陣。それは触れたものを瞬時に石へと変える恐るべき魔術であり、かつての帝国とマハールの戦で猛威を振るい、タイチョーの妻セリーヌをも石像へと変えたレスタットの切り札であった。

 

(さぁ……死ねぇっ!!!)

 

 レスタットが心の中で叫び、魔法陣がカーナ軍へと襲いかかり――

 

『キシャアアアア!!』「な……!?」

 

 ――彼らを庇うように飛来したサラマンダーの巨躯によって、その魔術は阻まれた。驚愕するレスタットに、ヨヨが首を傾げた。

 

「あら、ご存じない? 我がカーナが誇る戦竜たちは、肉体的、精神的、そして魔術的干渉によるあらゆる異常を受け付けないのよ」

「な、なんだとぉっ!?」

「あんたの石化の術は、先の野戦で一度見せてもらったからな。ドラゴンたちに盾になってもらえば、何も問題無いのさ」

「ば、馬鹿な……!!」

 

 そう、レスタットは先のカーナ軍との戦において、追い詰められた彼は窮地を脱する為にその石化の術を用いてタイチョーらを足止めしたのだ。その結果、撤退に成功してこの宮殿に逃げ込むことができたわけだが……。これは彼の最大の失策であった。あの場で石化の術を披露してしまったばかりに、こうして対策を取られ、もはや切り札として機能しなくなってしまったのだ。

 

「駄目よ? レスタット将軍。切り札というのなら、最後まで秘匿しないと。あなたはね、ジョーカーの切り時を誤ったのよ」

「…………クソがあああっ!!!!」

 

 激昂して突進するレスタット。その刹那、ヨヨの手にした杖より魔力波が放たれる。

 

「ぐあああっ!!」

 

 強烈な衝撃波を受けて吹き飛ばされるレスタット。そこへ、全てを終わらせるべくタイチョーの戦斧がその頭上に振り下ろされた。

 

「がはっ……!!」

「レスタット! 貴様は……ここで終わるんでアリマス!」

「終わりだと……馬鹿な……オレは……もっと……上に……行くの……だ……」

 

 レスタットは血を吐きながらも、そう言って手を虚空へと伸ばし……そのまま、事切れた。策謀で将軍まで登り詰め、尚も野心に取り憑かれた男の哀れな最期であった。タイチョーは、しばらくそんな怨敵の亡骸を見つめた後――雄々しく戦斧を掲げた。

 

「敵将、レスタットは討ち取った! マハールは我らカーナ軍が取り戻したでアリマス!!」

 

 タイチョーの言葉を受け、歓声を上げるカーナ軍兵士たち。今ここに、マハールは解放されたのだった。

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 レスタットを討ち取り、勝利に沸くカーナ軍であったが、タイチョーはその表情を曇らせていた。

 

「どうした、タイチョー?」

 

 そんな彼に、ビュウが問いかける。タイチョーは俯いたまま、静かに口を開いた。

 

「……いえ、これで終わったのかと、そう思うでアリマス。レスタットを討つのが自分の悲願ではありましたが、これで良かったのかどうか、わからなくなったでアリマス」

「タイチョー……それは……」

「わかっているでアリマス。自分の願いはマハールの解放。そのために、自分はこれまで戦い続けてきたのでアリマス。しかし、レスタットを討っても、奴に殺された皆は帰ってこない。ならば、レスタットを討ったことで、果たして本当に仇を取れたと言えるのだろうかと……思ってしまったのでアリマス」

「……復讐なんてそんなもんさ。死者の意思なんてわからない。だから自分がしたいだけの、ただの自己満だ。それでも、やらずにはいられない。それが人ってモンだろうよ」

「そうかもしれぬでアリマスな……」

 

 タイチョーはそう呟き、少しすると悩みを振り払うように頭を振った。

 

「いかんでアリマスな。目的を果たしたことで感傷的になっているかもしれんでアリマス。少し、外の風に当たらせてもらっていいでアリマスか?」

「ああ、構わないぜ。ゆっくり休めよ」

「かたじけないでアリマス」

 

 タイチョーはそう言うと、宮殿の外へ出ていった。ビュウは、その背中を見送りながら、小さく息をついた。

 

「あの人も、難儀な性格だよなぁ。ま、そこが良いところでもあるんですが」

「そうね。まぁ、今はそっとしておいてあげましょう。それよりも、さっさと宮殿内の把握を始めないと」

「罠とかもまだあるかもしれませんからね。例のガーゴイル像とか」

「えぇ、警戒しながら行きましょう」

 

 こうして、ヨヨとビュウは宮殿を見て回った。そして――

 

「ふぅん。ここは王の寝室かしら?」

「そのようですね……まぁ、レスタットの奴が自分好みに飾り付けてたみたいですが」

「見ればわかるわ」

 

 部屋の中央に置かれた天蓋付きのベッド。その周囲に、煌びやかな調度品の数々が置かれていた。おそらくはレスタットの趣味なのであろう。

 

「あの男、性格も悪かったけど趣味も悪かったようね」

「ははは、確かに。でも、こうして見ると良いセンスしてるやつもありますよ? ほら、この石像なんか、なかなかのものじゃないですか?」

「あら、本当ね……ん? この石像……」

「どうかされましたか、ヨヨ様?」

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 タイチョーは、宮殿の外にいた。そこは、虹の架かる橋……通称『レインボウ・ブリッジ』。ここで虹を見たものはどんな願いでも叶うと言うが、未だに虹を見たという者は誰一人現れていない。

 

「……セリーヌ、レスタットは倒したでアリマス。 これでおまえに、マハールの人々に自分は許してもらえるでアリマスか?」

 

 ……返事はない。当たり前だ。死んだ者に、言葉など届くはずもない。それでも、タイチョーは語りかけることをやめなかった。

 

「自分は……これからどうすればいいのかわからんでアリマス。自分に何ができるのか……何をすべきなのか……何も見えんでアリマスよ……」

「何を言ってるの、あなた。あなたは私との約束を守ってくれたでしょう?」

「……!?」

 

 不意にかけられた声に振り返ると、そこには……一人の女性が立っていた。タイチョーは、驚きを隠せなかった。

 

「……自分は、夢を見ているのでアリマスか?」

「違うわ。私はここにいる。あなたの目の前にいるの」

「どうして……ここに……まさか……セリーヌ……!?」

「あなた。あなたが約束を守ってくれたから、またこうして会うことができたの。やっぱり、あなたは私にとってオレルス一の騎士さまだわ」

「……!!」

 

 それは、間違いなくタイチョーの最愛の人、セリーヌであった。彼女は、嬉しそうに微笑みながら彼の手を握る。だが――

 

「いや、しかし、これは……自分の願望が見せた幻かもしれないでアリマス……そんな都合の良いことが起こるはずが……」

「そう思うのも無理はないけど、彼女は間違いなく本物よ、タイチョー?」

「ヨヨ様!?」

 

 未だに信じきれないタイチョーにそう声をかけたのはヨヨだった。セリーヌも彼女に気付くと慌てた様子で頭を下げる。

 

「よ、ヨヨ様! 先ほどは本当にありがとうございました! それに夫もお世話になったようで……」

「あー、楽にしてくれセリーヌ殿。人に戻ったばかりなのだし、ヨヨ様は寛大なお方だからそう無理に気を遣わなくとも良い」

 

 恐縮した様子のセリーヌに対し、ビュウがそう言う。しかしタイチョーは、いまだ戸惑いの色を浮かべていた。

 

「待って欲しいでアリマス。先ほどとはどういうことでアリマスか? それに人に戻ったというのは……」

「そう難しい話ではないわ、タイチョー。悪趣味な男が悪趣味なインテリアを飾っていただけのことよ」

「はぁ……?」

「レスタット。あの男の術、知っているでしょう?」

 

 当然知っている。ついさっきこの手で地獄へ送った相手なのだから。奴の術は、人間を生きたまま石へと変えるもので……

 

「なっ……! まさか……!」

「そのまさかよ。あの男はね、あなたの妻であるセリーヌ殿を、生きたまま石像に変えてこの宮殿にインテリアとして飾っていたのよ」

「なっ……なっ……なっ……!! なんということを……!!」

「ふふ、怒ってくれるのね。でも、もう大丈夫。私はこうして、元の姿に戻ることができたから」

「そ……そうなのでアリマスか?」

「ええ。ヨヨ様に助けてもらったの」

「ヨヨ様が……」

 

 タイチョーの視線を向けられたヨヨは笑って言う。

 

「普通なら、石化から時間が経ちすぎていて人間に戻すのは不可能だったでしょうけれど。私の持つ神竜の力はその程度のことはなんでもなかったみたいでね。無事に解呪できたわ」

「感謝の言葉もないのでアリマス。妻の命を救ってくれたこと、心より御礼申し上げるでアリマス」

「タイチョー。あなたはこの戦で最も効を挙げた臣下よ? ならばそれに報いるのが王というものでしょう」

「……ありがたき幸せでアリマス」

 

 深々と頭を下げたタイチョーに、ヨヨは満足げに笑った。セリーヌもつられて笑うと、空を見上げた。

 

「あなた、見て! 虹だわ! 虹が出ているわ!」

「おお、本当でアリマス。美しい虹でアリマス……これが見たものはどんな願いも叶うというレインボウ・ブリッジでアリマスか……しかし……困ったでアリマスな。自分の願いはもう叶ってしまったので、願うことがないでアリマス」

「あら、そうなの? それじゃあ、私が願ってしまおうかしら」

 

 ヨヨがそう言うと、タイチョーは大きく頷いた。

 

「この程度で恩は返しきれないでアリマスが、是非ヨヨ様が願っていただくと良いでアリマス」

 

 しかし、それを聞いたヨヨは肩を竦めて首を振る。

 

「残念だけど、私には叶えたい願いなんてないのよね」

「……はい?」

「なんでも叶うなんて伝説に願って目的を果たすなんて、嫌よ。私は私の力で全てを手に入れるんだもの」

 

 そう言って、高笑いを響かせるカーナ女王なのであった。




神竜パワーに状態異常治せる描写なんて原作に無いけどサウザーに壊滅させられたビュウたちが一瞬で完全回復するシーンがあるぐらいだし石化もなんとかなるやろ()
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