つまりヨヨ様(18)
ヨヨは気付けば見知らぬ空間に一人佇んでいた。
「はぁ……またか。神竜というのはどうしてこうワンパターンなのかしら」
ヴァリトラといい、今回といい、神竜どもは夢という人の聖域に入り込んでくる不敬な輩ばかりである。ドラグナーたるヨヨの力がなければ、物言わぬ亡骸に過ぎない化石のくせに。しかし、そんなことはさておき。
「ふむ。ここは……水? 水の中かしら」
ヨヨは水中にいるようだった。息苦しさはなく、不思議と心地よい感覚に包まれている。おそらくは、ここに神竜がいるのだろうが。
「水の都マハールの神竜は、やはり水の神竜ということね」
その瞬間、意識が浮上するのを感じ――自分の居場所を伝えるだけだというのに随分と大げさなことだ、と目覚めて早々ため息を吐くヨヨであった。
「あら」
ふとヨヨが部屋に目をやると――ドンファンがテーブルに突っ伏して爆睡していた。テーブルの上には空けられたボトルが十数本。
「ええと……? ああそうだ、昨日はドンファンが飲みに誘ってきたのだったわね」
まぁ、要するにいつものナンパの一貫なのであろうが、戯れと思って付き合ってやったのだ。しかしながら、ヨヨはカーナ一の
と、何やら慌てた様子で足音がこちらに近づいてきた。そして入ってきたのはルキアである。
「よよよよヨヨ様ぁっ!! こちらにあの馬鹿が……ッ!」
言い終わる前にテーブルに顔を埋めて爆睡しているドンファンを見つけて、ルキアの顔がどんどん赤くなっていく。
「こ、こ、この馬鹿ドンファーーン!!」
「ぶべっ!?」
次の瞬間には、ルキアの渾身の蹴り上げが炸裂し、ドンファンは壁まで吹っ飛ばされていた。
「げげっ!! ルキア、どうしてここに?」
「あんたがヨヨ様によからぬことをしないか見にきたのよ!! あんたって人はぁー!!」
「あ~れ~!? ウッソー! なんでぇ~!?」
ドカドカと床を踏み鳴らしながら何処からか取り出した縄でドンファンを縛り上げると、そのままズルズルと引きずりながらルキアは去って行った。
「まぁルキアってば。男であれば、私の美貌に狂ってしまうのは詮無きことであるゆえ、そう怒ることでもないでしょうに。いや、もしや嫉妬かしら? あぁ、美しさって罪ね……」
一組の男女の仲を引き裂いてしまった自分の魅力に酔い痴れるように頬に手を当てて呟くカーナ女王であった。
◇ ◇ ◇
数時間後、ヨヨ率いるカーナ軍はマハールの外れの地へとやって来ていた。
「ここが神竜がいるという地底湖?」
「はっ。ヨヨ様のご覧になられた夢からしても、この地底湖が神竜リヴァイアサンの居る地で間違いないかと」
ヨヨの見た夢を元に集めた情報からして、接触してきた神竜はリヴァイアサンで間違いない。その神竜がいると伝えられているのが、地元の民ですら近寄らないという地底湖だった。
「なるほど。確かにかつて神殿だったような名残があるわね」
湖の上には、明らかに人工物であろう瓦礫や柱などの残骸が残っている。かつては神殿として利用されていた場所なのだろう。だが、今は見る影もなく荒れ果てている。
「魔物どもが寄って来ましたね」
水辺からは、電撃を纏ったウナギのような魔物や、何やら歌を口ずさむ人魚のような水棲の魔物が姿を見せていた。
「かつての神殿が、今は魔物の巣窟か。堕ちたものね」
廃墟となった神殿を住処としたのか、あるいは元々棲んでいたのか、それは定かではないが。魔物たちは、今や神殿を破壊して新たな巣を作ってしまったらしい。
「ところで……
「……少なくとも、人間には見えませんね」
ヨヨが示した先には――成人男性の数倍はあろう体躯の、人間に近しい姿をした存在がいた。
「ありゃあ巨人、か? まさかこの年まで来てそんなもんを見ることになるとは思わんかったわい」
マテライトが唖然とした様子で口にする。神竜という最上級の神秘に馴染みのあるカーナ軍も、巨人を見たのは初めてのことだ。
「おいおい、巨人と戦うのか? 俺たち」
「さすがにまともに斬り合うのは避けたいですね……」
ラッシュが冷や汗を流し、トゥルースが冷静に分析する。実際、あれとまともに近接戦闘をするのは得策ではない。
「う~んでも~、魔法の一、二発じゃ倒れてくれそうもないよ~?」
メロディアの言う通り、巨人はおそらく常人とは比べものにならないほどの頑強な肉体を持っている。魔法による集中放火でも仕留めるのは容易ではないだろう。
「ふふふ、安心なさい皆。要はまともに戦わなければ良いのよ」
ヨヨはニヤリと笑みを浮かべる。
「ヨヨ様、何か策がお有りですか?」
「ビュウ。周りをよーく見てご覧なさい。ちょうどおあつらえ向きじゃない?」
「……ああ、なるほど。そういうことですか」
ヨヨの言葉に、ビュウは納得して頷く。
「う~んとぉ、何が何だかさっぱりだよぅ」
「すぐに分かるわよ。メロディア、あの巨人の手前の水辺にアイスマジック」
「なんかよくわからないけど、は~い!」
ヨヨの指示に従い、メロディアは杖を振るって魔法を放つ。すると、氷結魔法により、水面が瞬く間に凍っていった。
「これで足場の完成よ。すると、巨人どもはどうすると思う?」
「えーと、あの氷を渡ってこっちにくる!」
「正解よメロディア。撫でてあげましょう」
「えへへ~♪」
ヨヨに褒められて嬉しそうにするメロディア。そんなやり取りをしている間に、巨人は水辺の半ばまで歩みを進ませていた。
「ふふふ、自身の末路にも気付かない哀れなネズミね。フレイムゲイズ!!」
次の瞬間、ヨヨの放った炎の渦が巨人を包み込んだ。しかし、巨人は平然としたままである。
「ヨヨ様、あんまり効いてないよ~?」
「メロディア。奴の足元を見てみなさい」
「あっ!」
そう。ヨヨの放った火炎魔法の目的は巨人を倒すことではなく……。
「ほらほら、氷が溶けるわよ。その巨体で泳げるかしら!?」
「グオオオォッ!?」
ヨヨの火炎魔法の熱気により、氷がみるみると溶けていく。そして氷を足場にしていた巨人は、そのまま水の底へと沈んでいった。
「あっははは! 自慢の巨体も、泳ぎの役には立たなかったようね。こんな場所に住み着いた自分の愚かさを呪いなさいな」
「……ヨヨ様が敵でなくてよかったわ、マジで」
「ええ、本当に」
単純ながらもえげつない手法に、ラッシュとトゥルースはしみじみと呟くのであった。
【おぼれました】
文字通りユニットが溺れた場合に表示されるシステムメッセージ。
バハラグでは人間系の地上ユニットが水上を移動するには氷系の魔法で地形を変化させる必要がある。
しかし水上にいる際に足場にしている氷を溶かされると「ここにいるとおぼれます。(3)」などと表示され、カウント以内に足場を作るか地上に出ないと「おぼれました。」の無情なメッセージと共にユニットごと戦闘不能になる。
ボスユニットである帝国将軍であろうと問答無用で溺死する。