ヨヨですけど、何か問題でも?   作:れいのやつ Lv40

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スパイ大作戦

 神竜リヴァイアサンを支配下に置き、ファーレンハイトへと帰還したヨヨ率いるカーナ軍だったが、ここにきて思わぬ情報が飛び込んできた。

 

「グランベロス帝国皇帝崩御ですって?」

「はっ。どうも急な病死との発表です」

「病死、ねぇ……」

 

 グランベロス帝国皇帝……つまりサウザーは、ヨヨと対峙したあの時にアレキサンダーの憎悪を受け止めきれず、意識不明のまま帝国へと帰還している。

 

「サウザーの奴め、あのままくたばりよったのか?」

「それなら非常に都合が良い展開なのだけどね」

 

 マテライトにそう言ったヨヨだったが、どうにも腑に落ちない。確かに、アレキサンダーの力は他の神竜など足元にも及ばないほど強大だ。故に、サウザーがあのまま目を覚ますこと無くこの世を去ったとしても、まぁ無理からぬことではあるのだが……。

 

(しかし、あの男がそう簡単にくたばるかしら?)

 

 世の中には天運というものに恵まれた人間がいる。他ならぬヨヨがそうであるし、オレルス全土の統一を成したサウザーもそうだ。そして、そういった人間は得てして生き長らえてしまうものなのである。あのカーナ滅亡の日、『ドラグナーだから』という理由で生かされたヨヨがそうだったように。

 

(本当に死んでくれたのならそれに越したことはないのだけど)

 

「情報不足ね。本当に死んだのか、意図して流されたデタラメな話なのか判断がつかない」

「いっそ帝国に潜入でもして調べられれば早いのですが」

「ふむ。悪くないわね」

 

 ドラゴンを用いて密かに帝都に潜入し調査を行うぐらいならば可能だろう。問題は人選であるが。

 

「やはりサジンとゼロシンが適任でしょうか?」

「そうね。彼らには当然行ってもらうけれど、あの二人はあくまで暗殺者。ターゲットの情報収集をするのとは毛色が違うわ。もう一人、情報収集に長けた人物に潜入してもらいたいところね」

 

 そう言って、ヨヨは部屋の隅にいる人物に視線を向けた。

 

「というわけで、お願いね、ディアナ」

「…………へ?」

 

 突然話を振られたディアナは、間抜けな声をあげてキョトンとした顔を浮かべるしかなかった。

 

「わ、私ですかぁ!?」

「情報収集を任せるとなったらあなたに決まっているでしょう」

「私、プリーストですよ!? そんなスパイみたいな事とかやったこと無いんですけどぉ!?」

 

 いきなり重大任務を振られて慌てるディアナに、ビュウが呆れたような目を向けた。

 

「今更何言ってるんだお前は? いつもどこからか知らないがやけに精度の高い情報を仕入れてるじゃないか」

「いや、あれは単なる噂を話してただけで……」

「噂だって立派な情報よ。それもただの噂じゃなくて信憑性のある確かな情報なら尚更ね」

 

 そもそも常日頃からどこで仕入れて来たのか不明な『噂話』を皆に流していた張本人であるディアナに白羽の矢が立ったのは当然の流れと言えよう。

 

「少なくとも、カーナ軍で誰が一番情報収集が得意か聞いて回ったら、9割がお前の名前を挙げると思うぞ。だから、諦めろ」

「そんなぁ~!?」

 

 こうして、半ば強引に潜入任務を命じられたディアナは、しぶしぶながらも帝国の情報収集へと乗り出すことになったのであった。

 

 

  ◆   ◆  ◆

 

 

「う~。まさか私がスパイ染みた真似をすることになるなんて。私はただ噂好きなだけの女なのに……」

「ワン!」

 

 ムニムニに乗ってグランベロス帝都へと潜入したディアナは、未だに愚痴りながらもとりあえず任務のために動いていた。まず必要なのは、帝都で聞き回っても怪しまれない格好である。地味で目立たないディアナが帝国人に顔を知られているとも思えないが、それでも一応念には念を入れておきたかった。

 

「ディアナさん、ご要望の帝国僧侶の衣装、調達して来たぞ」

「ありがと! 超助かるぅ~!!」

 

 共に潜入したサジンとゼロシンに頼んで入手してきてもらった帝国僧侶の衣装にさっそく袖を通す。二人のやり方を考えると、この衣装を入手するための犠牲者がいたことは想像に難くないが、どうせ戦争中の間柄なのだ。今更敵国の人間が一人死んだところで気にするようなことでもあるまい。

 

(よし、これで私は完全に帝国民!)

 

 そうして、完全に変装を終えたディアナ。帝国僧侶の衣装は表情が隠れるほど大きいフード付きであり、正体を隠すのにはうってつけだった。

 

「じゃ、情報収集は私やるから、二人は一般人に紛れて私の護衛をしてくれる? 怖いから」

「はいよ」

 

 そうしてサジンたちに自身の警護を任せたディアナは聞き込みを開始した。とりあえず適当に、誰でも良いのでそこらの市民を捕まえて話しかけていく。

 

「ねぇねぇ、そこの人! 知ってる!? 知ってる!?」

「なんだ急に……。何をだ?」

「皇帝陛下は、実は病死じゃないって話!」

「ああ、それか。聞いたことあるぜ。なんでも皇帝陛下は病を患っておられたわけではなくて、神竜の呪いにかかってたらしいな。亡くなられた今となっちゃどっちでも同じだが」

 

(お? この反応、サウザーが亡くなったのは本当なの? だとしたら……)

 

「私、陛下の葬儀には行けなかったんだ。残念だなぁ」

「そうか。ま、無理もないだろうな。反乱軍との戦争中だし、各地に配備されてた奴らは軒並み参列できなかったろうよ」

「あなたは葬儀に行ったの? 陛下の棺は見れた?」

「ああ。さすが皇帝だけあって、立派な棺だったぜ。そういや、今回の葬儀はちょっと変わってたな」

「へぇ、どんな風に?」

「普通は遺体は墓に埋めるだろ? でも今回は陛下の遺言だとかで、棺は空に還すことになってな。空に流しちまったんだ」

「へぇ~」

 

 まぁ、確かにオレルスの空を自身のものにする為にラグーン全土を手中にしたサウザーなら、「自分が死んだ時はオレルスの空に」という遺言を残していても違和感はないが……サウザーが倒れたのはヨヨに宿るアレキサンダーの力によるものだ。あれから目覚めていないのなら、遺言を残すことなどできないはず。一応、前もって用意されていたものという可能性もあるが……。

 

「陛下の遺言は誰が言い出したの?」

「グドルフ将軍だよ。あの方は元々旧ベロス時代からの宰相だからな。帝国将軍でも一番地位が高い。葬儀を主導したのも当然だろう」

 

(いや反サウザー派の筆頭じゃ~ん!)

 

 傭兵からの成り上がりの皇帝であるサウザーに忠臣と呼べる存在は親友であるパルパレオスしかおらず、帝国将軍すらもパルパレオス以外は中立か反サウザー派しかいない。新参でありながら武力だけで皇帝の地位に座ったサウザーを一番嫌っていたのが、貧しい旧ベロスの国力を上げ宰相に登り詰めた重臣であるグドルフである。その彼が言い出した『遺言』となると、どう考えてもきな臭い。

 というか、今思い出したが。

 

「パルパレオス将軍はどうされているの?」

「あん? 何だ知らないのか。パルパレオス将軍も陛下と同時期に亡くなられたよ。グドルフ将軍の計らいで、陛下と同時に葬儀も行われてお二人で空に流されたんだ」

「ふ~ん。そうかあ。そうなんだ~」

 

(はい陰謀確定ぇ~! 同時に二人とも消されたやつぅ~!)

 

 本当に死んだのか実は意識不明なだけで生きていたのかは知らないが、要はグドルフにとって邪魔な皇帝と将軍が両方とも意識が無いのをこれ幸いと、葬儀という体で始末してしまったのだ。元々親サウザー派など下級兵士ぐらいしかいないのだから、さぞやりやすかっただろう。

 

(とどめは刺したのかな? 意識不明のまま空に流しただけなら、案外どっかのラグーンに流れついたりして。いや、それはないか。どんな確率よ)

 

 ──もしも、この時のディアナの思考をヨヨが覗き見られたならこう言っただろう。

「覇者というものは、得てして常人では計り知れぬ天運を持ち合わせているものよ」と。




【ディアナ】

カーナ滅亡前からカーナに仕えているプリースト。
非常に噂好きで、話しかける度にカーナ軍の人間関係などの噂話を話してくれる。
口癖は「ねぇねぇ、知ってる!?知ってる!?」。

基本的には地味な立ち位置であまり目立たない人物だが、例の「ヨヨ様の部屋から夜な夜な苦しそうな声が聞こえてくるの」は彼女の発言である。
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