「────!?」
唐突な私の行動にレンダーバッフェも、いきなり髪の毛を強引に食べさせられたブランドゥングも戸惑いを隠せない様子だ。確かに今の私の行動は端から見ると意味不明だが……。
ふふふ、すぐに面白いことになるわよ。
──すると、すぐに変化は現れた。ブランドゥングの身体がみるみるうちに変異していき、小さな球体のようになっていく。最終的に変化が収まった時、そこにいたのはボールにそのまま顔をつけて直に翼を生やしたような、ドラゴンと形容しても良いのかもわからない、まさしく『正体不明』と言うべき存在であった。
「────!?!?」
「うふふふふ、可愛くなったじゃない」
変わり果てた弟分たちの姿にレンダーバッフェが騒ぎ立てるのを私は気分良く眺める。これは当然、私の髪の毛を食べたことにより引き起こされた現象だ。
──ドラグナーの力なのか、あるいは私個人の能力なのかは不明だが、どういうわけか私の髪の毛にはドラゴンを突然変異させる作用がある。これに気付いたのは、昔しつけきれていない戦竜隊のドラゴンが私の髪の毛をかじってきた時だ。あの時は驚いた。いかにも竜という姿をしたドラゴンが形容し難い謎の生物になってしまったのだから。
それ以降、私はドラゴンと触れ合う際は髪の毛をかじられないように心掛けていた。実は私としてはこの謎生物もそんなに嫌いではないのだが、カーナ戦竜隊の皆には不評だったのだ。しかし、帝国のドラゴン相手なら遠慮することもないだろう。にしても、レンダーバッフェがいい加減うるさい。
「騒々しい、静かになさいな。たかが姿形が別物に変わっただけでしょうに」
レンダーバッフェは姿の変貌しすぎた弟分たちに戸惑っているようだが、こうなった以上は潔く受け入れなさいな。
確かにもはやブランドゥングとしての原形は全くないが、知ったことではない。だって、戻し方は知らないし。それに帝国ではどうだか知らないが、カーナ人の感覚からすれば昨日まで見慣れていたドラゴンが翌日は全く別物の姿になっていたなど日常茶飯事である。よくわからない謎生物になったからといって別に問題あるまいに。
──そんな事を考えていると、何やら向こうから複数の足音が近づいてきた。
「なっ!? ヨヨ王女がなぜここに!?」
「パルパレオス将軍の竜とよくわからない生物もいるぞ!」
「ペルソナ将軍は!? どうされたのだ!」
私の姿を見てそんな事を口走っているのは、まぁ当然だがこのラグーンに駐留している帝国の兵士たちだ。ただ彼らはまだ状況が飲み込めていないようだ。
「ほら、お前がいつまでも騒ぎ立てているから連中に見つかってしまったじゃない?」
後はさっさと脱出するだけだったのに、余計な時間を取らせるからこんな事になるのだ。そんな私の言葉にか、それとも帝国兵に見つかったことに対してか、レンダーバッフェが焦ったように身体を動かしているが……。
「見なさい。お前の弟分たちはやる気みたいよ?」
驚き戸惑っているレンダーバッフェを差し置き、元ブランドゥング……言いにくいわね、下僕でいいか。私の下僕である謎生物の二匹は何故か異様にやる気を出している。そして、一匹がまだ状況を把握しきれていない帝国兵の集団に向かって突貫していく。
「────!?」
「なんだ、この珍妙な生物は? こんな奴を斬るなんてバターを切るよりも簡単だぜ」
一見無謀にも見える謎生物たちの行動にレンダーバッフェが驚愕し、帝国兵はあからさまに見下しながら武器を構える。
まぁ、確かにあいつはどう見てもまともに戦えそうではないからね。しかし──
「■■■■────!!」
──突如、謎生物たちの姿が揺らいだかと思うと、次の瞬間、紫色の身体をした翼を持つ巨人のような怪物へと変貌した。
「な、なんだぁ!?」
「へ、変身しやがった!」
「うわああああぁ!!」
見るからに弱そうな生物が突然凄まじい威圧感を放つ怪物に変わった事に帝国兵たちがパニックを起こす。そして戦意が壊滅的になった集団は、紫の巨人が召喚した夥しい肉食蝿の大群によって跡形も無く食い尽くされた。おお、こわいこわい。
「────!?」
「うふふふふ、素晴らしいわ!」
レンダーバッフェがもう何度目かわからない驚愕をあらわにするが、それよりも私は歓喜していた。
──そう、この謎生物には変身能力がある。それも、本来ならば相当な育成をせねば辿り着けない、聖と暗の力を使いこなす最上級ドラゴンに変身する力が。通常のドラゴンより感知能力が低くなるのか、接近戦でしかその能力を見せることはないのだが、それを差し引いても素晴らしい力だ。思いつきでやった行動だったが、予想以上の成果である。
「ふふふふ、よくやったわ。反乱軍の皆と合流した暁にはお前たちも戦竜隊に加えてあげる」
いつの間にか元の謎生物に戻っていた下僕一号の頭を撫でてそう言ってやる。要するに見知ったドラゴンが謎生物になるから不評だったわけだし、最初からこういう存在として加入する分には戦竜隊の皆も文句は言うまい。珍妙な姿のドラゴンぐらいは見慣れているだろうし。
「さて、思いがけず戦力の試運転も済んだし……このラグーンともお別れね」
──私は荷物をレンダーバッフェに押し付け、更にその背に乗り飛び立つよう促す。もちろん下僕たちも一緒である。おっと、そうだ。
「旅立ちには祝砲が相応しいわよね?」
私はレンダーバッフェの背の荷物の中から魔法草、雷の草を取り出す。そして──そのまま草に秘められた魔力を解き放った。
「あっはははは! グッバイ、低俗なるベロスの大地よ!」
──大地を引き裂くような轟音と共に降り注いだ雷によって無惨な瓦礫の山となった宝物庫を見下しながら、私は清々しい気分でこのラグーンに別れを告げるのであった。
──さぁ、行くわよ! このままずっと空の果てまでね!
【しょうたいふめい】
文字通り正体不明としか言いようがない謎の生物の姿をしたドラゴン。ゲームでは隠しパラメータである変異レベルを上げる事でのみ変化する形態で、変異レベルを上昇させられるアイテムは『おうじょの???』のみ。一回のプレイでは『おうじょの???』は最大で五つしか手に入らず、手に入れるヒントもない。
このドラゴンを連れているユニットは技や魔法も『???』系の謎の攻撃しかできなくなってしまう。ヨヨの場合、神竜召喚が使えなくなるため『おうじょの???』で生み出される割に当の王女とは相性が最悪だったりする。
しょうたいふめい自身は間接攻撃は一切使えないが、直接戦闘では各ドラゴンのレベル6形態に変身し、変身した形態の固有技を使ってくれる。そのため必然的に聖と暗攻撃しかできない。
なお、結局『おうじょの???』が何なのか、なぜこんなドラゴンに変異させる力があるのかは不明。一応この小説では髪の毛という設定となっている。