「あっはははは! 私は帰ってきた! このオレルスの空に!」
帝国から脱出し軟禁生活から解き放たれた私は機嫌良くそう叫んだ。あぁ、なんて素晴らしいのかしら! そう、私は自由よ!!
「ふふふ、久々の空はやはり気持ちが良いわね」
この風を切って前に進む感覚がとても素晴らしい。やはり空は良いものだ。
一方、私を乗せているレンダーバッフェは機嫌良さげな私に安心している様子である。ちなみに謎生物こと下僕一号二号はあのまんじゅうみたいな姿から、胴長に直に足と翼を生やして、やたらと大きな頭をくっつけたようなこれまたなんとも言い難い姿になってついてきていた。どうもこれが飛行形態らしい。可愛いじゃない。
「ドラグナーのちから〜♪ このオレルスのそ〜ら〜♪ 愛しい彼のこころ〜♪ すべてを手に入れるぅ〜♪」
昔、吟遊詩人に作らせた私のテーマ曲を脳内でかけながら、それに乗せて私の今の心境を歌として口ずさんでみる。このオレルスに響き渡れ、私の野望よ!
「うーん、それにしても……」
久しぶりの空の旅は文句なく素晴らしい。素晴らしいのだけれど……。
「サラマンダーより、ずっとおそい!!」
私は思わず正直な感想を口にする。戦竜隊の一般ドラゴンと比べたらこいつも中々速くはあるけど、さすがにビュウの愛竜であるサラマンダーには劣るわね。あの子の速度に慣れている私からすると遅く感じてしまうわ。
「クェェ……」
あっ、落ち込んだわコイツ。意外とナイーブな奴ね。まあそんなに気にすることないわよ。そこらのドラゴンと比べたら十分速いもの。サラマンダーはビュウの愛竜なんだし敵わなくて当然じゃない。
「ん? 何か聞こえるわね……」
突如、私の耳にまた別の風切り音が聞こえてくる。後方からどんどん迫ってきているわね。
「あれは……ガーゴイルかしら?」
振り向いて後ろを確認すると、石像のような冷たい印象のドラゴンが数体こちらに迫ってきている。どうやら追っ手らしい。
「大した相手ではないけど、空中戦はあまりしたくないわね」
空中戦などして振り落とされてはたまったものではない。適当なラグーンに着陸して迎撃しましょうか。
「あそこがいいわ。降りなさい」
ちょうど近場にあったラグーンにレンダーバッフェを着陸させる。そのまましばらく待つと、ガーゴイルたちが接近してくるが……。
「あら?」
いつの間にか下僕二号がガーゴイルの群れに勝手に突っ込んでいっている。そして厳つい表情の鳥のようなドラゴンに変身すると、聖なる雷がまるで津波のようにガーゴイルたちに降り注ぎ、それを食らったガーゴイルたちはそのまま墜落してしまった。
「あらら」
あまりの呆気なさにそんな言葉を呟いてしまった。まぁ、ガーゴイルは確か帝国が配備しているドラゴンとしては最下級の雑魚であるし、当然といえば当然の結果かもしれない。
「まぁ、何事もなく終わるのは良いことね」
私はそう言って一息つく。ドラゴンといえどずっと飛び続けるのは不可能であるし、休憩にはちょうどよかったかもしれない。
「さて……」
私は近場にある森の方に視線を向ける。さっきから、あの辺りから私の方を観察している人間がいるのよね。
「出て来なさい、そこの人間!」
私がロッドを構えてそう言うと、森から二つの黒い影が飛び出してきた。私はその二人の姿を見て目を丸くする。
「お久しぶりです、ヨヨ王女。お元気そうで何より」
「やっぱり見つかるかぁ……自信なくすなぁ。いや、ヨヨ様が相手ならノーカンか?」
「サジンにゼロシンじゃない!」
森から現れたのは、私の臣下であるサジンとゼロシンだった。この二人は殺しを生業とする腕利きのアサシンである。私がこの二人と知り合ったのは昔。
──カーナ王宮の私の部屋に、この二人が潜んでいたのだ。その時私は部屋に誰かがいる気配を察知し、こう声をかけた。
「そこの人たち、私と一緒にお茶しましょう!」
「「……はい?」」
その結果、本当にお茶を飲みかわして『お友達』となり、二人を私の直属の部下として雇い、重用していた。
「お前たち、どうしてここに? 反乱軍と一緒ではないの?」
「いえ、お恥ずかしい話なのですが……」
私が問うと、サジンはあまり言いたくなさそうな雰囲気を出しつつも口を開く。
「実はカーナが陥落してから、雇い主がおらず路頭に迷っていまして。反乱軍に入ろうかとも思ったんですが……」
「……ビュウさん以外、反乱軍の人たちは誰もオレらの事知らないんですよね」
「あぁ……確かに」
確か、帝国で聞いた噂で「元カーナ戦竜隊隊長がドラゴンを探しにオレルスを飛び回っている」というのがあった。つまり、ドラゴン捜索中でビュウが不在だった反乱軍のメンバーは誰もこの二人の存在を知らない。暗殺者である二人は私が呼んだ時しか姿を見せなかったからだ。
「それで反乱軍に入れなかったわけね」
「はい……」
確かに見るからに暗殺者な風貌では警戒されるだろうし、かといって私の部下だと言ってもそれを証明できない以上、信用されるか怪しい。知り合いであるビュウがいれば問題なかっただろうが、どうも彼がドラゴン探しを終えて戻ったのはかなり最近らしい。
「金もないので、森の動物を仕留めて食いつなぐ生活をしてまして」
「そこに私が来た、と」
「そうなります」
つまりはただの偶然か……いや、これも私の王気によってもたらされた結果に違いない。王者たる私の運命力が路頭に迷っていたこの二人を私に引き合わせたのだ。ああ、自分の才能がこわい!
「なら、お前たち改めて私に雇われなさい。報酬はこれでどう?」
「おお、こんなに……! ありがとうございます、ヨヨ王女! これで野兎生活ともおさらばだ……!」
「母さん……雇い主のヨヨ様と再会できました。これでまた仕送りができます……」
先ほど宝物庫から持ってきていたピローの入った袋をサジンとゼロシンに手渡す。中身は数えていないのでぶっちゃけいくら入っているかは知らないのだが、二人はかなり喜んでいた。
「それにしても……」
サジンとゼロシンを雇い直した私は、改めてこのラグーンの景色を見回した。ビュウたち反乱軍の現在位置が私からは不明であるから、ひとまずレンダーバッフェには適当に人の住むラグーンを目指させていたのだが……。
「それで着いたのがここだとはね」
妙な縁を感じた私はそう呟き、眼前の建物──教会を見上げるのであった。
【思い出の教会】
カーナの領土内のあるラグーンに存在する教会。二人きりでこの教会に入った男女は将来必ず結ばれるという言い伝えがある。
原作ヨヨは主人公ビュウとこの場所を訪れるも「まだ早いよね」と言い、「大人になっても気持ちが変わらなかったら一緒に来てくれる?」と約束した。
が、帝国にさらわれたヨヨは帝国将軍パルパレオスに惹かれ、一度だけ許可された飛行の際に共にレンダーバッフェに乗り「サラマンダーより、ずっとはやい!!」を炸裂させた後、パルパレオスと共に教会に入った。
その後、反乱軍に奪還されたヨヨは教会を守るシナリオの後、ビュウに「大人になるって悲しいことなの」を炸裂させ、パルパレオスと愛を誓い合ったのだった。
ちなみに教会を守るシナリオとはいうが敗北条件に教会の破壊は含まれておらず、それどころか敵の魔物たちに建物破壊効果を持つ雷属性の使い手は一人もいないため、プレイヤーか味方ドラゴンの攻撃でしか壊れることはない。
にもかかわらずなぜか壊れる事が多いらしい。いったい、なんなのかしらねえ。