「ふふふ、やはりこの教会は私を祝福しているに違いないわ」
私は自信に満ちた声色でそう言った。この場所でサジン、ゼロシンという二人の我が臣下と再び出会えたのは私がこれから進む道筋への天よりの祝福に違いない。
「ここはヨヨ様にとって何か特別な場所なので?」
「ここはね、私とビュウが永久の誓いを交わした教会なのよ」
「おお……!」
そう、ここは思い出の教会。カーナの恋人たちの聖地にして、私とビュウにとっての約束の地。あの時、ここで二人で未来を誓い合ったのだ。
「つまりビュウさんはゆくゆくはカーナ王になるというわけですか……ビュウさんなら王としても素晴らしい人物になりそうですね」
「国の実権はヨヨ様が握ってそうだけどな」
まぁ、それに関しては否定できないわね。私、そういうの好きだし。
「でも、ビュウさんって結構女性に人気ありますよね。いや、ヨヨ様がお相手に選ぶぐらいですから当然ですが」
「反乱軍にも狙ってる女性はいそうだな。本人は気付いてなさそうだが」
「そう、それよ」
さしあたっての私にとっての一番の懸念事項はそれである。すなわち、彼にアプローチしてくる女性陣への対応だ。私は当初、ビュウ争奪戦を勝ち抜くことを考えていたわけだが……。今はちょっと考えが変わってきている。
「思ったのよ。別に彼に迫ってくる女性陣と争う必要はないのではないかと」
「と、おっしゃいますと?」
「側室にしてしまえばいいんじゃないかって」
「ああ、なるほど……王になるわけですからね」
そう。ビュウは私と結婚すればカーナ王になるのだから、彼に迫ってくる女性には側室になるという道がある。そうすれば争うまでもなく済むのではないか? 何より、ビュウの優秀な血をカーナに残すためにもなる。そう、彼ほどの人材、その血をできるだけ広めねば世界にとっての損失ではないか?
「ヨヨ様はそれでよろしいので?」
「多少の独占欲はあるけれどね。だけども私は彼の一番でいられれば良いわ」
そもそもが王族である私の恋愛観は、世間一般の女性たちと比べるとかなり冷めている。私としては、彼が私以外に妻を持っても、私とビュウのあまあまハニーな生活が約束されるならそれで良いのだ。
まぁ、私はそれでいいとしても、実際に側室になった女性が出た場合、自由の無い生活に幻滅するかもしれないが……その程度は我慢してもらわねば話にならない。まぁ、私は私のやりたいようにやるのだが。
「ちなみに、私の中での側室候補筆頭はフレデリカよ」
「あぁ、確かに彼女はビュウさんと仲良しですね」
「そうなのか。オレには彼女はヤク中のイメージしかない……」
そう。私の知る限り、ビュウの友人の私以外の女性でビュウと一番親密なのがフレデリカだ。私の脳内メモにそう書かれている。ちなみにゼロシンの感想もこれはこれで正しく、彼女はカーナでも有名な超がつくほどの病弱娘で、しょっちゅうぶっ倒れてはドラッグや万能薬をがぶ飲みしている。正直、側室という地位になるには健康状態に不安がある人物だったりする。人間としてはとても良い娘ではあるのだが。
(せっかくだし、あの薬はフレデリカにあげようかしら?)
今レンダーバッフェに持たせている積荷に入っている、ドラッグ、ハイドラッグ、ロイヤルドラッグの薬詰め合わせは、合流後は彼女にプレゼントしても良いかもしれない。共にビュウを愛する女として、親密になっておいて損はないはず。
「全く、私ってばなんて器の大きい女なのかしら!」
──私がそう言い終えた瞬間であった。
突如雷鳴が轟いたかと思うと、私たちの周囲に大きな衝撃が走った。
「……は?」
地を引き裂くような稲妻によって辺りに砂埃が舞い上がる。
「なっ!? 敵襲か! ちっ、呑気に構えすぎたか!」
「ヨヨ様、御身にお気をつけ下さい!」
サジンとゼロシンが突然の攻撃に警戒を示し、二人は私を間に挟む位置に移動し辺りを見回す。
と、いつの間に接近してきていたのか、私たちの近くに数騎のガーゴイルがいた。レンダーバッフェたちが威嚇するように唸り声を上げるのを無視し、ガーゴイルから次々と影が降りてくる。
「ハッハー! やっぱり不意打ちでぶっ放すのはサンダーゲイルに限るぜえ!」
「魔力は温存しろ。その口も閉じとけ」
「イカれ魔術師め。口だけは達者なトーシロばかりよく集めたもんだぜ」
なぜか高笑いする妙にテンションの高い魔術師を別の兵士たちが窘める。しかし私の耳にはその会話はほとんど入ってきていなかった。
「帝国の追っ手か……雷使いのユーベルブリッツだな、先の魔法は奴らの仕業か」
「大した相手ではないな。あの程度ならオレたち二人だけでも……ヨヨ様?」
ゼロシンが動かない私に気付いて声をかけてくるが、未だに私は眼前に広がる光景から受けたショックゆえに上手く思考が回らない。
「わ……わ……私とビュウが永遠の愛を誓い合った教会があぁぁぁぁ!?」
──私の目に映るのは、先の雷によって、まるで何者かの怨念をぶつけるかの如く粉微塵に破壊された教会の姿だった……。