佑真「ったく、わざわざこんなところまで練習試合に来るとはな」
桐人「ダチ高も全国への切符を得たとはいえ、まだ全国区での実績はありません
受けてくれただけ良しとしましょう」
佑真「ま、強くなれるんだったらなんでもいいけどよ」
生い茂る葉に遮られた日の中を歩く。季節は夏。
ただ歩いているだけで汗ばんでくる。
桐人「じゃあそろそろホテルに戻ってみんなと合流しましょうか、明日の練習試合の対策も立てたいですし」
佑真「そうだな……っと」ドンッ
すれ違い様にぶつかってしまった。相手の少年は大きく体勢を崩したが、なんとか転ばずに済んだようだ。
??「あ……すみません」ビクッ
佑真「いや、こっちこそ悪いな、大丈夫か?」
明らかに不良の見た目をしている佑真を見てビクつく少年。
急いでいたらしく、少し息が荒い。
??「あ、はい……じゃあ…」
佑真「ああ……あ、おい!パン忘れてるぞ」
ぶつかったときに少年が落としたパンを拾い、渡してやる。
袋の中からじんわりと熱と香ばしい匂いが伝わってくる。焼きたてのようだ。
??「ぁ…ありがとうございます……」
目も合わせずそれを受け取り、少年は走り去っていった。
タタタ……
桐人「今の人……」
佑真「ん?どうかしたか?」
桐人「五条さんと同じ髪型でしたね」
佑真「だからなんなんだよ……」
…………
石田くんはね、昔いじめの主犯だったの!
いくら善人になったつもりでも、報いは受けるんだな
私がやること、全部裏目に出るね……
………
佑真(出稽古の相手も全国区というだけあって手強かったが、特訓の成果は確実に出てる)
佑真(これなら、全国だって…!これで、小関に…)
佑真(ん……?あいつはたしか……なんで怪我してんだ?)
「「っ……」」
佑真(目が合っちまった……)
佑真「……お前それ(怪我)、どうしたんだ?」
石田「別に、なんでも……」
視線を逸らしながら答える。
佑真「……喧嘩でもしたのか?」
どうみても殴られた跡だ。
石田「関係ないだろ、ほっといてくれよっ……!」
佑真「ちっ、なんだよ…」
少々苛立ちながらも、そもそもお互い見知らぬ相手だと納得し、立ち去ろうとするが…。
佑真(あいつの目……なんか、似てるな)
佑真(………)
佑真「ああっ、ちくしょう!」
タッタッタッ
佑真「おい、お前!」
石田「な、なんだよ……」ビクッ
もう立ち去ったと思った相手が戻ってきて驚く石田。
佑真「ちょっと付き合え、いいな」
石田「だからほっといて……」
佑真「い・い・な?」
さすがは元不良、さらに見た目は現役なだけのことはある。
石田「は、はい……」
そう答えるしかなかった。
ーーー
変わった場所だ。
天蓋のある場所にベンチがある。天蓋からは水が流れており、
ベンチに腰掛けるとまるで裏側から滝を見たような光景が広がっている。
佑真(き、気まずい……呼び止めたものの、何を話せばいいのか)
佑真(くそっ、こんなときあのチビだったら見透かしたようなこと言うんだろうが……)
天狗になっていた自分を負かし、新しい道を開いてくれたチームメイトのことを想う。
石田(なんで連れてこられたんだろう。やっぱ、カツアゲかなぁ……今日はもう殴られたくないよ……)
数時間前にも友人に殴られたばかりであり、
精神的にも参っている石田にとってみれば、まさに追い討ちのように感じていた。
??「ハッハッハ、おいおい五条なにやってんだよ!わざわざ出稽古に来てカツアゲかよ!」
沈黙を切り裂く能天気な声。
足音も賑やかだ。
佑真「く、國崎!なんでここに」
佑真のチームメイトの一人だった。
大柄で浅黒い肌をしており、服の上からも鍛えられた肉体がうかがえる。
國崎「いつまで経ってもこねぇから探しに来たんだよ。さっさと名古屋戻って稽古すんぞー」
佑真「……わりぃけど、先戻っててくれ、カントクたちにもうまく言っといてくれるか」
國崎「ん?…まぁいいけどよ 1つ貸しだぜ!五条!ハッハッハ」
タッタッタッ……
石田「あの……稽古って?」
また沈黙になったら困ると思い、問いかける。
佑真「あ、あぁ、俺ら相撲部なんだよ」
石田「す、相撲?へ、へぇ、珍しいですね……」
若者にとって相撲は身近ではない。
それに、この風体で相撲というのも石田を驚かせた。
佑真「まぁそういうリアクションになるよな
というか、敬語じゃなくていい、タメくらいだろ?」
石田「う、うん、わかった」
佑真「俺も最初は、デブとデブが抱き合うダセェ競技、みたいに思ってよ」
石田「すごい言い様だね……なら、どうして……?」
当然の疑問だ。
佑真「昔、俺はうちの学校の番角だったんだ……」
普段なら絶対に話すことのないことだ。まして、知り合ったばかりの他人には。
しかしなぜか自分と似たものを感じ、佑真は話し始めた。
決して許すことのない、自分の過ちを。
………
……
…
詳しくは火ノ丸相撲1巻を読んでね!佑真さんの黒歴史だよ!
話が終わり、少しの間沈黙が流れた。
石田は、ベンチの前を流れる滝の音が遠くに感じていた。
佑真「というわけだ、ダセェだろ?」
自重気味な笑みとともに、言い捨てる。
石田「いや、そんな……でも」
似てる、そう思った。
自分の過ちに気付き、贖罪しようとするその姿が。
しかし、だからこそ聞かずにはいられなかった。
石田「辛く、ないの……?そんなに自分を責めて、その人と一緒にいて」
絞り出すように、そう聞いた。
まるで、石田自身にそう言っているようだった。
佑真「……辛い、なんていう資格も俺にはねえんだ」
拳を握りしめている。
見た目からは想像もできないほど細く、消え入りそうな声。
佑真「だから、俺ができることを精一杯やるしかねえんだ」
石田「……!」
ベンチに体を預けて石田にフッと笑いかける
佑真「ま、俺の話はこんなところだ」
佑真「で、お前は?」
石田「え?」
まっすぐな目でそう聞かれ、思考が止まる。
佑真「お前もなんか背負ってんじゃねえのか?面見て、なんとなく似てるんじゃねえかなって思ったんだ」
その様子を見て、自然に視線を逸らしながらそう続けた。
石田「お、俺は……」
佑真「言いたくなきゃ別にいいけどよ」
本心だ。
そう感じたからこそ、石田は答えた。
石田「……お、俺…小学校の時、女の子をいじめて…たんだ……」
殺したいほどに憎んでいる、自分自身のことを。
佑真「……!」
………
……
…
詳しくは聲の形1巻を読んでね!てか全巻読んでね!
話し終えてしばらく経っても、石田は息が荒いままだ。
滝に映った夕日が、水の流れに合わせて形をせわしなく変えている。
佑真「……そうか」
石田「俺、西宮から奪ってしまった時間を少しでも返してやりたくて」
石田「だから色々その、頑張ってたんだけど……結局うまくいかずに、こうなっちゃって」
石田「今思えば、西宮のためなんかじゃなくて
最初から自分のために、やってたのかな……って…思ったり……」
石田「………」
佑真「……悪い、なんて言えばいいかわからねえ」
石田「いや、いいんだ。全部俺が悪いんから、全部……」
佑真「かもな」
石田「………」
佑真「俺もお前も、人の水をこぼして回っちまったクチだ」
佑真「後悔も、償いも、やっぱりしないといけねえんだと思う」
佑真「そこからは、逃げちゃいけねえんだ」
石田「………」
佑真「でも、俺はそれだけじゃない」
佑真「勝手にレールから外れた俺に、新しい道を作ってくれた仲間への感謝だってあるんだ」
佑真「俺は相撲に、仲間に救われたんだ」
佑真「その恩を、返したい」
佑真「勝利という形で仲間に返してえんだ」
石田「恩……」
佑真「お前も、その西宮ってやつに救われたんじゃねえのか」
石田「俺が、西宮に……」
佑真「他人がどう思ってるかなんてわからねえよ。俺たちは恨まれて当然のことをしたんだからな」
佑真「でも、チャンスをくれたそいつに、恩を返すべきなんじゃないか」
石田「………」
佑真「なんか説教くさくなっちまったな、そろそろ行くわ」
石田「あ、待って!…………ありがとう」
佑真「ふっ、まぁお互い頑張ろうぜ、じゃあな」
石田「うん……!」
佑真(そういや、あいつの名前聞いてなかったな……ん?レイナからライン……なに!?火ノ丸と泊まり込みだと!?)
石田(西宮にメールしよう、今日は、ごめん、話したいことが、あるんだけど、会えない?………文面これでいいかな、キモくないかな、ええい、送信!)
………
……
…
国技館にて
石田「うわっ……すごい熱気だ…西宮、大丈夫?」
西宮「(大丈夫、初めて来たけど、すごい人だね)」
石田「うん、俺も初めてだけど、今年は特に多いみたい」
西宮「国宝って呼ばれてるすごい選手がたくさん出るんだってさ」
西宮「(石田くんの会いたい人も、国宝なの?)」
石田「んーどうだろ、強そうだったけど。せめて学校の名前くらい聞いておけばよかったなぁ」
西宮「(会えるといいね)」
石田「うん……ありがとう、西宮」
………
……
…
《次は、東、大太刀高校と、西鳥取白楼高校の試合です》
石田「あ!あの人!あの人だ!大太刀高校ってとこなんだ」
石田「ほら西宮、あの髪の毛立ってる人だよ」
西宮「(石田くんと、同じ髪型だね)」クスクス
石田「え、あ、確かに一緒だ……ってなんで笑うの」
………
……
…
バト戦後
※詳しくは火ノ丸相撲14、15巻を読んでね!
《突き押しで東、五条くんの勝ち》
國崎「うおおおお五条ぉお!!国宝級相手に大金星だぜこの野郎!!」
佑真「おっおいっ…」
小関「ユーマさん……」
佑真「……!!」
「「っしゃああ!!」」パァン
佑真(これで少しはお前に、返せたのかな)
佑真(あれ?客席にいるあいつって……!)
佑真(そっか、お前も返せたんだな)グッ
………
……
…
石田「五條さん……!」グッ
西宮「(石田くん、よかったね)」
石田「うん……すうぅ……あのさ、西宮」
西宮「(なに?)」
石田「君に、伝えたいことがあるんだ」
石田「大事な、こと」
西宮「(?)」
石田「あのさ、俺、西宮の、こと……」
西宮「……!」
………
……
…
佑真(あいつ国技館で告るなよ……)←手話がわかる教養人、五條佑真
完